デザインにおける機能主義(きのうしゅぎ、ファンクショナリズム)は、建築や工芸製品の設計は、デザイン実用的機能性(実用性、利便性)との統一を目指しながらも、使用目的を踏まえ、要求される機能性を最優先重視した設計をするという原則や思想[1][2][3]近代建築を成立させた近代建築理論の一つ[1][2][4]インダストリアルデザイナーディーター・ラムスは機能主義派と呼ばれており[3]、建築家の原広司などは機能主義に否定的である[4]。機能主義で設計された建築を機能主義建築と言う[2]

建築における機能主義の歴史 編集

用、美、強というウィトルウィウスの3条件にまで遡ることができる。機能主義的な考えは、ゴシック・リヴァイヴァルの建築家にとっても典型的なものである。特にオーガスタス・ウェルビー・ノースモア・ピュージン(1812年3月1日 - 1852年9月14日)は、「建築物の外観は、利便性、構造、作法のために不要なものであるべきではない。」、「すべての装飾は建築物の本質的な構造を豊かにするものであるべきである。」と書いている[5]

20世紀初期に、シカゴの建築家ルイス・サリヴァン( 1856年9月3日 - 1924年4月14日)は、建築物の寸法、量感、空間文法及び他の特性は、ただ建築物の機能のみによって決定されるべきであるという信念を表した「形態は機能に従う(Form follows function)」というフレーズを有名にした。これは、機能の側面が満足されれば、建築的な美は自然にそして必然的についてくるということを意味していた[1][2]

機能主義者の間では一般に装飾には何の機能もないと考えられているため、サリバンが複雑な装飾を広範囲に使用していたことから、彼の信条はしばしば皮肉に取られる。この信条はまた「誰の」機能かという点を明らかにしていない。例えば、集合住宅の建築家が、オーナーのどのような外観や雰囲気にしたいかという意見と食い違うことはありふれたことだし、将来のテナントとも意見が食い違うかもしれない。しかしながら、「形態は機能に従う」は重要で不朽の思想を表現している。サリバンの弟子のフランク・ロイド・ライト(1867年6月8日 - 1959年4月9日)はも、機能的設計の見本といわれる。

近代建築(モダニズム建築)の根源は、スイス生まれのフランスの建築家ル・コルビュジエ(1887年10月6日 - 1965年8月27日)と、ドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエ(1886年3月27日 – 1969年8月17日)の作品にある。従来の様式を簡素化した点で、2人は機能主義者であった[2]

ルは1926年に建築における機能性を追求し、「新しい建築の5原則(新しい建築のための5つの要点)ピロティ、自由な平面、自由な正面(ファサード)、独立骨組みによる水平連続窓屋上庭園)」を生み出した[6][7][8]。デルはルの合理的な側面を更に推進させた建築家である。グロピウスによるドイツのバウハウスも機能主義と、新しい時代に適切な美学であるとして関わってた [2]

1923年、ヴァイマル共和政のドイツで働いていたミース・ファン・デル・ローエは、サリバンが目標とした建築本来の美を達成した、極端に簡素化され、入念な細部を備えた作品を生み始めた。ル・コルビュジエは、1923年の著作『建築をめざして』において述べた「住宅は住むための機械である。」という名言は未だに影響力を持ち、フランス・ポワッシーのサヴォア邸のような初期の作品は原型的に機能的であると考えられている。

1930年代半ばになると、機能主義は、機能性とデザインの統合性の問題としてよりも、美学的なアプローチとして議論され始める。

非機能主義 編集

ポストモダン建築・脱構築主義建築や批判 編集

アメリカの建築家フィリップ・ジョンソンは、1970年代から1980年代に、「インターナショナル・スタイル」と読んでいたモダン建築スタイルから、非機能主義的なスタイル(非機能主義的建築)へと移行した。以降の彼の設計は、「ポスト・モダン建築の象徴」と呼ばれるようになる[9]。そして、ジョンソンは建築家には機能に関する責任はないと主張し、「形態は私の知らないところからやってくる。しかし、建築の機能や社会学的な面とはまったく関係ない。」と述べている[10]

ポストモダン的なデザインは、世界的に商業主義と結びつき量産された。日本では1980年代の好景気やバブル経済の時に結びついた。「ポストモダン建築」は単なる記号的なデザイン」として評価は低く、基本的に「一過性の流行現象」として語られる[11]

