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ビルマ語(ビルマご; ビルマ語: မြန်မာဘာသာစကားALA-LC翻字法: Mranʻmā bhāsā cakā"、IPA: /mjəmà bàd̪à zəɡá/ ミャマーバーダーザガー)は、シナ・チベット語族チベット・ビルマ語派(チベット・ミャンマー語派)ビルマ・ロロ語群英語版に属し、ミャンマー連邦共和国の公用語である。ミャンマー連邦の総人口約5,114万人の約70パーセントを占めるビルマ族が母語とする言語で、他にバングラデシュマレーシアタイなどにも話者がいる。なお現在のところ、日本の公教育においては東京外国語大学及び大阪大学外国語学部で専攻語として開講されているのみで、専門的な学習の機会や場は多くない。ミャンマー語と呼ばれることもある。

ビルマ語
မြန်မာဘာသာ(စကား) Mranʻmā bhāsā (cakā")
発音 IPA: /mjəmà bàd̪à (zəɡá)/
話される国 ミャンマーの旗 ミャンマー
タイラオスバングラデシュシンガポールマレーシアなど
地域 東南アジア広域
民族 ビルマ族
話者数 第一言語:3200万人
第二言語:1000万人
言語系統
表記体系 ビルマ文字
公的地位
公用語 ミャンマーの旗 ミャンマー
統制機関 ミャンマー言語委員会
言語コード
ISO 639-1 my
ISO 639-2 bur (B)
mya (T)
ISO 639-3 mya
Lenguas tibeto-birmanas.png
  ビルマ・ロロ・ナシ語群
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表記にはビルマ文字が用いられる(参照: #文字)が、文字と実際の発音には様々な隔たりが見られる(参照: #音声)。

歴史編集

古ビルマ語編集

ビルマに住むモン族が使っていた文字が、11世紀後半ごろにビルマ語に使われるようになった。12世紀前後には仏教徒の功徳を記録した碑文が多数現れるようになる。この時代に書かれたビルマ語を「古ビルマ語英語版」(11世紀 - 16世紀)と呼ぶ。古ビルマ語の資料の中で年代のはっきりしている記録として、最も古いものが「ミャゼディ碑文」(1112年)のビルマ語である。四面体の石柱に、同一の内容がモン語パーリ語ピュー語そしてビルマ語の四つの言語で刻まれている。

中ビルマ語編集

この「古ビルマ語」から、15世紀 - 16世紀にその骨格が成立したと考えられる「ビルマ文語」(Middle Burmese、中ビルマ語、16世紀 - 18世紀)を経て、

現代ビルマ語編集

現代ビルマ語(modern Burmese18世紀中頃 - )に至ったとされる。

文字編集

 
ビルマ文字の使用例

子音を表す基本字母の周囲に母音記号声調が組み合わさり文字を形成する。文字は、全体的に丸っこい形が特徴的である。

  • 基本字母 - 子音を表し、33個ある。同じ発音をさす文字が複数ある場合もある[1]
  • 複合文字 - 基本字母に、y, w, 無声化 などを示す記号が付いたもの。
  • 母音記号は、声調との組合わせで決まる(参照: ビルマ文字#末子音)。母音は7個あり、声調との組合わせは7 × 3 = 21個である。
  • 末子音 -N, ʔ声門閉鎖音)で終わることを示す文字が複数ある。

句読点には (。句点)と (、読点)を用いる。特有のビルマ数字をもつ。

音声編集

ビルマ語の発音は日本語を通して見ると理解し難いものが多く、音便による発音の変化や語末の促音(厳密には声門閉鎖音 [ʔ])などのほか先述のような同音異字の存在のために、文字だけを見て容易に発音を知ることはできない[1]

母音編集

母音は主に8種類ある。他に鼻母音や末尾に声門閉鎖音がつく母音などがあるが、言い換えればビルマ語において閉音節と呼べるのものは鼻母音で終わるものと声門閉鎖音で終わるものの2種類しかないということである[2]。 以下、必要に応じて、国際音声記号 (IPA) を // や [] 書きで併記する。また表記のラテン文字転写には様々な方法があるが、ここでは極力ALA-LC翻字法英語版を用いることとする。

