コールラビ
コールラビ(毬茎甘藍[3]、独: Kohlrabi、学名: Brassica oleracea var. gongylodes)はアブラナ科の越年草。原産地は地中海北部。球状に肥大した茎部を食用とする。語源はドイツ語で、キャベツを指すkohlとカブを指すrabiより[4]。キュウケイカンラン(球茎甘藍)[1]やオランダナ[1]、Kohlrabiの直訳であるカブカンラン(蕪甘藍)、カブタマナ(蕪玉菜)、カブラハボタン[1]といった別名がある(甘藍、玉菜=キャベツ)。
コールラビ | ||||||||||||||||||||||||
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![]() コールラビ
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分類 | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Brassica oleracea L. var. gonygylodes L. (1753)[1] | ||||||||||||||||||||||||
シノニム | ||||||||||||||||||||||||
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和名 | ||||||||||||||||||||||||
カブカンラン、カブタマナ | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
German turnip or turnip cabbage (独語:Kohlrabi) |
歴史編集
原産地は地中海北部沿岸とされる[5]。祖先植物はキャベツと同様に、ケールに似た不結球性の植物で、マローステムケールから改良されたものと考えられている[5]。ブライニーによって、古代ギリシアのコリントのカブとして記述された野菜がコールラビではないかと考えられているが、その詳細についてはよくわかっていない[5]。中世の1558年にギリシアからイタリアとドイツに導入され、1683年にイギリス、1806年ごろにアメリカにあったという最初の記録がある[5]。ドイツやインドでは広く普及したが、イギリスでは家畜の飼料用としての栽培がほとんどであった[5]。1850年ごろになると家庭菜園でも栽培されるようになったが、霜や乾燥に強いことから茎葉を食べるようになったという[5]。
中国では古くから栽培が行われ、華北から華南まで栽培されるようになったが、特に中国北方の寒冷地で重要な野菜の一つとなった[5]。日本へは明治初期に導入され、カブカンラン、キュウケイカンラン、カブラタマナなどの名で呼ばれた[5]。しかし当時あまり普及することはなく、近年になって中国野菜として再導入されて、一般に知られるようになった[5]。
形態・生態編集
キャベツに近縁の野菜で、草丈はキャベツよりもやや低い[5]。地際の茎が、カブのように径5 - 10センチメートル (cm) 程度の偏球形に肥大する[5]。これを球茎とよび、表面は蝋物質が多く、緑色種と赤色種がある[5]。葉は球茎の上部や側部から直接まばらに生え、葉身は小型の卵形で薄く、葉柄が長い[6]。球茎の下部に直根と多数のひげ根が生えている[6]。
花期はふつう4月で、乳黄色の花を咲かせる[6]。莢は5 - 8 cmで短く、太いくちばしがある[6]。種子は黒褐色の球形で、キャベツに似ている[6]。
抽苔(トウ立ち)は、ハクサイのように播種から成熟のどの段階でも、低温に感応して花芽を分化させる種子春化型植物と言われている[6]。気温14.5度以上では抽苔は起こらず、8.5 - 11.8度が最も感応しやすい低温で、5度以下では花芽分化は起こるものの、花芽分化した後の抽苔が遅れる[6]。
品種編集
原種は、キャベツやケール、カリフラワーなどと同一とされるヤセイカンラン(B. oleracea)で、ヨーッパ西部から南部の海岸地帯に自生する[7]。茎の肥大性に着目した人為的な選抜により作られた。品種は、熟度から早生種から晩生種、皮の色から緑色種と赤色種に分けられる[8]。
早生種は播種から60 - 90日で収穫でき、珠と葉片が小さく、葉数も少ないのが特徴で、主に春夏期に栽培される[8]。晩生種は播種から収穫まで120日以上かかり、珠と葉が大きく葉数が多いのが特徴で、秋季栽培が多い[8]。中生種は、早生種と晩生種の中間的特徴をもつ[8]。
緑色種はグリーンコールラビとよばれ、代表種にホワイトビエンナがある[7]。日本への輸入先は、主に欧米や中国産が多い[7]。赤色種はパープルコールラビともよばれる[7]。
品種名としては下記に列挙した種などがあり、品種によっては家畜飼料用に栽培される。
