ダイエット
ダイエット(英語: diet)とは、食事の量を制限したり、運動や身体活動を増やしたりして減量すること。 英語のdietは日常的な食事・食べ物を意味するが、日本では食事療法に加えて運動実践を行なうことで、痩せた身体を目的とする「痩身」と同義に使われる。
極端に食事量を制限したり、特定の食品のみを摂取する偏ったダイエットは一時的な体重減少は期待できるが、必須栄養素が不足することにより健康を損なうリスクがある[1]。
日本における肥満と痩せの状況
2019年調査によれば、肥満者(BMI25以上)の割合は男性で増加傾向にあり、年齢別では40~50歳代男性で最も大きく約4割を占める。女性においては60歳代において約3割が肥満者であり割合が最も大きい。BMI30以上の者の割合は男女ともに40歳代でもっとも大きい。食生活と身体活動の改善する公衆衛生的介入をより一層強化することが重要視されている。 20歳代は男女ともに肥満者の割合が最も小さい[2]:28-29。
一方、若年女性においてはやせ礼賛文化から痩せすぎや極端なダイエットによる栄養不足などが問題視されている。摂食障害は一度診断基準を満たすほど重篤化すると慢性化しやすく治療が難しいことから、予防的介入が試みられている[3]。
語源
古代ギリシア語「δίαιτα」を起源とし、その意味は「生活習慣」「生き方」[4][5]、「住まい」「食事療法」[5] 。この単語は、「diaitasthai」(「生きる、暮らす、人生を歩む」[4][5])、「diaitan」(「食べ物と飲み物を分けて選ぶ」)に由来する(「dia」は「離れる」、「ainysthai」は「手に取る」[5])。このギリシア語「δίαιτα」がラテン語の「diaeta」、そこから「日々の仕事、賃金、毎日食べるもの」を意味する中世ラテン語「dieta」として使われるようになる[5]。12世紀のころには「規則的に食べるもの」を意味する言葉として使われ、13世紀ごろの古フランス語「diète」(「食べ物、料理」「規定食」の意)を経て、英語に輸入された[5]。この単語が英語に初めて登場したのも13世紀である[4]。
14世紀後半以降になると、「摂取量と効果を考慮した食べ物」「医師の指示や医学上の理由に基づく食事療法」「特定の食べ物の摂取を制限する」「健康を守るために自身の食事を制限する」という意味で使われていた[5]。「肥満を防ぐために食べ物(の種類)を制限する」という意味で使われるようになったのは1650年代からである[5]。中世英語(12世紀から15世紀末まで)のころには「生き方」「生活習慣」を意味する言葉として使われており、これがこの単語の本来の意味である[4]。
この単語に(デンマーク・スウェーデン・スイス・ハンガリー・日本における)「国会」「議会」(「the Diet」と、定冠詞が付く(「国会議事堂」の英語表記は「The Diet Building」である)という意味があるのは、「日々の勤め」「賃金」「議員による会議・会合」を意味するラテン語「dieta」に由来しており[6][5]、「立法、政治のために開催される議会」「何らかの目的で開催される集会」も意味する[5]。これはラテン語 の「dies」(「日」の意)の派生語として扱われていたが、いずれもその語源は同じギリシア語「δίαιτα」に行き着く[4][5]。
1600年以降、イングランドとフランスの作家が、「ドイツとオーストリアにおける立法議会」を意味する言葉としてこの単語を使うようになった[5]。
ファド・ダイエット
ファドダイエットは科学的手法ではないにも関わらず、効果のあるダイエットと謳われてよく知られている・流行している食事法を指す。これらは健康的でバランスの取れた食事とは相違があり、以下のような特徴から見分けることができる。
- 急速な体重減少を謳う
- 身体活動指針に欠けている
- 生涯に渡る持続的な目標よりも、短期間の変化を促す
- ある一つの食品のみ焦点をおくか、あらゆる食品を排除する(フードファディズム)
- 生涯に渡って維持することができない
- 十分な栄養摂取ができるか疑問がある
- 慢性疾患患者に対する健康上の注意喚起ができていない
- 科学的エビデンスの欠如
ファドダイエットの中でよく知られたものとしてアトキンスダイエット(低炭水化物ダイエット)、ケトジェニックダイエット、パレオダイエット、地中海ダイエット、ベジタリアンダイエット、断続的断食、デトックスダイエットなどがある[7]。
やせ礼賛文化の影響
日本では1980年代から摂食障害の患者が急増し、それに合わせて学齢期の若年女性のダイエット志向の高まりや極端なダイエットによる栄養不足に着目した論文が散見されるようになる[3]。
