T級潜水艦 (イギリス海軍)

T級潜水艦 (T-class submarine) は1930年代に開発されたイギリス海軍の航洋型潜水艦トライトン級と呼ばれる事もある。1920年代に設計されたO級P級および1930年代前半に開発されたR級の後継となる事を意図して設計され、第二次世界大戦前から大戦中を通じて総計53隻が建造された。

T級潜水艦
T-class submarine
HMS ソーン (HMS Thorn, N11)
基本情報
種別 潜水艦
運用者  イギリス海軍
 オランダ海軍
 イスラエル海軍
建造期間 1936年~1945年
就役期間 1938年~1970年代
建造数 53隻
前級 グランパス級潜水艦
次級 U級潜水艦
要目
排水量 1,090トン(基準)
1,560トン(水中)
長さ 276 ft 6 in (84.28 m)
25 ft 6 in (7.77 m)
吃水 12 ft 9 in (3.89 m)(艦首)
14 ft 7 in (4.45 m)(艦尾)
主機 2軸
ディーゼルエンジン2基, 2,500 hp (1.86 MW)
ディーゼル電動機2基, 1,450 hp (1.08 MW)
速力 水上15.5ノット、水中9ノット
航続距離 10ノットで8,000海里 (水上航走)
乗員 56~61名
兵装 21インチ(533mm)魚雷発射管 10門(艦首6門、外装4門)、魚雷16基
4インチ砲 1門
2cm対空砲 1門(改修後)
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概要 編集

T級の設計は1934年に始まり、1930年のロンドン海軍軍縮会議の決定による上限排水量2000トン・装備する砲は5.1インチ以下の制限を受けた設計となっている。また、第一次世界大戦以来の英国でのソナー技術の研究を受けて他国でも同様の探知装置が開発されることが考えられ、こういった探知装置を避けるためには排水量1,100トン程度の小型の船体が有利であると考えられた事から、以前に設計されたR級と比較してやや小型の船体となっている[1]。そして、敵の探知装置を避けられる長距離から反撃を行うには少なくとも8基の魚雷発射管が必要と考えられた[2]

結果としてT級には艦首に6基、他に4基の計10基の魚雷発射管が装備され、また甲板上に4インチ砲が搭載された。T級の開発は1935年に完了し、製造が承認された。

最初の艦である「トライトン」は1936年3月5日に発注された。総計53隻のT級潜水艦が第二次世界大戦前および大戦中に建造された。これらの艦は製造時期により3つのグループに分類され、同一グループ内の各艦の差異はわずかなものとなっている。第2グループおよび第3グループの艦はディーゼル燃料積載容量が増加しており、戦闘行動範囲が広くなっている。

第1グループ・第2グループに属する艦は第二次世界大戦後、生き残っていたものも程なく除籍、解体されたが、第3グループについては一部の艦に近代化改修を施すなどして1970年代までイギリス海軍で運用されていた。

また第3グループのうち4隻はオランダ海軍に供与され、ズヴァールトフィス級(Zwaardvisch crass)と呼ばれた。また1960年代になってイスラエル海軍に3隻が売却され、こちらでも1970年代後半まで使用された。

艦名一覧 編集

第1グループ 編集

第2次世界大戦前に建造された最初の15隻が第1グループに分類される。最初の「トライトン」は1935年に発注され、1936年に4隻、1937年に7隻、そして最後の3隻が1938年に発注された。半数以下の6隻だけが第二次世界大戦を生き延びた。

