氷雨(ひさめ、ひあめ)は、から降ってくるの粒のこと。あるいは、冬季に降る冷たいのこと。気象学で定義された用語ではない。

空から降る雹

語史 編集

氷雨という言葉自体は、『日本書紀』神武紀から見られる[注 1]。元来は「5月以降に発生する雷雨と共に降る(ひょう)や(あられ)」を指していたが[注 2]、今日では一般に「冬に降る(みぞれ)に近い雨」を指していうように語意が変遷した[1]。従って、『日本書紀』に記される氷雨とは、霙に近い雨ではなく、雹か霰である[注 3]

古事記』に載るヤマトタケルの伝説では、ヤマトタケルは伊吹山の神の怒りに触れ、祟りとして大氷雨を浴びせられたことで失神し[注 4]、それが原因で病死する語りとなっている(詳細は、「ヤマトタケル#記録」を参照)。

神話伝説ではない記述として、『続日本紀天平16年(744年)6月21日条に氷雨の記録がある。宝亀6年(775年)7月19日条には「雹が降った」とあり、「大きさは碁石ほどだった」と記述される。

10世紀前半成立の『和名類聚抄』1巻「天地部」には、「霈[注 5]」と書いて、和名を「比左女(ひさめ)」と読むとあり、「火雨」(火は原文ママ)[注 6]と表記する例を記述していることから平安時代の日本人は「霈」の字に氷雨を適合させていたことがわかる。

俳句においての「氷雨」は、雹や霰を意味して用いる場合は季語、冷たい雨や(みぞれ)を意味して用いる場合はの季語である。ただし、後者の場合は本意にもとるとの見方もある[2]

岡山県勝田郡にある那岐山麓のでは、初冬に降る氷雨を「三穂太郎」と呼び、山神とするが、山麓の武士団(美作菅氏)の祖神ともされる[3]。また、福井県坂井市の安島津の海中にある大津神社は、外国襲来から守った弓矢神(軍神)で、国中の弓矢を奉り、神軍といって氷雨が降る時に矢が飛んでくるものの1つも残らないと伝わる[4]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 戊午年十二月に「時忽然天陰而雨氷」とある。
  2. ^ 気象学では、氷の粒の直径が5mm以上のものを雹(ひょう)、5mm未満のものを霰(あられ)と呼ぶ。
  3. ^ 日本国語大辞典』第2版(小学館)の「氷雨」の項目には、雹や霰の用例として『日本書紀』が取り上げられている。
  4. ^ 『日本書紀』では「意識が朦朧となった」としている。
  5. ^ 音読みで「ハイ」、意味は大雨
  6. ^ 火と氷は「火傷を負う」という共通点がある。

出典 編集

  1. ^ 飯塚書店編集部編『短歌表現辞典:天地・季節編』飯塚書店、1998年、p.45。ISBN 9784752210283
  2. ^ 小林夏冬 (2011年5月15日). “季語の背景(11・氷雨)-超弩級季語探究”. 現代俳句協会ブログ. 2022年11月16日閲覧。
  3. ^ 怪異・妖怪伝承データベース」において「三穂太郎」で検索可能(参考『岡山県史 15巻民俗Ⅰ号』1983年)。
  4. ^ 「怪異・妖怪伝承データベース」において「神軍」で検索可能(参考『続日本随筆大成別巻 12巻』吉川弘文館、1983年)。

参考文献 編集

関連項目 編集