(くさり、coil chain)とは、状の部品を繋げて状にしたもの。複数連結され鎖を形成している個々の素子を鎖素子という[1]

一般的な鎖

元来は同じ形状の部材を連続的に接続したものだが、ローラーチェーンやボールチェーンのように複数種の部材からなるものでもチェーンと総称される。

近代以後、安定した品質の長大鋼線が量産可能になると、これを縒り合わせた、重量あたりの引っ張り荷重がより大きいワイヤーロープに鎖の多くが取って代わられた。しかし細鋼線の束であるワイヤーロープに比べ、鎖は腐蝕に強い、太くとも可撓性が高い、切り口のほつれ防止や留め金を付ける処置が不要等の長所もあり、依然として多く使用される。

鎖は施錠や、タイヤチェーン、あるいはチェーンブロック、吊り具などの楊荷などに使われる(ワイヤーを使うものはクレーンウインチを参照。)。小さなものにはネックレスなどの装身具用、大きなものにはの投用がある。

素材は用途にもよるが、主に古くからある製の他、それを表面処理したもの、強度を高めた物、ステンレス鋼プラスチックなどがある。

歴史 編集

鎖は紀元前から存在した[2]。少なくとも紀元前225年以降、金属製チェーンが使用されていたことがわかっている[注釈 1]。紀元前に使われていた似た物として、籠や糸の織物などが存在していた。

地中海沿岸では港で鎖が使用されていた[2]。当時の地中海沿岸の港は城壁の一部として防護壁の役割があり敵の侵入を防ぐために港口を鎖で封鎖できるようになっており、このような構造はピレウスの港で初めて採用されたといわれている[2]

鎖を初めて船舶の係留に使用したのは、8世紀から12世紀にかけてスカンジナビア半島を拠点にヨーロッパで活動したヴァイキングとされている[2]。ヴァイキングは航海術だけでなく金属加工にも長けており、鉄を鍛え、焼入れする技術も持っていた[2]。ところが、ヴァイキングの時代が終わると数世紀にわたりアンカーチェーンの使用例は見られなくなった[2]。18世紀、大航海時代に入り、船舶の大型化とともに船体の強化のために鋼板が張られるようになり、従来の麻のロープでは擦り切れてしまうため再びアンカーチェーンが使用されるようになった[2]

1550年、ゲオルク・アグリコラによって書かれたラテン語の技術書『デ・レ・メタリカ』には、物を吊る道具、水を汲む道具、物を運ぶ道具を構成する部品として様々なチェーンの使用例が版画で表現されている[2]

種類 編集

形状別の種類 編集

 
喜平タイプのネックレス・チェーン
 
認識票に使用されているボールチェーン
  • 長鎖環(ロングリンクチェーン)
一般にみかけるもの。
  • 短鎖環(ショートリンクチェーン)
一般にみかけるもの。
  • 雑用鎖
  • 捻り鎖
繋いだ鎖の環をひねったもの(ひねってつぶしたものは喜平と呼ばれる)。装飾用のツイストチェーンなどでは、何重にもひねって中央を棒状にしたものも存在する。
  • ビクター鎖
  • マンテル鎖
  • サッシュ鎖
打ち抜きチェーンともいう。
  • ラダーチェーン
はしご状に繋いだ鎖。
  • ロープチェーン
ひとつの環のなかに2本以上の環を重複して繋いだ鎖。装飾用のものはハワイアンジュエリーなどで多く用いられる。
  • ローラーチェーン
ローラー、ブッシュ、内側プレート、外側プレート、軸の組み合わせで一単位として構成され、スプロケットと使用することにより主に動力の伝達に用いられる鎖。
  • 喜平(きへい)
繋いだ鎖の環をひねってつぶしたもの。騎兵の馬に施された装飾に由来する呼称。ネックレスなどの装身具にも使われる。二面・四面・六面・八面など面取りした物もあり、環を二重に繋いだ「W喜平」なども存在する。
また、それぞれの環を長く伸ばした「長喜平」や、ひねってつぶした環の長いものと短いものを交互に組み合わせた「フィガロチェーン」なども存在する。
  • 玉鎖(たまぐさり)
ボールチェーンとも呼ばれる。線材ではなく薄い金属板に鉄アレイ状のジョイントを挟みながら球形にかしめて鎖状にしたもので、構造的に加重に対する強度は求められない。チェーンの両端をコネクタで接続することでリング状にすることもできる。ステンレス製のものは浴槽洗面台排水栓の遺失防止などに用いられている。
リング状にしたものはネックレスなどの装飾用にも用いられる。装飾用のボールチェーンはステンレス製のほかにも、などの素材が使われる事もあり、また球面ではなく多面体的なカットを施したものもある。

