仏日契嵩

1007-1072, 中国の北宋の禅僧。号は明教大師

仏日契嵩(ぶつにち かいすう)は、中国北宋雲門宗禅僧。号は明教大師。俗姓は李、字は仲霊、潜子とも名のる。仏日は住していた杭州の仏日山浄慧禅院の山号による。藤州鐔津県(広西チワン族自治区梧州市藤県)の出身。欧陽修らが士大夫の学を興し、仏教を排斥するのに対抗し、『原教論』『孝論』『輔教編』等を著して、儒仏道三教一致・儒仏不二を論じた。その後、天台との論争の結果、禅僧の立場から『伝法正宗記』『禅宗定祖図』『伝法正法論』を撰述して禅宗の伝灯とともに、政治を助ける仏教の立場を明らかにし、『輔教編』とともに仁宗皇帝に献じ、入蔵を許された。文章に長じ、多くの著作を残し、『鐔津文集』20巻がある。禅の伝灯に対する発言と禅儒一致の思想は、宋学に大きな影響を与え、日本へも伝えられた。

仏日契嵩
景徳4年 - 熙寧5年6月4日
1007年 - 1072年6月22日
尊称 明教大師
生地 藤州鐔津県
没地 霊隠山永安精舎
宗派 雲門宗
寺院 永安精舎、仏日山、龍山
洞山暁聡
著作伝法正宗記』『輔教編』『鐔津文集
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生涯 編集

7歳で出家、13歳で得度し、14歳で具足戒を受ける。
19歳の時に遊方に出て、神鼎洪諲洞山暁聡らに参じる。23,4歳ころ洞山暁聡の法を嗣ぎ、雲門5世となる。
35歳ころ銭塘に行き、霊隠寺(武林山)にある永安精舎、仏日山、龍山などに住して、著述に専心する。
従来の灯史の整理を行い、欧陽脩らの排仏論者に対抗して三教一致論を展開した。また、『六祖壇経』の刊行にも携わる。
輔教編』が完成すると、帝都の開封に出向き入蔵運動を行う。嘉祐7年(1062年)仁宗より『伝法正宗記』『禅宗定祖図』『伝法正法論』『輔教編』が大蔵経入蔵が認可され、明教大師の大師号を賜る。入蔵の結果、天台との泥沼化した争論に終止符がうたれ、禅宗の優位が国家の権威によって確定することになった。
入蔵後杭州にもどり、晩年をその地で過ごす。仏日山浄慧寺の住持となった後、霊隠寺永安精舎で没する。

後世の評価・日本への影響 編集

 めぼしい弟子に恵まれなかったが、没後、臨済宗の禅僧の覚範慧洪(1071 - 1128)が顕彰に尽力した。その後、南宋の禅僧の虚堂智愚、元の禅僧の中峰明本、元の儒者の呉澄などによって高く評価される。明代、キリスト教が伸張すると、北宋代に廃仏をおしかえした姿が、仰ぐべき先達として思い浮かべられた。
 日本においては、入宋・来朝した禅僧による宋学の導入にも力があった。特に一山一寧に参じた夢窓疎石及びその派下、虎関師錬中巌円月等が契嵩の思想を受け入れ、五山禅僧は契嵩を私淑し、五山の文化は契嵩等の思想的影響によるところが大きかった。『輔教編』は観応2年(1351年)夢窓疎石の弟子の春屋妙葩により、天目山の中峰明本に参じた無隠元晦が日本に将来したという天目山幻住庵流通本が五山版として版行されている。『禅宗定祖図』は挿図を伴っていたようで、『大正新脩大蔵経』図像部10に東寺観智院旧蔵の鎌倉時代の古写本が掲載される[1]

著書 編集

注・出典 編集

  1. ^ 内田啓一「MOA美術館蔵『伝法正宗定祖図』について 宋請来の拓本と図像」(『国華』1435、2015年)→『仏教美術史展望』(法蔵館、2021年)

参考文献 編集

  • 荻須純道「宋僧契嵩の五山禅僧に及ぼせる思想的影響」(『龍谷学報 』330、1941年)
  • 荻須純道「五山に投影したる中国文化」(『禅学研究』42、1951年)
  • 牧田諦亮「君主独裁社会に於ける仏教々団の立場(下) 宋僧契嵩を中心として」(『佛教文化研究』4、1954年)→「趙宋仏教史における契嵩の立場」『牧田諦亮著作集4 五代宗教史研究・中国近世仏教史研究』(臨川書店、2015年)
  • 竹中玄鼎「契嵩の我国への受容について」(『印度学仏教学研究』17、9巻1号、1961年)
  • 柳田聖山「大蔵経と禅録の入蔵」(『印度学仏教学研究』39、20巻1号、1971年)→『柳田聖山集2 禅文献の研究(上)』(法蔵館、2001年)
  • 安藤智信「仏日明教契嵩伝私考」(『大谷大学研究年報』29、1977年)→『中国近世以降における仏教思想史』(法蔵館、2007年)
  • 椎名宏雄「宋元版禅籍研究(2) 正宗記・定祖図・正宗論」(『印度学仏教学研究』52、26巻2号、1978年)
  • 椎名宏雄「宋元版禅籍研究(3) 輔教編・鐔津文集」(『印度学仏教学研究』53、27巻1号、1978年)
  • 荒木見悟『禅の語録14 輔教編』(筑摩書房、1981年)
  • 椎名宏雄「『伝法正宗記』諸本の系統」「五山版『伝法正宗記』の概要」「古活字版『伝法正宗記』の概要」「東寺本『伝法正宗定祖図』の意義」「五山版『夾註補教編』の考究」「五山版『鐔津文集』の正体」「『鐔津文集』の成立と諸本の系統に関する研究」『宋元版禅籍の文献史的研究1』(臨川書店、2023年)
  • 佛学規範庫「契嵩」https://authority.dila.edu.tw/person/?fromInner=A000821