本項では相対論的効果を考えない量子力学の数学的定式化(りょうしりきがくのすうがくてきていしきか)を厳密に述べる。本項では量子力学に対する最低限の知識を仮定する。
量子力学において系 の(純粋)量子状態は、状態ベクトルと呼ばれる単位ベクトルによって表現され、状態ベクトルとその定数倍のなすベクトル空間を状態空間という。状態空間はヒルベルト空間という数学的概念によって定式化される。そこで本節ではヒルベルト空間の定義を述べる。
ヒルベルト空間の概念を定義するため、まずは複素計量ベクトル空間を定義する:
定義 (複素計量ベクトル空間) ―
を複素ベクトル空間とする。任意の に対して以下の性質を満たす二項演算子 を 上の内積もしくは計量という:
- (共役対称性)
- (線形性) に対し、
- (正定値性) であり、しかも である。
複素ベクトル空間上に内積を一つ指定してできる組 を複素計量ベクトル空間という。
複素計量ベクトルの元 に対し、内積 に対応する のノルム を
-
により定義し、 の間の距離を
-
により定義すると はこの距離に関して距離空間の公理を満たす。
定義 (ヒルベルト空間) ―
複素計量ベクトル空間 がノルム から定まる距離 に関して完備であるとき、複素計量ベクトル空間 を複素ヒルベルト空間、あるいは単にヒルベルト空間という。
紛れがなければ以下内積 を省略し、記号 だけでヒルベルト空間を表すものとする。特に断りがない限り、本項ではヒルベルト空間として可分なもののみを考える。
上述の定義より、内積 は、第二成分に関しては線形であるが、第一成分に対しては反線形性
- に対し、
が成立する。なお、ここで提示した内積の定義は量子力学では一般的なものだが、数学の文献では、ここに載せたのとは逆に、第一成分に対して線形、第二成分に対して反線形であるものを用いる事が多い。
ヒルベルト空間 、 に対し、全単射線形写像 で
-
が全ての に対して成立するものが存在するとき、 と は同型であるという。
可分な無限次元ヒルベルト空間は同型を除いて1つしか存在しない。すなわち以下が成立する:
前述のように本項ではヒルベルト空間として可分なもののみを取り扱う。よって本項で登場するヒルベルト空間で次元が無限のものは全て同型である。
量子力学では以下の仮定を課す:
仮定 (状態空間に関する仮定) ―
量子力学において状態空間は複素ヒルベルト空間である新井(p210)。状態空間の単位ベクトルを状態ベクトルと呼び、各状態ベクトルは何らかの量子状態に対応している。また2つの状態ベクトルψ、φがa=1を満たす何らかの複素数aでφ=aψという関係を満たすとき、ψとφは同一の量子状態を表す新井(p210)。
本節では以降、こうした量子力学の仮定を幾つか述べるが、新井の本やHallの本など多くの本ではこうした仮定の事を公理(axiom)と呼んでいる。しかしこうした仮定は数学的な意味での公理ではないH13(p64)ので、本項ではその事を明確化するため、F15に従い、「公理」と呼ばず「仮定 (postulate)」と呼ぶものとする。
すでに述べたように(可分な)無限次元ヒルベルト空間は全て同型なので、任意に一つ無限次元ヒルベルト空間を持って来れば、原理的にはそのヒルベルト空間を状態空間とみなした量子力学を定式化できる。しかし通常の量子力学では、物理的な解釈をわかりやすくするため、L2空間というヒルベルト空間を用いて量子力学を展開する事が多い。そこで本節ではL2空間の定義を述べる。
L2空間を定義するには、測度論の概念を必要とする。そこでまず測度論を直観的説明する。厳密な説明は当該項目を参照されたい。
測度空間Xとは、Xの部分集合の「大きさ」の概念が定義された空間で、「大きさ」の具体例としては元の個数、面積、体積などがある。測度空間上定義された「大きさ」のことを測度という。Xの全ての部分集合に測度が定義されている必要はなく、測度が定義可能な部分集合を可測な部分集合という。
測度空間上では積分を定義可能な事が知られている。ただし測度の場合と同様、全ての関数に対してその積分が定義できるわけではない。積分概念を定義可能な関数の事を可測関数という。
測度空間X上の2つの可測関数ψ、φが
- Xの可測部分集合AでAの測度が0であるものが存在し、
を満たすとき、ψとφはほとんど至るところ等しいといい、
- a.e.
と表記する(「a.e.」は「almost everywhere」の略)。
Xを測度空間とする。量子力学の文脈ではXは の可測部分集合である事が多い。X上の可測関数ψで
-
となるものを考え、こうした関数全体の集合に
- a.e.
