メルボルン市電Z形電車 > メルボルン市電Z3形電車

Z3形は、オーストラリアメルボルンの路面電車であるメルボルン市電に在籍する電車。「Z形」と呼ばれる、1970年代以降量産が実施された一連のボギー車の1つで、従来の車両から車体構造や機器が大幅に変更されている[2][3][4][5]

メルボルン市電Z3形電車
183(2009年撮影)
基本情報
製造所 コモンウェルス・エンジニアリング
製造年 1979年 - 1984年
製造数 115両(116 - 230)
投入先 メルボルン市電
主要諸元
編成 ボギー車
軸配置 B′B′
軌間 1,435 mm
電気方式 直流600 V
架空電車線方式
最高速度 70 km/h
起動加速度 1.6 m/s2
減速度(常用) 1.6 m/s2
減速度(非常) 3.0 m/s2
編成定員 着席42人
定員70人
最大125人(乗客密度6人/m2時)
車両重量 21.8 t
全長 16,740 mm
全幅 2,670 mm
全高 3,410 mm
床面高さ 850 mm
車体 鋼製
台車 デュワグ
車輪径 660 mm
固定軸距 1,800 mm
主電動機 AEG製ABS 3322[1]
主電動機出力 195 kW
歯車比 5.666
出力 390 kW
制御方式 電機子チョッパ制御
制御装置 AEG・シーメンス
制動装置 発電ブレーキディスクブレーキ電磁吸着ブレーキ
備考 主要数値は[2][3][4][5]に基づく。
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概要 編集

1970年代、当時メルボルン市電を運営していたメルボルン都市圏路面電車委員会英語版(Melbourne and Metropolitan Tramways Board、MMTB)はオーストラリアの鉄道車両メーカーであったコモンウェルス・エンジニアリング、通称「コメンジ」が手掛けるボギー車Z形を導入し、路線網の近代化を促進していた。その中で1977年、老朽化が進んだW2形の置き換え用としてMMTBは100両の追加車両の入札を実施し、コメンジを含む複数の企業が応じた。その中でコメンジは従来のZ形の構造・方針を変更した上でMMTB側が台車や機器を複数の選択肢から選択可能とする内容を提出し、最終的に同社が選ばれる事となった。そして1978年に締結された契約内容を基に製造が開始されたのがZ3形である[4][5]

Z3形は従来のZ形(Z1形、Z2形)と同様に両運転台式のボギー車で車体の基本デザインも共通だが、以下のように構造や機器に関する多数の変更が生じている[2][3][4][5]

  • 前照灯・尾灯の配置変更 - Z1形・Z2形は車体下部に横方向に前照灯や尾灯が並ぶ配置であった一方、Z3形は縦方向に変更された。
  • 乗降扉の増設 - Z3形は従来のZ1形・Z2形から扉の数が増え、両側3箇所に設置された。また中央の扉の位置も車体中央部へ移設された。これにより乗客の流動性が改善されている。
  • 方向幕の変更 - Z1形・Z2形に導入されながらも故障が相次いだフラップ式方向幕に代わり、Z3形は回転式方向幕が前面に設置された。
  • 機器の変更 - Z1形・Z2形はスウェーデンヨーテボリ市電スウェーデン語版に導入されたM28形電車スウェーデン語版を基に設計が行われた関係で台車や制御装置はスウェーデンのASEAが製造を手掛けた一方、Z3形は双方ともドイツの企業が生産した機器を用い、ボギー台車はデュワグ、制御装置はシーメンスAEG製のものが搭載された。これに伴い、制御方式も電機子チョッパ制御方式に変更されている。

1979年から量産が実施され、1984年までに115両(116 - 230)が製造された。製造当初は集電装置にポールが用いられた他中央扉付近に車掌が配置されていたが、後年にワンマン運転へ移行した他、集電装置もシングルアーム式パンタグラフへ交換された。また、塗装についても登場当初は上半分がクリーム色、下半分がオレンジ色というZ形独自の塗り分けを有していたが、1983年以降は他形式と共に黄色がかったクリーム色と緑色を用いたデザインに変更され、メルボルン市電の運営が民間事業者へ移管された後は各事業者の塗装を纏っている[2][6]

2013年以降は視認性の向上も兼ねた塗装変更、内装やガラスの修繕、座席の布張りの交換などの更新工事が継続して実施されており、2020年現在も火災で廃車となった1両(149)を除いた114両が各系統で使用されている[7][8][9]

今後の予定 編集

2025年以降、メルボルン市電には超低床電車G形フレキシティ2)が導入される予定であり、高床式電車であるZ3が置き換え対象となっている[10]

脚注 編集

注釈 編集

出典 編集

  1. ^ Tram Track Design”. ヤラトラム. 2023年1月27日閲覧。
  2. ^ a b c d 服部重敬「シドニーで路面電車復活! オーストラリア路面電車最新事情」『鉄道ファン』第38巻第8号、交友社、1998年8月1日、84頁。 
  3. ^ a b c New Non-Articulated Tramcar for Melbourne (PDF) (Report). Council of Tramway Museums of Australasia. 1982年7月. pp. 51–53. 2020年11月17日閲覧
  4. ^ a b c d Melbourne and Metropolitan Tramways Board Z3 Class Tram - Melbourne, Australia (PDF) (Report). Council of Tramway Museums of Australasia. 1982年7月. pp. 54–56. 2020年11月17日閲覧
  5. ^ a b c d John Dunn 2013, p. 31-36.
  6. ^ Dale Budd (2014). The Melbourne Tram Book (3rd ed.). University of New South Wales. pp. 44-45. ISBN 9781742233987. http://dl.booktolearn.com/ebooks2/travel/9781742233987_the_melbourne_tram_book_81e6.pdf 2020年11月17日閲覧。 
  7. ^ Melbourne's tram fleet”. YarraTrams. 2020年11月17日閲覧。
  8. ^ Makeover for Z-Class trams”. YarraTrams (2013年8月22日). 2020年11月17日閲覧。
  9. ^ Z3.149”. VICSIG (2005年8月27日). 2019年7月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月17日閲覧。
  10. ^ Next Generation Trams”. Victoria State Goverment. 2022年4月21日閲覧。

参考資料 編集

  • John Dunn (2013年4月11日). Comeng : A History of Commonwealth Engineering, Volume 4 : 1977-1985. Rosenberg Publishing. ISBN 978-1922013514