種無しパンまたは無発酵パン(Unleavened bread)は、膨張剤を使わずに作る幅広い種類のパンを指す言葉である。種無しパンは一般的にフラットブレッドであるが、全てのフラットブレッドが種無しパンである訳ではない。ホブズ空心餅のように、同じ名前でも発酵させるタイプと発酵させないタイプが混在しているものもある。トルティーヤロティは、それぞれ中央アメリカ、南アジアの主食となる。

種無しパン
ロティ
種類 パン(フラットブレッド)
派生料理 マッツァー、ロティ、トルティーヤ、その他
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歴史・民俗 編集

メソポタミア文明での麦栽培の発展とともに、加工した麦を保存できるように工夫している過程で生まれたのが無発酵パンと言われている。

現代でも「肥沃な三日月地帯」を中心に無発酵パンが作られるエリアが世界に数多く存在する。それは、膨張力の低い品種の麦や雑穀を使う事や、調達できる火力が低くても調理できる事、移動生活でも持ち運べる程度の調理器具でも焼ける事、平焼きパンを食器代わりにする食事のスタイル、などによる合理的な選択の結果とも言える[1]

宗教的な重要性 編集

種無しパンは、ユダヤ教キリスト教においてシンボル的な重要性を持っている。ユダヤ教徒は過越の期間中にマッツァー等の種無しパンを食べる。この行事は元々「種入れぬパンの祭(除酵祭)」といい、「出エジプト記」によれば死刑を含んだ厳しい戒律だった。キリスト教の典礼における聖餐の際にも用いられる。これの由来となった最後の晩餐では、イエス・キリストが弟子とともにパンを食べた。

カトリック教会教会法では、聖体には種無しパンや種無しウエハースを用いられるように定められている。プロテスタント教会はカトリック教会の慣習を踏襲する傾向があるが、その他は宗派の特徴や地域の事情に応じて、種無しウエハースや普通のパンを用いる。

一方、大部分の東方教会旧約聖書に関連する聖体に種無しパンを用いることを明確に禁止しており、新しい契約の象徴として酵母で発酵させたパンのみを許容している。実際に、これは東西教会の分裂をもたらした3つの争点のうちの1つであったと言われている[2]

種無しパンの種類 編集

  • マッツァー - ユダヤ教のフラットブレッド
  • トルティーヤ - メソアメリカ/メキシコのフラットブレッド
  • ロティ - チャパティダルプーリ等を含む南アジアのフラットブレッド
  • アッシュケーキ - 手近な穀類、豆類、木の実を挽いた粉を捏ね、薄く平たく成形し、焚き火や囲炉裏の熱い灰の中に埋めて焼いたもの。バナナなどの植物の葉で包んで焼くこともある。野外のキャンプなどで調理される[3][4]

脚注 編集

  1. ^ 船田詠子 2013, pp. 43–63.
  2. ^ Ware, Timothy (1964), The Orthodox Church, London: Penguin Books, p. 66, ISBN 0-14-020592-6 
  3. ^ Martha McCulloch Williams『Dishes and Beverages of the Old South』New York, McBride, Nast & Company 1913 p36
  4. ^ ウィリアム・ルーベル 2013, p. 168.

参考文献 編集

  • ウィリアム・ルーベル 著、堤梨華 訳『パンの歴史』原書房、2013年。ISBN 9784562049370 
  • 船田詠子『パンの文化史』講談社学術文庫、2013年。ISBN 9784062922111