経済連携協定(けいざいれんけいきょうてい、: Economic Partnership Agreement[1]EPA)とは、自由貿易協定FTA)のような関税撤廃や非関税障壁の引き下げなどの通商上の障壁の除去だけでなく、締約国間での経済取引の円滑化、経済制度の調和、および、サービス・投資・電子商取引などのさまざまな経済領域での連携強化・協力の促進などをも含めた条約である。

自由貿易協定とWTO協定との関連編集

自由貿易協定により、協定の当時国間でのみ関税の引下げ・撤廃を行うことが、WTO上の一般最恵国待遇に違反しないのは、次の規定に合致する場合である。

2021年4月15日時点で、344の協定がWTO(世界貿易機関)に有効のもの(in force)として通報[2]されている[3]。WTOに通報されたものは、関税同盟や経済連携協定 (EPA) と呼ばれているものを含む。344の協定の根拠別内訳は下記のとおり[3]。多くの協定は物品とサービス貿易の双方について規定しているため、数に重複がある。種別の詳細は、WTOのHP[4]を参照。最新の通報は、2021年4月8日に通報されたオーストラリア、クック、 キリバス、ナウル、ニュージーランド、ニウエ、サモア、ソロモン、トンガ、ツバル、バヌアツとの間の協定(2020年12月13日発効)である。2020年12月31日に、イギリスがEU離脱に伴い締結した協定28件(2021年1月1日発効)を通報したため、大幅に増加した。この中に日英包括的経済連携協定も含まれているおり、イギリスとEUとの協定も通報された。しかし、2020年1月1日に発効した日米貿易協定、2020年8月1日に発効した日本・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書は、2021年4月15日現在、通報されていない[4]

  • GATT第24条:313
  • GATS第5条:182
  • WTOの授権条項:61

また、2020年11月27日の参議院本会議において、日英包括的経済連携協定の趣旨説明が行われた際の質疑で、立憲民主・社民の白眞勲議員から質問に対して茂木敏充外務大臣は、「WTOのホームページでは、現在、五十四の自由貿易協定がいまだに通報されていないことが公表されており、この中には、香港ASEAN貿易協定やオーストラリア・インドネシア貿易協定も含まれております。」[5]と答弁している。このWTOのHPとは、2020年9月26日のWTO地域貿易委員会の文書[6][7]であるが、このリストには日米貿易協定は含まれていない。

FTAとEPAの違い編集

「自由貿易協定」 (Free Trade Agreement, FTA) は、特定の国や地域とのあいだでかかる関税や企業への規制を取り払い、物品やサービスの流通を自由に行えるようにする取り決めのこと[8]。通商政策の基本ともいわれる[9]

経済連携協定」 (Economic Partnership Agreement, EPA) は、物品やサービスの流通のみならず、人の移動、知的財産権の保護、投資、競争政策など様々な協力や幅広い分野での連携で、両国または地域間での親密な関係強化を目指す協定[10][9]

地域間の貿易のルールづくりに関しては、過去世界貿易機関 (WTO) を通した多国間交渉の形が取られていたが、多国間交渉を1つ1つこなすには多くの時間と労力が取られるため、WTOを補う地域間の新しい国際ルールとして、FTAやEPAが注目されている[8]

ただし、日本政府の公式見解では「free trade agreement」について、国際的に確立した定義があるとは承知しておらず[11]としており、従ってEPA、FTAの相違についても国際的に確立した定義によるものは日本国政府としてはあるとはしていない。

日本は東南アジアインドとの経済の連携協定を進めてきたように、FTAだけでなくEPAの締結を求めており、GATT(関税及び貿易に関する一般協定)およびGATS(サービスの貿易に関する一般協定)に基づくFTAによって自由化される物品やサービス貿易といった分野に加え、締結国と幅広い分野で連携し、締約国・地域との関係緊密化を目指すとしている[8][9][12][8]。その理由は、関税撤廃だけでなく、投資やサービス面でも、幅広い効果が生まれることを期待していることによる[12]

