賄賂(わいろ)、または(まいない)とは、主権者の代理として公権力を執行する為政者官吏が、権力執行の裁量に情実をさしはさんでもらうことを期待する他者から、道徳に反する形で受けるサービスのこと。賄賂を受け取ることを「収賄」、贈ることを「贈賄」、両方の行為を合わせて「贈収賄」と呼ぶ。

賄賂のイメージ
賄賂防止キャンペーン(ザンビア

概要編集

いずれの国家も賄賂を取り締まり罰する法律を有する。

賄賂を取り締まるには収賄者・贈賄者双方への取締・厳罰が重要である。

賄賂による「直接的な被害者」は国民であって、賄賂によって行政がゆがめられ、公正性を欠いた、行政的に不適切な判断が蔓延するようになる。被害者の国民には直接は見えない犯罪であって、被害者である国民による申告は期待できない。

賄賂の授受は、おおっぴらには行われず、すぐにはそれとわからないように、しばしばいわゆる「密室」で行われるので、被害者であり当事者である一般国民は、それを立証しようとしても困難を伴う場合が多い。

なお、日本国の賄賂罪は、以下が対象となる。

  • 贈賄先が公務員である場合
  • 法人の責任者や従業員が他者から利得を得て株主などの利益や団体の趣旨に反する裁断を下した場合は、背任罪に問われることになるが、日本においては以下の例外がある。
  • 法律上のみなし公務員規定により、公務員と同様に刑法の賄賂罪が適用される場合。(例:国立大学法人の役職員)
  • 個別法が当該法人の役職員に対する贈収賄の処罰を定めている場合(例:日本郵政について、日本郵政株式会社法17条~19条)
  • 会社の取締役監査役など(会社法967条・969条)、一般社団法人や一般財団法人における理事など(一般社団法人及び一般財団法人に関する法律337条)のように、法人に関する法律が贈収賄の処罰を定めている場合。

なお一部の発展途上国、政府がまともに機能していないような国、法律が正しく機能していないような国、役人の給料ですら長期に渡り遅配・無配が常態化しているような一部の国では(たとえばアフリカのナイジェリアなど)、役人がその日の生活にも困るような状態に陥り、その結果、ことあるごとに人々に露骨に賄賂を要求し、賄賂を払わないなら、お前が今必要としている書類にサインしてやらないぞ(お前を苦しめてやるぞ)、などと露骨に脅す役人ばかりになってしまう国もある。その日の食べ物を自分や家族が食べられるかそれができないかわからない、という状況まで追いつめられると、人はたとえ法律違反だと知っていても、それをやってでも食べ物を得て生き延びようとする。国が極貧状態に陥ると、「(ほとんどの国民は餓えているが)役人は例外的に賄賂を受け取ってそれなりに生き延びられるから、だから役人の職に応募しよう」などという、腐った動機の持ち主ばかりが公的な組織に入ってくるようになってしまう。

また、発展途上国で独裁者が支配し国民を食い物にしているような国家では、しばしば、その独裁者の周辺人物(独裁者の家族・親族・知人など)が、さまざまな利権をむさぼり金をたんまり貯め込んでいて悠々と暮らせる状態になっていても、露骨に賄賂を要求しさまざまな悪事を働いている事例は枚挙にいとまがない。

