ロシアの教育(ロシアのきょういく)として、この項目ではロシア連邦教育を解説する。

ロシア連邦の教育
ロシア連邦教育・科学省
教育科学大臣 オリガ・ヴァシーリエワ
国の教育予算 (2011年)
予算額: 4925億ルーブル[要出典]
詳細
主要言語: ロシア語
卒業率(2012年)
中等教育 94%a [1]
第3次教育 53%a [1]
a 25歳から64歳における教育達成率
9月1日は「知識の日」という祝日であり、子供たちの入学を盛大に祝う。

ロシアの教育はロシア教育・科学省が所管していたが、2018年5月からはロシア教育省(初等・中等教育)とロシア科学・高等教育省科学アカデミー・高等教育)に分割された。義務教育は11年間で4-5-2制である[2][* 1]学期は9月から始まり、4学期制で秋・冬・春・夏の休みがある。

初等・中等学校はモスクワ市内だけでも約1,500あるが、固有の校名といったものは無く「第1,500学校」のように番号で名付けられている。生徒人数はロシア国内で約1,800万人以上である。私立学校に通うのは、就学前教育で1%、初等教育で0.5%、大学レベルで17%ほど[3]

ロシアの教育は、子どもによく勉強させることが特徴である。基礎知識を教えるだけでなく、創造性を伸ばすために自分で考えるプログラムも多く、生徒の自主性を尊重する選択科目制が導入されている。

根拠法 編集

ロシアの教育に関する基本法は、連邦法「ロシア連邦における教育について」2012年12月29日付 第273-FZである。 2013年9月1日発効。全111条。改定が何度かされている。 (: Федеральный закон от 29.12.2012 № 273-ФЗ "Об образовании в Российской Федерации"

旧基本法は ロシア連邦法「教育について」1992年7月10日付 第3266-1である。(全58条) (: Закон РФ от 10.07.1992 № 3266-1 "Об образовании"

ロシア連邦憲法の教育に関する条文は第43条などがある。(親の教育義務は第38条第2項)

教育システム 編集

教育システムは、教育の基本法(連邦法 第273-FZ 2013年9月1日発効)第10条「教育システムの構造」で定めている。

その第10条の中では、教育を大きく4つに分け、それぞれをさらに細分している。それらを整理すると次のようになる。なお、対応する教育機関の種類や具体的な点については基本法には無いが、説明として補足した。

  • 普通教育 - 特定地域(連邦市など)の公立校(市などが設置)は国家予算教育機関が多い。また、モスクワ市は独自の改革を行っている[* 2]
    • 就学前教育 - 幼稚園など。幼稚園は公立が多い。
    • 初等・基本・中等普通教育 - この3段階の教育水準が義務教育とされている[2][4]。一般的にはシュコーラ[* 3]と呼ばれるが、プロギムナージヤ、ギムナジア(ギムナージヤ)やリツェイの名称をもつもの[* 4][5]、英語や芸術分野など特定の教育を重視するものなど、公立校であっても多様化している。ひとつの教育機関の中で3段階の教育を行うのが一般的である。学年は1年生から11年生と3段階の教育を通したものになる[* 5]
      • 初等普通教育 - 4年間 1~4年生[2][* 1](現行制度[* 6]では、基本的に新入学時に6歳6ヶ月以上[2][6]
      • 基礎普通教育 - 5年間 5~9年生[2]
      • 中等普通教育 - 2年間 10~11年生[2] 日本の高等学校相当。10年生に進むのは、主に大学進学予定者である。[* 7]国際標準教育分類 ISCED-97 3A[7]
  • 専門教育 - 社会人向けのコースを積極的に設けている教育機関が多い。
    • 中等専門教育 - カレッジなどの中等専門学校。一部の技能を除いて基本普通教育(9年生)の後に入学できる。(ISCED-97 3B + 5B(中等普通教育程度を終了している人のコースは 5B)[7][* 8]
    • 高等教育 - 各種の大学[* 9] 学士(通常4年かそれ以上)、専門家(5年かそれ以上)。大学院教育。
  • 追加教育(: дополнительное образование) - 子供の追加教育、成人の追加教育、追加専門教育。子供の追加教育は、日本の学校で授業とは別に行われる教育(クラブ活動や林間学校など)が相当するが、より広い範囲の教育活動がある。学校または公立の追加教育機関で行われる。
  • 職業訓練(: профессиональное обучение

