野田 哲也(のだ てつや、1940年(昭和15年) 3月5日 - )は、日本版画家。日本版画界を代表する版画家の1人[4]東京藝術大学名誉教授[1]熊本県出身。写真を使ったシルクスクリーンと木版を組み合わせて自身の日常の断片を描いた日記シリーズによる作品で知られる。洋画家の野田英夫は、伯父にあたる。

のだ てつや
野田 哲也
生誕 1940年3月5日
熊本県宇土郡不知火町(現・宇城市
国籍 日本の旗 日本
職業 版画家東京藝術大学名誉教授[1]
著名な実績

1968年 第6回 東京国際版画ビエンナーレ 国際大賞受賞[2]

1977年 リュブリアナ国際版画ビエンナーレ 大賞受賞[3]
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2019年

略歴 編集

パブリックコレクション 編集

東京国立近代美術館[10] / 京都国立近代美術館[10] / 国立国際美術館[10] / 東京都現代美術館[11] / 和歌山県立近代美術館[12] / 三重県立美術館[6] / ニューヨーク近代美術館[13] / シカゴ美術館[14] / ボストン美術館[15] / サンフランシスコ美術館英語版[16] / ロサンゼルス・カウンティ美術館[17] / 大英博物館[18]

主な展覧会と受賞歴 編集

主な作品 編集

「日記」シリーズ 編集

日々の生活の記録である日記をテーマとして、1968年から今日まで40年以上にわたり作品を制作。作品モチーフとなるのは、家族や知人の姿、子どもの成長、旅先で目にした風景といった日常の断片。目にとまったものを撮影し、その写真に鉛筆や筆などで手を加えた後、謄写ファックスにかけてできる孔版と、木版とを組み合わせることなどによって制作している[24][25]

『日記』を思い立った契機について「芸大時代、課題の裸婦を一生懸命に描いたが、なにか絵空事のようで、それではいけないという気がした」という。「決定的に版画で行こうと思ったのは、学部の科目でやっていた木版に加えて謄写ファクス製版機で写真を使い始めたころ」だ。 卒業4年後の1968年、写真と伝統的木版画の背景の大胆な組み合わせは、初出品の東京国際版画ビエンナーレで国際大賞を受賞。以後、すべての野田作品は無題で、代わりに「日記」という言葉と日付が記されている[26]

「日本美術 大英博物館所蔵主要作品」(1990年)には仏教美術から20世紀版画が紹介されているが、野田の3歳半の娘リカをテーマとする版画「日記 : 1978年6月24日」の説明には「野田の作品はすべて題名には日記の日付しかなく、そのほとんどが作者自身が写した写真を出発点としている。この意味で極めて個人的な作品である。それにもかかわらず野田は他の日本人よりも国際的に高い評価を得ている」と記されている[27][28]

技法 編集

野田作品の技法は、木版と謄写版によるシルクスクリーン。木版は、水性絵の具を使う日本の伝統的技法をベースにしている。浮世絵の主版 = 黒の輪郭線の版 = をガリ版で、写真を使っている点は違うが、あとは色版を重ねて行く。浮世絵の摺りと同様に木版の背景が摺られ、つぎに色版が浮世絵同様に見当をつけて一点一点バレンでインクを浸透させて埼玉県の小川町産の和紙の上に重ね合わされて行く[24][26][29]ダニエル・ベルは「野田は初期教育から完全に浮世絵の伝統を念頭に置いている」と指摘している[29]

エピソード 編集

ドリット夫人はイスラエル人。東京国際ビエンナーレ大賞[2]で28歳の野田が一躍有名になった家族の肖像ー「日記 1968年8月22日」が作られたのは、野田が大学で小野忠重の助手をしていたころ[24]。夫人の妹の陶芸研究室研究生が出入りしていたが、そのうち姉の後のドリット夫人が出入りするようになったという[26]。大賞作品について夫人は「驚きましたが、光栄、自分がモチーフになっているということよりも、純粋に美術作品としてみていた」[30]

評価 編集

ベルは野田版画の独創性について「3点に要約される。見事なまでに一貫した主題、画面の組み立てと構成、そして意識的に浮世絵を範としながらも自分の創意を実現するために採用した斬新な技法」だと述べている[29][31]。またサンフランシスコ美術館の専任キュレイターロバート・フリン・ジョンソン英語版は「この時代の最も独創的で革新的、そして興味をそそられる日本の版画家」と記している[32]