  • トライトン (HMS Triton, N15) - 1940年12月18日にアドリア海で沈没。
  • シーティス/サンダーボルト (HMS Thetis/Thunderbolt, N25) - テスト中に沈没し、引き上げ後に"サンダーボルト"に改名。1943年3月14日にイタリア軍駆逐艦チコーチャの攻撃を受け沈没。
  • トリビューン (HMS Tribune, N76) - 大戦を生き延び1947年に除籍、解体。
  • トライデント (HMS Trident, N52) - 北海ではドイツ船数隻、太平洋戦線では日本船2隻を撃沈。大戦を生き延び1946年に除籍、解体。
  • トライアンフ (HMS Triumph, N18) - 1942年1月14日にイタリア軍の機雷により沈没したと見られている。
  • タク (HMS Taku, N38) - 1944年4月に機雷により損傷を受け、そのまま終戦を迎える。1946年に除籍、解体。
  • ターポン (HMS Tarpon, N17) - 1940年4月14日にドイツ軍の掃海艇"M-6"の攻撃を受け沈没したと見られている。
  • シスル (HMS Thistle, N24) - 1940年4月10日にドイツ軍の潜水艦"U-4"と交戦し沈没。
  • ティグリス (HMS Tigris, N63) - 1943年2月27日にドイツ軍の対潜トローラー"UJ-2210"の攻撃を受け沈没したと見られている。
  • トライアド (HMS Triad, N53) - 1940年10月15日にイタリア軍潜水艦"エンリコ・トーチ"と交戦しターラント湾にて沈没。
  • トルーアント (HMS Truant, N68) - 大戦を生き延び1945年末に除籍、解体。
  • ツナ (HMS Tuna, N94) - 大戦を生き延び1945年末に除籍、解体。
  • タリスマン (HMS Talisman, N78) - 1942年9月17日にイタリア軍の機雷により沈没したと見られている。
  • テトラーク (HMS Tetrarch, N77) - 1941年11月2日にイタリア軍の機雷により沈没したと見られている。
  • トーベイ (HMS Torbay, N79) - 大戦を生き延び1945年末に除籍、解体。

第2グループ 編集

第2次世界大戦勃発に伴い1939年に緊急調達された7隻が第2グループに分類される。燃料タンク容量増加などの改良が施されている。これら7隻はいずれも地中海での作戦に投入され、スラッシャーとトラスティーだけが生き残った。

  • テンペスト (HMS Tempest, N86) - 1942年2月13日にイタリア軍水雷艇"チルチェ"の攻撃を受け浮上し投降。その後テンペストの船体は沈没した。
  • ソーン (HMS Thorn, N11) - 1942年8月6日にイタリア軍水雷艇の攻撃を受け沈没。
  • スラッシャー (HMS Thrasher, N37) - 大戦を生き延び1947年に除籍、解体。
  • トラヴェラー (HMS Traveller, N48) - 1942年12月12日にイタリア軍の機雷により沈没したと見られている。
  • トルーパー (HMS Trooper, N91) - 1943年10月14日にドイツ軍の機雷により沈没したと見られている。
  • トラスティー (HMS Trusty, N45) - 大戦を生き延び1947年に除籍、解体。
  • タービュレント (HMS Turbulent, N98) - 1943年3月12日にイタリア軍水雷艇の攻撃を受け沈没。

第3グループ 編集

第1グループ、第2グループの戦訓を元に改良された戦時中の量産型。計31隻が建造された。艦橋の後部に2cm対空砲が追加装備された[3]他、船体が溶接構造となり最大潜航深度が深くなっている。1940年に9隻、1941年に17隻が発注された。1942年に発注された14隻についてはこのうち5隻のみが完成し、未完成艦が2隻、艦名のみ決められたが建造されなかった艦が3隻、艦名が決まる前にキャンセルされた艦が4隻となった。

