麦芽100%ビール(ばくがひゃくパーセントビール)は、麦芽およびホップのみを原料とし、コーンスターチなどの副原料を使用しないビールを指す[1]オールモルトビールAll Malt Beer)ともいう。

特徴 編集

一般に、麦芽100%ビールは麦の香りが強く、コクのある仕上がりになる。これに対し、副原料を使用したビールは飲み口が軽快なものになる[2]

日本の麦芽100%ビール 編集

1971年サッポロビールは第二次世界大戦以前に発売していた「ヱビスビール」を28年ぶりに復活させた。当初は副原料を使用したが、発売半年後に麦芽100%に変更した[3]。1970年代には売上はさほど伸びなかったが、1980年代に入ると伸びを見せ始めた。サッポロは、消費者が「純粋ビール」を望んでいると分析。1985年よりヱビスの低アルコールタイプや、北海道や九州での地域限定商品を投入した。キリンビールは、1985年3月に西ドイツ向けに輸出されていた「エクスポート」を日本でも販売。アサヒビールは「レーベンブロイ」、サントリーは「モルツ」を投入して対抗した[4]1987年から1988年にかけてのドライビールブームで一時的な落ち込みは観られたものの、全てのビールに占める麦芽100%ビールの出荷数量の割合は、1986年の1.5%から1995年には5.9%[5]、1998年には6.8%まで増加した[6]市場占有率は、1986年にはサッポロ59.9%、サントリー33.6%、アサヒ4.3%、キリン2.2%の順であったが、1995年にはサントリー68%、サッポロ23%、キリン9%でアサヒは撤退した。この頃には、サントリーは麦芽100%、サッポロは生ビール、アサヒはドライビール、キリンは熱処理ビールと得意分野が分かれていった。 2009年3月発売分より、キリンは一番搾りを麦芽100%に切り替えた[7]。2017年2月にアサヒビールは、麦芽100%で糖質50%オフとして、アサヒ ザ・ドリームを発売[8]するが、2年後の2019年6月で製造終了[9]し、クラフトビールとして発売しているTOKYO隅田川ブルーイングと2021年10月より東北地方限定(ただし、例外的にお中元・お歳暮等の贈答用に限り全国発売)で発売されているプレミアムビールの花鳥風月のみとなっている。

アサヒビール
  • TOKYO隅田川ブルーイング[10]
  • 花鳥風月(基本的に東北地方限定商品)
キリンビール
サッポロビール
サントリー

麦芽100%とプレミアムビール、およびクラフトビール 編集

1977年から1983年ごろにかけての麦芽100%ビールは高級ビールと位置づけられてきたが、1980年代後半にはレギュラービールとの価格差は縮小していった[4]。現在、大手ビールメーカーから発売されているプレミアムビールクラフトビールのうち、サッポロ「ヱビスビール」やサントリー「ザ・プレミアム・モルツ」、アサヒ「TOKYO隅田川ブルーイング」、アサヒ「花鳥風月」、キリン「一番搾りプレミアム」、キリン「ハートランドビール」、キリン「スプリングバレー 豊潤」は麦芽100%であるが、例外としてアサヒ「ドライプレミアム豊醸」、およびアサヒ「食彩」は副原料としてコーンスターチ、キリン「ブラウマイスター」は副原料として米を使用している。2024年現在におけるレギュラービールの現行商品うち、サントリー「ザ・モルツ」(現在は瓶ビールを含め業務用専売商品となっている)やキリン「キリン一番搾り生ビール」「一番搾り〈黒生〉」「キリンビール 晴れ風」、サッポロ「サッポロクラシック」はいずれも麦芽100%である。このように、麦芽100%ビールとプレミアムビールは必ずしも同一の概念ではない。

ヨーロッパの麦芽100%ビール 編集

ドイツのビールは、1516年に制定されたビール純粋令により、長らくオオムギ麦芽・ホップ・水・酵母以外を原料とすることが禁じられてきた。欧州統合の流れから、非関税障壁であるとの声が上がり、1987年に純粋令は、ドイツ国内製造で、ドイツ国内向けに適用が限定され。輸入ビールやドイツ国外向けビールには適用がなくなった。それ以降もドイツの多くのメーカーでは、輸出向けを含め従来のビール純粋令に沿った製法でビール作りをしている[15]デンマークカールスバーグ[16]オランダハイネケンなども麦芽100%で製造されている[17]

参考文献 編集

  • 水川侑『日本のビール産業―発展と産業組織論―』専修大学出版局、2002年5月15日。ISBN 978-4-88125-129-4 
  • サッポロビール株式会社広報室社史編纂室『サッポロビール120年史』1996年3月10日。 

脚注 編集

  1. ^ ビールの豆知識|ビールの種類”. ビール酒造組合. 2017年4月6日閲覧。
  2. ^ お酒のいろは”. 東京国税局. 2018年7月29日閲覧。
  3. ^ 『サッポロビール120年史』p486
  4. ^ a b 日本のビール産業』p92-93
  5. ^ 日本のビール産業』p94
  6. ^ 日本のビール産業』p92-93
  7. ^ ~「麦芽100%×一番搾り製法」で、さらに澄みきったうまさへ。~「キリン一番搾り生ビール」をリニューアル』(プレスリリース)キリンビール、2009年1月9日http://www.kirin.co.jp/company/news/2009/0109d_01.html2017年4月10日閲覧 
  8. ^ 日本初※1!麦芽100%で糖質50%オフ※2の生ビールにクオリティアップ!『アサヒ ザ・ドリーム』2017年2月7日(火)新発売!”. アサヒビール. 2021年8月17日閲覧。
  9. ^ 【製造終了】アサヒ「ザ・ドリーム」が2019年6月で製造終了”. 酒楽-SAKERAKU. 2021年8月17日閲覧。
  10. ^ TOKYO隅田川ブルーイング”. アサヒビール. 2021年8月17日閲覧。
  11. ^ 原材料名・栄養成分等一覧(ビール・発泡酒・新ジャンル)”. キリンビール. 2023年5月15日閲覧。
  12. ^ 栄養成分一覧”. サッポロビール. 2023年5月15日閲覧。
  13. ^ 栄養成分一覧”. サントリー. 2023年5月15日閲覧。
  14. ^ 新商品”. シジシージャパン. 2023年7月1日閲覧。
  15. ^ 世界のビールの歴史 ヨーロッパの統合とビール純粋令”. アサヒビール. 2017年4月10日閲覧。
  16. ^ カールスバーグ”. サントリー. 2017年4月10日閲覧。
  17. ^ FAQ”. ハイネケン. 2017年4月10日閲覧。