演劇
演劇(えんげき、英語: theater)とは、観客に対し、俳優が舞台上で身振りや台詞などによって、物語や人物などを形象化し、演じて見せる芸術のこと。俳優が観客を前にして、舞台上で思想や感情などを表現し伝達しようとする一連の行為であり、それらを鑑賞する目的もある。


概説編集
演劇とは、生身の俳優が舞台上で仕草や身振り、表情や台詞などを用いて演技し、物語や人物などを観客に対して見せる芸術である。大抵は、作者(劇作家)が筋書き(戯曲・台本)を書き、それにもとづき俳優が舞台上で台詞・動作などを用いて演じ表現する。
また、演劇の多くには演出者(演出家)がいて、劇作術にもとづいて俳優を指導する。舞台装置・照明・音楽・音響なども総合的に用いて効果をあげる。ゴードン・グレイグは演劇を「背景(舞台装置・照明などの「舞台」)と音(俳優が発する声・音楽・音響)が織りなすものである」とし、演劇を総合芸術であると捉えた[1]。このように、用いられる芸術分野は多岐に渡り、音楽や舞踊、舞台音響・舞台照明や舞台美術、舞台機構、時には観客席側も含めた劇場内空間、さらには劇場の建築物としてのデザインにまで至ることもある。演劇のために劇作家が執筆する戯曲は、単体でも文学作品となりうる。
呼称編集
演劇は「芝居」ともいわれる。「芝居」は、平安時代の観客席が芝生であったことに由来している。「舞台」といわれることも多い。
演劇の起源と歴史編集
起源編集
演劇の起源には諸説ある。
古代ギリシアにおいては、悲劇の競演が行われる大ディオニュシア祭は、神ディオニュソスを称える祭儀としての側面をもっていた[3]。また呪術や宗教的儀式には、行為・現象の模倣やその再現が重要な要素として含まれていることも多い。
歴史編集
西洋演劇の淵源は、古代ギリシアに求められる。紀元前5世紀にはギリシア演劇はアテナイにおいて最盛期を迎え、アイスキュロス、ソポクレス、エウリピデスの三大作家を中心とするギリシア悲劇や、アリストパネスなどによるギリシア喜劇が成立した[4]。紀元前4世紀に入るとギリシア演劇は沈滞したものの、その作品は長く地中海一帯で上演され続けた[5]。古代ローマにおいてもギリシア演劇の影響を受けて演劇は盛んに行われ、各地にローマ劇場が建設されたものの、ローマ帝国の衰退とキリスト教の影響によって古代演劇もまた衰退していった[6]。
その後、10世紀に入るとキリスト教の影響の元に宗教劇の記録が文献に現れるようになり[7]、13世紀からは宗教劇を主体とする中世演劇が隆盛を迎える[8]。ルネサンスが始まると人文主義者らによって古代の演劇台本が再発見され、また活版印刷の発明によって台本の大量生産が可能となったために演劇は大きく変化することとなった[9]。
演劇の上演準備編集
上演の準備は、古典的な演劇と現代演劇など、分野や劇団ごとに異なっている。
現代演劇では、上演する前に、それなりの期間(多くは1ヶ月程度)にわたる俳優の稽古が必要となる。多くの演劇作品で上演時間は1時間半以上、長いものでは途中休憩等を除いても3時間以上あり、出演する俳優たちは演出家の指示のもと、稽古を通してセリフや動き・ほかの俳優とのやり取りを身体で覚える必要がある。
古典歌舞伎などの場合は、セリフや動きが型にはまっており、幼少時からの稽古で演目や演技の「型」が役者の身体に染み付いているためか、(上演直前の)稽古期間は数日であるという。新作歌舞伎でも、その稽古期間は現代劇に比べて圧倒的に短い。また、古典歌舞伎に演出家はいない。
現代演劇の場合の上演前の流れは、演目決定後、オーディションまたはオファーで演者決定。顔合わせ(演出家、演者などスタッフ一同)、読み稽古(セリフ)、立ち稽古(演技)、通し稽古、集中稽古等の稽古を経て、小屋入り(公演する劇場へ)。仕込み(劇場の準備)、場当たり(衣装、メイク、音響・照明)、ゲネプロ(舞台セットでの予行)などの行程をへて本番の公演となる。これらの公演前の準備期間は通常1 - 2か月である[10]。
上演編集
最初の開演日を「初日」といい、(上演期間が長い場合、ほぼ中間に当たる上演日を「中日(なかび)」といい)、最終公演を「千秋楽」という。
