経済

人間社会における生産・分配・流通・消費等の活動をめぐる関係性の総体
経済用語から転送)

経済けいざい: οικονομία: oeconomia: economy〈エコノミー〉)とは、社会が生産活動を調整するシステム、あるいはその生産活動を指す[1]

概要編集

人々が豊かな生活を送るためには、人々が消費したいと考えるサービス生産し、必要な人の元に的確に届けられる、精度の高いシステムが必要となる[2]。なぜなら世の中にある資源希少であり、何かを手に入れるためには、他のものを諦めなければならないからである[3]。経済とはそれらの活動を調整するシステムであり、経済学とはそのシステムを研究する学問である[4]

人々が行う重要な経済活動の一つに、交換がある。貨幣を用いた売買も交換の一形態である[5]。貨幣は交換を円滑にする以外に、短期的に価値が変動しにくいため価値が貯蔵できる、商品の価値を計算する尺度になる、といった特徴を持つ[6]。これら貨幣のはたらきも、経済学の重要な研究対象となっている。

語源編集

日本語の「経済」は英語の "economy"の訳語となっているが、このeconomyという語は古典ギリシャ語οικονομία(家政術)に由来する[7]οικος は家を意味し、νομος は規則・管理を意味する[7]。従って、economy の本来の意味は家庭のやりくりにおける財の扱い方であるが、近代になってこれを国家統治の単位にまで拡張し、以前の意味と区別して政治経済学(political economy)という名称が登場する(この名称は後にアルフレッド・マーシャルによって economics と改められた。)。

近代以降、日本のみならず中国など漢字文化圏の国で、上記のような "economy" を意味する「経済」の語が普及したが、それ以前は政治的、倫理的意味を含む「経世済民」の略語として用いられていた[8]

まず江戸時代後期の日本において、「経済」という言葉が人民の生活に関わる生産、流通、分配などの意味を含んで使われるようになり、幕末維新期に(古典派経済学における)"political economy" の訳語として用いられるようになった[9]。たとえば、1862年発行の辞書『英和対訳袖珍辞典』が political economy の訳語として「経済」「経済学」の訳語を挙げており、同じ年に西周が手紙の中で「経済学」の語を用いている[10]。「経済」の語が広まったのは、同時期に福沢諭吉が「経済」の語を用いていたことが大きく影響しているとされ[11]、この訳語の考案者を福澤諭吉とする文献もある[7] 。political economyの訳語としては、同時期に『易経』に由来する資生なども提唱されたが、こちらはあまり普及しなかった。

"(political) economy" の訳語としての「経済」の語法は、やがて翻訳を通じて「経世済民」の語を生んだ中国(清)に逆輸入されたが、初めは訳語としてあまり用いられず、富国策、資生学といった用語が用いられていた。その後、中華民国の初期に孫文ら革命派が「経済」を用いた影響もあり、訳語として定着していった。[12]

経済体制編集

 
江戸時代貨幣(1714年)

経済活動は法律をはじめとする様々な条件によって制約されている。それらの制約のもとで、社会は人々のニーズを満足させるように供給を組織化する。この組織化された供給の仕組みを経済体制[13] (Economic system) という。代表的な経済体制として以下の3つが挙げられる。

伝統経済編集

伝統経済 (Traditional economy) とは生産分配などの主要な経済活動が慣習文化によって大きく規定された経済である。集落や村落などの比較的に小規模な集団の経済にしばしば見られる形態であり、生産活動が個人の家柄や集団の文化によって定められているために予測可能性が高く、継続的かつ安定的な供給が維持される。

市場経済編集

市場経済 (Market economy) とは企業や個人が自己利益を最優先して物財を生産し、市場の仕組みによって分配する形態の経済である。規範や指令もなく、市場における消費の動向によって生産活動が規定される特徴があり、個人の自由度が高く、意思決定が分散的であり、また希少性の変化に柔軟に反応できる長所がある。ただし経済理論が保証する市場経済の効率性は、財産権、取引の自由、企業参入退出の自由、完全情報などの条件が必要であり、これらの条件が満たされない場合には市場の失敗が生じる。

計画経済編集

計画経済[注 1] (Command economy) とは中央当局によってあらゆる経済活動が運営されている形態の経済である。指令経済とも言う。産業への必要物資、生産目標、生産割り当てなどが定められ、その計画に基づいて経済活動が遂行される。経済資源や労働力を計画的に運用することができるために特定の産業を集中的に発展できるとされる。一方で、計画経済の下では労働者のインセンティブが欠如しやすいという欠点がある。また、計画経済の存立可能性をめぐってなされた議論として経済計算論争がある。

経済成長編集

経済成長とは、経済規模の増大や生産性の向上といった経済的な能力の伸びを示す概念である[14]。国あるいは地域の経済規模は、国民総生産(GNP)や国内総生産(GDP)によって測られる。これら産出量の変化率が経済成長率であり、狭義にはこの変化率の長期的上昇傾向を指して経済成長と呼ぶ[15][16][17]。経済成長を決定づける要因や、経済成長率と失業率物価などとの関連を分析する経済学の分野としてマクロ経済学がある。

