ハナヤスリ亜綱

マツバラン綱から転送)

ハナヤスリ亜綱 Ophioglossidae(ハナヤスリあこう)は、現生の大葉シダ植物(大葉シダ綱)を構成する4亜綱のうちの1つである[1][2][3][4]。歴史的に裸茎植物門[5]裸茎植物亜門[6]マツバラン綱[6][7]として独立した群に置かれることもあったマツバラン目と、真のシダ類からなるシダ綱のうちリュウビンタイ目とともに真嚢胞子嚢を持つとして真嚢シダ類にまとめられていた[8][9]ハナヤスリ目の2からなる[1][2]スミスら (2006)の分類体系では本群はマツバラン綱 Psilotopsidaとして扱われていた[10]

ハナヤスリ亜綱
Starr 061108-9659 Psilotum nudum.jpg Ophioglossum vulgatum Saarland 01.jpg
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 陸上植物 Embryophyta
階級なし : 維管束植物 Tracheophyta
階級なし : 大葉植物(真葉植物) Euphyllophyta
: 大葉シダ植物 Moniliformopses
亜綱 : ハナヤスリ亜綱 Ophioglossidae
学名
Ophioglossidae Klinge
シノニム

系統関係編集

分子系統解析により系統関係が明らかになるまでは様々な系統関係が類推されてきた。

マツバラン類はエングラーとプラントル (1902)による分類では、ヒカゲノカズラ類とともに小葉類 Lycopodialesの中の無舌類 Eligulataeに分類されていた[8]。その後、Verdoorn (1938)などでは独立した群として分けられ、様々な分類体系で独立したマツバラン綱 Psilotopsidaに置かれた[8]。デボン紀の化石植物での研究によりリニアクックソニアなどが古生マツバラン類と呼ばれ、マツバラン類はその生き残りだと考えられた[6][9]。その後、その直接的な系統関係は否定されたが、依然他の群との類縁関係は分からなかった[6]加藤 (1983)では、ヒカゲノカズラ綱の根が二又分枝することから二又分枝する地下茎を持つマツバラン類と近縁としてヒカゲノカズラ亜門にヒカゲノカズラ綱とマツバラン綱を置き[11]岩槻 (1992)などでも再びヒカゲノカズラ類イワヒバ類ミズニラ類からなるヒカゲノカズラ亜群とともにマツバラン亜群として小葉植物群の下に置かれた[12]。しかし、葉緑体DNAの構造解析の研究から、マツバラン類はコケ植物ヒカゲノカズラ類とは異なり、シダ類と同様の逆位を共有することが明らかとなった[9]

対するハナヤスリ類は、エングラーとプラントル (1902)による分類ではシダ類 Filicalesのもとに、薄嚢シダ目 Leptosporangiataeリュウビンタイ目 Marattialesとともにハナヤスリ目 Ophioglossalesとして置かれた[8]Christensen (1938)では、リュウビンタイ目とともシダ類 Filicesのうちの真嚢シダ類 Eusporangiataeにハナヤスリ目として置かれた[8]。以降、シダ類の中にコープランド (1947)田川と岩槻 (1972)のように独立して置かれたり、Ching (1978)のように真嚢シダ類 Eusporangiopsidaの下に置かれたりした[8]

長谷部ら (1995)rbcL分子系統解析により、マツバラン類とハナヤスリ類が近縁であり、真嚢シダ類は単系統ではないことが分かった[13]Wickett ら (2014)Puttick ら (2018)による分子系統解析に基づく系統樹は以下の通りである[14]