という同値類を定義する。
定義 (L2関数、L2空間) ― 記号を上述のように定義し、
-
と定義する。 の元をX上のL2関数という。
さらにL2(X)上の内積を
-
により定義すると、組 はヒルベルト空間をなすことが知られている。このヒルベルト空間をX上のL2空間という。
粒子がk個からなる系の場合、各粒子が3次元分の自由度を持つので、L2(R3k)空間を利用すれば量子力学を自然に展開できる。また例えば(ポテンシャルの壁に遮られるなどして)粒子が有限の区間Iの内部しか動けないようなケースに対しても、X=Iの場合のL2空間L2(I)を利用できる。
以上で述べたように、量子力学の数学的定式化にはヒルベルト空間、特にL2空間の概念が有効である。ただし、物理学者が量子力学で用いている議論の全てをヒルベルト空間上で数学的に正当化できる事を意味しているわけではない。
例えば物理学者が量子力学の記述に通常用いるデルタ関数は、そもそも通常の意味での関数ではないので、L2空間には属さない。後の章でL2空間にさらに元を添加する事でデルタ関数をも取り扱う数学的手法についても述べるが、この手法は万能ではなく、例えばデルタ関数同士の積が定義できないという欠点を抱える。よって特にデルタ関数同士の内積を定義できず、デルタ関数を添加した空間はヒルベルト空間にはならない。
こうした数学的な困難を避けるため、以降の議論は、基本的にデルタ関数のような「関数もどき」は慎重に排除した上で展開するものとする。
ヒルベルト空間上で定義可能な関数のクラスとして最も自然なものの一つに有界作用素があり、量子力学における主要概念の一つであるユニタリ作用素は有界作用素の一つである。そこで本節では有界作用素の概念とユニタリ作用素の概念を定式化する。
次の事実が知られている:
定理 ― 線形作用素Tが有界である必要十分条件は、Tが連続であることである新井(p65)
したがって有界線形作用素とは、連続線形作用素と言い換えても良い。
有界線形作用素の例としてユニタリ作用素がある。後述するように量子力学ではユニタリ作用素は時間発展を記述するのに用いられる。
上記の条件をみたすときは、明らかにUは単射なので、Uは全単射である事になる。したがってユニタリ作用素とは から自分自身への同型写像(自己同型写像)である。
なお、 が有限次元の場合には、単射性から全射性が従うため、ユニタリ作用素の定義において全射という条件は必要ない。しかし が無限次元の場合には、全射ではない単射線形作用素も存在するため、全射の条件は必須となる。
定義から明らかに次が成立する:
本節では共役ベクトル空間の概念を定義することでディラックのブラベクトル、ケットベクトルの概念を数学的に定式化し、さらにリースの表現定理を導入することで、ブラベクトルの概念を別の角度から再定式化する。
ヒルベルト空間 で使われている足し算「+」、(スカラーとの)掛け算「・」、および内積 を明示して、 を と書くことにする。
定義 (共役ベクトル空間) ―
ヒルベルト空間 の元 と定数
a∈C、に対し、
-
と定義すると、 もヒルベルト空間になる。ここで はaの複素共役である。 を の共役ベクトル空間(英語版)という。
定義より、共役ベクトル空間は掛け算以外は元の空間と同一である。以下、掛け算を明示しなくても共役ベクトル空間を区別できるようにするため、 の共役ベクトル空間を と表記する。また が の元である事が文脈から明らかな場合は、 を略記して単に と表記する。
ヒルベルト空間 上の内積 は、第一成分に対して反線形、第二成分に対して線形であった。しかし内積の第一成分を共役ベクトル空間を とみなして
-
だとすれば、内積 は、第一成分、第二成分双方に関して線形である事になるので便利である。そこで量子力学では の元と の元とを区別して考え、以下のように呼ぶ:
定義 (ブラベクトルとケットベクトル) ―
の元をブラベクトル、 の元をケットベクトルと呼ぶF15(p23)[注 1]。
ブラベクトル に対し、線形作用素
-
を考えると、コーシー=シュワルツの不等式
-
より、この作用素は有界作用素である。実は複素数値の有界線形作用素はこの形のものに限られる事が知られている:
なお が有限次元であれば上に述べた事実は自明であるが、無限次元であってもこの事実が成り立つ所にこの定理の主眼がある。以上の事実から、ブラベクトルを以下のように特徴づけられる事がわかる:
系 ―
ブラベクトルと複素数値の有界線形作用素は1対1に対応する。
既に述べたように作用素が有界である事はその作用素が連続である事を意味している為、有界性はヒルベルト空間上の作用素の最も自然な概念の一つである。しかし量子力学で用いられる作用素の多くは有界ではないし、しかも の部分領域でしか定義できない。この原因は、量子力学で用いられる作用素の多くが微分を用いて定義されており、微分作用素が有界でもなければ 全域で定義できるわけでもない事にある。