演劇作品は、上演期間中でも演出家による様々な変更があったり、連日の観客の反応を見たうえで考慮して変更される箇所があったり、ひとりひとりの俳優たちも日々演技を改良・変更したりするため、上演期間中でも演劇作品は変化してゆく。上演期間中に複数回鑑賞する観客は、その変化を楽しむことができる。
また、上演するたびに、観客集団(実際の、個々の人々、面々)が異なっており、観客が異なればおのずとその反応のしかたも異なる。したがって、観客の反応次第によって俳優の気持ちが盛り上がり演技がうまくいったり、冷やかな反応だと反対に緊張して固くなってしまったりと、観客次第で俳優の演技も変化する。演劇作品は(演出家や俳優だけが一方的に作るのではなく、実は)「観客が作る」とか「観客によって作られる」などといわれることがある。
俳優の台詞のちょっとした抑揚や「間」も(一定であろうとしても自然と)変化し、掛け合いのタイミング、動きなども毎度少しずつ異なる。時には舞台上、劇場内で思わぬハプニングも起こることもあるので、演劇(の上演)というのは「生き物」であるともいわれる。
分類編集
物語内容による分類編集
主に戯曲の内容(展開)による分類である。ただし何をもって悲劇とするか、喜劇とするかの明確な基準はない。たとえば一般に、主人公の死など哀しい物語が展開される作品は悲劇とされる。古代ギリシャの『オイディプス王』やシェイクスピアの『マクベス』などがその一例である。シェイクスピアの作品には「四大悲劇」と呼ばれるものもある。一方で、祝祭的様相に満ちたシェイクスピア『お気に召すまま』は喜劇とされる。
一方で、物語にドラマがなく、登場人物が打開不可能な空間に置かれる物語を不条理劇と呼ぶ[11]。代表的な劇作家はサミュエル・ベケットやハロルド・ピンターなどである。また、こうした西洋の演劇手法に反抗し、日本の平田オリザは「静かな演劇」を提唱した。これは日常の会話にドラマ性を求めるものであり[12]、現代演劇の一ジャンルとなっている会話劇の根源となっている。
演出手法(表現手法)による分類編集
時代による分類編集
演じ手による分類編集
現代の日本では、プロによる演劇を商業演劇、アマチュアによる演劇を小劇場演劇と呼ぶことが多い。
演劇の構成要素や用語編集
演劇祭編集
- エディンバラ国際フェスティバル(イギリス)
- ロンドン演劇祭(イギリス)
- アヴィニヨン・フェスティバル(フランス)
コンクール編集
- 全国高等学校演劇大会(日本)
- 四大学英語劇大会(日本)
演劇をテーマとした作品編集
脚注編集
- ^ 『俳優と超人形』ゴードン・グレイグ、訳 武田清、而立書房、2012年。
- ^ 『西洋演劇史』小林愛雄、アカギ叢書 第44編、1914年。
- ^ 「138億年の音楽史」p126-127 浦久俊彦 講談社現代新書 2016年7月20日第1刷
- ^ 「演劇の歴史」p21-24 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ 「演劇の歴史」p24-25 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ 「演劇の歴史」p33 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ 「演劇の歴史」p35 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ 「演劇の歴史」p37 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ 「演劇の歴史」p53-54 アラン・ヴィアラ 高橋信良訳 白水社 2008年4月25日発行
- ^ しばいのまち 「舞台の始まりから終わりまでの流れをつかもう~役者編~」
- ^ 『現代演劇の地層―フランス不条理劇生成の基盤を探る』小田中章浩、ぺりかん社、2010年。
- ^ "静かな演劇|現代美術用語辞典" DNP Museum Information Japan, 2018年2月15日閲覧。