備後灘

瀬戸内海中央部の海域

備後灘(びんごなだ)は、瀬戸内海中央部の海域である。

地理 編集

 
因島国道317号を走るバスより望む備後灘と向島百島横島

東は備讃瀬戸水島灘、南は燧灘、西は芸予諸島東部の弓削島因島に囲まれている。海底は比較的に平坦である。

古くから瀬戸内航路として役割を持って村上水軍が根拠地としており、場合によっては海賊行為も行われたとされている[1]。周辺の海域には島々や海峡などが目立つために潮流が激しくなるが、備後灘と燧灘にはそれらの地形的な要素が少なく、航行上においても比較的に安全だとされている[2]。備後灘と燧灘は共に干満の差が最大で約3メートルに達する[3]

尾道因島には大規模な港が作られて古くから造船業が栄えた。一方、福山市沿岸は埋め立てが進み、JFEスチール(旧NKK)をはじめとする工場が集積する。

瀬戸内海は風光明媚な地形と穏やかな気候から、古来から文化面に影響を与えてきたとされており、備後灘も『万葉集』などの和歌などにて言及されている[4]

福山市の鞆の浦瀬戸内海国立公園を代表する景勝地で知られる。

自然環境 編集

隣接する安芸灘との環境面や生物相の類似点も少なくないが、備後灘では干潟が比較的に多いのに対して藻場が比較的に少なく、また、底質の汚濁が目立つ。一方で、安芸灘には藻場や自然海岸が多いが干潟が少ないが、良好な底質が残されている[5]

芸予諸島福山市などの記録からも、本来は干潟が多数存在し、クジラヒゲクジラ類)やニホンアシカなどの大型海洋生物も生息していた豊かな海域だと考えられるが、現在では面影はなく、スナメリも時折見られる程度である[6][7][8]

また、上記の通り沿岸域は埋め立てを中心とした開発によって多大な影響を受けており、干潟や自然海岸などが著しく減少したとされている。海底の砂利の採取が瀬戸内海でも際立って多かったため、備讃瀬戸からのイカナゴ回遊の減少とあわせて、備後灘におけるイカナゴの減少の原因になったとされている[5]

現代の瀬戸内海を象徴する天然記念物や貴重種の分布が目立ち、竹原市阿波島の「スナメリクジラ廻游海面」[9]と付近におけるアビの生息[注 1]、三原水道・有竜島の「ナメクジウオ生息地」[10]笠岡湾芦田川ハクセンシオマネキスナガニ松永湾河口のシギチドリが生息する干潟カブトガニや90年ぶりの採取が報道されたサナダユムシの分布する賀茂川の河口の「ハチの干潟」など、特筆すべき生物相が見られる[5][11]

しかし、上記の通りイカナゴの減少が顕著であるが、これが安芸灘から播磨灘の範囲におけるスナメリの生息にも影響を与えたと思われる[12]。これらの海域では、20世紀下旬にかけてのスナメリの減少が顕著であり、上記の天然記念物の「阿波島のスナメリ廻游海面」でも肝心のスナメリがほとんど見れなくなっている[12][13]

現在では、タイサワラカタクチイワシタコイカなどの漁業やノリの養殖が盛んである[3]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 天然記念物である呉市安芸灘)の「アビ渡来群遊海面」とは別である。

出典 編集

  1. ^ 日本伝承大鑑, 地蔵鼻
  2. ^ 備後灘・燧灘・安芸灘・広島湾
  3. ^ a b 瀬戸内海環境保全協会, 2012年03月, 特集 瀬戸内海の新たな課題と取り組み - 備讃瀬戸・備後灘・燧灘 -, 瀬戸内海, 63号, 嵐一夫
  4. ^ 柿本光明, 1995年6月17日, 備後灘にみる万葉の旅びと, 備陽史探訪, 65号, 備陽史探訪の会
  5. ^ a b c 瀬戸内海の環境データベース, 2007年, 湾灘別の環境特性及び課題特性一覧, 国土交通省
  6. ^ 村上晴澄, 今川了俊の紀行文『道ゆきぶり』にみる鯨島(PDF), 立命館大学
  7. ^ 伊藤徹魯井上貴央中村一恵自由集会報告(日本哺乳類学会1995年度大会自由集会の報告),1995年度ニホンアシカ談話会」『哺乳類科学』第35巻第2号、日本哺乳類学会、1996年、pp.176-179、doi:10.11238/mammalianscience.35.1762019年6月5日閲覧 
  8. ^ しまなみ今治管理センター (2016年7月20日). “30年ぶりに岩子島を訪れました”. 本州四国連絡高速道路. 2024年1月1日閲覧。
  9. ^ 竹原市, 2022年01月14日, スナメリクジラ廻游海面
  10. ^ 広島県教育委員会事務局, 広島県の文化財 - ナメクジウオ生息地
  11. ^ 杉浦奈実, 2021年11月20日, 「カブトガニもぞもぞ、90年ぶりの快挙も 瀬戸内海本来の姿残す干潟」, 朝日新聞
  12. ^ a b スナメリ”. 広島県立忠海高等学校. 2024年1月18日閲覧。
  13. ^ 近藤茂則, 神田育子 石田義成 鍋島靖信, 2010年, 『大阪湾におけるスナメリの分布と密度』, 哺乳類科学, 50 (1), 13-20頁, 日本哺乳類学会