教育目的に応じた形態が取られることがあり、細かな実態はこれより複雑である。

夏休み前に卒業する関係で、4年の年限をロシアの資料では3年10ヶ月などとすることがある。

連邦国家教育スタンダード 編集

連邦国家教育スタンダードにより、普通教育と専門教育(専門分野ごと)の基本教育内容が定められている。(: федеральный государственный образовательный стандарт (ФГОС)

旧制度との違い 編集

以前の制度にあった初等専門教育(専門リツェイなどが相当)は無くなっている。高等専門教育は高等教育となり、大学院にあたる大学後専門教育(高等後期専門教育)は高等教育の一つとなった。

初等・基本普通教育 編集

ロシアの初等・基本普通教育は大学進学前の中等普通教育を含めた11年制のシュコーラと呼ばれる学校で行なわれる。子供は6歳あるいは7歳から学校に入学する(入学する9月1日に6歳6ヶ月以上[2])。

学年が終わる頃(5月末~6月頃)6年生から10年生までの生徒たちは主要2~3科目の試験を受け、その結果も踏まえて学年の成績がつく。9年生は、義務教育の終了であり、より複雑な試験(4科目)を受け、生徒の一部が学校を卒業する。[要出典]

国立普通学校[疑問点](この教育段階のほとんどの学校は国立ではなく公立である)の多くは共学で、1クラス25~35人[要出典]程の生徒数で授業が行われる。また、国立学校の場合授業料は無料である(私立は有料)。

ギムナージヤ(ギムナジウム)とリツェイと呼ばれる学校では、専門科目や義務教育プログラムより多くの選択科目(例えば、論理学)を含んだ教育を受けられ、教育のレベルが高く、一般の学校よりも入学するための競争率が高い。ギムナージヤでは人文・社会科学の科目、リツェイでは自然・技術科目に力を入れている[5]

また、2006年より新しい初等・中等教育基準が正式に導入される予定で、現在は新制度への移行段階にある。従来は、第4学年から第一外国語(英・独・仏・西の4ヶ国語から選択)の授業が始められていたが、新制度では第2学年からの開始に統一される予定で、すでに第2学年からの外国語教育を開始している学校も多い。第一外国語の学習は必須である。

第二外国語は各学校の裁量により設置され、第5学年から開始される。その他、ファクリタチフと呼ばれる選択科目としての外国語の授業が行なわれている。このファクリタチフは日本の選択科目より自由な性質を持つものであり、評価や履修の記録は成績表に特に残されないことも多い。選択科目として設置される外国語のうち、東洋系の言語は日本語もしくは中国語の場合が多い。

夏休みは6月、7月、8月の3ヶ月。しかし、長い分、宿題の量ももちろん多い。

中等教育 編集

中等普通教育 編集

中等普通教育とは、3Aレベルの高等教育進学準備過程であり、2年間の教育が行われる[7]

卒業試験は、「統一国家試験」制度が導入された。この成績が一定の大学の入学の手続きで認められて、これが高い場合、このまま入学できる。ただ、実際には一流大学では統一国家試験の成績がほとんど考慮に入れられず、この大学の特別入学試験でしか入学できない。

中等専門教育 編集

中等専門教育機関には、一般学校で9年間の初等・基本普通教育(2Aレベル)を終えた生徒が[7]主に入学し、技能により3-4年程度学習する。

大学より下位の専門職になるが、広範な分野の教育が行われる。看護師保育士図書館員、地下鉄の機関士等が中等専門教育機関修了者である。専門学校の教育プログラムには普通、一般学校の10年生と11年生が学んでいる科目と専門科目が平行して入っている。中等専門教育を受けた後、その分野の大学に入る者も多く、大学入学の際に有利になることがある。

高等教育 編集

 
モスクワ大学

各種の大学がこれに当たる。修業年限は通常4年かそれ以上で学士を取得する。(5年間修学のところは専門家の場合もある)[8]

高等教育での学生の数は約586万人である(2004年)。

現在、モスクワには約85の高等教育機関が存在しており、

などが有名である。これらほとんどが国立大学である。

高等教育は、財政難より有料化しつつある。だが、有料コース(約1000~6000ドル/月)と無料コースがあり受験生は自由に選択出来る(無料コースは有料コースに比べ競争率が高い)。また、社会人の為の有料の通信・夜間過程も充実している。

大学入学の条件は、中等一般教育あるいは中等専門教育の終了である。普通は6月に入学募集があり、大学受験生が各大学に組織化される入学委員会に一定の書類を提出する。7月と場合によって8月には入学試験が行われる。