「経済」の派生的用法編集

金銭的編集

効率的な経済活動であることから転じて、商品の購入に際して金銭負担が少なくてすむことを「経済的」「エコノミカル(Economical)」という。飛行機で最も低価格な座席等級を「エコノミークラス」と呼ぶのもこうした用法の1つである。

地理的編集

日本経済、アメリカ経済、中国経済などのように一国家の経済活動を「経済」と呼ぶことがある。更に狭い地域や都市を一括りにして九州経済、大阪経済などと呼ぶこともある。

脚注編集

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注釈編集

  1. ^ 『アメリカの高校生が学ぶ経済学 原理から実践』33-39頁では経済システムを伝統経済、市場経済、指令経済に分類しているが、指令経済に関しては計画経済と表記した。

出典編集

  1. ^ 『クルーグマン ミクロ経済学』の経済(economy)の定義、およびコウビルド英英辞典の項目economyより。
  2. ^ クルーグマン『ミクロ経済学』8頁
  3. ^ スティグリッツ『入門経済学』39頁
  4. ^ クルーグマン『ミクロ経済学』8頁
  5. ^ スティグリッツ『マクロ経済学』285-292頁
  6. ^ スティグリッツ『マクロ経済学』285-292頁
  7. ^ a b c 松原聡 『日本の経済 (図解雑学シリーズ)』 ナツメ社、2000年、26頁。
  8. ^ 馮天瑜, 呉咏梅「中国語、日本語、西洋語間の相互伝播と翻訳のプロセスにおける「経済」という概念の変遷」『日本研究』第31巻、国際日本文化研究センター、2005年10月、 159-190頁、 doi:10.15055/00000618ISSN 09150900NAID 120005681573
  9. ^ 「中国語、日本語、西洋語間の相互伝播と翻訳のプロセスにおける「経済」という概念の変遷」『日本研究』165-166頁、169頁
  10. ^ 「中国語、日本語、西洋語間の相互伝播と翻訳のプロセスにおける「経済」という概念の変遷」『日本研究』169-170頁
  11. ^ 「中国語、日本語、西洋語間の相互伝播と翻訳のプロセスにおける「経済」という概念の変遷」『日本研究』171頁
  12. ^ 「中国語、日本語、西洋語間の相互伝播と翻訳のプロセスにおける「経済」という概念の変遷」『日本研究』176-182頁
  13. ^ 『アメリカの高校生が学ぶ経済学 原理から実践』352頁、経済システム(Economic system)の定義。
  14. ^ 『ブリタニカ国際百科事典 1 - 20』第6巻351頁
  15. ^ 『スティグリッツ マクロ経済学 第2版』533―572頁
  16. ^ 『クルーグマン ミクロ経済学』用語集
  17. ^ 『ブランシャール マクロ経済学』27-35頁

参考文献編集

  • ポール・クルーグマン、ロビン・ウェルス著、大山道広、石橋孝次、塩沢修平、白井義昌、大東一郎、玉田康成、蓬田守弘訳 『クルーグマン ミクロ経済学』 東洋経済新報社, 2007年
  • ゲーリー・E・クレイトン著、大和証券商品企画部訳、大和証券教育事業部監訳 『アメリカの高校生が学ぶ経済学 原理から実践』 WAVE出版、2005年
  • 金森久雄、荒憲治郎、森口親司編『経済辞典(第四版)』有斐閣、2006年
  • N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之、石川城太、小川永治、地主敏樹、中馬宏之、柳川隆訳 『マンキュー経済学1 ミクロ編(第2版)』 東洋経済新報社、2005年
  • N・グレゴリー・マンキュー著、足立英之、地主敏樹、中谷武、柳川隆訳 『マンキューマクロ経済学Ⅰ 入門編(第2版)』 東洋経済新報社、2005年
  • フランク・B・ギブニー編 『ブリタニカ国際百科事典 1 - 20』 ティービーエス・ブリタニカ、1972年
  • 伊藤元重 『入門|経済学』 日本評論社,1988年
  • 新井田宏 『経済学入門 ---ミクロ・マクロ経済学へ』 放送大学教育振興会、2000年
  • オリヴィエ・ブランシャール著、鴇田忠彦、知野哲朗、中山徳良、中泉真樹、渡辺愼一訳 『ブランシャール マクロ経済学 上・下』 東洋経済新報社、1999年。
  • ジョセフ・E・スティグリッツ著、藪下史郎、秋山太郎、金子能宏、木立力、清野一治訳 『スティグリッツ マクロ経済学 第2版』 東洋経済新報社、2001年。
  • 『コウビルド英英辞典 改訂新版』 桐原書店、1995年。
  • 牛致功1998 『唐高祖傳』

関連項目編集

外部リンク編集