日本政府は、このようにFTAとEPAを区分けしているが、「一般的な名称ではなく、WTOでも使われていません。FTAは当初は貿易に特化していましたが、その内容は年々幅広くなっていて、もはやほぼ同義で使われています[13]]との「実際、近年世界で締結されているFTAの中には、日本のEPA同様,関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまらない、様々な新しい分野を含むものも見受けられる[8]」との指摘もあり、国によってはFTAとEPAを区別せずに包括的にFTAに区分することも少なくない[注釈 1]。特に米国は、署名・締結した協定において、ほとんどが自由貿易協定[注釈 2]としており、経済連携協定としているものはないが、内容的には関税撤廃・削減やサービス貿易の自由化にとどまらず、環境・労働等の分野を含んでいる[注釈 3]。更に日米貿易協定の国会承認の質疑において、後藤(祐)委員の質問に対して茂木外務大臣「包括的なFTA、ここにおきましては、物品貿易に加えて、サービス全般の自由化を含むものを基本とし、さらに、知的財産、投資、競争など、幅広いルールを協定に盛り込むこと[14]」と答弁し、更に「FTAについて、国際的に確立した定義も、御案内のとおり、あるわけではありませんが、我が国では、これまで、特定の国や地域との間で物品貿易やサービス貿易全般の自由化を目的とする協定、そういった意味でFTAという語を用いてきた」と付け加えた。また内閣官房澁谷TPP等政府対策本部政策調整統括官は「ガット二十四条に整合的な協定でございますので、経済連携協定だと認識」と答弁したこれはそのあとの答弁にあるように「関税の関係法、国内法でございますけれども、関税暫定措置法の施行令[注釈 4] におきまして経済連携協定という言葉が載っておりまして、経済連携協定で合意された関税率の適用に当たっては、協定が直接適用される[注釈 5]、こういう規定でございます。私ども、TPP、日・EU・EPA、それから今回の日米貿易協定も含めて、この関税法に言うところの経済連携協定だという認識[14]」ということである。

2020年10月時点で日本政府が外国又は特定地域と締結した協定(発効ずみのもの)は、2018年12月に発効した環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)及び2020年1月に発効した日米貿易協定を除き、すべてEPA(経済連携協定)となっている。CPTPPと2018年2月に署名した環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は、いずれも内容的にはEPAであるが、協定名は「パートナーシップ協定」となっている。日本・ASEAN包括的経済連携協定は、名称はEPAであるが、サービス貿易及び投資について規定する日本・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書が、2020年8月1日に発効するまでは、関税関係のみに留まっていた。日米貿易協定は、関税撤廃・削減だけ規定しており経済連携協定に該当せず、自由貿易協定に分類される。

EUによるFTAの分類編集

EUは、その公式HPに、新しい機会を提供するEUの自由貿易協定という記事を掲載しているが、このなかでEUが世界各国・地域で結んでいる自由貿易協定には、次の4種類があるとしている。

1. 第一世代協定(First generation agreements)

主に2006年以前に締結され、関税撤廃に焦点が置かれている。スイス、ノルウェー、地中海・中東諸国、メキシコ、チリとの協定やトルコとの関税同盟、また、西バルカン諸国との「安定化・連合協定(Stabilisation and Association agreements)」が含まれる。

2. 第二世代協定(Second generation agreements)

韓国、コロンビア、エクアドル、ペルーのほか中米などが対象。ここでは知的財産権やサービス、持続可能な開発への取り組みも含まれる。日・EU経済連携協定(EPA)は、名称は異なるがこの種類に該当する 。

3. 深化した包括的自由貿易地域(Deep and Comprehensive Free Trade Areas=DCFTA)

EUとジョージア、モルドバ、ウクライナといった近隣諸国の間で、より強い経済関係を創出する。

4. 経済連携協定(Economic Partnership Agreements=EPA)

アフリカ、カリブ諸国、太平洋地域の開発需要に焦点を当てたもの。日・EU間のEPAはこれに該当しない。

上記のように、EUは、一般的にはEPAは「開発需要に焦点を当てたもの」を意味し、日EUEPAは、関税に加えて知的財産権やサービス、持続可能な開発への取り組みも含まれる第二世代協定と理解している。

日本のEPA/FTAの一覧編集

外務省によると、日本はFTAだけでなくEPAの締結を軸に求めている[12]。理由として、関税撤廃だけでなく、投資やサービス面でも、幅広い効果が生まれることを期待していることによる[12]

締結し、発効しているEPA/FTA編集

日本が締結手続きを完了したが未発効のEPA/FTA編集

署名済みのEPA/FTA (国会手続中)編集

交渉中のEPA/FTA編集

交渉延期中または中断中のEPA/FTA編集

日本のEPA/FTAの署名者、署名日、発効日、WTO通報日編集

EPA/FTAの経済規模編集

EPA/FTAの経済規模(日本の対世界貿易に占める協定対象等の国(地域を含む)への貿易割合(輸出、輸入、貿易全体。2020年)は以下の通りである[29]

