ブラザーコンプレックス

ブラザーコンプレックス(brother complex)[2] は、男兄弟に対して強い愛着・執着を持つ状態をいう。俗に「ブラコン」(brocon)とも略され[3][4]、この場合、男兄弟に対して強い愛着・執着を持つ兄弟姉妹自体に対しても使われる。

兄のカウノスを、狂乱を伴うほど強く慕うビュブリス[1]

歴史編集

1917年、久保良英は、著書『精神分析法』において、オフィーリアとレアティーズは兄妹錯綜(Brother-sister complex)の関係だったと述べている[5]。また、久保は1932年の著書『精神分析学』において、父娘間の性的本能による関係を「父娘錯綜」、母倅(息子)間のそれを「母倅錯綜」と呼び、「兄妹錯綜」や「姉弟錯綜」は「父娘錯綜」や「母倅錯綜」が転移したものだと論じている[6]

1988年に発売されたまつざきあけみの単行本『迷宮城』に収録されている、ヴァイオリニストを目指す兄妹を描いた漫画『笑う道化師』にて、ブラザー・コンプレックスという語が使用されている[7]

概説編集

ブラザーコンプレックスという用語は、もともとはフェティシズム俗語であったが、分析心理学的にフェティシズムとコンプレックスが関連した概念であったため、コンプレックスという用語で一般化した。ただし、心理学用語として正式に認められた用語ではない。対象が姉妹である場合はシスターコンプレックスという。

一般的にブラザーコンプレックスは、「兄もしくは弟に対する恋愛的感情」や「自分のものにしたい独占欲」のある姉妹、と言う図式で捉えられる[8][9]。ブラザーコンプレックスの女性にとって兄や弟は性的な憧憬とも重なって理想化された心象となり、自身の人生に親以上の影響力がある場合がある。例えば、兄と共通点や似たところがある恋人や配偶者を選んでいたりすることなどである[10]。マイナスイメージを伴うこともあり、中でも、妹の立場にあって「自分のわがままを最大限受け入れてくれる兄」や、姉の立場にあって「自由自在かつ都合好いように扱える弟」という場合が近年にはしばしば見られ、姉妹を持つ男性(妹を持つ兄、姉を持つ弟)には、女性観に関してネガティブ化してきている傾向が高くなっているだけになおさらである。一方、男兄弟(男同士の兄弟)の間の強い絆(兄弟ながら男同士として強い愛着を保つ兄と弟。バンド・オブ・ブラザーズ)には、「兄を慕う弟」「弟想いの兄」として、わりあい肯定的に見られることが多い。

精神科医岡田尊司によると、ブラザーコンプレックスの女性は、兄に恋人ができたり、兄が結婚したりすると、抑うつになったり不安定になったりすることがある。また、そのような場合、兄のパートナーに対して嫉妬の感情を抱いたり、自分が得られなかった兄の愛を獲得した存在として、理想化したりすることがある。そのような女性は、兄への執着心が強いほど自分の心のバランスを保つために、兄の家庭とは距離を置いたりする[11]

マイナビが兄弟のいる女性を対象に2019年9月までに行った調査によると、2割強の女性が自分はブラザーコンプレックスであると自認していた[12]

原因編集

原因に関しては不明。過度のブラザーコンプレックスの原因は両親の問題や社会不安などの原因があるという推測がある。児童心理学者ピアジェに関連する解釈では姉の場合は弟の出生による自身の非中心化の葛藤を、弟を支配することで解消しているのではないかと推測される。

ラカンなども『家族複合』で触れてはいるが、フロイト派の論述は女性に関してはさほど適切でないとされている。なお、彼によると女性は初め父親に対して性愛を持つが、父親が母親を見ているのに気づき父親ではない兄弟に向くとしている。エディプスコンプレックス同様脱却が不完全になることが多いと解釈する。