幸運な事に、これら量子力学で用いる作用素は「稠密に定義された可閉作用素」という、比較的扱いやすいクラスに属している事が知られている。そこで本節では、まず「稠密に定義された」という概念と「可閉」という概念を定式化する。
次に本節では、この「稠密に定義された可閉作用素」の概念をベースとして、量子力学におけるオブザーバブルの概念を定式化する。すなわち、稠密に定義された可閉作用素の共役作用素の概念を定式化し、共役作用素の概念を用いて自己共役作用素の概念を定式化し、最後に量子力学におけるオブザーバブルの概念を自己共役作用素により定式化する。
オブザーバブルは状態空間の全域で定義されているとは限らないが、状態空間の稠密部分集合上では定義が可能である。そこでまず、稠密に定義された作用素の概念を導入する。
紛れがなければ 上稠密に定義された作用素を単に
-
と書く[注 2]
特に が成立しているとき、Tは の全域で定義されているという。
稠密に定義された作用素に対し以下の拡大の概念を定義できる:
定義 (稠密に定義された線形作用素の拡大) ―
稠密に定義された2つの線形作用素 が、 Dom(S) ⊂ Dom(T) かつT|Dom(S) = Sを満たすとき、TはSの拡大であるといい、以下のように書き表す:
- S ⊂ T
有界作用素に関しては、次の重用な性質が知られている:
定理 (BLT定理) ―
稠密に定義された作用素 Tがその定義域において有界な線形作用素であれば、Tを全域に一意に拡張可能である。すなわち、全域で定義された が一意に存在し、 である新井(p71)
したがって有界作用素に限定すれば、稠密に定義されている事は全域で定義されている事と実質的な差がない。しかし量子力学で用いる作用その多くは有界ではないので、この定理を用いる事ができない。
Tが可閉作用素である必要十分条件は、任意の点列ψn∈Dom(T)に対し、n→∞のときψn→0かつT(ψn)→χであればχ=0が成立する事である新井(p87)。
を稠密に定義された線形作用素とする。ベクトル に対し、以下の性質を満たす を考える:
- 任意の に対し、
このような は常に存在するとは限らないが、存在すれば一意である事を示せる新井(p82-83)[注 3]。そこで共役作用素を以下のように定義する:
定義 (共役作用素) ―
- 上述の性質を満たす が存在する
とし、線形写像T*を
-
により定義し、T*をTの共役作用素という新井(p82-83)。
定義より明らかに
- 任意の に対し、
であるが、Tが有界とは限らない時、Tが稠密に定義されていたとしてもT*が稠密に定義されることもT**とTの定義域が一致する事も無条件には保証されない新井(p83-84)が、Tが可閉であればこれらは保証される:
定理 ―
Tが可閉であれば以下が成立する:
- T*が稠密に定義される⇔Tが可閉作用素新井(p90)
-
量子力学では以下の仮定を課す:
仮定 (オブザーバブルに関する仮定) ―
量子力学におけるオブザーバブルは自己共役作用素として表現される。
明らかに次が成立する:
命題 ―
- Tは自己共役作用素⇒Tは対称作用素⇒Tはエルミート作用素
しかし逆向きは一般には成り立たない。与えられた作用素が自己共役かどうかを決定する問題を自己共役性の問題といい、それだけで一冊の本が書けるほど難しい問題である新井(p228)。
自己共役作用素とその関連概念に対し以下が知られている:
上記定理の性質3はTが可閉作用素である必要十分条件はT*が稠密に定義されることと性質2から従う新井(p90)。
性質1より、以下本項ではTが本質的に自己共役な場合には、紛れがなければTと を混用する。
自己共役作用素は必ず掛け算作用素として表現できる事が知られている:
本節では
-
の場合に対して、オブザーバブルの具体例を述べる。
量子力学で登場する代表的なオブザーバブルは、いずれも偏微分を用いて表現できるので、まず本節では微分作用素の定義と性質を述べる。
定義 (微分作用素) ―
非負整数α1、…、αd≧0からなるベクトル(α1、…、αd)に対し、
-
-
とする(この記法を多重指数表記という)。
-
の形で書ける作用素をm次の微分作用素という。ここで添え字αは非負整数の組で、和は有限和であり、ψα(x)はRd上の複素数値の局所自乗可積分な関数である。なおDの定義において、α1=…=αd=0の項 はψ0(x)倍する演算子とみなす。
本節の目標は、微分作用素Dのうち性質の良いものを 上定義されたオブザーバブルとみなす事である。しかしそもそも偏微分 は が可微分でなければそもそも定義できないので、単純にDを の元に作用させることはできない。そこで以下の事実を用いる:
微分作用素DはC∞
0(Rd)上で明らかに定義可能であり、しかもC∞
0(Rd)の元をL2(Rd)に写すので、以下の系が従う:
系 ―
微分作用素Dを 上稠密に定義された線形作用素とみなす事ができる。
