M-346は、イタリアアレーニア・アエルマッキ社のジェット練習機。軽攻撃機としての利用も考慮されている。

開発編集

 
1997年MAKSでのYak-130。垂直尾翼にヤコヴレフと共にアエルマッキ社が記されている

1990年代にA・S・ヤコヴレフ記念試作設計局とのジョイント・ベンチャーで行われた練習機開発計画が、市場の変化に伴いロシア西側向けに分離した[1]。ロシア側に分離したものがYak-130であり、イタリアで設計されたものが本機である。

Yak-130との分離後、2004年に初飛行、2008年1月24日には試作2号機により、トーネード IDSからのプローブ式の空中給油に成功した。同年4月10日には、生産型1号機がロールアウトした[1]。生産型は降着装置AMXと同様のものとし、縦通材を省き機体構造の見直しとチタニウム及び複合素材の使用で380kg以上の軽量化を果たし、これに加えてテスト用の機材や標準化システムが占める物を含めて700kg程の余裕が持たされた。空力設計に基づき、燃料タンクは前方に80cm移動、航法システムはアレーニアSIAとSelexコミュニケーションズの機材をアレーニア・アエルマッキのソフトウェアで制御するものに強化された。

2008年11月19日、ハネウェルとの間に520億ドル分のエンジン供給契約が締結された。2009年には公式試験が終了し、アレーニア・アエルマッキは「マスター」(Master) と命名した[2]。2009年6月、パリ航空ショーの後、イタリア空軍と初期6機、オプション9機の契約を締結し、航空軍備総局よりT-346の型式が与えられた[1]。2010年12月21日、最初の2機がロールアウト[3]、2011年3月31日に初飛行[4]、6月20日に型式認証された[5]。11月には受領が正式に決定している[6]

特徴編集

 
曲技飛行を披露するM-346
 
M-346FA

高等練習機と軽攻撃機を兼ねる機体として設計されており、アフターバーナー非搭載ながら練習機としては高い推力を備えている。双発エンジンによる安全性の確保、システム冗長性の獲得、兵装搭載量の増大を実現している。デジタルコントロールは四重化され、これによって実用機の特性を模することが可能とされている。コクピットには、ヘッドアップディスプレイとカラー液晶ディスプレイ3面の合わせて4面のディスプレイが設けられ、ヘッドマウントディスプレイ暗視ゴーグルの運用にも対応している[7][8]射出座席には、イギリス製のMk16を採用している[8]

高アングル・高G(+8から-3まで)の機動、遷音速までの速度域に対応している[9]。対空、対地の訓練内容を地上から随時変更可能とし、合成素材の多用や機体構造の標準化、TFE731エンジンをベースに開発されたF124エンジンの採用などによって訓練費用や維持費用の低減にも配慮している[7]

軽攻撃機型M-346FAグリフォ英語版レーダーデータリンクを装備し、近接航空支援 (CAS)・ヘリコプター等の低速目標迎撃(SMI:Slow Mover Interceptor)・対艦攻撃に用いられる。FLIR/レーザー照準器/ECM/偵察ポッド等の携行も可能である。7か所の搭載ステーションを持ち、兵装の最大搭載量は2,000kg[10]。練習機型との差異は、乗員1名で全ての機能を制御可能であることと、機材の即時適応性であり、実運用に際しては練習機型との混成でも支障は無いとされている[7]

派生型編集

M-346
基本型。
M-346FT
FTはファイター・トレイナーの略。LIFT機と戦闘訓練に使用可能。訓練を主とした機体。
M-346LCA
LCAは軽戦闘機の略。簡素な戦闘・攻撃機。
M-346LFFA
前はM-346FA(戦闘攻撃機)と呼ばれていた。多用途作戦型。

運用編集

採用国編集

  ポーランド
2006年、ポーランド空軍に提案を行ったが[11]、ポーランドは2011年に練習機導入計画自体を中止している[12]。その後2014年2月27日に8機を正式に発注した[13]
  シンガポール
2010年9月、シンガポール空軍に練習機として12機の導入が決定した[14][15]
  イスラエル
 
イスラエル空軍飛行学校に配備されたM-346 "ラビ"
2012年2月16日、イスラエル空軍TA-4更新計画に際し、T-50との受注争いに勝利して約30機の導入が決定した[16][17]。2016年3月24日に最初の9機が就役した。イスラエル空軍ではM-346に"ラビ" (Lavi、「若獅子」の意味だが、1980年代にイスラエルが試作した国産軽戦闘爆撃機の名でもある。また、ユダヤ教の導師を意味するRabbiとも似た発音である) のニックネームを付け、ハツェリム空軍基地の空軍飛行学校および第102飛行隊に配備して運用を行っている[18]
  アゼルバイジャン
2020年2月にM-346購入の予備契約を交わした。購入数は10-25機の見込み[19]

採用検討国編集

  アラブ首長国連邦
2009年、アラブ首長国連邦空軍ノックダウン生産を含む48機(軽攻撃機型20機を含む)の導入を決定したが[20]、その後の契約交渉が進まず2011年の段階では停止状態となっている[21][22][23]

不採用国編集

  アメリカ合衆国
アメリカ空軍T-38の後継となるT-X計画にT-100の名称で提案されていたが、ボーイング T-X(現T-7)が採用された。

事故編集

2011年11月18日、ドバイ航空ショーに出展の後、アラブ首長国連邦からサウジアラビア経由でイタリアへの帰国の途についた試作機がドバイ近郊で墜落、搭乗者は脱出に成功し死者・重傷者はなかった[24][25][26]

