ジュール
ジュール(英: joule、記号:J)は、エネルギー、仕事、熱量、電力量の単位である。ジェームズ・プレスコット・ジュールに因む。
ジュール joule | |
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記号 | J |
系 | 国際単位系 (SI) |
種類 | 組立単位 |
量 | エネルギー・仕事・熱量・電力量 |
組立 | kg·m2· s−2, N· m |
定義 | 1ニュートンの力がその力の方向に物体を1メートル動かすときの仕事[1] |
語源 | ジェームズ・プレスコット・ジュール |
1 ジュールは標準重力の下で 102.0 グラム(ほぼキウイフルーツまたはマンガン乾電池の質量)の物体を 1 メートル持ち上げる時の仕事に相当する(ニュートン (単位)#リンゴによる力の表現を参照)。
定義
編集国際単位系 (SI) および日本の計量法におけるジュール J の定義は以下の通り。
ジュールはSI組立単位であり、 N⋅m 又はSI基本単位を用いて kg⋅m2⋅s−2 と表記される[4]。
ジュールと形式的には同じ単位を力のモーメント[5](これはエネルギーではない)にも用いることができるが、仕事やエネルギーの単位として「ニュートンメートル」を使用すると混乱を招くおそれがあるため注意が必要である[6]。
1 ジュールは、1 ボルト (V) の電圧の中で 1 クーロン (C) の電荷を動かすのに必要な仕事とも定義できる[7]。
- J = C⋅V
1 秒間に 1 ジュールの仕事が行われるときの仕事率が 1 ワット (W) であり、ワット W はジュール J と秒 s から定義される。
- W = J/s
日本の計量法は、仕事・熱量・電力量の単位として、ジュールとともにワット秒(ジュールと等しい)、ワット時 (= 3600 J) の使用を認めている[8]。
電力量の単位として、1 キロワット (= 1000 J/s) の電力を 1 時間 (= 3600 s) 消費したときの電力量である 1 キロワット時 (= 1 kJ/s × 3600 s = 3.6 MJ) がよく用いられる。
他の単位への換算
編集1 ジュールは次のように換算される。
- 1 N·m(ニュートン・メートル)
- 1 C·V(クーロン・ボルト)
- 1 W·s(ワット秒)
- 2.777777...×10−7 kW⋅h(キロワット時)
- 約 0.2390 cal(カロリー)
- 約 0.000948 Btu(英国熱量単位)
- 107 erg(エルグ)
- 約 0.101972 kgf·m(重量キログラムメートル)
- 約 0.738 ft·lbf(フィート重量ポンド)
- 約 23.7 ft·pdl(フィート・パウンダル)
- 1 J/e = 約 6.241509074×1018 eV(電子ボルト)
- 1 J/c2 = 約 1.11265006×10−17 kg(キログラム) – エネルギーの質量換算。特殊相対性理論参照。
ここで g0 = 9.80665 m/s2 は標準重力加速度、e = 1.602176634×10−19 Cは電気素量であり、c = 299792458 m/s は真空中の光速である。またカロリーは 1 cal = 4.184 J とする計量単位令の定義を用いた[9][注釈 1]。
倍量・分量単位
編集
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キロジュール
編集キロジュール(記号:kJ)は、ジュールの 103 = 1000 倍である。
- 1 kJ の仕事は、仕事率 1 kWの装置が 1 秒間にする仕事である。
- 1 kJ の熱量で、0 °Cの水(固体)を 3 g 溶かすことができる。
- 1 kJ の熱量で、0 °C、5 g の水(液体)の温度を 50 °C 上げることができる[注釈 2]。
- 地球上で 100 kg の物体を 1 m(または 1 kg の物体を 100 m)鉛直方向に持ち上げたときに生じる仕事は 100 kgw·m、約 1 kJ である。
- 1 kJ は、10/36 W·h(約 0.28 W·h)に等しい。
メガジュール
編集メガジュール(記号:MJ)は、ジュールの 106 = 1000000 倍である。
- 1 MJ の仕事は、仕事率 1 kW で動作する装置が 1000 s(16 分 40 秒間)にする仕事である。
- 1 MJ の熱量で、0 °C の氷を 3 kg 溶かすことができる。
- 1 MJ は、10/36 kW·h(約 0.28 kW·h)に等しい。
ペタジュール
編集ペタジュール(記号:PJ)は、ジュールの1015 = 一千兆倍である。エネルギー統計でよく使われる単位で、原油25,800kLの熱量に相当する[10]。
歴史
編集CGS単位系におけるエネルギーの単位として、1882年にエルグ(erg)が導入された。同年8月、イギリス科学振興協会の会長に就任したカール・ウィルヘルム・シーメンスは、その就任演説にて、熱量の単位として「ジュール」の導入を初めて提唱した。シーメンスが提唱したジュールは、「1オームの電気抵抗に1アンペアの電流を1秒間流した時に発生する熱量」というもので、107エルグに等しいとされた。ジュールという単位名称もシーメンスがこのとき提唱したものだが、名祖のジェームズ・プレスコット・ジュールは、当時引退はしていたが存命だった。
このような熱量の単位がもし許容されるなら、それは熱力学の発展に貢献した彼の名を取ってジュールと呼ぶべきだろうと思う[注釈 3]。
1889年8月31日の第2回国際電気会議にて、電力の単位ワット(watt)、インダクタンスの単位クワドラント(quadrant)(後にヘンリー(henry)に改称)とともにジュールが正式に採用された[11]。名祖のジュールは同年10月11日に亡くなった。1893年の第4回国際電気会議において、従来と現示方法が異なる「国際アンペア」と「国際オーム」が定義され、ジュールも、これらから組み立てられる「国際ジュール」となった[12]。
1935年、国際電気標準会議(国際電気会議の後継)においてジョヴァンニ・ジョルジが提唱したジョルジ単位系が採用され、ジュールは磁気定数に基づいて再定義された。ジョルジ単位系は1946年に国際度量衡委員会で承認され、現行の国際単位系(SI)の元となるMKSA単位系となったが、この際に国際度量衡委員会はジュールを「1メートルの距離で1単位の力[注釈 4]が行う仕事の単位」と定義した[13]。1948年の第9回国際度量衡総会でこの定義が採択された。またこの際に、熱量の単位としてもジュールを使用するものとし、それまで熱量の単位とされていたカロリーが正式に廃止された[14]。
脚注
編集注釈
編集- ^ カロリーは非 SI 単位。
- ^ 温度上昇によって水の熱容量が変化しない場合。
