ナガコガネグモ(長黄金蜘蛛、学名: Argiope bruennichi)は、コガネグモ科クモ

ナガコガネグモ
Argiope bruennichi
Argiope bruennichi メス
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
亜門 : 鋏角亜門 Chelicerata
: クモ綱 Arachnida
: クモ目 Araneae
亜目 : クモ亜目 Opisthothelae
下目 : クモ下目 Araneomorphae
上科 : コガネグモ上科 Araneoidea
: コガネグモ科 Araneidae
亜科 : Argiopinae
: コガネグモ属 Argiope
: ナガコガネグモ A. bruennichi
学名
Argiope bruennichi
(Scopoli1772)
シノニム

Aranea brünnichii Scopoli1772
Miranda transalpina C. L. Koch1835
Argiope brünnichii africana Strand1906
Argiope bruennichi orientalis Strand1907
Miranda zabonica Chamberlin1924

和名
ナガコガネグモ(長黄金蜘蛛)
英名
Wasp spider
orb-weaving spider
亜種
  • A. b. bruennichi
  • A. b. nigrofasciata

和名は、コガネグモに比べて体が細長いことから。

特徴 編集

雌成虫の体長は20-25mm。胸部背面は黄色みを帯び、白い毛が密生する。腹部は楕円形で、前は平たく、後ろは少しとがる。背面には黄色っぽく、それに細い褐色の横縞がまばらに多数はいる。所々の線の間が白くなることもある。歩脚は灰褐色で、とげがまばらにある。

雄成虫は体長6-12mm、全体に雌成虫と形が似ているが、斑紋がはっきりしない[1]

分布 編集

北海道から南西諸島(沖縄島まで)に広く分布する。世界的には旧北区に広く分布し[2]、ヨーロッパでも普通にみられる。

生活史 編集

年一化性。成虫は8月以降にみられ、地域によっては11月までみられる[3]

卵は卵嚢内で秋のうちに孵化し、そのまま越冬して、翌春に一回目の脱皮をした後に分散する[4]

習性 編集

人家周辺から山麓までに生息し、明るい草原に多く、水田にも頻出する。あまり高くないところに中型の垂直円網を作る。クモは常に網の中央に頭を下に陣取る。隠れ帯をつけることが多い。他のコガネグモ類は足を伸ばす方向に沿ってX字状につけることが多いが、本種ではその形につけることは少ない。幼生ではジグザグに糸を張った馬蹄形が多く、亜成体では縦長の菱形となり、成体では縦に伸びたジグザグのリボン状が普通である[5]

刺激を受けると、網を強く揺さぶる行動をとる[3]

産卵は大きな卵嚢を形成する。雌は草の間に不規則網状の足場を作り、直径2-3cmにもなる西洋なし型、坪状の卵嚢をつける。上面はくぼんで壺の口を形成するが、その内側には丈夫な幕があり、内部は閉ざされている。壺内部には、クッションのような綿状の糸に包まれて、900個ほどの卵がまとめられている。

卵嚢について 編集

コガネグモなど、同属の他の種では、より扁平な卵嚢を形成する例が多い。それらでは不規則な多角形のシート二枚の間に卵が納められる。産卵の際は、まず片面の膜を糸で作り、その上に産卵して、それを覆うもう一枚の膜を作るようにする。その点、この種の卵嚢は一見では異質である。

しかし、その産卵の過程をみると、雌グモはまず、壺の蓋に当たる幕を糸で形成し、その下面に腹部を押しつけ、産卵を行い、このようにして糸の幕にぶら下がったようになった卵塊に、下から糸を巻き付けることでクッションを作り、最後にそれを壺の壁に当たる膜で覆う。つまり、下側の幕が壺状に大きくふくらんではいるが、やはり二枚の幕に挟まれた形をなし、基本的には同じ構造といえる[6]

ファーブルの観察について 編集

昆虫記』で知られるファーブルは、その中でクモについてもいくつかの記録を残しているが、その中に本種に関するものがある。しかし、その内容に問題が多いことが以前から知られている。

特に目立つのが卵嚢に関するもので、彼はその作成過程を記録しているのだが、これが実際のものと大きく異なる。彼は雌がまず袋を作り、次にその袋の中に卵を流し込み、最後にその上に蓋をするという風に書いており、これは上記のような実際の作成過程のほぼ逆である。

これについてはフランスのボネーが1925年にすでに指摘しており、日本では千国が上記の観察記録の中で問題にしている。ボネーはさらに卵嚢作成時間、産卵後の行動にも触れた上で、ファーブルは不十分な観察に想像を加えたために間違ったと記している[7]

利害 編集

人里に見られる普通種であり、大柄で目立つので広く知られてはいるが、明確な利害はない。水田によく出現するので、水田の農業害虫に対する天敵としてはそれなりに活躍する。高知県では「稲牛若」の名で親しまれている[8]。それ以外に大きなものは特にない。コガネグモクモ合戦に使われるが、ナガコガネグモは攻撃的でなく、使ってもおもしろくないとのこと。斎藤慎一郎のアンケート調査では、東北地方に少なくとも7例のナガコガネグモ相撲(合戦、昆虫相撲)が確認されている[9]

類似種 編集

日本のコガネグモ属のものは、その多くがより幅広い腹部に幅の広い黒い横帯を持ち、この種だけが見かけでは大きく異なる。ただ、日本では南西諸島にナガマルコガネグモがおり、この種は形はコガネグモなどに似るが、斑紋はナガコガネグモによく似ており、両者の中間を感じさせる外見となっている。

脚注 編集

  1. ^ 以上、主として小野編著(2009)。p.425
  2. ^ 小野編著(2009)。p.425
  3. ^ a b 新海(2006)、p.215
  4. ^ 千国(1980)、p.60-61
  5. ^ 八木沼(1986)、p.114
  6. ^ 千国(1980)、p.60-62
  7. ^ 八木沼(1979)
  8. ^ 宇根他(1989),p.47
  9. ^ 斎藤慎一郎 KISHIDAIA, No.93, Feb. 2008 http://kakureobi.sakura.ne.jp/kishi/k93.pdf

参考文献 編集

  • 浅間茂・石井規雄・松本嘉幸『校庭のクモ・ダニ・アブラムシ』(改訂版)全国農村教育協会〈野外観察ハンドブック〉、2002年、70頁。ISBN 4-88137-084-7 
  • 小野展嗣編著、『日本産クモ類』、(2009)、東海大学出版会
  • 八木沼健夫,『原色日本クモ類図鑑』、(1986),保育社
  • 八木沼健夫、(1979)、「ファーブルとナガコガネグモ -千国安之輔氏の発表に因んで-」、Atypus 75:p.19-20.
  • 新海栄一、『日本のクモ』,(2006),文一総合出版
  • 千国安之輔、「クモの奇妙な壺づくり」、『アニマ』No.87、(1980),p.59-67:平凡社

関連項目 編集

外部リンク 編集