マキ科
マキ科(学名:Podocarpaceae)は、球果植物の科。北半球で進化し繁栄している針葉樹がマツ科(Pinaceae)なのに対し、マキ科はナンヨウスギ科(Araucariaceae)とともに南半球を代表する針葉樹のグループである。分布の中心はオーストラリアやニュージーランド、およびその周辺の太平洋の島々である。日本は分布の北限にあたり2種のみが分布するが、世界的には200種近くが含まれるとみられている。
マキ科 | |||||||||||||||
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イヌマキの果実
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分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Podocarpaceae Endl., 1847 | |||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||
マキ科、イヌマキ科 | |||||||||||||||
属 | |||||||||||||||
本文参照 |
和名
編集和名はマキ科という名前であるが、標準和名マキという植物が存在しない。日本に分布するマキ科の種はイヌマキ(Podocarpus macrophyllus)といい、「マキ」という植物に劣ることから「犬」という接頭語を付けたとみられている。「マキ」がどの植物を指すのかは諸説あるが、スギ(Cryptomeria japonica)もしくはコウヤマキ(Sciadopitys verticillata)であるという説が有力である。なお、スギはヒノキ科、コウヤマキも名前こそ似ているがコウヤマキ科に属し、いずれもイヌマキとは遠縁である。このことからマキ科をイヌマキ科と呼ぶ場合もある。
形態
編集葉は十字対生でつく。葉は針状のものから、ナギのようにある種の広葉樹のような丸いもの、ヒノキ科のヒノキやアスナロのように魚の鱗の様なものもある。
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マキ属の葉
花は雌雄異株(雄花だけ付ける雄株、雌花だけ付ける雌株の2種類があること)となる種が多い。マツ科やヒノキ科は雌雄同株である。
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ナギ属の雄花
生態
編集広葉樹が強い熱帯においても条件次第では優勢になることがあり、パプアニューギニアの高原の湿地の脇ではDacrydium属(和名未定)などマキ科の針葉樹林が広葉樹より優勢だという[1]。一因として菌根が関係しているといわれている[2]。
昆虫ではキオビエダシャク(Milionia basalis)の幼虫がイヌマキやナギの葉を食べることで知られる。ケブカトラカミキリ(Hirticlytus comosus)など、幹を食料として利用する昆虫もいる。
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キオビエダシャクの成虫
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キオビエダシャクの幼虫
人間との関わり
編集大きくなる種では木材として使われる。イヌマキなどはシロアリの食害に対して強いとされ、かつての沖縄では高級建材として扱われた[3]。庭園樹や生垣としてもよく用いられる。
マキ属のイヌマキやイラワラプラム(Podocarpus elatus)の果実には少量なら食べられるものもあるが、一般に種子は細胞毒性を持ち有毒である。葉や花粉も有毒で、これらはイチイ科にも共通である。特に花粉はアレルギーの原因となることがあるとされる。毒成分の一つがラクトン類であり、生薬として利用されることもある。
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庭木として用いられるイヌマキ
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沖縄の豪農中村家の住宅はイヌマキ材を用いた
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イヌマキの赤い果実は食べられるが緑色の種子は有毒
下位分類
編集- Acmopyle
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Acmopyle属の実
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Acmopyle属の葉
- Afrocarpus
- 和名未定の属。アフリカ南部に6種が分布する。
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Afrocarpus属の樹形
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Afrocarpus graciliorの樹形
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Afrocarpus属の樹皮および葉
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Afrocarpus属の種子
- Dacrycarpus
- 和名未定の属。ニュージーランドからフィリピンにかけて9種が分布する。
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先住民はkahikateaと呼ぶDacrycarpus dacrydioides
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Dacrycarpus属の実
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Dacrycarpus属の実
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湿地の脇に成立したDacrycarpus属の森林
- Dacrydium
- 和名未定の属。ニュージーランドからマレー半島にかけて20種程度が分布し、マキ属(Podcarpus)に次ぐ規模のグループである。ニュージーランドに分布するDacrydium cupressinumは現地ではリム(rimu)と呼ばれている。
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Dacrydium属の樹形
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Dacrydium属の実
- Falcatifolium
- 和名未定の属。ニュージーランドからフィリピンにかけて6種が分布する。ニューカレドニアに分布するF. taxoidesは後述の寄生種Parasitaxus ustaの宿主とされている。
- Halocarpus
- 和名未定の属。ニュージーランドに3種が分布する、
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Halocarpus属の葉
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Halocarpus属の実
- Lagarostrobos
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Lagarostrobos frankliniiの樹形
- Lepidothamnus
- 和名未定の属。南米アルゼンチンとチリに3種が分布する。
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Lepidothamnus属の葉
- Manoao
- 和名未定の属。Manoao colensoiのみからなる単型(Lagarostrobos属から独立した)。
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Manao属の葉
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Manao属の葉の拡大
- Microcachrys
- 和名未定の属。Microcachrys tetragonaからなる単型。
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Microcachrys属の実
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Microcachrys属
- Microstrobos
- 和名未定の属。2種からなる
- ナギ属 (学名:Nageia)
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ナギ属の葉と雄花
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ナギ属の実
- Parasitaxus
- 和名未定の属。Parasitaxus ustaからなる単型。同じマキ科で別属のFalcatifolium taxoidesという種に寄生しているとされる。ただし腐生植物とする説もあり、これについてはParasitaxusを参照。
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珍しい寄生植物P. usta
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Parasitaxus属の実(白い部分)
- エダハマキ属(学名
- Phyllocladus)
- 5種を含む。独立のフィロクラドゥス科 Phyllocladaceae とする説もある。
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エダハマキ属の葉
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エダハマキ属の実
- マキ属(学名:Podocarpus)
- マキ科の中でも最大のグループで100種あまりを含む。イヌマキ(P. macrophyllus)が日本にも分布する。
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Podcarpus totaraの樹形
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イヌマキの葉と実
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イヌマキの雌花
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イヌマキの変種ラカンマキの実
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マキ属の発芽は地上性(英:epigeal)である
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マキ属の子葉
- Prumnopitys
- 和名未定の属。9種を含む。
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Prumnoptys属の樹形
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Prumnoptys属の葉
- Retrophyllum
- 和名未定の属。6種を含む。
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Retrophyllum属の葉
- Saxegothaea
- 和名未定の属。Saxegothaea conspicua一種からなる単型。
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Saxegothea conspicuaの葉
- Sundacarpus
- 和名未定の属。Sundacarpus amarus一種からなる単型。
脚注
編集- ^ 斎藤晶宏 .2018. 目で見る世界の森林(28) リムノキ属(マキ科)の森林. 海外の森林と林業. doi:10.32205/jjjiff.102.0_39
- ^ 潮雅之. 2017.特集:熱帯林における球果類優占のメカニズム-マキ科・ナンヨウスギ科の根の形態・菌根菌・窒素固定活性. 日本生態学会誌67(3), pp337-345. doi:10.18960/seitai.67.3_339
- ^ 屋我嗣良. 1997. 沖縄の建築物とシロアリ防除技術. 木材保存23(5), pp2222-228.doi:10.5990/jwpa.23.222
外部リンク
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