γ-デカラクトン(がんまデカラクトン)は、芳香のあるラクトンで、化学式C10H18O2で表される有機化合物である[1]。その分子構造から明らかなように不斉中心を1つ持つため、S体のγ-デカラクトンと、R体のγ-デカラクトンが存在する。このうちS体は左旋性(-)であり[2]R体は右旋性(+)である[3]。ちょうどデカン酸の4位の炭素に結合している水素のうちの1つが水酸基に置換された化合物である4-ヒドロキシデカンが、分子内で脱水縮合を起こして環状になった構図をしている。γ-デカラクトンはモモの香りを特徴づける成分として重要で、天然には果実や発酵食品、和牛[4]に存在する。モモ、アンズイチゴ香料として清涼飲料水香粧品医薬品、家庭用品に使用される。日本の法令では、食品添加物としての使用が認可されている[5]。日本の消防法では危険物第4類第三石油類(非水溶性)に区分される[1]

γ-デカラクトン
γ-Decalactone
識別情報
CAS登録番号 706-14-9
PubChem 12813
ChemSpider 12285
特性
化学式 C10H18O2
モル質量 170.25 g mol−1
外観 無色の液体
匂い 甘いモモの香り
沸点

281 °C, 554 K, 538 °F

危険性
引火点 146℃[1]
半数致死量 LD50 4696.4mg/kg(ラット、経口[1]
関連する物質
関連するラクトン δ-デカラクトン
γ-ノナラクトン
γ-ウンデカラクトン
γ-ドデカラクトン
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

香りの研究編集

広島大学大学院生物圏科学研究科の大村尚の分析によると、キンモクセイの香り成分はγ-デカラクトン、リナロール、リナロールオキシド、β-イオノン、α-イオノンなどで構成され[6]、中でも本物質は特徴的な香りを持つと考えられる[7]。キンモクセイの香りは拡散性が高いことで知られるが、本物質はやや揮発性が低いため、遠くまで拡散しているのはβ-イオノンが中心ではないかとする考えもある[4]。大村の研究により、本物質はモンシロチョウの忌避成分として同定された[6]

アサヒグループホールディングスの研究では、モルト・ウイスキーの香気成分からγ-デカラクトンとγ-ドデカラクトンが発見された。これはウイスキー製造時に、不飽和脂肪酸乳酸菌によりヒドロキシ脂肪酸となり、これが酵母のβ酸化によりラクトンへ変換されたものと推察された。脂肪酸の供給源は、醸造時に併用されるビール酵母であると考えられる。この研究は、日本醸造協会より2004年度日本醸造協会技術賞を受賞した[8]

ロート製薬の研究によると、γ-デカラクトン(ラクトンC10)はγ-ウンデカラクトン(ラクトンC11)とともに若い女性特有の甘い体臭を構成し、本物質は20代、γ-ウンデカラクトンは30代で大幅に減少することが明らかになった。この研究は、2017年9月に神戸市で行われた日本味と匂学会第51回大会でポスター発表され[9][10]、プレスリリースで配布されたPDF中の図4によると10代ではγ-デカラクトン(ラクトンC10)の濃度は0.1ppm程度、γ-ウンデカラクトン(ラクトンC11)の濃度はこの1.5倍に相当する0.15ppm~[11][12]が析出されたとしている[13]

出典編集

  1. ^ a b c d γ-デカラクトン”. 東京化成工業 (2018年7月14日). 2018年9月26日閲覧。
  2. ^ (S)-gamma-decalactone (CAS登録番号 107797-27-3)
  3. ^ (R)-gamma-decalactone (CAS登録番号 107797-26-2)
  4. ^ a b 金木犀おもしろ話題集(2018) 香り成分γ-デカラクトン”. 有限会社武蔵野ワークス. 2018年9月28日閲覧。
  5. ^ 食品添加物リスト ラクトン類”. 日本食品化学研究振興財団 (2003年7月28日). 2018年9月28日閲覧。
  6. ^ a b 大村尚「総説 チョウ成虫の採餌行動と嗅覚情報物質」『比較生理生化学』第23巻第3号、日本比較生理生化学会、2006年、 134-142頁、 doi:10.3330/hikakuseiriseika.23.1342018年9月28日閲覧。
  7. ^ みんなのひろば 金木犀の香り方”. 日本植物生理学会 (2015年10月20日). 2018年9月28日閲覧。
  8. ^ “ウイスキーの甘い香りを作るのは、乳酸菌が関与していることを発見” (プレスリリース), アサヒグループホールディングス, https://www.asahigroup-holdings.com/research/group/report/report17.html 2018年9月27日閲覧。 
  9. ^ “女性の「若い頃のニオイ」を解明!「若い頃の甘いニオイ」の正体は「ラクトンC10/ラクトンC11」” (プレスリリース), ロート製薬, (2018年2月14日), https://www.rohto.co.jp/news/release/2018/0214_01/ 2018年9月28日閲覧。 
  10. ^ 望月佑次, 横山裕実, 山北夏子「P-070 加齢に伴う女性の体臭変化に関する研究」『日本味と匂学会誌』Proceeding集第51回大会、日本味と匂学会、2017年。
  11. ^ “プレスリリース:ロート製薬、加齢に伴う女性の体臭変化に関しての研究結果を発表” (プレスリリース), 日本経済新聞, (2018年2月14日), https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP471373_U8A210C1000000/ 2019年6月29日閲覧。 
  12. ^ “添付リリース” (プレスリリース), 日本経済新聞, (2018年2月14日), https://release.nikkei.co.jp/attach_file/0471373_03.pdf 2019年6月29日閲覧。 
  13. ^ 望月佑次(ロート製薬)「加齢に伴う女性の体臭変化に関する研究」『FRAGRANCE JOURNAL』46(3):pp.66-66,2018

関連項目編集