定義 (掛け算作用素・位置作用素) ―
実数値可測関数
-
に対して線形作用素Mfを
-
と定義し、Mfの閉包を掛け算作用素という。ここで
-
である。
特にj = 1,...,dでf(x)=xjという形の掛け算作用素を第j位置作用素という。
上記の定理は以下のように証明できる。可測性から
-
なのでMfは稠密に定義された作用素であり、しかも明らかにMfは対称作用素である。さらに とすれば、任意の に対し、 をみたすので、
-
である。 の任意性より、これは a.eを意味する。χの自乗可積分性とDom(Mf)の定義より、 である。よってDom(Mf*)=Dom(Mf)であり、掛け算作用素Mjは自己共役作用素である。
定義 (運動量作用素) ―
線形作用素
-
の閉包を第j運動量作用素という。
定理・定義 ―
各jに対し第j運動量作用素Pjは本質的に自己共役である。より一般に
- …(A1)
という形で書ける微分作用素は本質的に自己共役である新井(p198)。特に
-
の閉包として書ける軌道角運動量作用素も自己共役である。
(A1)の形の微分作用素Dが自己共役である事の証明は本項の範囲を超えるため省略するが、Dが対称作用素である事は以下のように示すことができる。φ, ψ ∈C∞
0(Rd)に対し、部分積分の公式から
-
である。(A1)の形の微分作用素は の実数係数多項式であるので、
-
が成立する。Dの定義域C∞
0(Rd)は で稠密だったので、これはDが対称作用素である事を意味する。
量子力学では時刻tに依存するかもしれないポテンシャルと呼ばれる実数値局所可積分関数V(x,t)を固定し、シュレディンガー作用素と呼ばれる作用素
-
を考える。ここでmjは何らかの定数で、物理的にはj番目の粒子の質量を表す。またlは次元であり、物理学的なセッティングでは3である。各時刻tに対しシュレディンガー作用素は常に対称作用素であるが新井(p227)、本質的に自己共役であるか否かはポテンシャルによる。
ここで は の元と の元の和で書ける関数の集合である。
量子力学を定式化するため、ディラックはデルタ関数
-
を導入した。数学的に見た場合、このような「関数」は存在しないものの関数概念を一般化した「超関数」の概念を使う事でデルタ関数を数学的に定式化でき、これによりディラックの議論をある程度の部分まで数学的に正当化ができる(全ての議論を正当化できるわけではない。詳細後述)。そこで本稿では超関数の概念を導入し、デルタ関数を超関数の概念を使って定式化し、超関数の性質を調べる。
本節では超関数の概念を定式化するのに必要な概念を導入する。
C∞
0(Ω)と
編集
定義 (C∞
0(Ω)と ) ― Rdの領域Ω⊂Rdに対し、
- C∞級関数 s.t. ある有界閉集合K⊂Ωが存在し、ψはΩ\K上で恒等的に0である
とする。
さらにα=(α1,...,αd)、β=(β1,...,βd)に対し、及びC∞級関数ψ : Rd → Cに対し、
- 、ここで
と定義する。C∞級関数ψ : Rd → Cが
- 任意のα=(α1,...,αd)、β=(β1,...,βd)に対し、
という性質を満たすとき、ψを急減少関数といい、Rn上の急減少関数全体の集合 と書き、 をシュワルツ空間というF15(p109)。
明らかに
-
である。また前述したようにC∞
0(Rd)はL2(Rd)の稠密部分空間なので、次の事実が成り立つ:
- はL2(Rd)の稠密部分空間である新井(p190-191)。
定義から明らかなように は次を満たす
- ψ(x1,...,xn)∈ なら、任意のα=(α1,...,αd)、β=(β1,...,βd)に対し、
よって特に、位置作用素や運動量作用素は の元を の元に写す。
C∞
0(Ω)の元の列および の元の列の収束性を定義する。
ΩをRdの領域とし、ψ : Ω → Cを局所可積分関数とするとき、C∞
0(Ω)上の線形汎関数Tψを
- 、
により定義することで、局所可積分関数ψにC∞
0(Ω)上の線形汎関数Tψを対応させる事ができる。この対応関係が単射な事は容易に確かめられるので、ψとTψを自然に同一視することにすると、C∞
0(Ω)上の線形汎関数の集合は局所可積分関数の集合を部分集合として含むことになるので、C∞
0(Ω)上の線形汎関数を局所可積分関数よりも広いクラスの「関数」であるとみなせる。そこでC∞
0(Ω)上の線形汎関数で「連続」なものの事を「シュワルツ超関数」、あるいは単に「超関数」と呼ぶことにする。
定義 (超関数) ―
線形汎関数
- T : C∞
0(Ω)→R
で連続なものをシュワルツ超関数、あるいは単に超関数という。
ここでC∞
0(Ω)上の線形汎関数Tが連続であるとは、C∞
0(Ω)の元の列 がC∞
0(Ω)の元 に収束するときは常に
-
が成立する事を言うF15(p103)。
超関数全体の集合を と表記する。