要目編集

出典:Alenia Aermacchi Brochures 2011 M-346[リンク切れ]P16、アレーニア・アエルマッキ[27]、レオナルド[28]からのデータ

  • 乗員:2名
  • 全長:11.49 m
  • 全幅:9.72 m
  • 全高:4.91 m
  • 翼面積:23.52 m2
  • 空虚重量[1]:4,625 kg
  • 運用時重量:7,400 kg
  • 最大離陸重量:10,200 kg
  • ペイロード:3,000 kg
  • エンジン:ハネウェル/ITEC F124-GA-200 2基
  • 最大出力:2,850 kg x 2 (合計推力: 約55.9 kN)
  • 機内燃料搭載量:2,000 kg(2,500 リットル
  • 増槽:1,515kg(630リットルタンク3本)
  • 最高制限速度:590 ノット (1,092 km/h)
  • 最高速度:572 ノット (1,059 km/h)
  • 失速速度:95 ノット (166.6 km/h)
  • 上昇率:22,000 フィート/分
  • 上昇限度:45,000 フィート
  • 航続距離:1,070 nm (1,981.6 km)
  • フェリーレンジ:増槽3本使用時、1,470 nm (2,722.4km)
  • 行動半径[1]:185 km(AIM-9L2発と、訓練用ポッド搭載時)
  • 離陸滑走路長:400 m
  • 着陸滑走路長:550 m(残燃料20%時)
  • ハードポイント:9ヶ所(翼端各1、翼下各3、胴体1)[7][8]

出典編集

  1. ^ a b c d e イタリア空軍
  2. ^ 但しこの名称は、アレーニア・アエルマッキのパンフレットや公式サイトでは2010年12月以降は使用されていない。
  3. ^ Alenia Aermacchi: roll-out of first two Italian Air Force T-346A trainers[リンク切れ]
  4. ^ Alenia Aermacchi Announces the First Flight of the Italian Air Force T-346A[リンク切れ]
  5. ^ The Alenia Aermacchi M-346 trainer aircraft receives its Type Certificate from the Italian Defence Ministry[リンク切れ]
  6. ^ Acceptance of the first T-346A for the Italian Air Force completed[リンク切れ]
  7. ^ a b c d Alenia Aermacchi Brochures 2012 M-346[リンク切れ]
  8. ^ a b c M-346 Master, Italyairforce-technology.com
  9. ^ アフターバーナーを持たないため水平飛行での音速突破は不可能だが、急降下による音速突破は可能。これによってイタリア製実用航空機(ただしエンジンはアメリカと中華民国(台湾)を中心とした国際共同開発)として初めて音速突破を達成した機体となった。
  10. ^ 青木, 謙知 (2019-03-31). 戦闘機年鑑2019-2020. イカロス出版. pp. 108-109 
  11. ^ Alenia Aermacchi (Finmeccanica): the new advanced trainer aircraft M-346 presented to the Polish Air Force[リンク切れ]
  12. ^ Polish Defence Ministry Cancels Training Aircraft Tender
  13. ^ ポーランド、M-346ジェット練習機8機を発注 FlyTeam ニュース
  14. ^ Alenia Aermacchi Alenia Aermacchi: finalised contracts with ST Aerospace worth about EUR 170 million for the logistic support of the fleet of 12 M-346s for the Republic of Singapore Air Force[リンク切れ]
  15. ^ New Generation Advanced Fighter Trainer for the RSAF[リンク切れ]シンガポール国防省
  16. ^ Alenia Aermacchi: Israel selects the Italian M-346 trainer aircraft[リンク切れ]
  17. ^ <EMeye>イスラエル次期ジェット練習機、イタリアが韓国に勝利[リンク切れ]モーニングスター
  18. ^ Master stroke” (2014年7月9日). 2016年3月24日閲覧。
  19. ^ “Azerbaijan Buys the M-346 as Caucasus Stand-off Continues”. AINonline. (2020年2月27日). https://www.ainonline.com/aviation-news/defense/2020-02-27/azerbaijan-buys-m-346-caucasus-stand-continues 
  20. ^ The United Arab Emirates Government selects Finmeccanica for 48 M-346 advanced lead-in fighter trainer aircraft[リンク切れ]
  21. ^ UAE Gives M346 a LIFTDefense Industry Daily
  22. ^ UAE stops talks with Alenia Aermacchi on M-346 contractFlightglobal(記事は、Flight Internationalからの提供)
  23. ^ なお、2011年の交渉でアレーニア・アエルマッキとの間に成立した契約は、MB-339の導入に関するものである。
  24. ^ Press Note[リンク切れ]
  25. ^ Italian air-show plane headed to Saudi Arabia crashes in Dubai Al Arabiya News
  26. ^ Aviation Safety Network[リンク切れ]
  27. ^ M-346”. アレーニア・アエルマッキ. 2014年5月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年6月閲覧。
  28. ^ M-346 MASTER ADVANCED JET TRAINER, AGGRESSOR, FIGHTER”. レオナルド S.p.A. 2020年10月6日閲覧。

参考文献編集

  • 航空ファン 2012年4月号、第61巻第4号・通巻712号 (24p-31p)、文林堂 NCID AN10026008

関連項目編集

外部リンク編集