クリスマスクラッカー: Christmas cracker)は、クリスマス用のクラッカーイギリスのクリスマスパーティにおける伝統的なもので[1][2]アイルランド[3]カナダ[3]オーストラリア[3]ニュージーランドなどのクリスマスでも愛用されている[3]。特にイギリスのクリスマスには、欠かせないものである[1][4]

クリスマスクラッカー
クリスマスクラッカーが置かれたテーブル
クリスマスクラッカーを引っ張り合うイギリスの母娘

概要 編集

紙吹雪の飛び出す円錐形のクラッカーとは異なり[5]段ボール製の筒を色鮮やかな包装紙で包んで[2]、大きなキャンディのように形作ったものである[6]。中にはプレゼントが詰まっており、両端を2人で引っ張ると、火薬による破裂音と共に、プレゼントが飛び出す仕組みになっている[7][8]。火薬には雷酸銀が用いられる[7]

クラッカーの中身は、一般的には菓子[1]キーホルダー知恵の輪などの小さな玩具[9]、紙製の王冠格言ジョーククイズが書かれた紙[1][10]、紙吹雪などが入っている[8]。数ポンドの子供向けの玩具や、安価なプラスチック製品から、数百ポンドの銀製品まで、内容は様々である[6][11]。毎年どんなプレゼントが飛び出すのかが、パーティーの楽しみとなっている[8]

イギリスではクリスマスパーティのテーブルに、必ずクリスマスクラッカーが並べられており、隣に座った人と、クラッカーの両端を引っ張り合う[8][10]。紙の王冠は、頭にかぶりながらクリスマスの料理を食べるのが、一般的である[10]。クラッカーの中に指輪を入れて、女性に求婚する男性もいる[8]

クリスマスクラッカーには火薬入りのものと火薬無しのものがあるが[6]、火薬のあるものは花火などと同様の扱いで、航空会社により飛行機内への持ち込みが規制されている場合があるため[12][13]、国外への持ち出しには注意を要する[6]。クリスマスクラッカーを飛行機内に持ち込んだために、飛行機の離陸が遅れたとの報告例もある[14]

歴史 編集

 
トム・スミス英語版[注 1](1869年)
 
トム・スミスのクリスマスクラッカー用の箱の装飾(1911年)
 
サタデー・イブニング・ポスト』1919年4月26日号の表紙(ノーマン・ロックウェル画)

クリスマスクラッカーは、1847年[15][注 2]、イギリス東海岸の菓子職人であるトム・スミス英語版[注 1]によって考案された[8][11][注 3]

スミスはロンドンイズリントン区クラーケンウェル英語版に店舗を構えており[16]、頻繁に新たなアイディアを求めてイギリス国外を旅行していた[18]1840年、スミスは視察旅行でフランスパリを訪れた際に[18]フレンチボンボン(砂糖入りのアーモンド[1][15])が一つ一つきれいに、紙で包装されているのを見て感動した[3][8]。当時のイギリスでは、個別包装された菓子がなかったためである[11]

スミスは帰国後、フォーチュン・クッキー(中におみくじが入っているクッキー)を参考にして[19][20]、愛の格言が印刷された包装紙を発注し、その紙でキャンディを個別包装して、クリスマスに売り出した[8][11]。これは大変な人気商品となったが、間もなく他の店から類似品が現れた[11]。そこでスミスは中に小さなおまけを入れたり、様々なアイディアを試している内に、1849年には、後に人気を博すような、中に玩具などを詰めたクリスマスクラッカーが誕生した[11][16]。クラッカーに入れられた火薬は、スミスが火に投げ入れた丸太が大きな音をたてたことがヒントになったとも伝えられる[16][21]。世界でただ1人のクラッカーの歴史家とされるピーター・キンプトン(Peter Kimpton)は、トム・スミスのクラッカーの歴史を記した書籍を研究し、その製品の品質、デザインの多様性を高く評価している[21]

当初はクリスマスクラッカーは「コサック(Cosaque)」と呼ばれていたが、間もなく「クラッカー」の名が一般的となった[19][22]。「コサック」の名は、クラッカーの音がコサック騎手の銃の音に似ていたため[3][23]、またはクラッカーの外観が騎手の鞭を彷彿させたため[17]、と考えられている。

スミスが1869年に死去した後、この事業は3人の息子に引き継がれた[21][24]。息子たちにより、ヨーロッパアメリカ日本など各国から輸入したプレゼント類が、クラッカー内に追加された[16][25]。紙製の王冠も、息子の1人により考案された[24][26]。この紙の王冠は、古代ローマの12月のサートゥルナーリア祭で人々がかぶった祝いの帽子が由来と考えられている[2][27]。その数年後、スミスのクリスマスクラッカー発明者としての事業を記念し、ロンドン市内の広場であるフィンズベリー・スクエア英語版に噴水が建設された[18][20]

