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感染症(かんせんしょう、英語:infectious disease)とは、寄生虫細菌真菌ウイルス異常プリオン等の病原体感染により、「宿主」に生じる望まれざる反応(病気)の総称。感染症を対象とする医学領域は感染症学である[2]

感染症
Malaria.jpg
マラリア原虫の電子顕微鏡写真
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
感染症学
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世界の疾病負荷(WHO, 2004年)[1]
疾患 DALY
(100万)
割合
(%)
1 下気道感染症 94.5 6.2%
2 下痢性疾患 72.8 4.8%
3 大うつ病 65.5 4.3%
4 虚血性心疾患 62.6 4.1%
5 HIV / AIDS 58.5 3.8%
6 脳血管疾患 46.6 3.1%
7 未熟児、低出生体重 44.3 2.9%
8 出生時仮死出生外傷 41.7 2.7%
9 交通事故 41.2 2.7%
10 新生児の感染症など 40.4 2.7%
11 結核 34.2 2.2%
12 マラリア 34.0 2.2%
13 COPD 30.2 2.0%
14 屈折異常 27.7 1.8%
15 成人発症性の難聴 27.4 1.8%
16 先天異常 25.3 1.7%
17 アルコール使用障害 23.7 1.6%
18 他傷による怪我 21.7 1.4%
19 糖尿病 19.7 1.3%
20 自傷行為怪我 19.6 1.3%

感染症の歴史は生物の発生と共にあり、有史以前から近代までヒトの病気の大部分を占めてきた。医学の歴史は感染症の歴史に始まったと言っても過言ではない。1929年に初の抗生物質であるペニシリンが発明されるまで根本的な治療法はなく、伝染病は大きな災害と捉えられてきた。特にマラリア結核AIDS・腸管感染症は発展途上国で大きな問題であり、感染症学のみならず保健学開発学など集学的な対策が緊急の課題である。

感染症の治療に使われる薬には、抗生物質抗ウイルス薬抗真菌薬抗原虫薬駆虫薬などがある。2013年においても世界では感染症により920万人が死亡しており、全死亡の約17%を占める[3]。先進国においては新興感染症再興感染症に加えて、多剤耐性菌の蔓延やバイオテロの脅威が公衆衛生上の大きな課題として注目を集める一方、高度医療の発達に伴って手術後の患者や免疫抑制状態の患者における日和見感染が増加するなど、日常的にもまだまだ解決に向かっているとは言えない。

分類編集

感染場所による分類編集

脳など中枢神経
髄膜炎脳炎など
鼻炎副鼻腔炎咽頭炎、喉頭炎、眼窩蜂窩織炎など
喉頭蓋炎咽頭後壁膿瘍亜急性甲状腺炎レミエール症候群など
肺・気管支
肺炎気管支炎結核など
心臓・血管
感染性心内膜炎心外膜炎心筋炎感染性大動脈炎敗血症など
腹部・消化器
胆嚢炎胆管炎肝炎肝膿瘍膵炎脾膿瘍胃炎胃潰瘍腸炎虫垂炎腸腰筋膿瘍クラミジア肝周囲炎など
泌尿器
腎盂腎炎膀胱炎前立腺炎膣炎骨盤内感染症など
皮膚
蜂窩織炎脂肪織炎ガス壊疽せつよう伝染性膿痂疹(とびひ)、ブドウ球菌性熱傷様皮膚症候群帯状疱疹水痘麻疹風疹、皮膚白癬疥癬など
関節、筋肉、骨
感染性関節炎骨髄炎筋膜炎筋炎脊椎カリエスなど
リンパ節
リンパ節炎
口腔
歯周炎齲蝕根尖性歯周炎インプラント周囲炎など

