奇巌城

モーリス・ルブランの小説
奇岩城から転送)

奇巌城(きがんじょう、「奇岩城」とも、原題:L'Aiguille creuse)は、モーリス・ルブランアルセーヌ・ルパンシリーズの一篇。1909年発表。

奇巌城
L'Aiguille creuse
著者 モーリス・ルブラン
イラスト Léo Fontan
発行日 1909年
発行元 Éditions Pierre Lafitte
ジャンル 推理小説
フランスの旗 フランス
言語 フランス語
前作ルパン対ホームズ』/『ルパンの冒険
次作813
ウィキポータル 文学
[ ウィキデータ項目を編集 ]
テンプレートを表示

概要

編集

ルパンシリーズの単行本第3冊目(「戯曲アルセール・ルパン」の小説化「ルパンの冒険」を計上すると4冊目)にして、初の長編(1冊目は短編集、2冊目は中編2本)。ルパンが過去3本の短・中編で対決してきたライバル探偵エルロック・ショルメ(邦訳ではシャーロック・ホームズ)との、最後の直接対決でもある。

原題を直訳すると『空洞の針』ないし『空ろの針』などとなる。「奇巌城」とは日本で最初にルパン全集を訳した保篠龍緒による訳題で、以後ほぼすべての邦訳で用いられている。

探偵エルロック・ショルメや、高校生探偵イジドール・ボートルレ(この作品にのみ登場する)[1][2]、ガニマール警部などとの激しい知力合戦が繰り広げられる。

ルブランはレオポルド・マルシャンと共同で、『奇岩城[要校閲]』を4幕の戯曲に脚色する作業を進めていたが、これは実現しなかった[3][4]

ルブランの最初の公開作品(1890年3月15日、Revue illustrée)であり、エトルタを舞台にした短編「救助(Le Sauvetage)」でも、すでに奇岩の事が"aiguille"と記されている。

あらすじ

編集

ノルマンディーのジェーブル伯爵邸で、殺人事件と絵画の盗難事件が発生した。事件には、すでに伝説的怪盗として名を馳せていたアルセーヌ・ルパンの影があった。高校生探偵イジドール・ボートルレは次々に謎を解き、ルパンの足取りを突き止めてゆく。フランス王家の財宝やガニマール警部、イギリス人探偵エルロック・ショルメも絡み、事件は次第に壮大な全貌を見せはじめる。

作品内の暗号

編集
 

ボートルレは数字を母音に、カンマを子音に置き換え、5行目からAiguille creuse(エギーユ・クルーズ)という単語を導き出し、クルーズ県のエギュイユ城からレイモンド嬢と父親を助け出すが、これはルパンのそしてルイ14世による策略に見事に引っかかる結果となってしまった。最終的にボートルレはすべてを読み解く。なお、4行目の暗号はまったく異質のものである。

ルパンシリーズにおける意義

編集

この作品で、ルパンはその難攻不落の隠れ家にして資金源でもある「エイギュイユ・クルーズ」(空洞の針)から追い出されることになる。『エイギュイユ・クルーズの事を考慮に入れない限り、ルパンは全く不可解な存在になり、伝説中の人物、現実離れのした伝奇物語中の主人公になってしまう。しかし、このとてつもない秘密を知っていたとしても、ルパンは、実はごく普通の人間なのだ。ただこの途方もない武器を、極めて巧みに使う術を知っているだけなのだ』(以上、「奇巌城」から抜粋)と言うように、エイギュイユ・クルーズは、初期のルパンの活躍における、力の源泉であったことが明かされる。

この物語の核心となる謎は、後の作品「カリオストロ伯爵夫人」で語られる、マリー・アントワネットの口から語られカリオストロ伯爵が追い求めていたと言う「カリオストロ4つの謎」のうちの一つである。

ホームズとショルメ

編集

ルブランは短編「遅かりしシャーロック・ホームズ」の雑誌発表時、当時大人気を博していた英国の小説家アーサー・コナン・ドイルの探偵小説の主人公シャーロック・ホームズの名前をそのまま使って登場させ、ルパンと対決させた。しかしルブランは、以降の作品ではこのキャラクターをホームズとは別人ということにし、アナグラムを用いてエルロック・ショルメ (Herlock Sholmès) という名前に変え、キャラクター付けも明確に変えたオリジナル・キャラクター(正確にはパロディー・キャラクター)として構築している。「遅かりし」も、単行本(「怪盗紳士ルパン」)では「ショルメ」と修正して収録された。

しかしながら、アナグラムからも容易にわかるように、ショルメがホームズを指すことは当時の作者及び読者の共通認識である。なお、日本では古くから「エルロック・ショルメ」は「シャーロック・ホームズ」と改変して訳す慣習となっている(原文では、アナグラムから容易にショルメ=ホームズであると連想できるのに対し、日本語訳でそのままエルロック・ショルメとすると、ショルメ=ホームズとの連想が成立しにくいため)。

森田崇の漫画作品「アバンチュリエ」では、ショルメの英語読み「ハーロック・ショームズ」で登場しているが、長身、鷲鼻、インバネスコートに鹿撃帽など、それとわかる特徴が強調されている。

ルブランとルルー

編集

ルブランが、本作にルルーの『黄色い部屋の秘密』などに登場するルールタビーユを思わせる、少年探偵ボートルレを登場させたことから、ルブランとルルーの関係は、一時期、かなり険悪なモノになった[要出典]