  • 短母音
    • a 母音の「ア」
    • i 母音の「イ」
    • u 日本語の母音「ウ」よりもっと唇を丸める
    • e 日本語の母音「エ」より口を平らにする
    • E [ɛ] 日本語の母音「エ」より口を大きめに開く
    • o 日本語の母音「オ」よりもっと唇を丸める
    • O [ɔ] 日本語の母音「オ」より口を大きめに開く
    • A [ə] 上記の母音が弱化することにより生じる曖昧母音
  • 鼻母音

"aN", "iN", "eiN" など母音の末尾が鼻音化するもの。綴りの上では末子音 "-m" "-n" "-ŋ" が残っているが、現在ビルマ語ではその区別が消失して全て鼻音化している。また、ビルマ語の二重母音は単独では存在しない。日本語の「愛」などといった発音は鼻母音を補って発音される。鼻母音は、"iN" [ɪ̃], "auN" [ãʊ̃], "aiN" [ãɪ̃], "aN" [œ̃], "eiN" [ẽʲ], "ouN" [õʷ], "uN(wuN)" [ʊ̃] が挙げられる[3]

鼻母音で終わる音節というものはそれ自体はあくまでも開音節であるが、次に別の子音で始まる音節が続く場合は鼻子音が実現して閉音節となり、母音の鼻音性は失われる(例: ကောင်းတယ် koṅʻ" tayʻ [káʊn dɛ̀]〈良いよ〉)[4]

  • 声門閉鎖音 "ʔ"

驚いたとき「アッ!」といったときなどに喉をぐっとしめた感じの音である。日本語の小さい「っ」に近いが、日本語の場合「アッ」を除けば次の子音の形でとまるので厳密には異なる。("kattaa"や"kappa"など。)綴りの上では "-p"(ပ်) "-t"(တ်) "-k"(က်) "-c"(စ်) といった末子音が残っているが一部の外来語(/bas ka:/など)を除き、声門閉鎖音に変化している。綴りでは一部の子音記号にアタッ(အသတ် /ət̪aʔ/)と呼ばれる補助記号()をつけることで表す。子音に綴りの上で "-k"の場合直前の母音 "-a" は /ɛ/ となって /ɛʔ/ と発音し、 "-c" の場合直前の母音"-a" は /ɪ/ となって /ɪʔ/ と発音される。また、綴りの上で

  • 直前の母音が "-i" で "-p" や "-t" と接続する場合 /eʲʔ/
  • 直前の母音が "-u" で "-p" や "-t" と接続する場合 /oʷʔ/
  • 直前の母音が "-O" で "-k" と接続する場合 /aʊʔ/
  • 直前の母音が "-o" で "-k" と接続する場合 /aɪʔ/

