みやこ型巡視船

海上保安庁の巡視船

みやこ型巡視船(みやこがたじゅんしせん、英語: Miyako-class patrol vessel)は、海上保安庁の巡視船の船級。分類上はPL(Patrol vessel Large)、公称船型は3,500トン型[2]

みやこ型巡視船
PL-201「みやこ」
PL-201「みやこ」
基本情報
艦種 巡視船 (3,500トン型PL)
運用者  海上保安庁
就役期間 2020年 - 現在
要目
総トン数 約3,500トン[1]
全長 約117 m[1]
最大幅 約14.8 m[1]
主機 ヤンマー8EY33W
ディーゼルエンジン×4基
推進器 スクリュープロペラ×2軸[1]
出力 24,000馬力
速力 25ノット以上[1]
兵装 70口径40mm単装機関砲×2基[1]
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来歴 編集

2012年9月の国有化以降、尖閣諸島周辺海域における中国船による領海侵入等の問題が深刻化していた。これに対し、海上保安庁ではつがる型(ヘリコプター1機搭載型PLH)2隻、くにがみ型(1,000トン型PL)10隻の計12隻の巡視船によって尖閣領海警備専従体制の構築を図っており、2016年3月には支援施設を含めて構築が完了した[3]

しかしこの間も、2013年には従来4つが乱立していた中華人民共和国の海上保安機関中国海警局として整理統合され、更に体制の強化が進められるなど情勢は急激に変化していた。2016年には、領海に侵入する中国漁船に伴走するかたちで中国公船も領海に侵入する状況も出現し、更に来航する公船も増加していた。専従体制が完成した時点で、1,000トン以上の巡視船の勢力において既に海上保安庁は中国海警局の半分程度となっており、しかも中国海警局は更に増強を進めていた[3][4]

この情勢を受けて2016年8月24日閣議決定された平成28年度第2次補正予算では、海上保安体制の強化のため過去最大となる674億円が盛り込まれた[3]。そしてこのとき、尖閣領海警備体制の強化と大規模事案の同時発生に対応できる体制の整備を目的として計画された巡視船の1隻が「みやこ」であった[5]

設計 編集

1997年に竣工して横浜海上保安部に配属されている「いず」とほぼ同大だが、同船が災害対応を重視した設計なのに対し、本船は領海警備を意識した汎用の巡視船と位置づけられる[1]。船型は排水量型を採用した。船橋区画を拡大し、ヘリテレ・船テレ装置を装備して指揮統制能力を強化するとともに、事案の長期化を想定して十分な清水・食料などを搭載できるスペースも確保している。また同時期に建造されたPLHと同様に居住区画は騒音コード(船員に対する防音措置)に配慮して、配置や制振材の活用などにより居住性の向上を図っている[5]

速力25ノット以上を確保しつつ経済性・低速連続航行適応能力も向上させるため、低負荷域の燃焼を改善したヤンマー8EY33Wディーゼルエンジンを4基搭載し[6][7][8][9]、単機出力6,000馬力、合計24,000馬力を確保している[10]。推進器は可変ピッチ・プロペラとなっている[5][10]

兵装としてボフォース70口径40mm単装機関砲(Mk.4)2基を搭載するほか、遠隔放水銃、停船命令等表示装置、遠隔監視採証装置などを装備する[5]。また格納庫はもたないものの、後部はヘリコプター甲板とされており、支援機能も備えている[11]

なお上記のようにPLとしては大型で消耗品などの搭載スペースが広く、長期行動が可能であることから、将来的に本型のうち1隻に海上保安大学校練習船を兼務させるか[注 1]、あるいは本型をベースとして現用の「こじま」の後継となる4代目「こじま」が建造されるともみられていた[1]。その後、令和2年度第3次補正予算では本型と類似した設計で5,500トン型まで大型化した「大型練習船」の建造が盛り込まれ[12]2023年7月4日に「いつくしま」として進水した[13]

