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せん妄

譫妄から転送)

せん妄(譫妄、せんもう、英:delirium)は、意識混濁に加えて奇妙で脅迫的な思考や幻覚錯覚が見られるような状態。健康な人でも寝ている人を強引に起こすと同じ症状を起こす。特にICUやCCUで管理されている患者によく起こる[1]

せん妄
分類および外部参照情報
診療科・
学術分野
精神医学, 神経学, 内科学
ICD-10 F05
ICD-9-CM 293.0
DiseasesDB 29284
eMedicine med/3006
Patient UK せん妄
MeSH D003693

急激な精神運動興奮(カテーテルを引き抜くなど)や、問診上明らかな見当識障害で気がつかれることが多い。大手術後の患者(術後せん妄)、アルツハイマー病脳卒中、代謝障害、アルコール依存症の患者にもみられる。せん妄とは治療も異なる振戦せん妄は、アルコールベンゾジアゼピン系薬物からの離脱によって起こり区別される。

通常は対症療法が行われる。一般に抗精神病薬が使われるが、その効果には議論がある。

目次

症状編集

突然と生じ経過は短いが、命にかかわることもある緊急事態である[2]

「入院した途端、急にボケてしまって(認知症のように見える)、自分がどこにいるのか、あるいは今日が何月何日かさえもわからなくなってしまった。」というエピソードが極めて典型的である。通常はこういった障害は可逆的で退院する頃にはなくなっているので、安心してよい所見である。

現実検討がなく、意識は混濁し中力は途切れ途切れになり、判断力もなく、攻撃的になったり暴力を起こすこともある[2]。夜に悪化しやすい[2]

また、高熱とともにせん妄を体験する場合があり、とくに子供に多い[3]。大半の患者はせん妄を覚えており、苦痛な経験だったとの調査報告があり、せん妄は意識障害だから記憶がないというのは誤解である[4]

こういった症状をおこすせん妄という病態の背景には意識障害、幻視を中心とした幻覚、精神運動興奮があると考えられている。

危険因子編集

認知症、高齢、重症患者、うつ状態、複数薬物、聴視覚障害(難聴白内障)、感染症、薬物の中毒症状、アルコールや薬物の離脱症状、疼痛、手術後、身体抑制などがリスクファクターと言われている。

診断基準編集

精神障害の診断と統計マニュアル』 (DSM) にも診断基準はあるが、より実践的なConfusion Assessment Methods (CAM) をここでは記す[5]

  • 急性の発症と症状の動揺
  • 注意力の欠如
  • 思考の錯乱
  • 意識レベルの変化

2つ目までは必須項目であり、あとひとつを満たせば診断してよい。

鑑別診断編集

認知症では、長期間症状が持続しており意識の混濁はないが、認知症の者にせん妄が生じることもある[2]。急性の脳損傷も似た症状を起こすが早い治療が必要なため、身体疾患の特定も必要となる[2]

薬の過剰摂取による症状は、薬物相互作用や代謝の低下した高齢者で起こりうる[2]

振戦せん妄は、アルコールやベンゾジアゼピン系薬あるいはバルビツール酸系薬の離脱症状できたすせん妄状態である。せん妄とは区別され、治療も異なる。

予防編集

2016年のコクランレビューは、救急ではない入院患者で予防のためにBispectral indexを用いて麻酔の強さを監督することで、せん妄発生率を低下させる質の良い証拠があり、抗精神病薬、コリンエステラーゼ阻害剤、メラトニン、メラトニン受容体作動薬では研究はされているが明確な証拠ではないとした[6]。麻酔薬デクスメデトミジンは他の薬剤よりせん妄発生率が低く、特に心臓手術後となる[7]。2018年のレビューでは、16のシステマティックレビューがあり、そこには8つの主要なランダム化比較試験が含まれており、術後の予防的な抗精神病薬の使用はせん妄を発生率を低下させるが、入院期間には影響せず、また死亡率が増加する可能性がある[8]

予防を目的とした術中のケタミン使用は6つのRCTから、せん妄の発生率に差がなく、術後認知機能障害では保護的なようだが、証拠が限られており結論には限界があった[9]

2017年のレビューは、5つのランダム化比較試験 (RCT) と1つの非RCTを見出し、メラトニンでは相反する結果であり、1つのラメルテオンでの試験はせん妄発生率を減少させ、L-トリプトファンでは効果がなく、結論としてメラトニン受容体作動薬の定常的な使用は推奨できないとした[10]。2016年のRCTのメタアナリシスは、計669人を含む4つのRCTがあり、メラトニンの服用は内科病棟ではせん妄発生率を減少させ、外科病棟では差がなかった[11]。2015年のレビューは、メラトニンの2つのRCTと、タシメルテオンの1つのRCTを発見していた[12]

治療編集

2010年のイギリスのガイドラインでは、ハロペリドール(セレネース)やオランザピンが少量かつ短期間でのみ用いられる[13]

日本の2015年の『せん妄の治療指針』では、糖尿病がなければ錐体外路症状が最も起こりにくいクエチアピン(やオランザピン)、あればリスペリドン、内服困難ではハロペリドールの注射剤、検査のための完全な静止にはハロペリドールや解毒薬のフルマゼニルを用意したうえでミダゾラム[13]