- ホワイトビエンナ(White Vienna)
- パープルビエンナ(Purple Vienna)
- グランドデューク(Grand Duke) - 一代雑種 (F1) の早生で、球茎は扁円で淡緑色。播種後45 - 90日で、直径5 cmぐらいのものを収穫する。肉質はやわらかい。[8]
- ギガント(Gigante、"Superschmelz")
- ウインナー(Winner) - アーリーホワイトビエンナから改良された一代雑種。早生で、球茎は扁円で淡緑色の大球。皮が薄く、肉質はやわらかい。[8]
- プリマ(Prima) - 一代雑種の極早生で、球茎は扁円で淡緑色。播種後50日ほどで収穫でき、促成栽培に向く。[8]
- パープルバード(Purple Bird) - 一代雑種の早生で、球茎は正円形で紫紅色。繊維が少なくスが入るのは遅い。[8]
- サンバード(Sun Bird) - 一代雑種の早生で、球茎は扁円で淡緑色、繊維が少ない。トウ立ちが遅く、春蒔きと秋蒔きのどちらでも栽培できる。[8]
- デリカテッス(Delikatess) - ドイツ種の早生で、球茎は白色か紫色[8]。
- アーリーパープルビエンナ(Early Purple Vienna) - アメリカ種の早生で、葉と球茎ともに紫色で肉は白色。耐寒性に優れる。[8]
- アーリーホワイトビエンナ(Early White Vienna) - アメリカ種の早生で、球茎は帯緑白色、肉は乳白色でやわらかい。日本で最も多く栽培されており、播種後2 - 3か月で収穫できる。[8]
- ホワイトゴリアート(White Goliath) - ドイツ種の晩生で、球茎は9 cm大の淡緑色または乳白色、肉は白色で非常にやわらかい。冬期間長く貯蔵できる。[8]
- ウィーネルグラス(Wiener Glas) - ドイツ種の早生で、球茎は白色または紫色。[8]
栽培編集
種まきから収穫まで約2か月かかり、栽培は容易で、家庭菜園やコンテナでも育てやすい[6][9]。作型は、ふつう春まきで初夏に収穫する3 - 7月を栽培期間とする方法と、秋まきで冬に収穫する8 - 2月を栽培期間とする方法がある[9]。キャベツと同様に冷涼な気候を好み、栽培適温は15 - 25度とされる[9]。高温や乾燥を嫌う作物であるが、耐寒性や耐暑性はキャベツよりもはるかに強い[6]。土壌は有機質に富み、排水が良く、適度に保水力がある土地が栽培に適する[6]。ただし連作障害があり、アブラナ科作物を1 - 2年作っていない土地で栽培するようにする[9]。栽培方法は主に2通りあって、苗を作って畑に定植する移植栽培と、畑に直接播種して育てる直接栽培があり、直接栽培のほうが一般に行われている[6]。ビニルハウスのよる施設栽培も可能であるが、低温によるトウ立ちの問題が起こるため、保温管理が必要になる[10]。
移植栽培では、苗床に種を条播きして、本葉が2枚になったときに、約12 cm間隔で仮植えする[6]。低温期の育苗はトウ立ちの問題があるため、温度が14度以下にならないように保温する[6]。また高温期の育苗は風通しの良いところで行い、寒冷紗などで遮光する[6]。定植は本葉が4 - 5枚ほどになったときに行い、畑に畝を作り、条間50 cm程度、株間15 - 20 cm程度になるように植える[6]。
直播栽培では、畑に畝を作ってから種を点播きで1か所4 - 5粒ほどまいて、2 - 3回間引きして、最後に株間15 - 20 cmごと1か所1本になるように育てる[6][9]。生長期は肥料を与えて、軽く耕しながら土寄せし、水切れを起こさないように水やりをする[9]。
株の根元の球が直径5 - 7 cmごろのまだやわらかい時期が収穫適期である[6][9]。外皮が灰緑色になるまで収穫時期を逸すると肉質がかたくなり、スガ入り割れて味も低下するため、遅れないように球茎の根元を切って収穫を行う[6][9]。冷涼な条件下で育て、水分や肥料を充分に与えて成長肥大を促すと、良質な収穫物が得やすい[6]。
病虫害に、根こぶ病、萎黄病、ウイルス病など、キャベツ同様の病気にかかる問題がある[10]。連作を行うと、センチュウ土壌汚染に起因する土壌病害が発生する[10]。
食用編集
100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 113 kJ (27 kcal) |
6.2 g | |
糖類 | 2.6 g |
食物繊維 | 3.6 g |
0.1 g | |
1.7 g | |
ビタミン | |
ビタミンC |
(75%) 62 mg |
ミネラル | |
銅 |
(5%) 0.1 mg |
他の成分 | |
水分 | 91 g |
