牛疫
牛疫(ぎゅうえき、ドイツ語: Rinderpest)は、牛疫ウイルスの感染を原因とする偶蹄類の感染症。家畜伝染病予防法における法定伝染病であり、対象動物はウシ、スイギュウ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、シカ、イノシシ。牛疫の患畜および擬似患畜は、牛肺疫・口蹄疫・アフリカ豚熱の患畜、口蹄疫・アフリカ豚熱の擬似患畜と共に殺処分の義務がある。
2010年までに牛疫を世界から撲滅する計画がFAOによって策定[1]され、活動が続いており、2011年に撲滅宣言が発表された[2]。感染症で撲滅宣言がなされたのは1980年の天然痘についで2例目であり、ヒト以外の動物では初めてである。
原因 編集
パラミクソウイルス科 (Paramyxoviridae)、モルビリウイルス属 (Morbillivirus) に属する 牛疫ウイルス (Rinderpest morbillivirus) が原因の感染症。一本鎖のマイナスRNAウイルスであり、大きさは約150nm、エンベロープを有する。同属のウイルスとして犬ジステンパーウイルス (CDV) および麻疹ウイルスがある。
疫学 編集
感染動物の排泄物の飛沫などに直接接触することで伝播する。感受性のある動物でも種によって、牛でも品種によって感受性に差があり、和牛では感受性が高い。羊や山羊では感受性は低い。野生動物ではアフリカンバッファロー、エランド、クーズー等で発生がみられることがあった。
症状 編集
自然感染に対して最も感受性の高い動物は牛と水牛であり、2から9日の潜伏期の後、突然の41度程度の発熱、食欲減退、鼻汁、口腔内の点状出血や潰瘍がみられ、下痢を示す。その後、脱水症状を示し起立不能となる。発熱から6 - 12日後の死亡率が高く、第3週まで生存すれば回復する。
診断 編集
治療 編集
効果的な治療法は存在しない。
予防 編集
予防には弱毒生ワクチンが用いられる。但し、2010年までの根絶計画に基づき、2002年末からはワクチンの接種は中止されている。
日本では農研機構が生ワクチンを製造し、国内および海外向けの緊急備蓄のワクチンとして保管している[4]。
脚注 編集
- ^ "2010年末までに牛疫の根絶を" (PDF). 日生研たより 2008年(平成20年)5月号. 財団法人日本生物科学研究所. p. 2. ISSN 0029-0750. NCID AN0018483X. 全国書誌番号:00018238. 2016年7月5日時点のオリジナルよりアーカイブ (PDF)。2022年4月1日閲覧。
- ^ FREEDOM FROM THE WORLD NO.1 CATTLE PLAGUE : RINDERPEST (PDF) FAO
- ^ http://www.oie.int/en/for-the-media/rinderpest/post-eradication-phase
- ^ "牛疫(rinderpest)". 農研機構. 2022年4月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年4月1日閲覧。
参考文献 編集
- 清水悠紀臣ほか 『動物の感染症』 近代出版 2002年 ISBN 4874020747
- 獣医学大辞典編集委員会編集 『明解獣医学辞典』 チクサン出版 1991年 ISBN 4885006104
- 赤塚和也, 「牛疫ウイルス感染MDCK細胞の電子顕微鏡的研究」『岡山医学会雑誌』 90巻 3-4号 1978年 p.335-354, doi:10.4044/joma1947.90.3-4_335
関連文献 編集
- 山内一也『史上最大の伝染病牛疫 : 根絶までの4000年』岩波書店、2009年8月。ISBN 978-4-00-005465-2 。
関連項目 編集
外部リンク 編集
- “ワクチン開発の歴史に学ぶ” (PDF). 第10回日本医薬品等ウイルス研究会シンポジウム. 一般社団法人予防衛生協会 (2010年1月22日). 2013年10月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月12日閲覧。