  • P311 (HMS P311, P311) - "ツタンカーメン"の艦名が付けられる予定であったが戦没。1943年1月にイタリア軍の機雷により沈没したと見られ、2016年にサルデーニャ島沖で残骸が発見された。
  • トレスパッサー (HMS Trespasser, P312) - 大戦を生き延び1961年に除籍、解体。
  • トーラス (HMS Taurus, P339) - 当初、P313の船番が付けられていたが不吉な数字であるとして339に変更された[3]。1948年にオランダ海軍に売却され"ドルフェイン" (HNLMS Dolfijn)と改名。1953年にイギリス海軍に復帰。1960年に除籍、解体。
  • タクティシャン (HMS Tactician, P314) - 大戦を生き延び1963年に除籍、解体。
  • トラキュレント (HMS Truculent, P315) - 大戦を生き延びた後、1950年にテムズ川河口付近で衝突事故により沈没。その後船体が引き揚げられ解体された。
  • テンプラー (HMS Templar, P316) - 大戦を生き延びた後、1954年に標的艦となり沈没。1958年に引き揚げられ解体された。
  • タリーホー (HMS Tally-Ho, P317) - 大戦を生き延び1967年に除籍、解体。
  • タンタラス (HMS Tantalus, P318) - 大戦を生き延び1950年に除籍、解体。
  • タンティヴィ (HMS Tantivy, P319) - 大戦を生き延びた後、1951年に標的艦となり沈没。
  • テレマカス (HMS Telemachus, P321) - 大戦を生き延び1961年に除籍、解体。
  • タレント (HMS Talent, P322) - 初代"タレント"。1943年にオランダ海軍に供与され"ズヴァールトフィス" (HNLMS Zwaardvisch)と改名。1950年に"ズヴァールヴィス" (HNLMS Zwaardvis)と改名。1962年末に除籍、解体。
  • テラピン (HMS Terrapin, P323) - 1945年5月19日に日本海軍艦艇の投下した爆雷により損傷を受け、自力でオーストラリアの軍港に帰投。1946年に除籍、解体。
  • ソーロウ (HMS Thorough, P324) - 大戦を生き延び1962年に除籍、解体。
  • チューリ (HMS Thule, P325) - 大戦を生き延び1962年に除籍、解体。
  • テューダー (HMS Tudor, P326) - 大戦を生き延び1963年に除籍、解体。
  • タイアレス (HMS Tireless, P327) - 大戦を生き延び1968年に除籍、解体。
  • トーケン (HMS Token, P328) - 大戦を生き延び1970年に除籍、解体。
  • トレードウィンド (HMS Tradewind, P329) - 大戦を生き延び1955年に除籍、解体。
  • トレンチャント (HMS Trenchant, P331) - 大戦を生き延び1963年に除籍、解体。
  • ティピトー (HMS Tiptoe, P332) - 大戦を生き延び1971年に除籍、1975年に解体。
  • トランプ (HMS Trump, P333) - 大戦を生き延び1971年に除籍、解体。
  • タシターン (HMS Taciturn, P334) - 大戦を生き延び1971年に除籍、解体。
  • タピアー (HMS Tapir, P335) - 大戦を生き延びた後、1948年にオランダ海軍に売却され"ゼーホンド" (HNLMS Zeehond)と改名。1953年にイギリス海軍に復帰。1966年に除籍、解体。
  • ターン (HMS Tarn, P336) - 完成直後の1945年にオランダ海軍に供与され"テーヘルハイ" (HNLMS Tijgerhaai)と改名。1964年に除籍、解体。
  • タレント (HMS Talent, P337) - 2代目"タレント"。当初"タスマン"の艦名であったが初代タレントがオランダに供与されたためタレントの名が付けられた。1966年に除籍、解体。
  • テレードー (HMS Teredo, P338) - 大戦を生き延び1965年に除籍、解体。
  • タバード (HMS Tabard, P342) - 大戦を生き延び1974年に除籍、解体。
  • トーテム (HMS Totem, P352) - 大戦を生き延びた後、1964年にイスラエル海軍に売却され"ダカール" (INS Dakar)と改名。1968年にイスラエルへの輸送中に地中海にて沈没。1999年に船体が引き揚げられたが沈没原因は不明。イスラエル海軍博物館に船体の一部が展示されている。
  • トランチェン (HMS Truncheon, P353) - 1964年にイスラエル海軍に売却され"ドルフィン" (INS Dolphin)と改名。1977年に除籍、解体。
  • ターピン (HMS Turpin, P354) - 1965年にイスラエル海軍に売却され"レビヤタン" (INS Leviathan)と改名。1978年に除籍、解体。
  • サーモピレー (HMS Thermopylae, P355) - 1970年に除籍、解体。

未完成艦 編集

第3グループのうち未完成またはキャンセルされた艦。

  • ソア (HMS Thor, P349) - 着工されたが未完成。
  • ティアラ (HMS Tiara, P351) - 着工されたが未完成。
  • シーバン (HMS Theban, P341) - 着工されずキャンセルされた。
  • スレート (HMS Threat, P344) - 着工されずキャンセルされた。
  • タレント (HMS Talent, P343) - 着工されず、P337"2代目タレント"の建造に先立ってキャンセルされている。
  • P345 - 艦名未定のままキャンセルされた。
  • P346 - 艦名未定のままキャンセルされた。
  • P347 - 艦名未定のままキャンセルされた。
  • P348 - 艦名未定のままキャンセルされた。

脚注・出典 編集

関連項目 編集

外部リンク 編集

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