クラッチスタートシステム
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クラッチスタートシステムとは、自動車のエンジンを始動する際、クラッチペダルを床まで踏み込まないとキースイッチを回してもスターターモーターが動作せず、エンジンが始動しないフールプルーフシステム。マニュアルトランスミッション車 (MT車) に装備される。 オートバイの場合には、クラッチレバーを握らないとスタータースイッチを押しても始動しない。
背景編集
マニュアルトランスミッション車向けではない不適切なリモートエンジンスターターを取り付け、傾斜地などでギアを入れたまま駐車している状態でこれを使用すると、パーキングブレーキを正しく掛けていても車が動いてしまう。これによる交通事故が多発し、日本自動車工業会では1999年(平成11年)7月から積載量2トン以上のトラックや特殊自動車などの例外を除いた新車MT車への搭載を決定した[1]。クラッチスタートシステム自体はそれ以前から存在し、オートバイでは1990年代以前から普通に装備されていたが、自工会の決定以前に発売された四輪自動車には装備されていないことが多い。
このシステムはスターターモーターの電気回路をクラッチペダルに連動するスイッチで開放するだけのものであり、従来通り押しがけや引きがけ[2]は可能[3]である。
仕様編集
ほとんどの四輪車とスズキなど一部企業の二輪車では、シフトレバーがニュートラル状態でもクラッチペダルを床まで踏み込むかクラッチレバーを完全に握りこむかしないと スターターが動作しないが、ホンダなどの二輪車ではニュートラル位置ではクラッチの握り込みは必要がない仕様になっている。また、エンジン始動ボタン仕様のMT車では、AT車と同様にブレーキが電源の切替とエンジン始動を識別するトリガーとなっていて、この電源側トリガーであるブレーキペダルとクラッチスタートシステム側のトリガーであるクラッチペダルの両方を踏まないと始動ボタンを押してもスターターが動作しない仕様の車と、BMWやホンダなど、クラッチの踏み込みが両方のトリガーとなっていて、クラッチペダルの踏み込みのみで始動ボタンを押してエンジンが始動する車がある。
何れの仕様でも、ギアが選択された状態であってもクラッチさえ切ればスターターは動作するのが普通。
ただし、クラッチスタートシステム以前は始動前にシフトレバーを左右に動かすことでシフトのニュートラルであることを確認する習慣があった。クラッチスタートシステムの普及によってこれを怠る習慣がドライバーに植え付けられた場合、ギヤが選択された状態でクラッチスタートシステムによるエンジン始動後、クラッチペダルをリリースした場合にエンストや急発進にいたるケースもある。
操作とキャンセルについて編集
この装置がついている車では、従来自動車教習所で教えられていたような、踏切内などでエンジンの始動ができなくなった状態からの脱出法の一つ、「スターターモーターで強引に車を動かす」(ギアを入れてクラッチをつないだままエンジンを始動する操作を行うことで、車を移動できる)という手段が使えない。このため、クラッチスタートシステム装備車の取扱説明書には「車を置いたままなるべく早く線路内から退避し、踏切の非常ボタンを押す(あるいは発炎筒を焚く、赤色灯を振るなど)」とあり、二次的な事故の防止を最優先している。
従来より、教習所では踏切内でエンストの原因となる変速操作自体を行わないよう指導されており、手前で一時停止し、ローギアのみで踏切を通過することを推奨している。踏切内変速は技能試験・技能検定での減点対象である。また適切に整備された自動車がそれ以外の理由で踏切内に立往生することは極めて稀である。長大なトレーラーや車高を下げすぎた乗用車がカマボコ型の踏切内で身動きが取れなくなる場合がある程度である。
トヨタ・ランドクルーザーなど、一部の本格SUVでは、オフロード走行時に困難な状態[4]にも対応できるように、ボタン操作によって、一定時間内に一度だけなど一定の条件でクラッチスタートシステムを解除するクラッチスタートキャンセルスイッチが装備されている。
またこのクラッチスタートシステムは、クラッチペダルが踏み込まれていることを感知するスイッチを誤認識させることで解除することができる。ただし、クランクシャフトを支えるスラストベアリングのごくわずかな磨耗を防止すること[5]やリモートエンジンスターターが利用できるということのほかに利点はなく、安全性から決して勧められた行為ではない。
本システム装備車の場合、クラッチペダルのスイッチ回線に手動式の隠しスイッチを割り込ませることで、たとえエンジンキーがあっても、その隠しスイッチをオンにしなければエンジンが始動できなくなるという簡易的な盗難防止装置としても流用できる。
脚注編集
- ^ ニュースリリース
- ^ 他車のけん引でエンジンを始動させる。
- ^ 実際には、クラッチスタートシステムを採用しているような世代の車両は電子式ECUを採用しているため、バッテリーにECUや燃料ポンプを駆動するための最低限の電力すら残っていない場合での始動は不可能である。
- ^ モーグル地形や急坂でエンジンストールした場合など、ブレーキを踏んだままクラッチを踏もうとすると足が足りなくなることや、スターターで強引に車を動かす必要に迫られた状況など。
- ^ クランクシャフトとフライホイールやクラッチ入力軸が一体となっているエンジンにおいて、エンジンオイルが循環しないうちにクラッチを切ると、クラッチを押えているクラッチスプリングの反力によって軸方向に力が加わる。このままスターターによってクランクシャフトを回転させると、クランクシャフトの軸方向の位置決めをしているスラストベアリング(スラストメタル)が無理やり回されるために磨耗する。といった説。