在監者喫煙権訴訟(ざいかんしゃきつえんしゃそしょう)とは在監者の喫煙を禁止した監獄法施行規則第96条が喫煙の自由を侵害し、幸福追求権を規定した日本国憲法第13条に違反すると主張して争われた訴訟[1]

最高裁判所判例
事件名 国家賠償請求
事件番号 昭和40(オ)1425
1970年(昭和45年)9月16日
判例集 民集第24巻10号1410頁
裁判要旨
監獄法施行規則九六条中未決勾留により拘禁された者に対し喫煙を禁止する規定は、憲法一三条に違反しない。
大法廷
裁判長 石田和外
陪席裁判官 入江俊郎草鹿浅之介長部謹吾城戸芳彦田中二郎松田二郎岩田誠下村三郎色川幸太郎大隅健一郎松本正雄飯村義美村上朝一関根小郷
意見
多数意見 全会一致
反対意見 なし
参照法条
憲法13条,監獄法施行規則96条
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概要

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高知市の旅館業経営者Xは公職選挙法違反の容疑により1963年5月30日より同年6月7日まで高知刑務所において未決勾留による拘禁を受けた[2][3]。その間、「在監者には〔中略〕煙草を用いるを許さず」とする監獄法施行規則第96条に基づいて喫煙を禁止されたが、Xは高知刑務所長及び法務大臣に対して禁煙処分の解除の請願をしたが受れられなかった[4][2]。一日40本から50本の煙草を常用する愛煙家であったXは、国に対して禁煙処分によって精神的苦痛を受けたとして11万円の慰謝料の支払いを求めた[4][2]

1965年3月31日高知地裁はXの請求を棄却した[4]。Xは控訴したが、同年9月25日高松高裁も同様に請求を棄却した[4]。Xは、監獄法施行規則第96条は未決拘禁者の自由及び幸福の追求についての基本的人権を侵害するものであって日本国憲法第13条に違反するとして上告した[4]

1970年9月16日最高裁は「喫煙の自由は基本的人権の一つだとしても、タバコは生活必需品とはいえず普及率の高い嗜好品にすぎない。喫煙を禁止しても人体に障害はなく、愛好者に対し相当な苦痛を感じさせるとしても、喫煙の自由をあらゆる場所で保障されなければならない自由ではない。」「喫煙を許すと火災や拘置者同士の通謀のおそれがあるから、喫煙禁止は必要かつ合理的」として上告を棄却し、Xの敗訴が確定した[3][5]

脚注

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  1. ^ 村中洋介 (2019), p. 207.
  2. ^ a b c 戸松秀典 & 初宿正典 (2018), p. 28.
  3. ^ a b 「留置所で喫煙は当然 “人権侵害の訴え”最高裁でも不発」『朝日新聞朝日新聞社、1970年9月16日。
  4. ^ a b c d e 憲法判例研究会 (2014), p. 36.
  5. ^ 「監獄でのたばこはダメ 人権侵害の訴えに 最高裁、上告を棄却」『読売新聞読売新聞社、1970年9月16日。

参考文献

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  • 憲法判例研究会 編『憲法』(増補版)信山社、2014年6月30日。ASIN 4797226366ISBN 978-4-7972-2636-2NCID BB15962761OCLC 1183152206全国書誌番号:22607247 
  • 戸松秀典初宿正典 編『憲法判例』(第8版)有斐閣、2018年4月。ASIN 4641227454ISBN 978-4-641-22745-3NCID BB25884915OCLC 1031119363全国書誌番号:23035922 
  • 佐藤幸治土井真一 編『憲法』 1巻《基本的人権》、悠々社〈判例講義〉、2010年4月。ASIN 4862420125ISBN 978-4-86242-012-1NCID BB0186625XOCLC 703356567全国書誌番号:21750873 
  • 村中洋介『地方自治法』 204巻《条例制定の公法論》、信山社学術選書〉、2019年12月26日。ASIN 4797282347ISBN 978-4-7972-8234-4NCID BB29444801OCLC 1140674252全国書誌番号:23329858 

関連項目

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