となることに文字学習の際は注意されたい。

子音編集

子音は全部で34個ある。

  • 破裂音
    両唇破裂音
    p [p]<無声無気音>「パ」行
    ph [pʰ]<無声有気音>息を伴う「パ」行
    b [b]<有声音>「バ」行 、場合によっては (例: သီးပင် /t̪íbɪ̀N/〈果樹〉[5]
    歯茎破裂音
    t [t]<無声無気音>「タ」行 ※ただし、"th"音や "D"音との混同を避けるため、舌先がやや硬口蓋よりになる。そり舌音にはならない。
    th [tʰ]<無声有気音>息を伴う「タ」行
    d [d]<有声音>「ダ」行 、場合によっては (例: ညင်း / ɲɪ́N/ジリンマメポーランド語版〉; ထားဝယ်မှိုင်း /wɛ̀m̥áɪN/インドシクンシ英語版など特定のシクンシ科樹木〉)[6]
    硬口蓋破裂音
    ky [t͡ɕ]<無声無気音>「チャ」行 ကျ (k+y)、ကြ (k+r)
    khy [t͡ɕʰ]<無声有気音>息を伴う「チャ」行 ချ (kh+y), ခြ (kh+r)
    j [d͡ʑ]<有声音>「ヂャ」行 ဂျ (g+y)、ဂြ (g+r)、場合によっては ကြ(例: လူကြုံ /lùd͡ʑòʷN/〈知り合いから金品や手紙などを託されて運ぶ旅行者〉)[7]
    軟口蓋破裂音
    k [k]<無声無気音>「カ」行 က
    kh [kʰ]<無声有気音>息を伴う「カ」行
    g [ɡ]<有声音>「ガ」行 、場合によっては က
    s [θ] <無声音> ※ T, D の調音点は英語の "th-" の音と同じだが、ここでは破裂音の節に含める。歯破裂音 [t̪], [d̪] で発音される場合もある[8]。一方 Jenny & San San Hnin Tun (2016:15) は歯閉鎖音(つまり歯破裂音)であって摩擦音破擦音ではなく、話者によってはそれぞれ /t, d/ との区別が見られないと述べている。
    (s) [ð] <有声音> (例: သီးသီး /t̪ɪ́d̪ɪ́/ゾウノリンゴ英語版の実〉)[9]
    声門破裂音
    ʔ ※母音の項参照
  • 摩擦音
    歯茎摩擦音
    c [s]<無声無気音>「サ」行
    ch [sʰ] <無声有気音>息を伴う「サ」行
    j [z]<有声音>「ザ」行 、場合によっては (例: ဆီး /zí/〈ナツメ〉)[10]
    rh [ɕ]「シャ」行 ရှ (r+h)、လျှ (l+y+h)
    h [h]「ハ」行
  • 鼻音
    m [m]「マ」行
    mh (MLCTSでは hm) [m̥] 無声の /m/ あるいは出だしに息が入る (: preaspirated) /m/[11] မှ
    n [n]「ナ」行
    nh (MLCTSでは hn) [n̥] 無声の /n/ あるいは出だしに息が入る /n/[11] နှ
    ñ (MLCTSでは ny) [ɲ]「ニャ」行
    ñh (MLCTSでは hny) [ɲ̊] 無声の /ɲ/ あるいは出だしに息が入る /ɲ/[11] ညှ
    (MLCTSでは ng) [ŋ] 鼻濁音で発音した「ガ」行
    ṅh (MLCTSでは hng) [ŋ̊] 無声の /ŋ/ あるいは出だしに息が入る /ŋ/[11] ငှ
  • 半母音
    v (MLCTSでは w) [w]「ワ」行
    vh (MLCTSでは hw) [w̥] 無声の "w"。出だしに息が入り「フワ」といった感じになる。
    y [ʝ] 日本語の「ヤ」行より摩擦が強い。「濁ったヤ行」に聞こえる。ယ, ရ
  • 流音
    l [l] 英語のl音
    lh (MLCTSでは hl) [l̥] 無声の /l/ あるいは出だしに息が入る /l/[11] လှ
    r 外来語に多く、英語の "r"音とほぼ同じ
  • 介子音
    -w-、-y- の2種類がある。
    ကျွဲ kyvai /t͡ɕwɛ́/水牛)、များတယ် mya" tayʻ /mjá dɛ̀/(多い)など。

日本語の「キャ」行にあたる発音は存在しない。転写すると「ky」となる ကျ やALA-LC翻字法で転写すると「khy」となる ချ は「チャ」行の発音(c、chと同じ)となる。また、転写で「kr」となる ကြ もチャ行音、「yha」ယှ や「rha」ရှ の組み合わせはシャ行音、「gy」ဂျ や「gr」ဂြ はヂャ行音となる[1]。なおこのようなビルマ語の綴りと実際の発音との乖離のために、逆にビルマ語話者は日本語の「東京」(とうきょう、Tokyo)を「とーちょー」のように発音してしまう傾向がある[1]。また、場合によっては無声子音を表す字が有声化することもある。