陸上植物
コケ植物

ツノゴケ植物 Anthocerotophyta

苔類 Marchantiophyta

蘚類 Bryophyta

Bryomorpha
維管束植物

小葉植物 Lycophyta

大葉植物
大葉シダ植物

トクサ亜綱 Equisetidae

リュウビンタイ亜綱 Marattidae

ハナヤスリ亜綱

マツバラン目 Psilotales

ハナヤスリ目 Ophioglossales

Ophioglossidae

薄嚢シダ亜綱 Polypodiidae

Moniliformopses
種子植物

裸子植物 Gymnospermae

被子植物 Angiospermae

Spermatophyta
Euphyllophyta
Tracheophyta
Embryophyta

特徴編集

トクサ亜綱と薄嚢シダ亜綱およびマツバラン目の中心柱は中原型の一次木部、旧真嚢シダ類は内原型の一次木部を持ち、上記の系統樹のようにリュウビンタイ亜綱およびハナヤスリ亜綱は単系統群をなすため、最節約的にはリュウビンタイ亜綱とハナヤスリ亜綱の共通祖先で内原型に進化し、マツバラン目で再び中原型に戻ったと考えられる[15]。また、リュウビンタイ目とハナヤスリ目の葉はトクサ類の楔葉や薄嚢シダ類の大葉と異なる性質を持つため、葉のない祖先種から独立に葉を獲得した可能性がある[15]。マツバラン目は根を持たず地下茎を持つが、根が退化した可能性がある[15][9]。大葉を持たず葉状突起を持つが、これは葉が退化したとする考えもあるが[9]、葉が多数回起源であり、各群で独立に獲得されたためとも考えられる[15]。また、マツバラン目の葉状突起はマツバラン属 Psilotumでは維管束を持たず、イヌナンカクラン属(イヌマツバラン属) Tmesipterisでは小葉のように1本の維管束を持つという相違点はあるが、この2群は近縁な姉妹群であることから、相同であると考えられる[15]

ハナヤスリ類とマツバラン類は外部形態が大きく異なるため、遺伝子を調べて初めて近縁であることが分かった[15]。しかし、共通点もあり、大型の真嚢胞子嚢を形成し、1胞子当たり少なくとも1,000個の胞子を形成することや白色根棒状の地中性配偶体を形成しアーバスキュラー菌根菌と内生菌共生し、栄養を得ていることが挙げられる[15]

下位分類編集

PPG I (2016)分類体系に基づく[2]

ハナヤスリ亜綱 Ophioglossidae

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ a b Christenhusz & Chase 2014, pp.571-594
  2. ^ a b c PPG I 2016、pp.563-603
  3. ^ 巌佐ほか 2013, p.1642
  4. ^ 海老原 2016, pp.26-27
  5. ^ 田川 1959
  6. ^ a b c d e f g 岩槻 1975, pp.157-193
  7. ^ 伊藤 1972, pp.165-169
  8. ^ a b c d e f Kato 2005, pp.111-126
  9. ^ a b c d e 伊藤 2012, pp.116-129
  10. ^ Smith et al. 2006
  11. ^ 今市 1992, pp.6-10
  12. ^ 岩槻 1992, pp.26-28
  13. ^ Hasebe et al. (1995)
  14. ^ 長谷部 2020, pp. 1-4, 68-70
  15. ^ a b c d e f g h 長谷部 2020, pp. 153-173