デザインの敗北 編集

おしゃれさ優先で、利用者層の本来のニーズを無視し、機能失敗・ユーザビリティが悪いデザインのモノは「デザインの敗北」と呼ばれる。例として、標準的でないピクトグラムを使ったために「意味を伝える」という機能を果たさない表示板、目が不自由の人のための点字ブロックなどに特定物に「デザイン」を組み込んだことで使いにくくしたり、不便となっているデザイン失敗事例が呼ばれている。他にも伝えたい情報を利用者に瞬間的に理解させられず、補足のためにラベル等を貼られて情報追記が必要になってしまっているデザインも含む言葉である[12][13][14][15][16]。このタイプの「デザインの失敗」としては、セブンカフェのコーヒーメーカーの事例(セブンカフェ#評価#デザイン)、歌舞伎町タワージェンダーレストイレなど有名である[13][17]。機能主義に否定的で「ポストモダン建築」・「様相論」を唱える原広司[4][18]による天気や気温変化に弱い吹き抜け構造の京都駅ビル[19]安藤忠雄のタイムズビル(京都市の木屋町)、福武ホール(東京大学)、海の駅なおしま(直島町)、隈研吾国立競技場古谷誠章の茅野市民館図書室などが「使い勝手の悪さは利用者の側が補い、建物そのものを見物する客をあてこんだデザイン」「アート性を重視しすぎた結果、日常に不便を来す典型例」にあげられている[20]

脚注 編集

  1. ^ a b c 機能主義(きのうしゅぎ)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年1月25日閲覧。
  2. ^ a b c d e f 第2版,世界大百科事典内言及, 日本大百科全書(ニッポニカ),ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典,百科事典マイペディア,世界大百科事典. “機能主義建築(きのうしゅぎけんちく)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年1月25日閲覧。
  3. ^ a b ディーター・ラムスに学ぶ、優れたデザインを構成する10原則 デザイン会社 ビートラックス: ブログ”. ディーター・ラムスに学ぶ、優れたデザインを構成する10原則 デザイン会社 ビートラックス: ブログ. 2023年1月25日閲覧。
  4. ^ a b c 様相論”. 建築討論WEB (2017年4月1日). 2023年1月25日閲覧。
  5. ^ A.W.N.Pugin, The true principles of pointed or Christian architecture : set forth in two lectures delivered at St. Marie's, Oscott.
  6. ^ ル・コルビュジェとはどんな人物か│ル・コルビュジェの意志、シミズの技術”. www.shimz.co.jp. 2023年1月26日閲覧。
  7. ^ 水平連続窓 | 窓の用語集”. 窓研究所 WINDOW RESEARCH INSTITUTE. 2023年1月26日閲覧。
  8. ^ 新しい建築のための5つの要点”. www.city.taito.lg.jp. 台東区. 2023年1月26日閲覧。
  9. ^ 日本大百科全書(ニッポニカ). “ジョンソン(Philip Johnson)(じょんそん)とは? 意味や使い方”. コトバンク. 2023年1月25日閲覧。
  10. ^ P. Heyer. Architects on Architecture: New Directions in America, p279
  11. ^ 【東建コーポレーション】ポストモダン|建築用語”. www.token.co.jp. 2023年9月27日閲覧。
  12. ^ <記者日記>デザインの敗北 | 暮らし・文化 | 記者コラム”. 佐賀新聞 (2023年9月27日). 2023年9月27日閲覧。
  13. ^ a b デザインの敗北を逆手に取ったラフォーレ原宿のプロモーション”. リスティング広告運用代行|カルテットコミュニケーションズ (2020年1月27日). 2023年9月27日閲覧。
  14. ^ 日本は貧しくなり、デザインの敗北が蔓延した - 赤木智弘|論座アーカイブ”. webronza.asahi.com. 2023年9月27日閲覧。
  15. ^ これは分かりにくい... 「デザインの敗北」喫したトイレマークが話題(2019年3月15日)|BIGLOBEニュース”. BIGLOBEニュース. 2023年9月27日閲覧。
  16. ^ 真平, 若松. “デザインの敗北? ロフトのイケてる案内板、なぜかテープで補足説明”. withnews.jp. 2023年9月27日閲覧。
  17. ^ 歌舞伎町タワー「ジェンダーレストイレ」を巡り続く混乱。なぜか女性用トイレが廃される理由とは?謎のゴリ押しに「昆虫食を連想」との声も | マネーボイス”. www.mag2.com. 2023年9月27日閲覧。
  18. ^ 原 広司 - 「集落の教え」と様相論:東西アスファルト事業協同組合”. www.tozai-as.or.jp. 2023年9月27日閲覧。
  19. ^ Journal編集部, Business. “「巨大な欠陥構造物」京都駅ビル、構内で猛吹雪が発生、過去にガラス屋根落下事故も”. ビジネスジャーナル/Business Journal | ビジネスの本音に迫る. 2023年9月27日閲覧。
  20. ^ 昼間たかし (2021年6月2日). “有名建築家のビル、公共施設「使い勝手は最悪」。アート先行の問題点とは”. 日刊SPA!. 2023年9月27日閲覧。

関連項目 編集