2つの超関数に対してその線形和を自然に定義できるため、超関数全体の集合はベクトル空間をなす。同様に緩増加超関数を以下のように定義する:
以下、超関数Tと局所可積分関数ψに対し、
-
と表記する。緩増加超関数に対しても同様の表記を用いる。なお上述の表記は内積に似ているが、内積の定義では複素共役を取っている事が原因で、
-
となることに注意されたい。
Tを緩増加超関数とするとき、Tの定義域を の部分集合C∞
0(Rd)に制限した
-
は超関数になる。よって制限写像により緩増加超関数全体の集合 から超関数全体の集合 への写像
- 、
を考える事ができる。この写像は単射である事が知られているので、この写像により自然に を の部分集合とみなすことができる。
ディラックのデルタ関数の概念は、緩増加超関数の概念を用いて定式化する事ができる。
定義 (デルタ超関数) ―
ΩをRdの開集合とするとき、以下のように定義される超関数をデルタ超関数という:
- 、
内積の定義より、これは
-
を意味する。上式をL2空間における内積の定義と照らし合わせると、上式はディラックの議論における
-
を数学的に正当化したものとみなせる。
超関数に対する偏微分の概念を定義する為、まずはC∞
0(Ω)の元の偏微分に関して簡単な考察をする。φ、ψをC∞
0(Ω)の2つの元とするとき、C∞
0(Ω)の定義よりφ(x)、ψ(x)が0でないxの集合は有界閉集合であるのに対し、ΩをRdの開集合であるので、Ωの境界上ではφ(x)、ψ(x)は0になる。よって微分積分学の基本定理から、
-
が成立する。よってライプニッツルールにより
-
が成立する。そこで上式を参考にして、超関数の偏微分を以下のように定義する:
定義 (デルタ超関数) ―
超関数Tの偏微分を
-
により定義する。
C∞
0(Ω)の元は無限回微分可能なので、上記の定義は常に意味を持つ。より一般に微分作用素を
-
も定義可能である。
ここで注意すべきことは、局所可積分関数ψそれ自身が偏微分不能な関数であっても、 は定義可能な事である。これはψの偏微分は通常の関数としては存在しなくとも、超関数の中にはψ(と同一視されるTψ)の偏微分が存在する事が原因である。紛れがなければ以下 の事を単に と書き、 をψの超関数としての偏微分と呼ぶ。
また通常の関数の場合、仮に二階偏微分可能であっても と が異なる関数になる場合があるが、超関数としての微分を考えた場合、 と は必ず同一の超関数になる事を簡単に確認できる。
以上で示したように、超関数の概念を用いる事でディラックによるデルタ関数の議論の一部を数学的に正当化できるが、超関数を用いても全ての議論を正当化できるわけではない。例えば以下の議論は超関数では正当化されない:
- 公式 :そもそも超関数同士の積は定義不可能である。(詳細はシュワルツ超関数の項目を参照されたい)
- C∞
0(Ω)以外のL2空間の元とデルタ関数との内積を取ること:前述した内積の定義は超関数とC∞
0(Ω)の元との間にのみ定義されているので、C∞
0(Ω)に属していない元とは内積を取れない。
- デルタ関数は超関数であり、L2空間の元ではないので、デルタ関数をあたかも通常の状態ベクトルであるかのように扱う議論は必ずしも正当化できない。
関数ψの超関数としての微分が関数で書けるとき、その関数をψの弱微分という:
定義 (弱微分) ―
ΩをRdの開集合とする。局所可積分関数ψ、χ : Ω → Cに対応する超関数Tψ、Tχが
-
を満たす時、χはψの弱微分であるとい、
-
と表記する。
定理 (運動量作用素の定義域) ―
運動量作用素(の閉包作用素)Pjの定義域は以下のように書くことができる:
-
本節では、関数 f: R → C のフーリエ変換
-
とその逆変換に当たるフーリエ逆変換
-
の厳密な定義を述べ、その性質を調べ、そして最後に位置作用素と運動量作用素が(換算プランク定数を除いて)フーリエ変換で移り合う関係にある事を見る。
フーリエ変換とその逆変換を定義する上で問題になるのは、fやgがどのようなクラスに属すればこれらの変換が定義でき、変換によってできあがる関数 、 がどのようなクラスに属するか、という事である。本節ではまずシュワルツ空間という関数空間のクラスを定義し、フーリエ変換がシュワルツ空間上の全単射になっている事を示す。次に本節では、シュワルツ空間上の線型汎函数である「緩増加超関数」に対してもフーリエ変換が定義可能なことを見る。そして最後にフーリエ変換がL2空間上の全単射になっている事を見る。
と の上のフーリエ変換
編集
上のフーリエ変換
編集
次が成立する事を簡単な計算で確かめることができる:
定理 ―
フーリエ変換とフーリエ逆変換は 上定義可能である。しかもこれらの変換は 上の全単射であり、フーリエ変換とフーリエ逆変換は逆写像の関係にあるF15(p112)
またこれらの変換は連続である:
に対し、超関数の時と同様
-
と定義する事で、シュワルツ関数 に緩増加超関数Tψを対応させることができる。
