GSG-9
部隊名編集
現在の正式な部隊名は連邦警察GSG-9(ドイツ語: GSG 9 der Bundespolizei)であり、GSG 9 BPOLと略される。かつては第9国境警備群(Grenzschutzgruppe 9)が正式な部隊名で、GSG-9はその略称の1つだった。国境警備群(GSG)とは、連邦警察の前身である連邦国境警備隊(BGS)で使用されていた部隊編成単位である。2005年7月1日に国境警備隊が連邦警察局に改組された際、現在の部隊名に変更された。
歴史編集
1972年、ミュンヘンオリンピックで、パレスチナ解放勢力「黒い九月」による選手村襲撃事件(ミュンヘンオリンピック事件)が発生した。当時、西ドイツの州警察および連邦国境警備隊には対テロ作戦部隊がなかったことから、西ドイツ当局の対応は極めて混乱したものとなり、結局人質全員が死亡するという最悪の結末を迎えた[1]。
西ドイツ政府はこの事件への対処に失敗したことを教訓として、特殊部隊の創設を計画した。ドイツ連邦共和国基本法には、対テロ作戦における連邦軍の国内出動については規定がなく、議論が分かれるところであった[2]。このことから、連邦政府の警備警察組織である連邦国境警備隊が設置母体となり、その9個目の国境警備群として、1973年4月17日に設置されたのが本部隊である[3]。
「政府の対テロ部隊」という位置づけから、かつての武装親衛隊やゲシュタポを連想しての反発もあったものの、創設者であるウルリッヒ・ヴェーゲナー警視は強力に計画を推進した[3]。部隊創設の際にはイギリス陸軍の特殊部隊SASから指導を受けた。
その後、1977年にパレスチナゲリラによる「ルフトハンザ航空181便ハイジャック事件」が発生。この事件において、GSG-9 はソマリアのモガディシュに着陸した航空機に強行突入を行い、わずか5分で犯人を制圧、人質全員を無事救出した。この事件は人質全員を無事救出したことから「モガディシュの奇蹟」とも呼ばれている。事件での活躍により、GSG-9は世界中にその存在を知られることとなった。
GSG-9は航空機に突入する際、当時、まだ一般的ではなかった特殊閃光弾を使用しており、結果的にその実用性を証明した。また、突入の際に使用されたMP5短機関銃も、この事件以降、世界各国の軍事系、警察系特殊部隊で採用された。
なお、過去には海外派遣もあったが、これは特例措置で行われたものであり、現在は国内での活動が中心となっている。ただし、海外のドイツ大使館には警護任務のため、GSG-9の隊員が常駐しており、2004年にはイラクにおいて、車で移動中のGSG-9隊員2名が武装勢力に襲撃され、死亡している。
2009年海賊事件が多発する東アフリカ・ソマリア沖でドイツ船籍が海賊に乗っ取られた事件でも、独政府は拘束されていたドイツ船員らを救うためにGSG-9第2中隊を派遣したが、作戦実行の2日前に中止された。海賊の見張りが6人から35人に増え急襲への備えが行われていたことや、共同して作戦立案や演習を行った米国側から「危険な作戦だ」との助言を受けたことが理由とされる[4]。
パリ同時多発テロ事件を受けてドイツも対テロ部隊の強化に動き、2015年12月にGSG-9を補完する新組織「BFE+」(証拠収集と逮捕チーム)を設立。2016年中に250人規模へ拡充することを計画している[5]。
組織の概要編集
GSG-9は終身雇用制である。年を重ねて運動能力が基準以下になると、実戦での経験をいかした訓練の考案や、後輩達の指導、育成を担当して、部隊の進化へ貢献する。
部隊では、拳銃(USPタクティカルやグロック17など)、短機関銃(H&K MP5など)、自動小銃(H&K G36など)、狙撃銃(H&K PSG-1やDSR-1など)などの装備を保有しており、GSG-9が採用した装備は世界各国の特殊部隊が参考にするといわれている。
国家警察部隊として政治的背景のある事件やテロ事件への対処を主要な任務としており、これらの事件に該当しない凶悪犯罪などは州警察の特別出動コマンド(SEK)が担当する。また、テロ事件への対処以外にも州警察の支援や、重要施設(首相官邸など)の警備を担当している。
入隊条件(志願制)編集
- 連邦警察局員で在籍年数が2年半以上、勤務成績が優秀である者
- 国籍:ドイツ連邦共和国又はEU加盟国の市民権
- 入隊年齢制限:18-24歳
- 最低身長:男性165cm、女性163cm
- 約6ヶ月間行われる選抜テスト(訓練)を落伍せず通過した者。
最終訓練カリキュラム編集
- 突入訓練
- 航空機、船舶、列車、大使館などの実物大の模型を使用し、実践シナリオに沿った演習を行なう
- CQB(近接戦闘)術
- 基本的な格闘術、テロリストの武器を奪って反撃する訓練、テロリストがよく使用する外国製銃器の特徴や使い方の学習
- 射撃訓練
- 片手射撃、作動不良排除、迅速なマガジン交換、遮蔽物を利用した射撃、視界不良時の射撃、人質のいる状況下での精密射撃、移動中からの乗り物からの射撃、ロープ降下中の射撃など
- 特殊技能習得
- HALO(高高度降下低高度開傘)、HAHO(高高度降下高高度開傘)、ヘリ降下、EOD(爆発物解体処理)、通信技術、応急処置、潜水、車両高速運転技術、警察科学、法律など
構成編集
三個中隊からなる。
登場作品編集
- 『GSG-9 対テロ特殊部隊』
- 2007年3月から2008年5月までドイツの衛星ペイテレビ局Sat.1で放送されていた、同部隊を主軸にしたドラマ。
- 『パイナップルARMY』
- 漫画作品。「ブレークスルー:突入」でハイジャック事件に出動する。
- 『レインボーシックス』シリーズ
- 部隊を構成する隊員にはGSG-9出身者が含まれる。
脚注編集
- ^ Simon Reeve (2001). One Day in September: the full story of the 1972 Munich Olympic massacre and the Israeli operation 'Wrath of God'. Arcade Publishing. ISBN 1-55970-547-7.
- ^ 渡邉, 斉志「ドイツにおけるテロ対策への軍の関与」、『外国の立法』第223号、国立国会図書館、2005年2月、 38-50頁、 NAID 40006678343。
- ^ a b David Clay Large (2012). Munich 1972: Tragedy, Terror, and Triumph at the Olympic Games. Rowman & Littlefield. p. 299. ISBN 9780742567399.
- ^ “ソマリア海賊:独が警察特殊部隊突入断念 「軍が救出を」改憲論浮上”. 毎日新聞
- ^ “独警察に新部隊発足”. 読売新聞