長井戸の怪(ながいどのかい)は、新潟県佐渡郡相川町(現・佐渡市金泉村(現・佐渡市)に伝わる怪異譚。新潟県出身の郷土史家・小山直嗣の著書に記述がある。水木しげるの著書『水木しげるの憑物百怪』(学習研究社)では「妖怪蛇の目傘」(ようかいじゃのめがさ)と題されている[1]

概要 編集

ある雨の日、佐渡郡金泉村(現・佐渡市)に住む八蔵という男が、長井戸と呼ばれる海域に船を出して釣りをしていた。

ふと海の中を見ると、海底に1本の蛇の目傘があった。八蔵はそれを手にしようと思い、服を脱いで海に潜ろうとすると、「しばらく待て」と声が聞こえた。しかし周りには誰もいないので、空耳かと思いまた潜ろうとすると、今度はさらに大きな声で「しばらく待て」と声がした。

八蔵が気味悪く思っていると、海中の傘がひとりでに開いた。驚いた舟を漕いで逃げ出した。すると傘が海の上に浮かび上がり、乱れ髪の女に姿を変えて八蔵を追って来た。八蔵は夢中で舟を漕ぎ、どうにか陸まで逃げ切った。背後からは「惜しいことをした、逃がしてしまった」と不気味な声が聞こえた。

この八蔵の体験談は村中に広まり「私もその女を見た」「俺も見た」と目撃談が続いた。村の力自慢の長吉という男が話を耳にし「そいつを退治してみせる」と言って長井戸へ向かった。しかし何事も起きない。自分の力に恐れをなしたかと長吉が得意気になっていると、途端に雨が降り出し、海は大荒れになり、波の中から件の怪女が現れた。恐怖におののいた長吉は、無我夢中で逃げ去った。

このことがもとで長吉は寝込んでしまい、間もなく命を落としたという[2]

備考 編集

福井県坂井郡雄島村安島(現・坂井市)の海で、潜水業を行なう海女たちの間に海海女(うみあま)という妖怪が伝わっているが、その付近でも海中に浮いている傘が、海女たちによって目撃されている[3]

脚注 編集

  1. ^ 水木しげる『水木しげるの憑物百怪』学習研究社、1995年、194頁。ISBN 978-4-05-400514-3 
  2. ^ 小山直嗣『新潟県伝説集成 佐渡篇』恒文社、1996年、99-100頁。ISBN 978-4-7704-0854-9 
  3. ^ 今野圓輔編著『日本怪談集 妖怪篇』社会思想社現代教養文庫〉、1981年、245頁。ISBN 978-4-390-11055-6