定理 ― 写像
-
は単射かつ連続で、しかもその像は値域において稠密であるM07(p17)。
上のフーリエ変換
編集
の元ψ、χに対し、プランシュレルの定理
-
が成り立つので、 とする事で、
-
となる事が分かる。これを参考にして緩増加超関数Tのフーリエ変換を以下のように定義する:
定義 ―
緩増加超関数Tのフーリエ変換
-
により定義し、同様にフーリエ逆変換を
-
により定義する。
これらの変換は緩増加超関数全体の集合 で逆写像の関係にある事を以下のように簡単に示すことができる:
-
上のフーリエ変換が連続であることから、上に定義した 上のフーリエ変換も連続である事が従う。
L2関数ψに緩増加超関数
-
を自然に対応させることで、L2空間を の部分集合とみなせる。よって 上でフーリエ変換の定義域をL2空間に制限する事でL2空間にもフーリエ変換が定義できる。次の事実が成り立つことが知られている:
定理 ―
L2関数のフーリエ変換はL2関数であり、しかもフーリエ変換は 上の内積を保つ新井(p197)M07(p17)。
すなわち、L2関数のフーリエ変換は 上のユニタリ変換である新井(p197)
実はこのような性質を満たすフーリエ変換の拡張は一意である:
L2関数ψのフーリエ変換は
-
という形式で書くことがでるとは限らない。なぜならψがL2関数の場合は上述の積分は一般には定義できるとは限らないからである。しかし
-
は定義でき新井(p197)、L2関数のフーリエ変換は以下を満たすことが知られている:
定理 ―
- R→∞のとき、
すなわちFR(ψ)は にL2収束する新井(p197)。
最後に、位置作用素と運動量作用素とがフーリエ変換で移り合う関係にある事を見る。
そのためにより一般に微分作用素
-
(の閉包作用素)を考え、多項式Fを
-
と定義すると、以下が成立することが知られている新井(p198):
定理 ―
-
ここでMFはFを乗じる掛け算作用素である。よって特に運動量作用素
-
(の閉包作用素)は以下を満たす:
系 ―
-
xj倍する掛け算作用素は位置作用素であったことから、上式は換算プランク定数を除いて位置作用素と運動量作用素が移り合うことを意味する。
スペクトルとは、有限次元における固有値・固有ベクトルの理論の「無限次元版」であり、量子力学では物理量を観測する時に得られる値の集合となる。本節の目標は、ヒルベルト空間上定義された自己共役作用素のスペクトルの概略を述べる。
無限次元におけるスペクトル理論について述べる前に、まず有限次元の固有値の性質を調べる。λが の固有値である事は明らかに
-
を意味し、これはA-λIは単射ではない事を意味する。 が有限次元であれば線形写像が単射である事は全射である事と同値なので、λがAの固有値である事はA-λIが全単射でない事と同値である。したがってλがAの固有値ではない場合、A-λIは全単射である為、
-
が存在し、逆にRλが存在すればλはAの固有値ではない。
しかし無限次元の場合には
- 単射ではない全射線形作用素
- 全射ではない単射線形作用素
が存在するため、このような単純な関係は存在しない。スペクトル理論は、上述のような作用素の存在を考慮した上で、固有値・固有ベクトルの理論を適切に「無限次元化」したものである。
これまで同様 をヒルベルト空間とし、 を稠密に定義された(有界とは限らない)閉作用素とし、λを複素数とする。恒等写像Iは全域で定義されているので、A-λIもAと同一の定義域を持つ作用素として定義できる。
定義 ―
-
が全単射である複素数λ全体の集合をρ(A)と書き、Aのレゾルベント集合といいS12(p7)、その補集合 をAのスペクトルというS12(p7)K12(p30)。さらにスペクトルσ(A)に属するλをAのスペクトル点であるというH13(p177)。
なお、本稿で述べているレゾルベント集合を狭義のレゾルベント集合と呼び、「レゾルベント集合」という語には別の意味を与えているテキストも存在するので注意されたい。
定義 ―
λがレゾルベント集合ρ(A)に属していれば は全単射なので、A-λIの逆写像
-
が定義できる。RλをAのλにおけるレゾルベントという。
次の事実が知られている:
定理 ―
Aが閉作用素の場合、Rλは必ず有界であるL04(p38)。
なお本稿ではAが閉作用素の場合に限定してレゾルベント集合を定義したが、Aが閉作用素でない場合にレゾルベント集合の定義を拡張する際は、A-λIが全単射になり、しかもRλが有界になるλの全体をレゾルベント集合と定義する新井(p125)。
スペクトルσ(A)の定義より、λがσ(A)に属する場合、A-λIは全単射でない。すなわちA-λIは「全射でない」かもしくは「単射でない」事を意味する。
定義 ―
σ(A)の元のうち、A-λIが単射でない複素数λ全体の集合をσP(A)と書き、σP(A)をAの点スペクトルというK12(p30)新井(p92)。