文化人類学においてはやせることへの社会的圧迫が大きくなるにつれて、摂食障害へと発展する人が増えることが指摘されている。例えば、やせが社会化されてくると強迫的で完璧主義的な人が発症し、さらにその圧迫が増加すると正常な人でも様々な種類と程度の食行動異常を発生させうるという流れである。 現代のようなスリムな身体がもてはやされるようになったのは1960年代以降のこととされ、1970年代にはダイエット情報が注目され、マスメディアの情報から流れる好ましい体型は理想化され、脅迫的な基準にまでなっている。
心理学においては、若年女性のやせの追求は自己実現や他者評価の獲得のための行動であると考えられている。また、成熟の拒否と幼年期への憧れとしてやせを追求するということも考えられている[8]。
女性のほとんど全員がやせ礼賛文化に影響されている社会であっても、必ずしも全ての女性が摂食障害に至るわけではない。教育においては自己肯定感を高めつつ、望ましい食生活のあり方を実践できる知識を示すことが重要だと考えられている[3]。
スポーツ競技者の痩身願望
フィギュアスケート選手やマラソン選手などのスポーツ競技者が摂食障害となるケースが複数ある。容姿が得点材料になる新体操やダンスなどの競技もあり、スポーツ競技者が痩身願望を持つ場合があることが想定される。 同時に痩身願望の関連要因として自尊感情がある。スポーツ実践者は高い自尊感情を有することが示されており痩身願望を低下させる要因となるなずだが、実際にはスポーツ競技者において摂食障害の有病率は一般の学生より高い。 摂食障害やスポーツ競技者の自尊感情に影響を及ぼす要因として完全主義が挙げられる。競技者においては完全主義は良い影響をもたらす面と悪い影響をもたらす面があり、良い影響としては自分に高い目標を課すことで動機付けや意欲を持つという面が挙げられる。悪い影響としては行動に自信が持てないこと、失敗に過敏であるという面がある。
一般的にスポーツを日常的に実践することは健康的であるとされているが、結果や競技力向上を目的とした競技者の場合は結果を得ることが重要視される。 競技水準別にスポーツ競技者と痩身願望の関連について調査した研究では、結果にとらわれずスポーツ自体を楽しんでいる者は自尊感情の低下が自身の体型に関するデメリット感に結び付きにくく、一方で競技結果を追求するスポーツ競技者は自尊感情の低下が体型へのデメリット感をもたらし、痩身願望に結び付くという結果が得られた。スポーツ競技者では高目標設定が自尊感情にプラスの影響を与える一方で、結果を追求する競技者では行動疑念(行動への自信のなさ)が自尊感情にマイナスの影響を与えるという非スポーツ競技者との差異もみられた[9]。
出典
- ^ 由田 克士 (2019年6月12日). “e-ヘルスネット ダイエット”. 厚生労働省. 2024年2月16日閲覧。
- ^ 日本肥満学会 編『肥満症診療ガイドライン2022』(1版)ライフサイエンス出版、2022年12月1日。ISBN 978-4-89775-458-1 。
- ^ a b c 杉山 英子、横山 伸「摂食障害の発症予防は可能か―やせ礼賛文化との共生を目指して」『長野県短期大学紀要』第65巻、長野県短期大学、2010年12月1日、19-25頁、2024年2月16日閲覧。
- ^ a b c d e “diet”. Merriam Webster. 1 August 2020閲覧。
- ^ a b c d e f g h i j k l “diet”. etymonline.com. 12 October 2019閲覧。
- ^ “diet”. lexico.com. 13 August 2019時点のオリジナルよりアーカイブ。2 October 2019閲覧。
- ^ Aaiza Tahreem; Allah Rakha; Roshina Rabail; Aqsa Nazir; Claudia Terezia Socol; Cristina Maria Maerescu; Rana Muhammad Aadil (2022-07-05). “Fad Diets: Facts and Fiction”. Front Nutr 9. doi:10.3389/fnut.2022.960922 2024年2月14日閲覧。.
- ^ 仲島 尚子『高校生のやせ願望に関する調査研究』(修士論文・教科・領域教育専攻 生活・健康系コース専攻)兵庫教育大学大学院、2000年 。
- ^ 赤羽 美柚、高橋 知音「大学生スポーツ競技者の痩身願望におけるスポーツとの関わり方による相違の検討―完全主義に焦点を当て―」『信州心理臨床紀要』第21巻、信州大学大学院総合人文社会科学研究科心理教育相談室、2022年6月1日、13-24頁、2024年2月16日閲覧。