声調編集

ビルマ語は声調言語であり、音節の音の高低によって意味が区別される。ビルマ語の声調は下降調低平調高平調の3つがある。

  • 下降調
    高音から急激に下がる。ma のように表記する。英語の文献では「きしむ声調」(: creaky tone)という呼び方をされていることもある、比較的短い声調である。例: ca. /sa̰/〈始める〉[12]
  • 低平調
    低音か中音で平らに発音する。mā のように表記する(無表記)。普通は平らであるが、時に上昇調となる。長さは中である。例: စာ ca /sà/〈言葉、文字〉[12]
  • 高平調
    高音で平らに発音する。単語が文末に来る場合などはゆるやかに下がる。mā" のように表記する。比較的長く、息もれ声があると分析されることもある。例: စား cā" /sá/〈食べる〉[12]

なお以上のような声調の区別が存在するのは開音節や鼻音終わりの音節の場合の話であり、声門閉鎖音/ʔ/)で終わる閉音節の場合は声調は中立となる[12]。声門閉鎖音終わりの閉音節に関しては声調を高く発音しようが低く発音しようが、あるいは「きしむ声調」で発音しようが構わないが、大抵の場合は短い音となる[12]

文法編集

  • 基本的に膠着語であり、日本語とよく似た骨格をもつ。ただし孤立語的性格ももつが、動詞を単独で用いることは少なく、あとに小辞を1つないし多数つけるのが普通(そのため膠着語とされる)。
  • 文の種類は名詞文と動詞文に大別される。
  • 前置詞も日本語と同様語尾変化である。
  • 「おはよう」や「こんにちは」の決まった挨拶の言葉は通常はない(参照: #挨拶表現)。
  • ミャンマー人には、通常、姓にあたるものはない。名前は生まれた曜日によって使用される字が決められている。ただし、親の名の一部を自分の名につけて示す場合がある。アウンサンスーチーも、父の名のアウンサン、父方の祖母の名のスー、母の名のキンチーに由来する。

名詞文編集

名詞文は〈…は~である〉という内容のものである[13]

転写: kyvanʻtoʻ Gyapanʻ lūmyui" pā.
IPA: /t͡ɕənɔ̀ d͡ʑəpœ̀n lùmjó bà/
グロス: 私・男性 日本 人種 丁寧を表す助詞
訳:「僕は日本人です。」
転写: kyvanʻma Tuikyuitakkasuilʻ ka kyoṅʻ"sū pā.
IPA: /t͡ɕəma̰ tòt͡ɕòtɛʔkət̪ò ɡa̰ t͡ɕáʊn̪d̪ù bà/
グロス: 私・女性 東京大学 属性を示す助詞 女学生 丁寧
訳:「私は東京大学の学生です。」

否定文編集

否定文は動詞要素を ma /mə/ဘူး bhū" /bú~pʰú/ という二つの否定辞で挟めんで作ればよい[15]

疑問文編集

「はい」か「いいえ」で答えられる疑問文であれば文末に လား lā" /lá/、「何」や「誰」という疑問詞を用いる疑問文であれば文末に လဲ lai /lɛ́/ を置いて作れば良い[16]

疑問詞には以下のようなものが存在する[17]

ビルマ語の疑問詞
表記 ALA-LC翻字法による転写 発音
ဘာ /bà/
ဘယ်ဟာ bhayʻ hā /bɛ̀ hà/ どれ
ဘယ်သူ bhayʻ sū /bɛ̀ d̪ù/
ဘယ်လောက် bhayʻ lokʻ /bɛ̀ laʊʔ/ どのくらい; いくら
ဘယ်လို bhayʻ lui /bɛ̀ lò/ どのように
ဘယ်မှာ bhayʻ mhā /bɛ̀ m̥à/ どこで
ဘယ်ကို bhayʻ kui /bɛ̀ ɡò/ どこへ
ဘယ်တော့ bhayʻ to' /bɛ̀ dɔ̰/ (未来の)いつ
ဘယ်တုန်းက bhayʻ tunʻ" ka /bɛ̀ dóʷŋ ɡa̰/ (過去の)いつ
ဘယ်နှစ်နာရီ bhayʻ nhacʻ nārī /bɛ̀ n̥ə nàjì/ 何時なんじ
ဘာဖြစ်လို့ bā phracʻ lui' /bà pʰjɪʔ lo̰/ なぜ