病原体の種類による分類編集

真正細菌感染症
レンサ球菌(A群β溶連菌、肺炎球菌など)、黄色ブドウ球菌(MSSA、MRSA)、表皮ブドウ球菌腸球菌リステリア髄膜炎菌淋菌病原性大腸菌O157:H7など)、クレブシエラ肺炎桿菌)、プロテウス菌百日咳菌緑膿菌セラチア菌シトロバクターアシネトバクターエンテロバクターマイコプラズマクロストリジウムなどによる各種感染症
結核非結核性抗酸菌コレラペストジフテリア赤痢猩紅熱炭疽梅毒破傷風ハンセン病レジオネラ肺炎在郷軍人病)、レプトスピラ症ライム病野兎病Q熱など
発疹チフスツツガムシ病日本紅斑熱など
クラミジア肺炎トラコーマ性器クラミジア感染症オウム病など
真菌感染症
アスペルギルス症カンジダ症クリプトコッカス症白癬菌症ヒストプラズマ症ニューモシスチス肺炎(旧名:カリニ肺炎)など
寄生性原虫感染症
アメーバ赤痢マラリアトキソプラズマ症リーシュマニア症クリプトスポリジウムなど
寄生蠕虫感染症
エキノコックス症日本住血吸虫症フィラリア症回虫症広節裂頭条虫症など
ウイルス感染症
インフルエンザウイルス性肝炎ウイルス性髄膜炎ウイルス性胃腸炎ウイルス性結膜炎後天性免疫不全症候群 (AIDS)、成人T細胞白血病エボラ出血熱黄熱風邪症候群、狂犬病サイトメガロウイルス感染症、重症急性呼吸器症候群 (SARS)、中東呼吸器症候群(MERS)、進行性多巣性白質脳症水痘帯状疱疹単純疱疹手足口病デング熱日本脳炎伝染性紅斑伝染性単核球症天然痘風疹急性灰白髄炎ポリオ)、麻疹咽頭結膜熱(プール熱)、マールブルグ出血熱腎症候性出血熱ラッサ熱流行性耳下腺炎ウエストナイル熱ヘルパンギーナチクングニア熱など
プリオン病 / 伝達性海綿状脳症
牛海綿状脳症 (BSE)、クールー病クロイツフェルト・ヤコブ病致死性家族性不眠症 (FFI)、ゲルストマン・ストロイスラー・シャインカー症候群 (GSS) など

病態からの分類編集

一次感染と二次感染
最初の病原体による感染を一次感染、続いて別の病原体による感染を二次感染という。また、同一宿主に2種類以上の病原菌によって感染が起こることを混合感染という。二次感染の一例として、一次感染を抗生物質で排除してもその抗生物質抵抗性の常在菌が異常増殖を起こす菌交代現象がある。
局所感染と全身感染
病原体が侵入・定着部位に限局して病変を起こす場合を局所感染という。この病原体が血行性など全身に広がって症状が出た場合を全身感染という。
持続感染と不顕性感染と潜伏感染
  • 持続感染:病原体が生体から完全に排除されずに症状が治まっている状態。そういった状態の人を保菌者という。
  • 不顕性感染:病原体に感染しても発症しない場合をいう。
  • 潜伏感染:病原体に感染してもすぐ症状が出るわけではない。感染しても発症していない状態をいう。その期間を潜伏期間という。

公衆衛生学的な分類編集

新興感染症
輸入感染症のうち、継続的に国内での発症が見られるようになったもの。
例:後天性免疫不全症候群
再興感染症
社会情勢の変化により、近年まで抑えられていた発症数が再び増加傾向を示すもの。
例:結核
人獣共通感染症
ヒトとヒト以外の動物の両方に感染を生じ、予防対策に両者への介入を要するもの。
例:狂犬病エキノコックス
伝染病
病気を起こした個体(ヒトや動物など)から病原体が別の個体へと到達し、連鎖的に感染者数が拡大するもの。
輸入感染症
旅行者や輸入食品を介して病原体が海外から持ち込まれ、国内では稀な感染症を生じるもの。
例:重症急性呼吸器症候群デング熱黄熱病
検疫伝染病
輸入感染症のうち一度国内に進入すると流行する危険のあるものは、検疫法によって検疫伝染病の指定されている。
例:コレラペスト