参考文献編集

  • Ching, R.-C. (1978). “The Chinese fern families and genera: systematic arrangement and historical origin”. Acra Phytotax. Sin. 16: 1-19. 
  • Christenhusz, Maarten J. M.; Chase, Mark W. (2014). “Trends and concepts in fern classification”. Annals of Botany 113: 571-594. 
  • Christensen, C. (1938), Filicinae . Tn: Verdoorn, Fr.. Manual of Pteridology. Den Haag: Martinus Nijhoff. pp. 522-557 
  • Copeland, Edwin Bingham (1947). Genera Filicum, the genera of ferns. Waltham: Chronica Botanica 
  • Engler, Adolf; Prantl, Karl (1902). Die Natürlichen Pflanzenfamilien1 (4).Pteridophyta. Leipzig: Velag non Wilhelm Engelmann 
  • Hasebe, M.; Wolf, P. G.; Pryer, K. M.; Ueda, K.; Ito, M.; Sano, R.; Gastony, G. J.; Yokoyama, J. et al. (1995). “Fern phylogeny based on rbcL nucleotide sequences”. Amer. Fern J. 85: 134–181. 
  • Kato, Masahiro (2005). “Classification, Molecular Phylogeny, Divergence Time, and Morphological Evolution of Pteridophytes with Notes on Heterospory and Monophyletic and Paraphyletic Groups”. Acta Phytotax. Geobot. 56 (2): 111-126. 
  • PPG I (The Pteridophyte Phylogeny Group) (2016). “A community-derived classification for extant lycophytes and ferns”. Journal of Systematics and Evolution (Institute of Botany, Chinese Academy of Sciences) 56 (6): 563-603. 
  • Puttick, Mark N.; Morris, Jennifer L.; Williams, Tom A.; Cox, Cymon J.; Edwards, Dianne; Kenrick, Paul; Pressel, Silvia; Wellman, Charles H. et al. (2018). “The interrelationships of land plants and the nature of ancestral Embryophyte”. Current Biology (Cell) 28: 1-3. doi:10.1016/j.cub.2018.01.063. 
  • Smith, Alan R.; Pryer, Kathleen M.; Schuettpelz, Eric; Korall, Petra; Schneider, Harald; Wolf, Paul G. (2006). “A classification for extant ferns”. TAXON 55 (3): 705-731. http://fieldmuseum.org/sites/default/files/smith-et-al-taxon-2006.original.pdf. 
  • Tagawa, M.; Iwatsuki, K. (1972). “Families and genera of the pteridophytes known from Thailand”. Mem. Fac. Sci. (Kyoto Univ. Ser. Biol.) 5: 67-88. 
  • Verdoorn, Fr. (1938). Manual of Pteridology. Den Haag: Martinus Nijhoff 
  • Wickett, Norman J. (2014). “Phylotranscriptomic analysis of the origin and early diversification of land plants”. PNAS 111 (45): E4859-E4868. 
  • 伊藤洋 ほか共著 『シダ学入門』ニュー・サイエンス社、1972年8月20日、165-169頁。 
  • 伊藤元己 『植物の系統と進化』裳華房〈新・生命科学シリーズ〉、2012年5月25日、116-129頁。ISBN 978-4785358525 
  • 今市涼子 (1992). “根の起源と加藤維管束植物の体制”. 根の研究 01 (4): 6-10. 
  • 巌佐庸、倉谷滋、斎藤成也塚谷裕一 『岩波生物学辞典 第5版』岩波書店、2013年2月26日、1642頁。ISBN 9784000803144 
  • 岩槻邦男 (1975), シダ植物門 . In:山岸高旺編集 編 『植物分類の基礎』(2版)図鑑の北隆館、1975年5月15日、157-193頁。 
  • 岩槻邦男 『日本の野生植物 シダ』平凡社、1992年2月4日、26-28頁。 
  • 海老原淳、日本シダの会 企画・協力 『日本産シダ植物標準図鑑1』学研プラス、2016年7月13日、26-27頁。ISBN 978-4054053564 
  • 加藤雅啓 (1987). “根の起源と維管束植物の分類”. 長野県植物研究会誌volume=20: 58-61. 
  • 田川基二 『原色日本羊歯植物図鑑』保育社〈保育社の原色図鑑〉、1959年10月1日。ISBN 4586300248 
  • 長谷部光泰 『陸上植物の形態と進化』裳華房、2020年7月1日、1-4,68-70,124-173頁。ISBN 978-4785358716 
  • 村上哲明 (2012), シダ植物(広義) . In: 日本植物分類学会 監修戸部博田村実編著 『新しい植物分類学Ⅱ』講談社、2012年8月10日、67-73頁。ISBN 978-4061534490 

関連項目編集