動詞文編集

名詞文に対し、動詞文は〈…は~する〉という内容のものであるが、ビルマ語では動詞自体が時制によって変化することはない[18]。動詞の後ろに専用の助詞を付加して時制を表す。ビルマ語の時制は非未来と未来の二項対立であり、このうち非未来は現在と過去の両方を兼ねている[19]。非未来の助詞は တယ် tayʻ /dɛ̀~tɛ̀/(文語では သည် saññʻ /d̪ì/)、未来の助詞は မယ် mayʻ /mɛ̀/(文語では မည် maññʻ /mjì/)である。

転写: kyama Ranʻkunʻ kui svā" tayʻ.
IPA: /t͡ɕəma̰ jœ̀ŋɡòʷŋ ɡò t̪wá dɛ̀/
グロス: 私・女性 ヤンゴン行く 〔非未来〕
訳:「私はヤンゴンに行く。」

この文は〈今行くところである〉という意味にも〈既に行った〉という意味にもどちらにも解釈できる。はっきり〈行った〉と言いたい場合には〈動作が完全に終了した〉ことを表す助動詞 ခဲ့ khai' /ɡɛ̰~kʰɛ̰/ を用いれば良い(例: သွားခဲ့တယ် svā" khai' tayʻ /t̪wá ɡɛ̰ dɛ̀/[20]

否定文編集

否定文は動詞要素を ဘူး という二つの否定辞で挟めんで作ればよい[21]

  • ကျမ ရန်ကုန် ကို သွားဘူး[21]
転写: kyama Ranʻkunʻ kui ma svā" bhū".
IPA: /t͡ɕəma̰ jœ̀ŋɡòʷŋ ɡò t̪wá /
グロス: 私・女性 ヤンゴン に 〔否定〕 行く 〔否定〕
訳:「私はヤンゴンに行かなかった。」

ただし、名詞と動詞を組み合わせて作られた動詞を否定する場合は、語源的に動詞であった要素のみを二つの否定辞で挟む。以下の例では စိတ်ပါ citʻ pā /seʲʔ pà/〈興味がある〉という動詞が否定されているが、これは စိတ် /seʲʔ/〈心〉+ ပါ /pà/〈持ち合わせる〉から成るものである。

転写: dī chuiṅʻ ka lakʻchoṅʻ paccaññʻ" tve kui citʻ mabhū".
IPA: /dì sʰàɪŋ ɡa̰ lɛʔsʰàʊm pjɪʔsí dwè ɡò seʲʔ /
グロス: この 店 の 贈り物 物 達 に 心 〔否定〕 持ち合わせる 〔否定〕
訳:「この店のおみやげ品には興味ありません。」

疑問文編集

「はい」か「いいえ」で答えられる疑問文であれば文末に လား、「何」や「誰」という疑問詞を用いる疑問文であれば文末に လဲ を置いて作れば良い[23]

「はい/いいえ」疑問文の例:

転写: thamaṅʻ" cā" prī"prī lā".
IPA: /tʰəmɪ́n sá pí bì /
グロス: ご飯 食べる 終わる 〔新たな状況〕[注 2]
訳:「ご飯は食べ終わりました。」(参照: #挨拶表現

疑問詞を用いる疑問文の例:

転写: bhayʻ svā" ma lui' lai.
IPA: /bɛ̀ t̪wá mə lo̰ lɛ́/
グロス: どこ 行く fut ところ
訳:「どこに行くところです。」(参照: #挨拶表現

動詞句編集

なお時制の助詞は全て低平調であるがこれを下降調(「きしむ声調」)に変えると、名詞を修飾する動詞句を作ることが可能となる(口語・非未来: တယ် tayʻ /dɛ̀~tɛ̀/တဲ့ tai' /dɛ̰~tɛ̰/、文語・非未来: သည် saññʻ /d̪ì/သည့် saññʻ' /d̪ḭ/; 口語・未来: မယ် mayʻ /mɛ̀/မယ့် mayʻ' /mɛ̰/、文語・未来: မည် maññʻ /mjì/မည့် maññʻ' /mjḭ/)。