法的な分類編集

感染症法による。

一類感染症
  • 感染力・重篤度・危険性が極めて高く、早急な届出が必要になる
エボラ出血熱クリミア・コンゴ出血熱天然痘(痘瘡)、南米出血熱ペストラッサ熱マールブルグ熱
二類感染症
  • 感染力・重篤度・危険性が高く、早急な届出が必要になる
急性灰白髄炎結核ジフテリア重症急性呼吸器症候群(SARS、コロナウイルスに限る)
三類感染症
  • 感染力・重篤度・危険性は高くは無いものの、集団発生を起こす可能性が高い為、早急な届出が必要になる
コレラ細菌性赤痢腸管出血性大腸菌感染症O-157など)、腸チフスパラチフス
四類感染症
  • 人同士の感染は無いが、動物・飲食物等を介して人に感染する為、早急な届出が必要になる
E型肝炎ウエストナイル熱A型肝炎エキノコックス症黄熱オウム病鳥インフルエンザH5N1は除外)等41種
五類感染症
  • 国家が感染症発生動向の調査を行い、国民・医療関係者・医療機関に必要な情報を提供・公開し、発生及び蔓延や伝染を防止する必要がある感染症
インフルエンザ(鳥及び新型インフルエンザ等感染症を除く)、ウイルス性肝炎(A型及びE型を除く)、後天性免疫不全症候群HIVエイズ)、風疹麻疹破傷風等41種
新型インフルエンザ等感染症
  • 新たに人から人に伝染する様になったウイルスを病原体にするインフルエンザ
指定感染症
  • 既知の感染症の中で、上記の1-3類に分類されない感染症で、1-3類に準じる対応が必要な感染症(新型インフルエンザ)
新感染症
  • 感染した人から他の人に伝染すると認められる疾病で、既知の感染症・症状等が明らかにそれまでの物とは異なり、その感染力と罹患した時の重篤性から判ずるに、極めて危険性が高い感染症

診断編集

感染症は痛み・発熱などを契機に気付かれることが多いが、これらの症状はまた腫瘍やアレルギーなど感染以外によっても惹き起こされるため、診断学を踏まえた問診や身体診察により適切に鑑別を絞り込むことによって、必要十分な検査による診断が可能となる。

身体診察による診断の例として、蜂巣炎での皮膚発赤のように視診で気付かれるもの、気管支炎での呼吸器雑音など聴診で気付かれるもの、虫垂炎でのMcBurney圧痛点や腸腰菌膿瘍におけるPsoas signやObturator signなど触診で気付かれるものがある。

治療編集

感染症の多くは安静・休養・栄養・水分補給による免疫力の回復、あるいは体位ドレナージによる排痰促進や利尿などの補助療法を通じて自然に治癒するが、先進諸国においては治癒を早めたり、徹底したり、後遺症を予防したりする目的でしばしば抗生物質/抗菌薬による化学療法 (細菌)や、抗ウイルス治療が併用される。また、局所感染においては切開排膿やドレナージといった外科的治療が併用される。敗血症ショック全身性炎症反応症候群(SIRS)などを合併する重症感染症においては、ときに抗体製剤や血漿交換を併用する。

予防編集

 
手洗い
  • 宿主の免疫力を保つためには、日常から適切な栄養と休養を要する。しかし、例えば南北格差による貧困は、時にこれらを困難にする。
  • 特定の病原体に対する免疫の向上には、ワクチン予防接種が有効である。感染・発症・伝染・重症化を防ぐことが期待できる。
  • 伝染病において、病原体を体内に侵入させないためには感染経路の遮断が有効であり、感染管理消毒滅菌などの要する。
  • 集団発生を早期発見・予防するために、医療機関・地域・国家・世界の様々なレベルで感染症サーベイランスが行われる。

消毒と滅菌編集

消毒
病原微生物を殺すこと、または病原微生物の能力を減退させ病原性をなくすことである。よって、すべての微生物を殺すことではない。一般に消毒に用いられる物質を消毒剤という。
滅菌
病原体と非病原体の有無に関わらず、すべての微生物を死滅させる、あるいは除去すること。手術における滅菌は無菌操作と呼ばれる。

法・制度編集

日本編集

感染症を予防するための法律には以下のようなものがある。

疫学編集

 
感染症および寄生虫病による人口百万あたり死亡(2012年)
  28-81
  82-114
  115-171
  172-212
  213-283
  284-516
  517-1,193
  1,194-2,476
  2,477-3,954
  3,955-6812
 
感染症および寄生虫病による人口百万あたりDALY(2004年)[4]
  no data
  ≤250
  250–500
  500–1000
  1000–2000
  2000–3000
  3000–4000
  4000–5000
  5000–6250
  6250–12,500
  12,500–25,000
  25,000–50,000
  ≥50,000