λがσP(A)の元であれば明らかに
-
であるので、
-
となる0でない が存在する。すなわち点スペクトルσP(A)の元はAの固有値であるK12(p30)。σP(A)の元λに対し、 の0でない元をAのλに対応する固有ベクトルといい、 をλの多重度というK12(p30)。
有限次元の場合と違い、A-λIが単射であるにもかかわらず、全射ではない事が起こりうる。よって は一般には空集合ではない。 の詳細については後述する。
スペクトルσ(A)に属するλのうち、A-λIが単射でないもの全体が点スペクトルσP(A)であった。それ以外のσ(A)の元、すなわちA-λIが単射ではあるが全射でないものは2つのタイプに分類できる。
λがAの剰余スペクトルもしくは連続スペクトルに属していれば、A-λIは単射であるので、A-λIの像 の上定義された逆写像 を定義できる。この意味において、レゾルベント集合においてもA-λIの逆写像が定義できるので、この意味で剰余スペクトルや連続スペクトルはレゾルベント集合に類似しているが、違いは逆写像の定義域にある。レゾルベント集合においては は の全域で定義され、しかも(Aが閉作用素であれば) は必ず有界である。それに対し連続スペクトルの場合は の の稠密部分空間で定義されているに過ぎず、しかも は有界ではない新井(p125)。さらに剰余スペクトルにおいては の定義域は で稠密ですらない。
以上で定義した概念をまとめると次のようになる。
定理 ―
複素数の集合Cはレゾルベント集合ρ(A)とスペクトルσ(A)により、
-
と互いに交わらない和として書き表す事ができ、さらにスペクトルσ(A)は点スペクトルσP(A)と連続スペクトルσc(A)と剰余スペクトルσr(A)により、
-
と互いに交わらない和として書き表せる。
なお連続スペクトルは本稿で述べたのとは別の定義があり、その定義を採用した場合には連続スペクトルと剰余スペクトルは排他的になるとは限らないK12(p30)。
点スペクトルσP(A)以外ではA-λIが単射になるので、A-λIの像の上で逆写像 が定義できるが、剰余スペクトルでは の定義域は有界ではなく、連続スペクトルでは稠密に定義されているが有界ではなく、レゾルベント集合では全域で定義されていてしかも有界である。
本節では以下、 を(稠密に定義された有界とは限らない)自己共役作用素とする。このときσ(A)は実数体Rの閉部分集合である事が知られているH13(p177-178)。またσ(A)の元は必ずしも点スペクトルではないため、 が0となるψ≠0が存在するとは限らないが、 をいくらでも0に近く取る事ができるH13(p177-178):
なお上の後半の性質を満たすλ全体の集合をσapp(A)と書き、近似スペクトルというS12(p12)。したがって上述の事実は、自己共役作用素のスペクトルは近似スペクトルと一致する事を意味する。さらに次が成立する事が知られている:
定理 ―
自己共役作用素の剰余スペクトルσr(A)は必ず空集合であるK12(p30)。
以上をまとめると、以下が成立する。
定理 ―
を(稠密に定義された有界とは限らない)自己共役作用素とすると、
-
スペクトル分解とは、有限次元ベクトル空間における線形作用素の固有値分解を無限次元に拡張したものであるが、単純に有限次元の固有値分解を無限次元に拡張することはできない。これは無限次元の場合、有限次元と違って連続スペクトルが存在し、連続スペクトルには点スペクトル(=固有値)と違い、対応する固有ベクトルが存在しないことに起因する。
本稿では自己共役作用素をスペクトル分解する方法として、以下の3種類を紹介する:
- 直積分によるスペクトル分解
- スペクトル測度によるスペクトル分解
- ゲルファントの3つ組によるスペクトル分解
これら3つのスペクトル分解のうちで、量子力学において通常用いられるスペクトル分解の定式化、すなわちデルタ関数を用いたスペクトル分解に最も近いのは最後にあげたゲルファントの三つ組によるものである。しかしこのゲルファントの三つ組によるスペクトル分解は、すべての自己共役作用素に対して適応できるわけではないという欠点を持つ上、この手法でスペクトル分解するには数学的な準備が必要となる。そこでこの手法によるスペクトル分解は後の節にまわし、本節では残り2つのスペクトル分解を紹介し、これらをもとに、量子状態の観測の概念を数学的に定式化する。
が有限次元の場合、 を
-
のように直和として表記可能である。ここでAは 上の自己共役作用素であり、 は固有値λに対応する固有空間である。さらに任意の に対し、
-
である。
一方 が無限次元の場合には、Aは非可算無限個のスペクトル点を持ちうるので、単純に上式を無限次元に拡張する事はできない。しかしベクトル空間の「直和」の代わりに「直積分」という概念を用いる事で無限次元の場合も同種の公式が成立する事が知られており、これをAの直積分によるスペクトル分解と呼ぶ。本節では直積分の概念を数学的に定式化し、直積分を用いて上式を無限次元の場合に拡張する。