低活動型せん妄に対して専門医が推奨する目立った薬剤はないとする、日本での2016年の調査結果がある[14]

レビュー編集

2018年のコクランのレビューでは、救急ではない入院患者で治療のための抗精神病薬の使用では、証拠の質が低いがせん妄重症度、死亡率、抗精神病薬(定型か非定型か)による錐体外路症状の発生率に変化はなく、せん妄の時間、入院期間やQOLに影響があったかは判断できない。 [15]

2018年の別のレビューは、定型と非定型の抗精神病薬を比較した。ハロペリドールとリスペリドンでは大規模なランダム化比較試験によって偽薬よりも予後不良に結び付いていた。オランザピンとクエチアピンは、大規模な試験ではないが有効性を支持している。大規模RCTが必要とされる。[16]

非薬理学的編集

非薬理学的な介入では2018年のメタアナリシスで、機器の使用に関する研究が9研究と多く、運動、患者教育、家族参加などは1-2研究存在し、効果量の算出によって有効とされた。研究は不十分である。[17]

関連項目編集

出典編集

  1. ^ せん妄”. MSDマニュアル プロフェッショナル版. 2018年11月閲覧。
  2. ^ a b c d e f アレン・フランセス 2014, pp. 152-154.
  3. ^ オリヴァー・サックス 2014, pp. 217-237.
  4. ^ 進行性がん患者と介護者における、せん妄のインパクトと苦痛の記憶”. 日本緩和医療学会 (2009年8月). 2016年8月31日閲覧。
  5. ^ 入院中の高齢者のせん妄をボランティアの介入で防ぐ”. 2015年8月18日閲覧。
  6. ^ Siddiqi N, Harrison JK, Clegg A, et al. (2016年3月). “Interventions for preventing delirium in hospitalised non-ICU patients”. Cochrane Database Syst Re: CD005563. doi:10.1002/14651858.CD005563.pub3. PMID 26967259. 
  7. ^ Pavone KJ, Cacchione PZ, Polomano RC, Winner L, Compton P (2018年11月). “Evaluating the use of dexmedetomidine for the reduction of delirium: An integrative review”. Heart Lung (6): 591–601. doi:10.1016/j.hrtlng.2018.08.007. PMID 30266265. 
  8. ^ Castro V, Guinguis R, Carrasco M (2018年4月). “Are antipsychotics effective for the prevention of postoperative delirium?”. Medwave (2): e7196. doi:10.5867/medwave.2018.02.7195. PMID 29677175. 
  9. ^ Hovaguimian F, Tschopp C, Beck-Schimmer B, Puhan M (2018年10月). “Intraoperative ketamine administration to prevent delirium or postoperative cognitive dysfunction: A systematic review and meta-analysis”. Acta Anaesthesiol Scand (9): 1182–1193. doi:10.1111/aas.13168. PMID 29947091. 
  10. ^ Walker CK, Gales MA (2017年1月). “Melatonin Receptor Agonists for Delirium Prevention”. Ann Pharmacother (1): 72–78. doi:10.1177/1060028016665863. PMID 27539735. 
  11. ^ Chen S, Shi L, Liang F, et al. (2016年8月). “Exogenous Melatonin for Delirium Prevention: a Meta-analysis of Randomized Controlled Trials”. Mol. Neurobiol. (6): 4046–4053. doi:10.1007/s12035-015-9350-8. PMID 26189834. 
  12. ^ Chakraborti D, Tampi DJ, Tampi RR (2015年3月). “Melatonin and melatonin agonist for delirium in the elderly patients”. Am J Alzheimers Dis Other Demen (2): 119–29. doi:10.1177/1533317514539379. PMID 24946785. 
  13. ^ a b 布村明彦、玉置寿男「せん妄:診断・予防・治療」、『神経治療学』第34巻第4号、2018年、 393-395頁、 doi:10.15082/jsnt.34.4_393NAID 130006386562
  14. ^ “せん妄治療の第 1 選択薬に対する専門医の評価に関する研究について” (pdf) (プレスリリース), 医療経済研究機構, (2016年2月1日), https://www.ihep.jp/news/popup.php?dl=683 2018年11月25日閲覧。 
  15. ^ Burry L, Mehta S, Perreault MM, et al. (2018年6月). “Antipsychotics for treatment of delirium in hospitalised non-ICU patients”. Cochrane Database Syst Re: CD005594. doi:10.1002/14651858.CD005594.pub3. PMID 29920656. https://doi.org/10.1002/14651858.CD005594.pub3. 
  16. ^ Rivière J, van der Mast RC, Vandenberghe J, Van Den Eede F (2018年5月). “Efficacy and Tolerability of Atypical Antipsychotics in the Treatment of Delirium: A Systematic Review of the Literature”. Psychosomatics. doi:10.1016/j.psym.2018.05.011. PMID 30181002. 
  17. ^ Kang J, Lee M, Ko H, et al. (2018年12月). “Effect of nonpharmacological interventions for the prevention of delirium in the intensive care unit: A systematic review and meta-analysis”. J Crit Care: 372–384. doi:10.1016/j.jcrc.2018.09.032. PMID 30300863. 

参考文献編集

外部リンク編集