舞台

編集
 
エトルタの海岸。左の針状の大きな岩が「エギーユ・クルーズ」のモデル

フランスノルマンディーコー地方。ルーアンル・アーブルディエップを結ぶ三角地帯が中心。ここは原作者のモーリス・ルブランが生まれた地でもあり、晩年をも過ごしたルブラン最愛の地である[要出典]

エギーユ・クルーズのモデルとなった大針岩はエトルタの海岸に実在している。またこのエトルタの海岸は、同シリーズの「カリオストロ伯爵夫人」や、「八点鐘」の一編「テレーズとジェルメーヌ」の舞台でもある。これはクロード・モネの絵の題材にもなった有名な岸壁である[要出典]。その頂上に登ると崖の内部に潜れるようになっており、『奇巌城』で出てきた暗号がそのまま金属プレートで掲示されている[要出典]。またエトルタには彼の住居を基にしたモーリス・ルブラン記念館、通称「アルセーヌ・ルパンの隠れ家(Le Clos Lupin)」がある[要出典](同名のレストランもある[要出典]ので要注意)。

映画『ルパンの奇巌城』

編集
ルパンの奇巌城
L'aiguille Creuse
監督 秋原正俊
出演者 山寺宏一
製作会社 カエルカフェ
配給 カエルカフェ
公開   2011年5月7日
上映時間 94分
製作国   日本
言語 日本語
テンプレートを表示

ルパンの奇巌城』は、2011年公開の日本映画。舞台を現代の日本にアレンジしたミステリー映画。

監督は秋原正俊。主演は声優の山寺宏一で、七色の声を駆使してルパンを演じている。ロケ地は弘前市八戸市のほか、岡山市高梁市など全国各地で撮影された。

ストーリー

編集

大富豪の面河家秘書が殺害された事件。事件の鍵を握る一人娘のジュンコと使用人のレイナだがその証言は食い違っていた。そこに現れた女子大生探偵伊地知宏美は、次々と謎を解き始め次第に事件の真相に近づき、犯人がアルセーヌ・ルパンであると断定し彼の遺体も発見されるが、その伊地知の元にルパンからの挑戦状が届く。

キャスト

編集
アルセーヌ・ルパン - 山寺宏一
事件の犯人と思われる怪盗。しかし彼の死体が発見される。
伊地知宏美 - 岩田さゆり
ルパンに挑む女子大生探偵。
佐々部教授 - ウド鈴木
八戸大学教授。歴史に詳しく、古地図収集家でもある。
志鷹 - 増田英彦
弘前城管理人。城の鍵を伊地知に渡す。
糸魚川警部 - 初嶺麿代
冷静沈着な女性刑事。
江戸川刑事 - 浪川大輔
柿田川の部下の新米刑事。
面河ジュンコ - 西川風花
面河家一人娘。
佐智子 - 末永遥
柿田川が常連になっている喫茶店の店員。
山鹿 - 松本梨香
案内人として現れた岡山の町の人。ルパンの手下。
レイナ - 黒川芽以
面河家の使用人。
柿田川警部 - 松田洋治
伊地知と共に謎に挑む敏腕刑事。
准教授 - 佐久間未帆
藤井 - 百香
城の内まゆみ - 今村祈履
面河十伍
面河家家主。
佐久山
面河家秘書で殺害された被害者。

スタッフ

編集

翻案作品

編集

日本では保篠龍緒訳(1918年)以前に三津木春影による翻案作品『大宝窟王』(中興館1912年 - 1913年)が発刊されている(外部リンク参照)。本作は舞台はフランスだが、登場人物の氏名は日本的な氏名に変更されている。

脚注

編集
  1. ^ ガストン・ルルーの『黄色い部屋の秘密』などに登場する青年探偵ルールタビーユの作風の模倣であるといわれている。古い邦訳本では年少読者向けに「イシドル・トルレ」と簡略化されている。
  2. ^ ただし、前リュパン的作品の、短編「カンボン街クラブの殺人」<Le Crime du cercle de la rue Cambon>(1903年8月30日、『ル・プチ・ジュルナル』紙)や、同じく「惨事」<Le Drame>(1904年9月12日、『ロト』紙 <L'Auto>。 = 1893年10月9日に『ジル・ブラス』紙に掲載された「恐ろしき謎」<Un effroyable mystère>の改作)には、ボートルレという司法関係者が登場する。
  3. ^ Derouard, Jacques. Maurice Leblanc –Arsène Lupin malgré lui–. Séguier, 1983, p.546。なお同書脚注には、Léopold Marchandは劇作家で、シドニー=ガブリエル・コレットと共に、彼女の『さすらいの女』や『シェリー』の脚色もしているとある。
  4. ^ 『シネ=フランス』誌1937年5月28日号の「演劇や映画がアルセーヌ・リュパンの後を追いかける時 Quand théâtre et cinéma courent après Arsène Lupin」には、「モーリスは『奇岩城』もマルシャンと共同で脚色中だ」と書かれている。なお、1930年頃に『水晶の栓』も作者と共同で戯曲化計画があったが、これも日の目を見なかった。Jacques Derouard : Le Dictionnaire Arsène Lupin「Marchand, Léopold」の項。

外部リンク

編集