専攻に関わらず、第1学年から第3学年の間、第一外国語の履修が義務付けられている。言語学、文学、翻訳・通訳論、国際関係論、世界経済などを専攻とする場合は第二外国語、ときには第三外国語の履修が義務付けられる。ロシア教育・科学省の定めにより、一般科目としての第一外国語は英・独・仏・西の4ヶ国語から選ばなくてはならない。

21世紀初頭の改革 編集

21世紀初頭のロシア科学アカデミーの改革に先立って、高等教育機関の改革も始まった[9]。2005年のユネスコのレポートによると、ロシアの成人人口の半数以上が高等教育を受けており、これはOECD平均の2倍である[10]。2007~2008年度のロシアでは、あらゆる形態の高等教育(軍事機関、警察機関、大学院研究を含む)に810万人の学生が在籍していた。留学生は入学者の5.2%を占め、その半分は他のCIS諸国からであった[11]。620万人の学生が、教育省によって認可された658の国有および450の私立大学レベルの機関に登録された。2005年には総教員数は62,500人に達した。

国有の高等教育機関の数は、1990年の514から2002年の655まで着実に増加しており、2002年以降ほぼ一定してきた。1995年に最初に193と報告された民間高等教育機関の数は増え続けている。こうした中で、南部連邦管区ロストフ・ナ・ドヌタガンログ、その他の南部の町の国立大学および地方大学がロスト・ナ・ドヌにある南部連邦大学に統合されて、2006年に連邦大学への統合・設立が始まった。同様な連邦大学への統合が、シベリア連邦管区クラスノヤルスクシベリア連邦大学として設立され、3校目の連邦大学は極東連邦管区ウラジオストクに極東連邦大学として登場した。モスクワ国立大学サンクトペテルブルク国立大学は、2007年に特に組織変更なしで連邦大学となり、このステータスを取得した。

アンドレイ・フルセンコ教育・科学大臣(2004~2012年)は、卒業証書工場と標準以下の大学を排除するために、高等教育機関の数を削減するように動いてきた。 2008年4月、彼の計画はドミトリー・メドベージェフ大統領によって承認された。彼は「この数、約1000の大学とそこからさらに2000の分校は、世界の他のどこにも存在しない。教育基準の切り下げだ。」といっている[12]。経済学者・政治家のエフゲニー・ヤシン(Евгений Ясин)のような削減の支持者でさえ、この動きがモスクワサンクトペテルブルクノボシビルスクの学界の統合を強化し、地方を荒廃させて、地元の学校の教師を訓練するための大学が残さないことを心配している[13]

しかしその後も連邦大学の設立は止まらず、その後も5つの連邦大学が設立された。北西連邦管区北方(北極)連邦大学およびバルト連邦大学沿ヴォルガ連邦管区カザン(ヴォルガ)連邦大学ウラル連邦管区ウラル連邦大学、極東連邦管区サハ共和国北東連邦大学北カフカース連邦管区北カフカース連邦大学である。

音楽・芸術学校 編集

ロシアでは音楽、美術、芸術学校は国立が多い。

サンクトペテルブルクの場合、音楽学校は30以上、美術学校は20以上、音楽・美術・工芸科などがある芸術学校が30以上あり、約90校が1つの都市にある。

教育費は有料だが、中流家庭にも十分に払える額である。

学校によって異なるが、4~10歳で入学し音楽学校は7~8年、美術学校は4~6年教育を受けた後、さらに高等教育を受ける。

日本語教育 編集

日本語を教える学校はモスクワには9校、モスクワ州には2校、サンクトペテルブルク市には3校、ニジニ・ノヴゴロド市には2校、エカテリンブルク市には5校、イルクーツク市には3校、ノヴォシビルスク市には5校、ハバロフスク市には1校、ウラジオストク市には3校がある。

1998年から毎年、日本国大使館主催によりモスクワウラジオストクサンクトペテルブルクペルミアストラハンで日本語能力試験が行われている。

日本人日本語教師のいる学校では、日本で作られた教科書が使用されることが多い。近年は、ロシア人教師の著作による初等・中等教育向けの日本語教科書も出版されるようになっているが、依然として日本で作られた教材への需要は高く、国際交流基金の日本語教材寄贈プログラム等への期待が高い。