用途別の種類 編集

 
懐中時計につけられたウォッチチェーン
  • ウォッチチェーン
懐中時計に付ける鎖。三つ揃えスーツの場合、ベストポケット時計本体を納め、ボタンホールに鎖を止めて用いる。明治期の日本では時計に金鎖をつけることが実業家にとって成功者としての象徴であり[4]夏目漱石の『吾輩は猫である』にも記されている。
 
ウォレットチェーン
  • ウォレットチェーン
財布に付ける鎖。ベルトやベルトループに繋げておくことが多い。財布に取り付けずに、単なるベルト周りのアクセサリーとして使用する例もある。
  • グラスチェーン
眼鏡に付ける鎖。かつては鼻眼鏡片眼鏡の破損・紛失を防ぐために取り付けられた。日本の商標法施行規則に定める商品及び役務の区分には現在でも「鼻眼鏡用鎖」の字が残る。鼻眼鏡や片眼鏡が廃れた今日でも、外した眼鏡を首にかけておくためや、装飾として鎖が付けられることがある。
  • ベリーチェーン
腰周りに付ける装飾用の鎖。ベリーダンスの衣装に用いられる事が名称の由来。ダンス用のものは大ぶりで装飾用のパーツがついた物が多い。女性用ファッションの装身具としても用いられ、この場合には細い鎖が使用される物が多い。ヘソに施したボディピアスと連結されているタイプも存在する。
  • グルメット
馬具のに用いられる轡鎖

工業規格 編集

※( )内は主な材料

用途の例 編集

運輸
 
プガチョフの乱で使用されたКистеньという武器
武器
防具
その他

比喩表現 編集

その形状的な特徴から、「連続する様子」の喩えとして「鎖」が使われる。鎖素子のことをリンクといい、比喩として何かを「接続するもの」を指すようになった。この記事をお読みのあなたが辿ってきたであろうハイパーリンクもこの比喩に由来する。インターネット上で単にリンクといえばハイパーリンクを指す。

鎖は古くから縄紐より厳重な封印・拘束のために用いられ、「封鎖」のように制約・束縛の喩えにもなっている。

など。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 紀元前225年に、井戸汲み用のバケツにつないで使用されていた[3]
  2. ^ 例として、『日本書紀仁徳紀41年3月条に、百済王が王族を鉄鎖で捕縛し、日本側に進上した記述が見られる。

出典 編集

  1. ^ 意匠分類定義カード(M1) 特許庁
  2. ^ a b c d e f g h 鎖の起源と歴史”. 姫路市電子じばさん館(姫路市・公益財団法人 姫路・西はりま地場産業センター). 2020年8月2日閲覧。
  3. ^ 椿本チエイン, ed (1997). The Complete Guide to Chain. Kogyo Chosaki Publishing Co., Ltd.. pp. 240. ISBN 0-9658932-0-0. p. 211. http://chain-guide.com/breaks/brief-history-of-chain.html 2006年5月17日閲覧。 
  4. ^ 半藤一利 『歴史に「何を」学ぶのか』 ちくまプリマー新書 2017年 p.171.

関連項目 編集

外部リンク 編集