防止策

世界的に見ると以下のようなことが行われている。

  • 厳罰化(中華人民共和国では、同国のすっかり腐敗していた政治を正す習近平の改革により、賄賂を受け取った役人への処罰を厳罰化し、積極的に懲役実刑、悪質な者は死刑に処し、それを公務員全員に周知するようにしたことで、賄賂の授受を激減させることに成功した。)
  • 賄賂を受け取ることは重大な違法行為、ということを徹底する新人教育を行う。(多くの国で、公務員の新人(新規採用された者)に対して、新人教育の時点で、賄賂を禁止する法規や違反した場合の罰則について学習・暗記をおこなせている) 公務員として勤務していれば民間業者から賄賂の提供をほのめかされたり露骨に手渡そうとするようなことは何度も起きるわけなので、賄賂を渡されそうになった場合の具体的な断り方、巧妙なやりかたで渡そうとする民間業者に出会った場合の具体的な防ぎ方も(公式に、あるいは非公式に内内で)教育する場合がある。理念だけ教えて、具体的な断り方や防ぎ方のノウハウを教えないと、その教育は実際にはあまり役立たない。
  • 賄賂を受け取ることは重大な違法行為、ということを認識しているかどうか確認する設問や、それに対して厳しく対処するのが当然と思うかどうか当人の見解を問うて、公務員としての根本的な資質を確認する設問を、公務員試験の筆記試験問題や面接試験でのやりとりに織り込む。つまり、まだ組織に入っておらず具体的な誘惑に晒されていない受験の段階ですら、すでに賄賂を肯定・容認しているような不届き者を、組織に絶対に入れていけないような不届き者を、試験の段階でしっかりはじき落とす。
  • 内部通報制度の導入。および捜査機関に賄賂通報窓口の設置。(腐ってしまった役所でも、必ずしも公務員全員が腐ってしまっているわけではなく、良心を失っていない善良な公務員は残っているので、そうした一部の善良な公務員に、内部で証拠集めを行ってもらい、証拠を揃えて通報してもらうしくみ。組織はしばしば上層部から腐敗し、幹部が賄賂を受け取り中堅や若手までそれに倣って受け取り腐敗していることは多く、そうしたありがちな状態では、役所内部で上層部に通報しても逆に隠ぺいされるばかりなので、通常まともな国では、賄賂の通報窓口というのは、役所の内部には設けず、第三者の公的な捜査機関におかれる。)
  • おとり捜査の導入。おとり捜査を行って良い国の一部では、実際に、公的な捜査機関の捜査員が民間人を装い、公務員に対して「お金を提供するから、便宜をはかってくれないか」などと仮想的に持ちかけ、お金を提示、法律に違反していると知りながらその誘いにのり受け取った不届き者の公務員を逮捕している。捜査では証拠を残すために隠しカメラなども導入されている。
  • 公務員給与の遅配・欠配を防ぐしくみ。公務員が餓えたりしない程度の給与や、必要最低限の生活をおくるのに困らない程度の給与の設定額の確保。(世界のほとんどの国では、公務員給与は、一般民間人よりもかなり低く設定され、それでも公の仕事をして世の中の役に立ちたいと望むような、モラル、使命感の高い人を積極的に採用するようにしている。それにより「金儲けのためにしか仕事はしない」という者が組織に紛れ込む事態を抑制することに成功している。ほとんどの国では公務員給与は民間人に比べて低めだが、そのかわり、大多数の中小企業でしばしば起きる倒産にまきこまれてしまうということはない、というメリットが提供されている。企業の大多数を占める中小企業に勤める人々のかなりの割合が、職業人生中に自分の勤務先が倒産したり事業不振で事業部門ごと閉鎖することにともない解雇されることを経験する。公務員はそれが無い。)
  • 賄賂の隠れ蓑となる官吏の「裁量権」を制限し、細部に至るまで法令に基づいた機械的な権限行使のみを認める法制度を導入する。

歴史編集

賄賂は、権力機構の成立に付随して出現する。歴史上、法で明確化された徴税機構が機能している際には賄賂は違法とされるが、法制上の徴税機構が存在しないか機能不全に陥った際には、貢租と賄賂の区別が不明確になる。官職売買なども、主権者の定める法制によって公認された行為であれば賄賂とはされない。

また、近代以前の日本では、礼銭と賄賂の区別は明確ではなく、裁判などで礼銭名目で官吏に賄賂を贈って有利を得ようとする行為は、当時の常識的範囲内のものであれば賄賂とは考えられず、官吏側から見れば「役得」などと考えられていて、それが社会通念化してしまっていて、腐敗が横行し、行政は私物化されつづけ、しばしば機能不全に陥った。

近代国家では、法律で賄賂は違法だと明記されるようになり罰則が設けられるようになった。

現代における国際的規制編集

また1997年に、経済協力開発機構で『国際商取引における外国公務員に対する贈賄の防止に関する条約』が制定され、外国公務員に対する贈賄も法規制の対象になった。贈収賄いずれの当事者も、所属しない国家から摘発の対象とされることもある(例:アメリカ合衆国連邦海外腐敗行為防止法イギリス2010年贈収賄法)。

国際標準化機構(ISO)が2016年10月に発効させた「ISO37001」は、贈収賄防止に特化した国際標準規格である。日本では双日コンプライアンスの一環として2019年に取得しており、金銭を贈ることを禁止しただけでなく、贈答や接待、旅費負担についても、社内規則を設けた[1]