転写: Saṃlvaṅʻ mracʻ ʼatuiṅʻ" chaṅʻ" lā tai' ʼakhā dī nerā mhā Kvanʻluṃ chui tai' nerā rhi tayʻ.
IPA: /t̪œ̀nlwɪ̀m mjɪʔ ʔətáɪn sʰɪ́n là dɛ̰ ʔəkʰà dì nèjà m̥à kʊ̀nlòʷn sʰò dɛ̰ nèjà ɕḭ dɛ̀/
グロス: タンルウィン 川 沿って 下る 来る rel 際 この 場所 loc クンロン という rel 場所 在る 非未来
訳: タンルウィン川沿いに下って来際、この場所にクンロンとい場所がある。

「形容詞」と「副詞」編集

名詞や動詞と異なり、ビルマ語において「形容詞」や「副詞」は品詞としてはっきり定まっているものではない[25]

「形容詞」編集

ビルマ語の「形容詞」(例: ကောင်း koṅʻ" /káʊN/〈良い〉)は文中での働き(統語)が動詞(例: စား cā" /sá/〈食べる〉)とさほど変わらず実質的には状態動詞の一部に過ぎないが、ミャンマーの学者には「形容詞」にあたる呼び方をする傾向が見られる[26]。状態動詞(: stative verb; あるいは特性動詞 : property verb とも)は英語等西洋の言語の形容詞に対応するが、名詞の後ろで限定の機能を果たす場合に重複させることが可能である(例: အိမ်ကြီးကြီး ʼimʻ krī" krī" /èʲN t͡ɕíd͡ʑí/大きな家〉)[27]

また動詞に接頭辞 ʼa- /ʔə/ をつけて名詞化され名詞に後置されたものを postnominal modifier(あるいは postnominal attributive)と、 名詞の前に置かれて修飾する別の名詞を prenominal modifier と呼び、これらを Nominal attributives という節で扱う文法書も存在する[28]

「副詞」編集

副詞は統語的また形態的に様々な可能性を示し、名詞のようにも動詞のようにも振る舞う[25]。多くの場合、動詞が副詞の役割を果たす[25]Jenny & San San Hnin Tun (2016:9) は「副詞」の話をする場合、「統語的に統一された統語カテゴリではなく、むしろ意味論に基づいたカテゴリであることに留意されたい」と述べている。

たとえば動詞の前に置かれてその動詞の修飾を行う状態動詞(重複させることが可能)は副詞的な機能を果たしていると見ることができる(例: မြန်မြန်သွား mranʻmranʻ svā" /mjœ̀mmjœ̀N t̪wá/素早く行く〉)[27]

挨拶表現編集

ビルマ語の挨拶表現としては一応 မင်္ဂလာပါ maṅgalā pā [mɪ̀ŋɡəlà bà] ミンガラーバー(文字通りには「吉祥です」)というものが存在し、これは一日のうちどの時間帯においても使用することが可能である[29]。つまり、〈おはよう〉、〈こんにちは〉、〈こんばんは〉の全てがこの表現となる[30]。しかし、この表現は1962年のネ・ウィン軍事政権成立以降からビルマ化政策の一環として新たに学校教育で使われ始めたものであり、学校では定着した[31]ものの、ビルマ人同士の日常生活においてはほとんど使用されない[32]。ビルマ人同士では時間帯を問わず ထမင်းစားပြီးပြီလား thamaṅʻ" cā" prī"prī lā" /tʰəmɪ́n sá pí bì lá/ タミンサーピービーラー〈ご飯は食べ終わりましたか〉、နေကောင်းတယ်နော် nekoṅʻ" tayʻ noʻ [nèkáʊn dɛ̀ nɔ̀] ネーカウンデーノー〈お元気ですよね〉、ဘယ်သွားမလို့လဲ bhayʻ svā" ma lui' lai /bɛ̀ t̪wá mə lo̰ lɛ́/ ベートワーマローレー〈どこに行くところですか〉などを挨拶にあたる表現として用いている[32]

ビルマ語由来の語編集

 
アフリカパドゥクの材から作られた盆栽台。
 
ピンカドの葉と実

植物:

服飾:

脚注編集

[脚注の使い方]

注釈編集

  1. ^ なおこのタイプの文は口語では လူမျိုး〈人種〉を省いても十分に通用する。また相手が目上の人間である場合は ပါ の代わりに ဖြစ်ပါတယ် phracʻ pā tayʻ /pʰjɪʔ pà dɛ̀/〈であります〉をつけることもある。さらに語尾に男性であれば ခင်ဗျား khaṅʻ byā" /kʰəmjá/、女性であれば ရှင် rhaṅʻ /ɕɪ̀N/(以上いずれも〈あなた〉の意味)を付け足して親しさを表すことも可能である[14]
  2. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:214f) を参照。

出典編集

  1. ^ a b c d 世界の文字研究会 (2009:281).
  2. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:19).
  3. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:20).
  4. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:19,23,29).
  5. ^ 大野 (2000:715).
  6. ^ 大野 (2000:222,279).
  7. ^ 加藤 (2004:380).
  8. ^ 加藤昌彦 『CDエクスプレス ビルマ語』(白水社)
  9. ^ 大野 (2000:714).
  10. ^ 大野 (2000:174).
  11. ^ a b c d e Jenny & San San Hnin Tun (2016:16–7).
  12. ^ a b c d e Jenny & San San Hnin Tun (2016:21).
  13. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:14).
  14. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:14f).
  15. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:20).
  16. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:16,18).
  17. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:19).
  18. ^ a b ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:15).
  19. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:371).
  20. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:15f).
  21. ^ a b ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:21).
  22. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:50).
  23. ^ ビルマ市民フォーラム・田辺 (2015:16,18).
  24. ^ タントゥン、「ビルマの歴史の初まり」 大野徹『やさしいビルマ語読本』大学書林、1991年、54・153頁。
  25. ^ a b c Jenny & San San Hnin Tun (2016:9).
  26. ^ 澤田英夫ビルマ語文法 (1年次)』、1999年、5頁。2019年12月23日閲覧。
  27. ^ a b Jenny & San San Hnin Tun (2016:9,55).
  28. ^ Jenny & San San Hnin Tun (2016:152–3).
  29. ^ 加藤 (2004:80,85).
  30. ^ 加藤 (2004:80,90,100).
  31. ^ 藪 (2009).
  32. ^ a b 加藤 (2004:85).
  33. ^ 大野 (2000:3).
  34. ^ 熱帯植物研究会 (1996:97).
  35. ^ 大野 (2000:369-370).
  36. ^ 村山 (2013).
  37. ^ 熱帯植物研究会 (1996:199,200).
  38. ^ a b 小学館ランダムハウス 第2版 編集委員会 (1994).
  39. ^ 大野 (2000:402).
  40. ^ a b 熱帯植物研究会 (1996:206).
  41. ^ 大野 (2000:666).

参考文献編集

日本語:

  • 石井米雄千野栄一 編、加藤昌彦あつひこ 他共著『世界のことば・出会いの表現辞典』三省堂、2004年。4-385-15178-4
  • 大野, 徹『ビルマ(ミャンマー)語辞典』大学書林、2000年。ISBN 4-475-00145-5
  • 小学館ランダムハウス英和大辞典 第2版 編集委員会 編 (1994).『小学館ランダムハウス英和大辞典 第二版』。4-09-510101-6
  • 『世界の文字の図典』世界の文字研究会、吉川弘文館、2009年、普及版。ISBN 978-4-642-01451-9
  • 『熱帯植物要覧』熱帯植物研究会、養賢堂、1996年、第4版。ISBN 4-924395-03-X
  • ビルマ市民フォーラム 監修、田辺寿夫 編『話せる・伝わる ミャンマー語入門 CD付』大修館書店、2015年。978-4-469-21352-2
  • 村山元春 監修、村山忠親 著『増補改訂 原色 木材大事典185種』誠文堂新光社、2013年、155-6頁。978-4-416-71379-2
  • 藪司郎「ビルマ語」 梶茂樹、中島由美、林徹 編『事典 世界のことば 141』大修館書店、2009年、178-181頁。978-4-469-01279-8

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