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高安犬物語』(こうやすいぬものがたり)は、1954年に発表された戸川幸夫による日本短編小説[1]。戸川幸夫の第一作であり、代表作にも挙げられる[1][2]。第32回直木賞受賞作[1][2]

初出は『大衆文芸』1954年(昭和29年)12月号。直木賞受賞により『オール讀物1955年4月号に再録。

戸川自身の旧制山形高校時代の実体験をもとに、一部フィクションを交えて描いた半自伝的小説である。戸川によれば、長谷川伸が主催する新鷹会に入門してから間もなく、長谷川から、「新鷹会賞」を制定し年間の最優秀作に与えることにしたので、門下生で割当で何かを書いてくるように言われ、執筆した作品であったという[3]

東京書籍小学校高学年の国語の教科書などでも紹介されている[4]

あらすじ編集

高安犬(こうやすいぬ)は山形県東置賜郡高畠町高安(こうやす)を中心に繁殖した中型の日本犬で、主に番犬や熊猟犬として使われていた。

昭和初期。古生物学に興味を持ち、山形高校の理科に進学した「私」は、絶滅した山犬(日本狼)に興味を持って調べているうちに、学友の尾関から日本犬のことを教えられ、次第に興味をそちらへと移していった。

あるとき、尾関は「私」と、日本犬の同好仲間であるパン屋の主人「木村屋」に、高安犬を探しに米沢に行こうと呼びかける。だが、当時すでに混血が進み、純血の高安犬は絶滅に瀕しており、探してもよぼよぼの老犬が2頭見つかっただけであった。尾関と木村屋は捜索を諦めたが、諦め続けずに探し続けた「私」は、和田村で、ついに1頭の高安犬を発見する。それは吉蔵という猟師の飼い犬で、名を「チン」といった。気難し屋の吉蔵は、「私」に全く取り合おうとしなかったが、「私」は熱心に吉蔵のもとに通いつめる。

やがてチンがポリップを発症したため、「私」は吉蔵を説得し、手術費用を出す代わり、木村屋がチンを引き取ることになった。だが、山形市に連れて来られたチンは間もなく隙を見て逃げ出し、和田村の吉蔵のもとに戻ってしまう。結局、手術は吉蔵を伴って行われたが、この手術を境にチンは「私」たちにもなつくようになり、結局、木村屋で飼われることになった。

冬のある日、チンを散歩させていた「私」は、東北闘犬界の横綱である土佐犬「頼光」と出くわす。まだ手術後の傷の癒えない体でありながら、頼光と対決し、ついに倒してしまう。春になってチンは、ダムに落ちた子供を救い出し、このニュースは新聞でも取り上げられた。

やがて「私」と尾関は卒業してそれぞれ東北帝大北大に進学したため、チンとは離れ離れになってしまう。その年の2学期、チンはヒラリヤに倒れ死去する。「私」と木村屋は、最後の高安犬の姿を永久に残そうと、羽前長崎の剥製師に剥製作りを依頼するが、出来上がってきた剥製は無残な出来栄えで、とても後に残せるものではなかった。「私」と木村屋は、故郷の和田村にチンの剥製を葬ることを決意する。

主な登場人物編集

チン
高安犬の最後の1匹。すでに10歳であり熊猟犬としては老齢であるが、これまでに仔熊2頭、手負熊6頭を噛み殺してきた。
「私」(田沢)
物語の語り手。名前は田沢久雄。
山形高校理科の学生で、東北帝大古生物学科への進学を志望している。のちに志望通り東北帝大へ進学。
モデルは戸川幸夫自身(ただし、戸川は実際には山形高校を中退しており、大学には進学していない)。
尾関
山形高校での「私」の学友。米沢の醸造家の跡取りであったが、家業を継ぐことを嫌い、北大農学部への進学を志望している。日本犬愛好家で、「私」に日本犬のことを教え、さらに高安犬の存在を教えた張本人。のち、志望通り北大に進むが、そのためチンの最期を看取ることができなかった。
モデルは戸川の学友。
木村屋
「私」と尾関の日本犬愛好仲間。山形市内でパン屋を経営している。35 - 6歳。
モデルは実際に「木村屋」の屋号でパン屋を経営していた、戸川の年長の友人。作中では「日本犬保護協会」の会員名簿で知ったことになっているが、実際の最初の出会いは、戸川が登校中、たまたま校門前で犬の散歩をしている木村屋と出くわした、というものであったという[5]。チンが逃亡した際、実際に『山形新聞』に「木村屋」名義で訪ね犬の広告を出している[3]
吉蔵
チンの飼い主である猟師。通称「吉」。32 - 3 歳。蔵王吾妻飯豊一帯では熊猟にかけては右に出るもののない名手だが、気難し屋で短気で乱暴なため、人付き合いは少ない。
モデルは戸川と親交のあった猟師で、他にも、『飴色角と三本指』(1955年)の「三本指」、『熊犬物語』(1955年)の「源次」、『諸国猟人譚 第一話 夜這いの辰』(1958年)の「夜這いの辰」などのモデルとなっている。戸川は「なかなか豪快な性格で、一面ひどく気むずかし屋である代りに、軽妙洒脱なところもあり、どれが本当の彼の性格なのか、正体のつかめない複雑さを持っていた」と評している[6]

関連項目編集

出典編集

  1. ^ a b c 『ペット用語事典犬・猫編』The Animal Press Ltd.、2005年、115頁。ISBN 9784862180001
  2. ^ a b 尾崎秀樹『大衆文学の歴史(下) 戦後篇』講談社、1989年、133頁。ISBN 9784062043526
  3. ^ a b 戸川幸夫、「取材ノート《高安犬物語》」 『戸川幸夫動物文学選集 4 高安犬物語』 主婦と生活社、1971年3月20日、40-43頁。 
  4. ^ 5年生の国語教科書紹介本のリスト (PDF)”. 東京都立図書館. 2018年7月9日閲覧。
  5. ^ 戸川幸夫、「犬」 『戸川幸夫動物文学全集 第十巻』 冬樹社、1966年4月18日、50頁。 
  6. ^ 戸川幸夫、「取材ノート《飴色角と三本指》」 『戸川幸夫動物文学選集 3 爪王』 主婦と生活社、1971年3月20日、171-174頁。 
  7. ^ 『るるぶ山形 鶴岡 酒田 米沢 蔵王'19』JTBパブリッシング、2018年、99頁。ISBN 9784533126697