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沈従文(しん じゅうぶん、1902年12月28日 - 1988年5月10日)は、20世紀中国作家。小説や散文で知られる。代表作に小説「辺城」がある。中華人民共和国では作品を発表せず、博物館で古代の文物の研究を行った。

沈従文
Gu Chuan and Zhou Youguang and Shen Congwen 1946.jpg
沈従文(中央)、右は周有光
出身地: 湖南省鳳凰県
職業: 作家
各種表記
繁体字 沈從文
簡体字 沈从文
拼音 Shěn Cóngwén
和名表記: しん じゅうぶん
発音転記: シェン・ツォンウェン
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生涯編集

沈従文は湖南省鳳凰庁(現在の湘西トゥチャ族ミャオ族自治州鳳凰県)の軍人の家に生まれた。はじめ、名は沈岳煥。湘西の土地は漢族トゥチャ族ミャオ族が住み、沈従文の父方は漢族だったが、母親の黄素英はトゥチャ族であり、また父方の祖母はミャオ族だった[1]。黄素英の兄の孫に画家の黄永玉がいる。

15歳のときに軍隊に加わって、文書係をつとめていたが、文学革命に影響されて文学者になろうと思いたち、軍隊から抜け、北京に出て沈従文と名を改めた。郁達夫の推薦で1924年に処女作「一封未付郵的信」を『晨報』副刊上に発表した。1925年の「市集」が徐志摩に高く評価された[2]

1928年には当時の文学の中心であった上海に移り、『新月』に『不思議の国のアリス』(1922年に趙元任によって中国語訳されている)をパロディ化した長編小説「阿麗思中国遊記」を発表した。上海では胡也頻・丁玲とともに1929年に雑誌を創刊したが、半年で廃刊になった[2]。この時期に短編小説「蕭蕭」、「丈夫」(夫)などを発表している。1929年に中国公学国文科講師、1930年に武漢大学の国文科助教、1931年に青島大学国文科講師の職についた。

1933年には北京(北平)に戻り、中国公学時代の教え子だった張兆和と結婚した。北平では大公報文芸副刊の編集長の仕事についた。翌1934年、沈従文は母親の病気のために故郷に戻った。このとき張兆和との間でかわした手紙をもとに散文集『湘行散記』が書かれた。同年、故郷の湘西がモデルの辺境の町を舞台とし、ミャオ族の歌垣などを折りこんだ悲恋物語「辺城」を発表した。

日中戦争中は奥地に移り、西南連合大学の師範大学副教授の職につき、教科書の編纂を行った。

戦後の1945年に長編小説『長河』の第1巻を出版した(1938年に『星島日報』星座副刊に連載したものを元にする)。本来4巻になる予定だったが、第1巻のみで終わった。

戦後は北京大学の国文科教授になったが、郭沫若は1948年に香港で「斥反動文芸」という論文を発表し、その中で沈従文の文学を文字で書かれたヌード画とし、ピンク(桃紅色)の反動文芸と決めつけた。1949年には沈従文の打倒を訴える壁新聞が北京大学に張られた。沈従文は自殺未遂をおこした後に鬱病で入院した。退院するとすでに国文科教授の職はなくなっており、沈従文は北京大学博物館、のちに北京歴史博物館で文物の研究を行った。その後も沈従文は文学作品を書いたが、公刊されることはなかった[3]

文化大革命では再び批判され、蔵書をすべて失い、1969年から1972年まで湖北省咸寧市双渓の五七幹部学校に送られた。

文物研究の成果は1981年の『中国古代服飾研究』として出版された。

アメリカ合衆国のジェフリー・キンクリー(中国名は金介甫)は沈従文の研究者として知られ、スウェーデン中国学者ヨーラン・マルムクヴィスト(中国名は馬悦然)とともに沈従文をノーベル文学賞の候補として推薦したとされ[4]、1988年にはほぼ受賞者に決まっていたが、同年に沈従文が死去したために受賞を果たせなかったという[5]。実際に受賞したのはエジプトナギーブ・マフフーズであった。

主な作品編集

沈従文ははじめ中国の作家としては珍しくエロスにあふれた土俗的な作品を発表していたが、代表作の「辺城」ではエロスは影をひそめ、故郷の伝統を背景に純情な恋愛を描きだし、ひるがえって近代的な価値観に対する失望を示している[6]

沈従文の作品は戦前から邦訳がある。以下は邦訳である。

沈従文の8つの小説の翻訳。一部は戦後の平凡社中国現代文学選集6「老舎・曹禺集」(1960)や河出書房新社の現代中国文学5「丁玲・沈従文」(1970)にも収められている。
  • 『湖南の兵士』大島覚訳、小学館、1942年。
  • 『沈従文短篇集』岡本隆三訳、開成館、1945年。
  • 『中国古代の服飾研究』古田真一; 栗城延江訳、京都書院、1995年。
  • 『瞥見沈従文: 翻訳集』城谷武男訳、サッポロ堂書店; 内山書店、2004年。
  • 『湘行散記』小島久代訳、好文出版、2008年。
  • 『沈従文と家族たちの手紙: 鄂行書簡』山田多佳子訳、三恵社、2010年。
  • 『辺境から訪れる愛の物語 - 沈従文小説選』小島久代訳、勉誠出版、2013年。

映画化編集

  • 『辺城』(1984、凌子風監督)
  • 『湘女蕭蕭』(1986、謝飛監督)。日本では『蕭蕭』の題で1990年に上映された。

脚注編集

  1. ^ 沈従文: 家族譜系”. 中国文化研究院. 2016年1月18日閲覧。
  2. ^ a b 小島訳(2013)の解説
  3. ^ 小島訳(2013) p.366
  4. ^ 小島訳(2013) p.353
  5. ^ 狄霞晨 (2009年6月18日). “马悦然与沈从文”. 中国社会科学院報. 2016年1月18日閲覧。
  6. ^ 呉悦(2011) p.26

参考文献編集