直積分の概念を定式化するため、「切断」の概念を導入する:
さらに2つの切断 、 に対し、sとtの内積を
-
により定義することができる。
定義 (直積分) ―
自分自身との内積 が有限になる切断全体のなすベクトル空間を考え、このベクトル空間を測度μに関してほとんど至る所等しい切断を同一視する事で得られるベクトル空間を
-
と表記し、 のμによる直積分(英語版)と呼ぶH13(p144-147)。
直積分は前述した内積に関して完備であることが知られており、よって直積分はヒルベルト空間になるH13(p144-147)。
前節でペンディングしていた の可測性の定義を述べる。 可測性を定義するには、 に技術的な付加構造を加える必要がある(よって直積分は にこの付加構造を付け加えた場合のみ定義可能である)。まずその付加構造を定義する:
なお、写像 が可測であるときは、 は必ず同時正規直交基底を持つことが知られている。
以上の準備のもと、直積分によるスペクトル分解を定式化する:
上述の定理は が無限次元の場合も、 をAの「固有空間」 の直積分に分解でき、しかも直積分の元sのAUによる像AU(s)の「 成分」である(AU(s))(λ)はsの「 成分」s(λ)を「固有値」λ倍したものになっている事を意味するように見えるので、 をλに対応するAの一般化した固有空間、 の元をλに対応するAの一般化した固有ベクトルであるとみなし得るH13(p147-148)。実際、スペクトル点τ∈σ(A)においてμ({τ})>0であれば、sτ∈ に対し切断を
-
により定義すると、写像
-
は
-
を満たすので、 の元はAUの0でない固有ベクトルになる。しかしμ({τ})=0の場合にはmτが恒等的に0である為、 は通常の意味での固有空間にはならない。
直積分によるスペクトル定理は、前述した掛け算作用素によるスペクトル定理から容易に従う[注 4]。実際、掛け算作用素によるスペクトル定理より、 は何らかのL2空間 と同型で、Aは 上で実数値関数 を乗じる作用素として表現できるので、hの像である実数直線R上に測度h*(μ)を入れれば、
- 、 ここで
と表記できる。 が{0}でないλの集合がσ(A)と一致する事を容易に確認できるので、上記の積分をσ(A)に制限すれば、直積分によるスペクトル定理が従う。
本節の目標は、非有界作用素のもう一つのスペクトル分解方法であるスペクトル測度によるスペクトル分解を定式化する事である。まず、スペクトル測度の概念を定式化する動機を与える為に、有限次元における固有値分解を復習する。
を有限次元のヒルベルト空間とし、Aを 上の自己共役作用素とする。有限次元の場合、自己共役作用素は必ず固有値分解可能な事が知られている。すなわちAの固有値をλ1、…、λnとし、これらの固有値に対応する固有空間をV1、…、Vnとすると、 の元ψは必ず
- ψ=ψ1+…+ψn、 ψ1∈V1、…、ψn∈Vn
と表現でき、
- Aψ=λ1ψ1+…+λnψn
が成立する。そこで の元のVjへの射影変換をPjとすると、明らかに
-
が成立する。
スペクトル測度μは、以上の考察を無限次元に拡張する事を可能にする概念であり、Rのボレル可測部分集合Bに対し、 の閉部分線形空間への正射影変換μ(B)を対応させる。スペクトル測度μの概念を直観的に説明するため、再び有限次元の場合を考えると、Bとスペクトルσ(A)={λ1,…,λn}の共通部分が であるとき、スペクトル測度μによるBの像μ(B)は、 の元を の部分空間
-
に射影する射影変換である。
スペクトル測度の概念を厳密に定式化する。なお、スペクトル測度の概念それ自身は、Aのスペクトルとは無関係に定義する。スペクトル測度の概念がAのスペクトルと結びつくのは、後述するスペクトル定理においてである。 を の元を の閉部分線形空間に対応させる正射影作用素全体の集合とする。すなわち
- (閉部分線形空間) s.t.
さらに をR上のボレル加法族とする。直観的にはこのRは、自己共役作用素のスペクトルやレゾルベントの取りうる値の集合である。
をスペクトル測度とするとき、次の事実が成り立つことが知られているH13(p139)新井(p138)。ここで は の内積である:
定理 ― 定理
ψを の元とする。この時、写像 はRd上の複素数値の測度である。
上述のように定義される測度を と書くとき、次が成立する事が知られている:
定理・定義 (作用素値積分) ―
μψによる(有界とは限らない)可測関数fのルベーグ積分は何らかの非有界線形作用素Ffを用いて、
- for 、
-
と書けるH13(p202)。
この線形作用素Ffを
-
と表記し、スペクトル測度μによるfの作用素値積分(operator-valued integral)というH13(p139)。
なお任意の可測関数fに対しDom(Ff)は