その他の話題 編集

学校成績 編集

教師が毎日、子どもたち一人ひとりの授業態度や理解度などを成績ノートに書き込む。ロシアの初等・中等教育では5段階評価システムが用いられており(3以上が合格)、1や2をとった子どもは親に怒られるのを怖がってよく成績ノートをなくす、という。しかし、1がつく事は全くないといっても良いので、最低の成績の事は俗に「ドゥウォーイカ(2のくだけた言い方)」と呼ばれる。

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ a b 4年-5年-2年という各教育の修業年限は教育の基本法に規定はない。連邦国家教育スタンダードでは規定されている。
  2. ^ モスクワ市は教育機関の統合が進んでおり、近隣の学校をある程度の規模で教育複合体(: образовательный комплекс)として一つにまとめている。普通教育機関と幼稚園それぞれ数校ずつを合わせてひとつにしたケースが多い。経営や学校運営上の統合程度にとどまっている場合もあるが、支出の合理化だけでなく、規模が原因で学校単位では選択肢を持ちにくかった問題や、就学前児童の入学準備にかかわる問題が緩和可能な環境ができた。また、複数の場所に校舎があるため、初等普通教育(日本の小学校相当)を別校舎にするなど、教育段階の分離や一貫性の選択肢も持ちうるようになった。
  3. ^ シュコーラはロシア語で学校のこと。(: школа
  4. ^ ギムナジアやリツェイの名称を持つ学校の実態は地域や学校でかなり異なる。これらはソ連末期以降の教育の多様化(あるいは混乱)の中で既存校から転換した場合が多く(地域によるが、転換前の学校番号のままの場合がある)、数も少数とは言えないほど増えている。すべての入学者を選考で決めるのは一部で、公立校であるため一般校と同じように担当学区を持つ学校が多い。また、ギムナジア・リツェイは文系・理系の違いとされる地域がある一方、文系・理系両方の進路に対応している地域もある。
  5. ^ 途中からの教育、例えば、基礎と中等の普通教育を行う学校の場合も初年度が5年生となる。専門教育を並行して行う学校などでは例外もある。
  6. ^ 変更になった時期は、少なくとも旧基本法 第3266-1 第19条第2項が改定されて年齢が明記されるようになる前である。
  7. ^ 進路が別れるため、多くの学校で学年あたりの人数が9年生以下より大幅に減ることになる。
  8. ^ 中等専門教育は修業年限に幅があるため、ISCEDのレベルは代表的な例での可能性がある。出典資料では9年生後のコースが4年間、11年生後のコースが3年間となっている。
  9. ^ 連邦総合大学、総合大学、アカデミア(アカヂェミア)、インスティトゥート(インスチトゥート。単科大学とされることがある)などがある。

出典 編集

  1. ^ a b OECD (2014年). Education at a Glance 2014 (Report). doi:10.1787/eag-2014-en
  2. ^ a b c d e f g 諸外国・地域の学校情報 - ロシア 国・地域の詳細情報”. 外務省. 2017年8月16日閲覧。
  3. ^ Education for all by 2015, p. 284
  4. ^ 基本法 第273-FZ 第66条 第5項など 2017年8月20日閲覧
  5. ^ a b 加賀美雅弘『世界地誌シリーズ 9 ロシア』朝倉書店、2017年、123頁。ISBN 978-4-254-16929-4 
  6. ^ 基本法 第273-FZ 第67条 第1項 第2文と第3文 2017年8月20日閲覧
  7. ^ a b c d ISCED Mappings ロシアのデータ 1997年 および 2011年”. UNESCO. 2017年8月20日閲覧。
  8. ^ オリガ・ゴルシコワ、パーベル・コシュキン. “高等教育に新制度”. ロシアNOW. 2017年9月1日閲覧。
  9. ^ ロシアの科学技術政策と北極研究「ロシア科学アカデミーとその改革」(2015年)
  10. ^ ロシア連邦の州立および市立高等教育機関の学生数 高等教育機関の主要業績評価指標(教育・科学省) (ロシア語)
  11. ^ 外国人学生の数、ロシア連邦の州立および市立高等教育機関の学生 (ロシア語)
  12. ^ ロシアには不当な大学が非常に多くあるため、中国全体にも十分であるとメドベージェフは確信(2008年) (ロシア語)
  13. ^ 「特集」:ロシアの大学の数を減らす問題は、両面がある。 (ロシア語)

関連項目 編集

外部リンク 編集

連邦国家教育スタンダード”. ロシア連邦教育科学省. 2017年8月30日閲覧。