中国編集

中華人民共和国では、公務員を始め、商談の場や医療を受ける際などで、賄賂が盛んに行われている[2]。2005年には、発覚したものだけで一ヶ月当たり約29億円(うち23%が国家公務員のもの)という調査もある[2]

公務員の賄賂に対しての処罰は厳しく、2007年にも賄賂を受け取った高官が死刑に処されている。

中央政府は腐敗防止局を2008年に新設したが、手口の巧妙化や予算の制約による限界が指摘されている[2]

2012年に就任した習近平中国共産党総書記は、「汚職は国を滅ぼす」と述べ腐敗撲滅を目指している。

医療では、賄賂は長い間「暗黙の了解」とされてきた[3]という。これについては、調査対象の約7割が医者へ賄賂を渡したという報告がある[3]

  • 渡す側の理由としては、「“袖の下”を渡すと医者の態度が全然違う」が一番多い[3]
  • 受け取る側の理由としては、外国と比べ医者の収入が低いなどが言われている[3]

隠語編集

菓子箱の底に小判を隠すのは、時代劇等でもよく使われ、その小判のことを「山吹色のお菓子」「黄金色のお菓子」という隠語で表現される[4]

また袖の下(そでのした)という隠語もある[5]

備考編集

  • 歴史的には『日本書紀』に賄賂に関する記事が7例見られ、表記としては、「貨賂」「賂」と記して、「まいない」と読ませている(武光誠 『古事記・日本書紀を知る事典』 東京堂出版 p.294)。その最初の記事は、継体天皇6年(512年)12月条であり(前同 p.294)、百済の使者が任那の4県を得るために倭人に送ったとされる。
  • テレビ時代劇において、代官が賄賂を受け取るイメージが作られているが、実際には代官の下僚である手代の方が賄賂を受け取ることがあり、その原因として、薄給であり、保証の無い不安定な身分であるため、自分が働ける内に家族のために不正金銀を貯えようとしたためと『よしの冊子』に実情が記されている(西沢敦男 『代官の日常生活 江戸の中間管理職』 角川ソフィア文庫 2015年 p.245)。手代が賄賂を受け取らないよう、特別手当として、1人5ほど与えるも、1度の賄賂で2、30両ほどもらえるため、やはり賄賂は横行したとされる(前同 p.246)。農民の方も願い事のために金銀を差し出すことが習慣化されており、手代が求めずとも出された(前同 p.247)。ただし立件され、摘発されることは稀とされる(前同 p.251)。結果として、寛政2年(1790年)に代官の下僚として、御家人格の手付が創設されることとなる(前同 p.252)。有能な手代を手付に登用、昇進させるチャンスを与えることで賄賂を防ごうとしたが、失敗している(前同 pp.253 - 256)。
  • 歴史学者の磯田道史は、日本を大陸国家と比較し、アジア各国の空港役人が賄賂を要求するのに対し、成田税関ではそうした事件が無いことを挙げ、日本の役人の不正は、だいたいが飲食物くらいであり(例外は挙げつつ)、これらの比較は前近代の近世江戸期に遡り、日本の代官は農民からウズラの卵を持ち帰る程度だったが、清朝の官僚達は何かにつけて莫大な賄賂を得ていて、この社会的差異は、日本の武家が4 - 5人程度の小家族単位で暮らし、役職も世襲の永代雇用で、小さな出世くらいしかできない社会だったことに対し、中国や韓国では宗族=一族といった大規模家族単位の中で生き、役人になるためには、科挙に合格しなければならず、その過程で宗族を挙げて経済援助し、出世させるが、それで大臣クラスに昇進したとしても一代限りであるため、在任中に稼げるだけ稼ぎ、投資した宗族に還元したことによるとする。この宗族は大地主など地域の商業活動と結びついていたため、これが役人の腐敗につながり、その社会体質(国家役職を一族のビジネスとすること)から現代でも脱し切れていないとする(磯田道史 『日本史の探偵手帳』 文春文庫 2019年 pp.14 - 16)。

脚注編集

[脚注の使い方]
  1. ^ 「双日、贈収賄防止へ厳格管理」『日経産業新聞』2020年1月8日(働き方面)
  2. ^ a b c 「わいろ蔓延、勢いとまらず」茨城県上海事務所 ビジネスレポート
  3. ^ a b c d 7割近くが「医者に“袖の下”を渡したことがある」Record China(2008年1月31日付配信)
  4. ^ これを逆手に取った菓子折りが存在する
  5. ^ 袖の下 コトバンク

関連項目編集