萌え用語としての利用編集

いわゆるゼロ年代以降、ゲーム(特にアダルトゲーム)やアニメ、ライトノベルなどで、萌え用語としてブラザーコンプレックスと言う用語が使われることもある。中国語では「兄控」、「弟控」という[13]。ブラコンを扱った(もしくはその気質を持つ人物が登場する)具体的な作品例として、『月下の一群[14]吉野朔実作、1982年)、『シスター・プリンセス[15]、アダルトゲーム『かみぱに!』(2008年)『あまつみそらに』(2010年)、『プリズム◇リコレクション!』(2013年、制作はいずれもアダルトゲーム制作会社クロシェット)、『俺の妹がこんなに可愛いわけがない[16]、『お兄ちゃんだけど愛さえあれば関係ないよねっ』(鈴木大輔作、2010年~)、『お兄ちゃんのことなんかぜんぜん好きじゃないんだからねっ!![17]草野紅壱作、2008~2016年)、『僕の彼女がマジメ過ぎる処女ビッチな件』(松本ナミル作、2015年~)『俺が好きなのは妹だけど妹じゃない[18]、『聖剣使いの禁呪詠唱[19] などの作品が挙げられる。この場合、男性のシスターコンプレックスに対応して利用されていると考えられるが、実際には女性のブラザーコンプレックスは悲劇的で激しいものが多いため、シスターコンプレックスに比べると利用率は低い。斎藤美奈子は、セイラ・マスシャア・アズナブルに対してブラザーコンプレックス気味であると述べている[20]志村貴子の『ビューティフル・エブリデイ』にはブラザーコンプレックスの少女が登場する[21]

また、近年[いつ?]やおい系雑誌に対する評論を中心に、兄弟間においてもこの用語が使われることも多い。

2012年8月12日までに、フレックスコミックスは公式サイトに、ブラザーコンプレックスを題材としたアンソロジーコミック『ブラコンアンソロジー Liqueur ―リキュール―』の特設ページを開設した[22]

出典編集

  1. ^ 原田武『インセスト幻想 人類最後のタブー』人文書院、2001年、171頁。ISBN 9784409240656
  2. ^ ブラザーコンプレックスとは”. コトバンク. 大辞泉. 朝日新聞社. 2021年1月24日閲覧。
  3. ^ 『日本俗語大辞典』米川明彦東京堂出版、2003年、560頁。ISBN 9784490106381
  4. ^ My Sister, My Writer - The Fall 2018 Anime Preview Guide”. Anime News Network (2018年10月10日). 2021年1月25日閲覧。
  5. ^ 久保良英『精神分析法』心理学研究會出版部、1917年、241頁。
  6. ^ 久保良英『精神分析学』中文館書店、1932年、225頁。
  7. ^ まつざきあけみ『迷宮城』朝日ソノラマハロウィン少女コミック館〉、1988年、243頁。ISBN 9784257980803
  8. ^ 『用例でわかる カタカナ新語辞典 第3版』学研辞典編集部,学習研究社,2011年7月,563ページ ISBN 978-4053032645
  9. ^ 横田正夫『教養のトリセツ 心理学』日本文芸社、2016年、123頁。ISBN 9784537261448
  10. ^ 岡田 2015, pp. 173–174.
  11. ^ 岡田 2015, p. 175.
  12. ^ 武末典子 (2019年8月15日). “ブラコンは恋愛面で不利? 実録・みんなが遭遇したブラコン女子”. マイナビ. 2021年1月24日閲覧。
  13. ^ 《少女歷史》|日本少女常講的「可愛」 是出於能包容醜陋的母性”. 香港01 (2021年1月7日). 2021年1月24日閲覧。
  14. ^ 南信長『現代マンガの冒険者たち』NTT出版、2008年、377頁。ISBN 9784757141773
  15. ^ 本田透『萌える男』筑摩書房、2005年、182頁。ISBN 9784480062710
  16. ^ 『アニメ『俺の妹。』がこんなに丸裸なわけがない。』KADOKAWA、2014年、103頁。ISBN 9784048664509
  17. ^ Jonathan Clements; Helen McCarthy (2015). The Anime Encyclopedia, 3rd Revised Edition: A Century of Japanese Animation. Stone Bridge Press 
  18. ^ What the Hell is Happening in My Sister, My Writer? - This Week in Anime”. Anime News Network (2018年11月27日). 2021年1月24日閲覧。
  19. ^ World Break: Aria of Curse for a Holy Swordsman - The Winter 2015 Anime Preview Guide”. Anime News Network (2015年1月11日). 2021年1月24日閲覧。
  20. ^ 斎藤美奈子『紅一点論 アニメ・特撮・伝記のヒロイン像』ビレッジセンター、1998年、156-157頁。ISBN 9784894361133
  21. ^ Hodgkins, Crystalyn (2021年1月1日). “Takako Shimura Ends Beautiful Everday Manga on February 8”. Anime News Network. 2021年1月21日閲覧。
  22. ^ ブラコンアンソロ2は草野紅壱表紙、執筆陣に位置原光Zら”. ナタリー (2012年8月12日). 2021年1月3日閲覧。

参考文献編集

関連記事編集