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%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
食用にするのはカブのように独特の形状に肥大した茎で、薄緑色と紅紫色の種類がある[9][7]。野菜としての主な旬は、5 - 6月または11 - 12月とされ、肥大茎にひびや傷がなく、張りツヤがあるものが良品とされる[9]。カブとキャベツを合わせたようなクセのない淡泊な風味で、歯ごたえがあって生でも食べられるが、加熱するとほのかにカブのような甘味が増す[9][12][7]。一般に直径5 - 7センチメートル (cm) 程度が収穫の適期で、大きくなりすぎるものはかたくなってしまうが[7]、"Gigante"という品種では10 cm以上の大きさでもよい食感を保つ。
肥大した茎の皮はかたいため、厚めに剥いて白くやわらかい中身を食べる[9][7]。生を薄切りにして、サラダとしてマヨネーズやドレッシングをかけて食べたり、酢漬けや塩漬けなどにする[5][9][7]。加熱するとやわらかくなり、肉やベーコンと合わせてシチューやコンソメなどの煮込み料理や炒め物に使われる[5][9][7]。日本料理では、カブと同様に使われる[7]。
栄養素編集
栄養価はキャベツに似るが、カブやダイコンよりもビタミンCが多く[5]、茹でても低下しにくいのが特徴である[7]。可食部100グラム (g) あたりの熱量は21キロカロリー (kcal) ほどで、ビタミンB1・B2、食物繊維、カリウムなどを豊富に含む[9]。ビタミンCは、カブの3 - 4倍も含有する[9]。ただし、キャベツにカルシウムが多いのに対しコールラビにはカリウムが多い。またビタミンKやカロテンは少ない。[13]
脚注編集
- ^ a b c d 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Brassica oleracea L. var. gonygylodes L. コールラビ 標準”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年6月21日閲覧。
- ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Brassica caulorapa Pasq. コールラビ シノニム”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2022年6月21日閲覧。
- ^ 富益良一; 田中万逸「甘藍」『実用園芸全書:蔬菜・果樹・花卉・盆栽』実業之日本社、1911年、197頁。
- ^ バーバラ・サンティッチ、ジェフ・ブライアント 著、山本紀夫監 訳『世界の食用植物文化図鑑』(第1刷)柊冬舎、2010年1月20日。ISBN 978-4903530352。
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 農文協編 2004, p. 105.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 農文協編 2004, p. 106.
- ^ a b c d e f g h i j k l 講談社編 2013, p. 219.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 農文協編 2004, p. 107.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o p 主婦の友社編 2011, p. 238.
- ^ a b c 農文協編 2004, p. 108.
- ^ 講談社編 2013, p. 218.
- ^ 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 60.
- ^ “コールラビ 期待される効能 効果”. 栄養健康サイトGALOP. 2018年2月10日閲覧。
参考文献編集
- 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、60頁。ISBN 978-4-415-30997-2。
- 講談社編『からだにやさしい旬の食材 野菜の本』講談社、2013年5月13日、219頁。ISBN 978-4-06-218342-0。
- 主婦の友社編『野菜まるごと大図鑑』主婦の友社、2011年2月20日、238頁。ISBN 978-4-07-273608-1。
- 農文協編『野菜園芸大百科 第2版 20:特産野菜70種』農山漁村文化協会、2004年3月31日、105 - 108頁。ISBN 4-540-04123-1。