脚注 編集

出典 編集

  1. ^ a b c [1]芸大教員アーカイヴ(名誉教授)
  2. ^ a b c [2] 第6回 東京国際版画ビエンナーレ展
  3. ^ a b c d [3] 美術館・アート情報Webマガジンartscapeの現代美術用語辞典 該当項目ページ
  4. ^ [4] Japanese Woodblock Printmaking with Professor Tetsuya Noda 在英国日本国大使館 文化庁文化交流使時の催事紹介
  5. ^ a b c d Tetsuya NodaThe Japan Times, Oct 14, 2006
  6. ^ a b c d e f g [5]三重県立美術館 所蔵品一覧 野田哲也
  7. ^ [6] 東京藝術大学 退任記念 展覧会 野田哲也展:日記 2007年1月11日-1月28日]
  8. ^ [7]文化庁「第8回文化庁文化交流使活動報告会開催」を報じたページ
  9. ^ [8]文化庁月報 平成23年6月号(No.513)
  10. ^ a b c [9]国立美術館 4国立美術館所蔵作品検索 野田哲也を指定検索で表示
  11. ^ [10]東京都現代美術館所蔵作品一覧検索結果
  12. ^ [11]和歌山県立近代美術館所蔵作品検索 野田 哲也を指定検索の結果表示
  13. ^ [12]ニューヨーク近代美術館所蔵作品検索 Tetsuya Nodaを指定検索の結果表示
  14. ^ [13]シカゴ美術館 所蔵作品検索 Noda Tetsuya を指定検索の結果表示
  15. ^ [14] ボストン美術館 所蔵作品検索 Noda Tetsuya を指定検索の結果表示
  16. ^ [15]サンフランシスコ美術館 コレクションサーチ Tetsuya Nodaを指定検索で表示
  17. ^ [16] ロスアンゼルス郡立美術館 所蔵作品検索 Tetsuya Noda を指定検索の結果表示
  18. ^ [17] 大英博物館所蔵作品リスト
  19. ^ [18]World Cat "Ikeda Masuo, Arakawa Shusaka, Noda Tetsuya : [brochure] an invitation to Japanese prints of the twentieth century from the Howard and Caroline Porter Collection, Cincinnati Art Museum, Decemter 7, 1975-February 29, 1976."
  20. ^ 2003年/平成15年東京文化財研究所『日本美術年鑑』所載美術界年史(彙報) アーカイブ 2012年10月19日 - ウェイバックマシン
  21. ^ [19]Art in Print Webサイト "Mokuhanga International"ページ
  22. ^ [20]熊本県立美術館 春の名品コレクション展 (【第3室】西洋美術と現代絵画)
  23. ^ 平成27年春の叙勲 瑞宝中綬章受章者” (PDF). 内閣府. p. 17 (2015年4月29日). 2023年3月8日閲覧。
  24. ^ a b c 視る : 京都国立近代美術館ニュース 第175号 1983(昭和57)年1月1日発行 河本信治(京都国立近代美術館 主任研究官)著, NCID [https://ci.nii.ac.jp/ncid/AN00378880 AN00378880
  25. ^ [21] 和歌山県立近代美術館 なつやすみ特集 野田哲也
  26. ^ a b c 版画芸術阿部出版 134号 (2006年) 中林忠良「潜ませた批判と批評」等 ISBN 978-4-87242-234-4
  27. ^ [22] The British Museum Noda Tetsuya (野田哲也) Biographical details
  28. ^ [23] 野田哲也全作品 1964-1978 CiNi図書所蔵先リスト (ISBN 019520834X Japanese Art - Masterpieces in the British Museum (OXFORD刊)にも引用掲載あり)
  29. ^ a b c 「野田哲也論」野田哲也1992-2000画集Ⅲ 収録 ダニエル・ベル (Daniel Bell)による著述 フジテレビギャラリー
  30. ^ 版画芸術阿部出版 134号 (2006年) 中林忠良「潜ませた批判と批評」ドリット夫人が語る作家・野田哲也」 ISBN 978-4-87242-234-4
  31. ^ [24]Japanese Art Society of America (ex Ukiyo-e Society of America) UKIYO-E SOCIETY BULLETIN - Winter 2001
  32. ^ [25] Days in a Life : The Art of Tetsuya Noda by Robert Flynn JOHNSON ISBN 978-0-93911-722-2

外部リンク 編集