輸出割合 輸入割合 貿易全体割合
発効済みのEPA/FTA
日本・シンガポール新時代経済連携協定 2.76% 1.35% 2.06%
日本・メキシコ経済連携協定 1.31% 0.86% 1.08%
日本・マレーシア経済連携協定 1.96% 2.51% 2.24%
日本・チリ経済連携協定 0.16% 1.04% 0.59%
日本・タイ経済連携協定 3.96% 3.74% 3.86%
日本・インドネシア経済連携協定 1.44% 2.43% 1.93%
日本・ブルネイ経済連携協定 0.02% 0.27% 0.14%
日本・ASEAN包括的経済連携協定 14.39% 15.72% 15.06%
日本・フィリピン経済連携協定 1.37% 1.47% 1.42%
日本・スイス経済連携協定 0.75% 1.17% 0.96%
日本・ベトナム経済連携協定 2.67% 3.47% 3.07%
日本・インド経済連携協定 1.42% 0.74% 1.08%
日本・ペルー経済連携協定 0.07% 0.34% 0.22%
日本・オーストラリア経済連携協定 1.89% 5.62% 3.75%
日本・モンゴル経済連携協定 0.05% 0.00% 0.03%
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP) 12.26% 17.55% 14.89%
環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)(現締約国) 10.05% 13.38% 11.71%
日本・EU経済連携協定 9.23% 11.40% 10.31%
日米貿易協定 18.44% 10.97% 14.72%
日英包括的経済連携協定 1.67% 1.01% 1.34%
交渉中、交渉中断、署名されたが未発効(発効未確定)のEPA/FTA
輸出割合 輸入割合 貿易全体割合
環太平洋パートナーシップ協定 (TPP) 30.70% 28.51% 19.61%
地域的な包括的経済連携協定 (RCEP)(署名15か国) 45.59% 51.73% 48.64%
地域的な包括的経済連携協定 (RCEP) (インド復帰の場合) 47.01% 52.47% 49.73%
日中韓自由貿易協定 29.02% 29.99% 29.50
日本・トルコ経済連携協定 0.42% 0.11% 0.26%
日本・コロンビア経済連携協定 0.13% 0.07% 0.10%
日本・カナダ経済連携協定 1.13% 1.70% 1.41%
日本・韓国経済連携協定 6.97% 4.19% 5.59%
日・GCC(湾岸協力理事会)自由貿易協定 2.20% 7.97% 5.07%
日本全体の貿易に対する割合
輸出割合 輸入割合 貿易全体割合
現行の日本が締結中のEPA/FTA(重複を除いた合計。以下同じ。) 49.39% 50.21% 49.80%
現行の日本が締結中のEPA/FTA + RCEP [注釈 8] 78.41% 80.21% 79.30%
現行の日本が締結中のEPA/FTA + トルコ 49.81% 50.32% 50.07%
現行の日本が締結中のEPA/FTA + トルコ+ RCEP [注釈 8] 78.83% 80.31% 79.57%
日本とEPA/FTAを締結又は交渉していない国(地域を含む)(貿易総額上位)
輸出割合 輸入割合 貿易全体割合
台湾 6.93% 4.22% 5.58%
香港 4.99% 0.13% 2.57%
ロシア 0.92% 1.69% 1.30%
ブラジル 0.46% 1.18% 0.82%
南アフリカ共和国 0.26% 0.91% 0.58%