- ^ "The unit of heat has hitherto been taken variously as the heat required to raise a pound of water at the freezing-point through 1° Fahrenheit or Centigrade, or, again, the heat necessary to raise a kilogramme of water 1° Centigrade. The inconvenience of a unit so entirely arbitrary is sufficiently apparent to justify the introduction of one based on the electro-magnetic system, viz. the heat generated in one second by the current of an Ampère flowing through the resistance of an Ohm. In absolute measure its value is 107 C.G.S. units, and, assuming Joule's equivalent as 42,000,000, it is the heat necessary to raise 0.238 grammes of water 1° Centigrade, or, approximately, the 1⁄1000th part of the arbitrary unit of a pound of water raised 1° Fahrenheit and the 1⁄4000th of the kilogramme of water raised 1° Centigrade. Such a heat unit, if found acceptable, might with great propriety, I think, be called the Joule, after the man who has done so much to develop the dynamical theory of heat."Carl Wilhelm Siemens, Report of the Fifty-Second Meeting of the British Association for the Advancement of Science. S. 6 f.
- ^ 「ニュートン」のことだが、当時はまだ固有の名称がなかった。
出典
編集- ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号) 、別表第一 二十六:仕事
- ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号) 別表第1 項番26 「仕事」の欄
- ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p. 56 CIPM1946年 ジュールは,1 MKS 単位の力[ニュートン]の作用点がその力の方向に 1 メートルに等しい距離だけ移動するときになされる仕事である
- ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p.29 表3
- ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号) 別表第1 項番21、「力のモーメント」の欄、計量単位:ニュートンメートル、定義:ある定点から一メートル隔たった点にその定点に向かって直角方向に一ニュートンの力を加えたときのその定点のまわりの力のモーメント
- ^ 国際文書 国際単位系 (SI) 第 8 版日本語版 (2006) p. 30–31。ジュールは,形式的にニュートンメートル又はキログラムメートル 2 乗毎秒毎秒と表せる.しかし (中略) 実際には,ある量に対して,固有の単位名をつかうか,単位名の組み合わせを使うかの選択は,同じ次元を持つ異なる量を区別しやすいように,どちらかを優先することとなる 。
- ^ 『数学と理科の法則・定理集』48頁
- ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号) 、別表第一 二十六:仕事、三十:熱量、四十八:電力量。(計量単位の定義)第二条 法第三条に規定する計量単位の定義は、別表第一のとおりとする
- ^ 計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号) 、別表第六(第五条関係)十三。 カロリー : ジュール又はワット秒の四・一八四倍 。
- ^ 「エネルギーの安定供給の確保」『原子力総合パンフレット』日本原子力文化財団、2021年 。
- ^ Pat Naughtin: A chronological history of the modern metric system, metricationmatters.com, 2009.
- ^ Proceedings of the International Electrical Congress. New York: American Institute of Electrical Engineers. (1894)
- ^ CIPM, 1946, Resolution 2, Definitions of electric units. bipm.org.
- ^ 9th CGPM, Resolution 3: Triple point of water; thermodynamic scale with a single fixed point; unit of quantity of heat (joule)., bipm.org.
参考文献
編集- 独立行政法人産業技術総合研究所 計量標準総合センター『国際文書 国際単位系 (SI)』(PDF)(第 8 版日本語版)、2006年 。
- “計量単位令(平成四年十一月十八日政令第三百五十七号)”. e-Gov. 2020年1月10日閲覧。
関連項目
編集ジュール (J = kg·m2/s2) |
キロワット時 (kW·h) |
電子ボルト (eV) |
重量キログラムメートル (kgf·m) |
国際蒸気表カロリー (calIT) | |
---|---|---|---|---|---|
1 J | = 1 | ≈ 2.778×10−7 | ≈ 6.242×1018 | ≈ 1.020×10−1 | ≈ 2.388×10−1 |
1 kW·h | = 3.6×106 | = 1 | ≈ 2.247×1025 | ≈ 3.671×105 | ≈ 8.598×105 |
1 eV | = 1.602176634×10−19 | ≈ 4.450×10−26 | = 1 | ≈ 1.634×10−20 | ≈ 3.827×10−20 |
1 kgf·m | = 9.80665 | ≈ 2.724×10−6 | ≈ 6.121×1019 | = 1 | ≈ 2.342 |
1 calIT | = 4.1868 | ≈ 1.163×10−6 | ≈ 2.613×1019 | ≈ 4.269×10−1 | = 1 |