亜種(あしゅ)とは、生物分類におけるより下位の区分[1][2]の一つ。

動物学では種の直下の区分は亜種のみであるが、植物学では変種および品種と併用している。動物学では亜種の下位区分として品種を用いる場合があり[要出典]犬種人種などがこれに該当するが[要出典]、これらを品種と認めない(※亜種と見なす)研究者もいる。

編集

基亜種 編集

日本の学術用語「基亜種(きあしゅ)」は、「新種記載を行う際に、その生物を定義するための記述の拠り所となった亜種」の意味で、タイプの一種。原亜種、原名亜種、名義タイプ亜種とも呼ばれる。これらの名称には「基」や「原」とつくため、分化の元となった亜種と解釈されがちであるが、原種という意味ではなく、俗にタイプ標本として提出された個体の亜種のことと解釈される。正確には種に複数の亜種がいるときに、その種が学会に発表されたときにその種のタイプ標本として提出され、かつ新種記載のとき拠り所とされた個体が属する亜種のことを指す。一般に基亜種はその種の亜種のうち最も古くに記載された亜種が採用されるが、新種記載時に複数の亜種が同時に発表されたときは、一般にその種なかで最も分布域が広いまたは個体数が多い亜種が選ばれる。このため、種が発表されたのちに複数の亜種が確認された場合、基亜種が他の亜種より世間一般的に知られていないことがある。基亜種の亜種小名は種小名と同一となる。

学名の記述 編集

三語名法 編集

亜種の学名は、リンネの二語名法(二名法)を基に考案された三語名法(三名法)に則ったもので[3]、属名・種形容語(細菌以外で用いる種小名、細菌で用いる種形容語)・亜種形容語(細菌以外で用いる亜種小名、細菌で用いる亜種形容語)の3語で構成される[4]。ただ、厳密には、三語名法というのは、「種形容語の後に続けて亜種形容語を記す、変則的二語名法」であるというのが、学会の見解である[3]

  • 例:我々(現生人類)を亜種のレベルまで分類できると考える学説(我々をHomo sapiensタイプ亜種と見なす学説)に基づく我々の学名は Homo sapiens sapiens(ホモ・サピエンス・サピエンス)であるが、その語構成は[属名 Homo + 種小名 sapiens + 亜種小名 sapiens ]である。

略号の用法 編集

特定の亜種を学名として記述する際は、略号を種形容語(広義)と亜種形容語(広義)の間に置くのが基本形である。

  • 例:Cryptotaenia canadensis subsp. japonica(標準和名〈以下同様〉:ミツバ
  • 例:Oncorhynchus masou subsp. rhodurusビワマス

ただし、動物学では亜種形容語(広義)の後にそれぞれの記載者名を記し、最後にその名の記載年を記すのが最も正確な学名である。

  • 例:Oncorhynchus masou subsp. rhodurus (Jordan et McGregor, 1925)(ビワマス)

一方、植物学では種形容語(広義)の後と亜種形容語(広義)の後にそれぞれの記載者名を記し、最後にその名の記載年を記すのが最も正確な学名である。

  • 例:Cryptotaenia canadensis (L.) DC. subsp. japonica (Hassk.) Hand.-Mazz. (1933)(ミツバ)

しかし、それらを全て省略する場合が多い。

また、種形容語(広義)の後に略号だけを記して亜種形容語(広義)を省略する場合もある。

  • 例:Oncorhynchus masou subsp.(ビワマス)

我々を Homo sapiens sapiens と見なす学説があると上のほうで述べたが、略号を置いた例は目にしない。しかし、他のヒト属の亜種や他の生物の亜種ではその限りでない。ヒト属で言えば、例えば Homo sapiens の別の亜種である可能性に注目されるデニソワ人[注 1]には「Homo sapiens の、デニソワ由来の亜種(Homo 属の sapiens 種のデニソワ由来亜種)」を意味する暫定的学名 Homo sapiens subsp. 'Denisova' [5]および Homo sapiens ssp. 'Denisova' [5]が与えられ、略号を用いない Homo sapiens Altai のような別の暫定的学名に多くの学術的同意が寄せられない限り用いられ続ける。

特徴 編集

地域的に隔絶した離島等で亜種が出現しやすい。例として、キツツキの一種であるアカゲラは日本全土に分布するが、離島を中心に数種の亜種が存在する。

亜種同士では交配が可能な場合があるため、既存の亜種が生息する地域に別の亜種を持ち込む場合は両者の交雑が起き、遺伝的多様性が変わってしまう。例として、淡水魚の一種であるバラタナゴはタイリクバラタナゴと二ッポンバラタナゴの2亜種が知られるが、タイリクバラタナゴがニッポンバラタナゴの生息地に移入されたことで、交雑が発生し、遺伝的撹乱がおき、ニッポンバラタナゴの絶滅が危惧されるようになった。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ アルタイ山脈にあるデニソワ洞窟英語版から出土した化石人類

出典 編集

  1. ^ a b ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』. “亜種”. コトバンク. 2020年5月22日閲覧。
  2. ^ a b 中根猛彦(cf. 日本の研究.com[1])、小学館日本大百科全書(ニッポニカ)』. “亜種”. コトバンク. 2020年5月22日閲覧。
  3. ^ a b ICZN (1999), p. 4.
  4. ^ a b subspecies”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年5月22日閲覧。
  5. ^ a b c Homo sapiens subsp. 'Denisova'”. NCBI taxonomy database. NCBI. 2020年5月22日閲覧。
  6. ^ 亜種”. コトバンク. 2020年5月22日閲覧。
  7. ^ 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “亜種”. コトバンク. 2020年5月22日閲覧。
  8. ^ 亜種”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年5月22日閲覧。
  9. ^ subsp.”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年5月22日閲覧。※用例として学名の記載多数あり。
  10. ^ ssp.”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年5月22日閲覧。※用例として学名の記載多数あり。
  11. ^ subspecific”. 英辞郎 on the WEB. アルク. 2020年5月22日閲覧。

参考文献 編集

関連項目 編集