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ 経済連携協定の意義と課題-日本の通商政策は転換したか、「東アジア共同体」結成は間近か-RIETI 法律時報 2005年6月号
  2. ^ 2006年のWTO決定(WTO文書WT/REG/16)に基づく。
  3. ^ a b List of all RTAs, including accessions to RTAs”. WTO (2020年7月13日). 2021年1月12日閲覧。
  4. ^ a b Figures on Regional Trade Agreements notified to the GATT/WTO and in force”. WTO (2021年3月5日). 2021年3月6日閲覧。
  5. ^ 203回国会 参議院 本会議 第5号 令和2年11月27日”. 国立国会図書館 (2020年11月27日). 2020年1月7日閲覧。
  6. ^ WT/REG/W/151
  7. ^ LIST OF RTAS WHICH HAVE APPEARED IN FACTUAL PRESENTATIONS (ISSUED UP TO 14 SEPTEMBER 2020) AND HAVE NOT YET BEEN NOTIFIED TO THE WTO”. WTO (2020年9月26日). 2020年1月7日閲覧。
  8. ^ a b c d e EPA・FTAとは 外務省HP
  9. ^ a b c “通商政策(2) 知財・人の移動もカバー”. 朝日新聞. (2010年5月27日). http://www.asahi.com/business/topics/keizainavi/TKY201005260250.html 
  10. ^ 「EPA/FTAって何?」 外務省 FTA広報動画
  11. ^ 答弁書第八号 内閣参質一九七第八号 参議院議員山本太郎君提出日米通商交渉に関する質問に対する答弁書。”. 参議院 (2018年11月2日). 2018年11月16日閲覧。
  12. ^ a b c d 「EPA/FTAのメリットとは?」 外務省 FTA広報動画
  13. ^ 植松佳香(早稲田大学大学院アジア太平洋研究科の浦田秀次郎教授へのインタビュー) (2019年11月20日). “読み方はアールセップ 日本も中国も参加のRCEPとは”. 朝日新聞. 2019年11月21日閲覧。
  14. ^ a b 第200回国会 外務委員会 第4号(令和元年11月6日(水曜日))”. 衆議院. 2019年11月25日閲覧。
  15. ^ 経済産業省HP 日本とインドネシア間の「日・ASEAN包括的経済連携(AJCEP)協定」運用開始に関するお知らせ
  16. ^ 税関HP(国立国会図書館による2018年4月1日時点のアーカイブ) 日本国とインドネシア共和国の間の「日・ASEAN 包括的経済連携協定 (AJCEP)」の実施
  17. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の効力発生のための通告”. 外務省 (2020年6月16日). 2020年6月17日閲覧。
  18. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の効力の発生に関するベトナムの通告”. 外務省 (2020年7月28日). 2020年7月29日閲覧。
  19. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の効力の発生に関するブルネイの通告”. 外務省 (2020年9月11日). 2020年9月11日閲覧。
  20. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の効力の発生に関するカンボジアの通告”. 外務省 (2021年1月29日). 2021年1月29日閲覧。
  21. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書の効力の発生に関するフィリピンの通告”. 外務省 (2021年3月23日). 2021年3月23日閲覧。
  22. ^ CPTPP underway – tariff cuts for our exporters on December 30
  23. ^ Viet Nam seventh nation to ratify CPTPP”. New Zealand Goverment. 2018年11月15日閲覧。
  24. ^ “日・EU経済連携協定の効力発生のための外交上の公文の交換”. 外務省. (2018年12月21日). https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000310.html 2018年12月21日閲覧。 
  25. ^ “日米貿易協定・日米デジタル貿易協定の効力発生のための通告”. 外務省. (2019年12月10日). https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press6_000627.html 2019年12月16日閲覧。 
  26. ^ “日英包括的経済連携協定の効力発生のための外交上の公文の交換”. 外務省. (2020年12月18日). https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press1_000474.html 2020年12月18日閲覧。 
  27. ^ 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の署名 外務省HP
  28. ^ 外務省トップページ > 会見・発表・広報 > 報道発表 > 環太平洋パートナーシップ(TPP)協定の国内手続の完了に関する通報 平成29年1月20日
  29. ^ 財務省貿易統計 Trade Statistics of Japan 国・地域の表記は、貿易統計で用いる表記(外国貿易等に関する統計基本通達(昭和59年10月17日蔵関第1048号)別表第1に定めるもの)による。

注釈編集

  1. ^ 例えばオーストラリア政府のHP(Australia's free trade agreements (FTAs)
  2. ^ 自由貿易協定という名称でないものは、発効済みの日米貿易協定及び米国・メキシコ・カナダ協定並びに署名したが離脱を宣言した環太平洋パートナーシップ協定のみである。
  3. ^ 日米貿易協定のみ関税撤廃・削減だけ規定している。
  4. ^ 関税暫定措置法施行令第10条の2に規定がある。なおこれは関税暫定措置法第7条の3、第7条の8に基づくもの
  5. ^ これは関税法第3条ただし書の規定で条約の直接適用のことであるが経済連携協定にのみの規定ではない。関税暫定措置法施行令にいう経済連携協定の規定は、協定に基づくセーフガードの実施のためのものである
  6. ^ 日・ASEAN包括的経済連携協定第一改正議定書第8条
  7. ^ CPTPP協定第3条第2項
  8. ^ a b 交渉参加国のうちまだEPA関係にないのは、中国及び韓国であるため、日中韓FTAが発効した場合も同じ数字になる。またインドとは、すでに日インドEPAが発効しているため、インドがRCEPに復帰しても同じ数字である。

関連項目編集

外部リンク編集