2010年には、約1000万人が感染症で死亡している[5]。WHOは感染症による死者をICD分類で集計しており、2002年についてのデータを以下に示す。

感染症による世界の死亡率[6][7]
順位 死因 2002年の死者
(百万)
死因に占める割合(%) 1993年の死者
(百万)
1993年の順位
N/A 感染症すべて 14.7 25.9% 16.4 32.2%
1 下気道感染症[8] 3.9 6.9% 4.1 1
2 HIV/AIDS 2.8 4.9% 0.7 7
3 感染性下痢[9] 1.8 3.2% 3.0 2
4 結核 (TB) 1.6 2.7% 2.7 3
5 マラリア 1.3 2.2% 2.0 4
6 麻疹 0.6 1.1% 1.1 5
7 百日咳 0.29 0.5% 0.36 7
8 破傷風 0.21 0.4% 0.15 12
9 髄膜炎 0.17 0.3% 0.25 8
10 梅毒 0.16 0.3% 0.19 11
11 B型肝炎 0.10 0.2% 0.93 6
12-17 熱帯病 (6)[10] 0.13 0.2% 0.53 9, 10, 16–18

三大死因はHIV/AIDS、結核、マラリアである。感染症による死亡はほぼすべて減少しているが、しかしHIVによる死者は4倍に増加している。

歴史的パンデミック編集

 
1720年のペストでは、マルセイユ周辺で10万人が死亡した

非感染性疾患との関連編集

一部の感染症は非感染性疾患の発症に強い関連を持つことが、近年明らかになりつつある。

血液型による感染率編集

RTIインターナショナル英語版の研究者が現在までの発見をまとめており、細菌やウイルス、感染症の感染性がABO式血液型に関係するのは、使用される血液型抗原によって抗原の感受性が異なるためである[11]。O型ではペスト、ノロウイルス、耳下腺炎、結核に弱く、A型では天然痘や緑膿菌、サルモネラに弱く、B型は淋病、結核、大腸菌、サルモネラに弱く、AB型は天然痘、大腸菌、サルモネラに弱い[11]国立生物工学情報センター発行の遺伝医学の書籍では、O型はマラリアから防御され、コレラではO型が弱くAB型が強い可能性がある[12]

ヒト以外の感染症編集

出典編集

  1. ^ The global burden of disease: 2004 update (Report). 世界保健機関. Part.4 Table 12: Leading causes of burden of disease (DALYs), all ages, 2004. ISBN 9241563710. http://www.who.int/healthinfo/global_burden_disease/2004_report_update/en/. 
  2. ^ Infectious Disease, Internal Medicine”. Association of American Medical Colleges. 2015年2月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月20日閲覧。 “Infectious disease is the subspecialty of internal medicine dealing with the diagnosis and treatment of communicable diseases of all types, in all organs, and in all ages of patients.”
  3. ^ GBD 2013 Mortality and Causes of Death, Collaborators (17 December 2014). “Global, regional, and national age-sex specific all-cause and cause-specific mortality for 240 causes of death, 1990-2013: a systematic analysis for the Global Burden of Disease Study 2013”. Lancet 385 (9963): 117–71. doi:10.1016/S0140-6736(14)61682-2. PMC: 4340604. PMID 25530442. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4340604/. 
  4. ^ World Health Organization (2009年2月). “Age-standardized DALYs per 100,000 by cause, and Member State, 2004”. 2009年2月閲覧。
  5. ^ “Could Ebola rank among the deadliest communicable diseases?”. CBC News. (2014年10月20日). http://www.cbc.ca/news/1.2802071 
  6. ^ (PDF) The World Health Report (Annex Table 2) (Report). (2004). http://www.who.int/whr/2004/annex/topic/en/annex_2_en.pdf. 
  7. ^ (PDF) Table 5 (Report). (1995). http://www.who.int/whr/1995/en/whr95_ch1_en.pdf. 
  8. ^ たとえば肺炎、インフルエンザ、急性気管支炎など
  9. ^ ICD-10 #A00-A79Intestinal infectious diseasesを参照
  10. ^ シャーガス病、デング熱、リンパ性フィラリア症、リーシュマニア症、オンコセルカ症、住血吸虫症、トリパノソーマ症などがある。
  11. ^ a b Ewald DR, Sumner SC (November 2016). “Blood type biochemistry and human disease”. Wiley Interdiscip Rev Syst Biol Med 8 (6): 517–535. doi:10.1002/wsbm.1355. PMC: 5061611. PMID 27599872. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5061611/. 
  12. ^ Laura Dean (2017). “ABO Blood Group”. Medical Genetics Summaries. https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK100894/.  PMID 28520352

関連項目編集

外部リンク編集