1906年には当時の王子であったジョージ6世に、トム・スミスによるクラッカーが王室御用達として認められて以来、イギリス王室のために特別なクラッカーが製造されている[16][21]1919年には、ノーマン・ロックウェルによる、少年と少女がクリスマスクラッカーを引き合う絵画が『サタデー・イブニング・ポスト』4月26日号の表紙に掲載されており、これにより当時の子供たちのクリスマスパーティの様子を窺い知ることができる[28]1920年代には、トム・スミスによるクリスマスクラッカーは「世界的に有名なもの」「クリスマスクラッカーなしでパーティはありえない」と宣伝されるようになった[16]1980年代には、毎年5000万個のクリスマスクラッカーが生産された[29]

ギネス世界記録 編集

クリスマスクラッカーに関するギネス世界記録には、以下のものがある。

  • 最長のクリスマスクラッカー
    • 2001年12月20日、イギリスのバッキンガムシャーチェシャム英語版にある学校レイヒルスクール(Ley Hill School)と保育学校の子供たちの両親が、全長63.1メートル(207フィート)、直径4メートル(13フィート)のクリスマスクラッカーを慈善団体のために製作し[21]、世界最長のクリスマスクラッカーとしてギネス世界記録に認定された[30]。中には風船や玩具に加え、直径2.5メートル(8フィート)の帽子も入っていた[30]。それ以前には、1991年にオーストラリアで、全長45.72メートル、直径3.04メートルのクリスマスクラッカーが製作された[31][32]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b 日本語では「トーマス・スミス」との表記もある[8]
  2. ^ 考案時期は1847年[15]の他、1843年[1]1846年[8]1849年[16]との説もある。
  3. ^ イギリスでクラッカーを最初に販売したのは、実際には別のロンドンの菓子職人であるイタリア出身のGaudente Sparagnapaneだった可能性も示唆されている[17]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f 小林恭子 (2012年12月24日). “英国のクリスマス(6) クリスマスがやってきた”. Yahoo!ニュース. ヤフー. 2020年12月24日閲覧。
  2. ^ a b c Fraser McAlpine (2011年12月7日). “A Very British Christmas Part 3 : Crackers” (英語). BBCアメリカ. BBCワールドワイド. 2013年1月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月24日閲覧。
  3. ^ a b c d e f TIM REDIGOLO (2019年12月25日). “Christmas crackers meaning : Why do we pull Christmas crackers ?” (英語). デイリー・エクスプレス. Northern & Shell. 2020年12月24日閲覧。
  4. ^ ぽりーさんの英国玉手箱 英国のクリスマス” (PDF). JSPS London NEWSLETTER No.54. 日本学術振興会 ロンドン研究連絡センター. p. 18 (2017年). 2023年7月6日閲覧。
  5. ^ 徳川るり子 (2015年12月19日). “何ゆえ、クリスマス・クラッカーにおもちゃが入っておりますの?”. Onlineジャーニー. ジャパン・ジャーナルズ リミテッド. 2020年12月24日閲覧。
  6. ^ a b c d ロンドンで買いたいクリスマス「お土産」5選”. まっぷる. 昭文社 (2019年5月5日). 2020年12月24日閲覧。
  7. ^ a b FAQs” (英語). Christmas Crackers USA. 2016年12月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月8日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j 國谷典子 (2014年12月19日). “イギリスのクリスマスアイテム! パーティークラッカー”. All About. オールアバウト. 2020年12月24日閲覧。
  9. ^ 小島瑞生 (2007年12月26日). “1年でいちばん大忙しの日”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社. 2020年12月24日閲覧。
  10. ^ a b c 坂本みゆき (2020年12月6日). “ささやかな幸福をシェアし合う、イギリスのクリスマス。”. フィガロジャポン. CCCメディアハウス. 2020年12月24日閲覧。
  11. ^ a b c d e f 『Bon Chic 美しい暮らしと住まいの情報誌』 VOL.12、主婦の友社、2015年11月、58頁。ISBN 978-4-07-402247-2 
  12. ^ Crackers” (英語). What Can I Bring ?. 運輸保安庁. 2020年12月24日閲覧。
  13. ^ Flying with Christmas crackers on plane : Find out if your airline will let you travel with the festive faves this Xmas” (英語). APH : UK Airport Parking and Hotels (2019年). 2020年12月24日閲覧。
  14. ^ 花火入門” (PDF). 日本煙火協会. p. 43 (2018年). 2020年12月24日閲覧。
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  18. ^ a b c History of the Christmas Cracker” (英語) (2008年). 2013年8月27日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年12月8日閲覧。
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関連項目 編集