同型船一覧 編集

計画年度 番号 船名 造船所 起工 進水 就役/配属替え 配属
平成28年度第2次補正[2] PL-201[2] みやこ[2] 三井E&S造船玉野工場[2] 2018年2月27日[2] 2019年3月13日[2] 2020年2月20日[2] 中城[14]宮古島[15](第十一管区)
平成30年
第2次補正[2]
PL-202[2] おおすみ 三井E&S造船玉野工場[2]
三菱重工マリタイムシステムズ
2019年3月5日 2021年11月4日 2023年4月21日 鹿児島(第十管区)
令和元年度補正[2] PL-203[2] やえやま JMU横浜事業所磯子工場 2020年3月12日 2022年11月30日[16] 2024年2月22日 石垣(第十一管区)
令和3年度補正[17] PL-204[2] あまみ 三菱重工マリタイムシステムズ 2024年3月14日 令和7年度予定
PL-
PL-
令和4年度補正[18] PL- 令和8年度予定
PL-

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 例えば「みうら」は、海上保安学校の練習船であると同時に、普段は巡視船として運用されている[1]。ただし下記の「大型練習船」の建造を契機に、巡視船の兼務体制ではなく「練習船」という船種を設けることも検討されていると報じられた[12]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i 海人社 2018, p. 49.
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 海人社 2020.
  3. ^ a b c 秋本 2018.
  4. ^ 海人社 2018.
  5. ^ a b c d 海上保安庁装備技術部 2018.
  6. ^ 交換部品(8EY33W型)1式ほか3点買入仕様書”. 第11管区海上保安本部. 2023年7月29日閲覧。
  7. ^ フィルタ360個ほか168点買入(単価契約)仕様書”. 第11管区海上保安本部. 2023年7月29日閲覧。
  8. ^ 海人社 2020b.
  9. ^ 入札説明書 特機契約第19096号 4,400kwディーゼル機関4基ほか6点製造”. 海上保安庁. 2020年10月31日閲覧。
  10. ^ a b 平成29年政府調達落札データ”. 首相官邸. 2020年6月15日閲覧。
  11. ^ 海人社 2019.
  12. ^ a b 海上保安庁が3次補正で「大型練習船」を建造」『世界の艦船』、2020年12月16日。
  13. ^ 宇田川 2023.
  14. ^ 3500トン型巡視船「みやこ」竣工」『世界の艦船』、2020年3月16日。
  15. ^ 巡視船「みやこ」の配属替について』(プレスリリース)第十一管区海上保安本部、2022年2月25日https://www.kaiho.mlit.go.jp/11kanku/osirase/2021D/%E3%80%90%E6%B5%B7%E4%BF%9D%E5%BA%83%E5%A0%B1%E6%96%87%E3%80%91220225_%E5%B7%A1%E8%A6%96%E8%88%B9%E3%81%BF%E3%82%84%E3%81%93%E9%85%8D%E5%B1%9E%E6%9B%BF.pdf 
  16. ^ 尖閣警備の期待の星 海上保安庁の最新巡視船「やえやま」進水 姉妹船も続々計画中”. 乗り物ニュース. 2022年12月2日閲覧。
  17. ^ 令和3年度海上保安庁関係補正予算の概要海上保安庁
  18. ^ 令和4年度海上保安庁関係補正予算の概要海上保安庁

参考文献 編集

  • 宇田川大造「PL (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第1005号、海人社、138-141頁、2023年11月。CRID 1520016217210916480 
  • 秋本茂雄「2008-2018年 進化の10年を振り返る (特集 海上保安庁 : 創設70周年)」『世界の艦船』第881号、海人社、130-135頁、2018年7月。 NAID 40021585462 
  • 海上保安庁装備技術部「これから登場する新型船 (特集 海上保安庁 : 創設70周年)」『世界の艦船』第881号、海人社、152-155頁、2018年7月。 NAID 40021585539 
  • 海人社 編「警備救難業務用船 (海上保安庁船艇の全容)」『世界の艦船』第881号、海人社、39-90頁、2018年7月。 NAID 40021585370 
  • 海人社 編「海上保安庁の大型船4隻 相次いで進水!」『世界の艦船』第901号、海人社、61-65頁、2019年6月。 NAID 40021896592 
  • 海人社 編「海上自衛隊・海上保安庁 艦船の動向 : 令和元年度を顧みて」『世界の艦船』第927号、海人社、141-147頁、2020年7月。 NAID 40022262326 
  • 海人社 編「海上保安庁船艇の全容」『世界の艦船』第933号、海人社、37-101頁、2020年10月(2020b)。 NAID 40022358584