アニメーター
アニメーター(英語: animator)とは、アニメーションの制作工程において、作画工程の原画(げんが)、動画を担当する人全般を指す。
アニメーター | |
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![]() アニメーター ノーマン・マクラレン | |
基本情報 | |
職種 | 芸術 |
業種 | 映画、テレビ、インターネット、マスメディア、テレビゲーム |
詳細情報 | |
就業分野 | アニメーション |
商業アニメでは、原画・作画監督・動画・動画検査などが該当する。作画力とキャラクターに演技をつける演出者としての能力も必要で、アニメーターの力量は映像に顕著に現れる。新人は、動画マンを経て、原画マンで経験を積み評価されると作画監督に昇格する。
ストップモーション・アニメーションでは、人形等の動きの設計を担当する者、3DCGアニメーションの制作では動きをつける者のことを示す。
原画が完全にデジタル化されてもなお一定数の人手が必要なため、アニメーション業界は労働集約型産業とされる[1]。
作業内容編集
原画マンは、動きのキーポイントの静止画を作画し、その間の絵をつなげる作業は動画マンが担当する。複雑な動きが要求される場合は原画マンがあらかじめ原画の間に参考絵を足すこともある。出来上がった原画は作画監督にチェックをされる。
原画編集
担当する者は「原画マン」と呼ばれ、演出家と担当パートの打ち合わせを行い、まず、絵コンテを元にレイアウトを描き起こす。レイアウト作業ではカメラワーク、背景用の原図、動きのラフなどの絵を用意する(レイアウトのみ専門的に人を割り当てる作品もある)。
演出はレイアウト上がりがコンテの内容、演出意図とズレがないかを確認し、必要ならば指示を入れ、作画監督(作監)に渡す。演出、作画監督の修正が入り、チェック済みとなったものがレイアウトバックとして各原画マンに戻される。
複数で作画作業を行なう場合、キャラクター毎に原画を分担させる制作体制を取ることもある。作画効率が低くなる代わりに、1人のキャラクターを1人の原画マンが一貫して責任を持つため演技の設計が行いやすく、また、原画マン毎によるキャラクターの演技や表情に違いが生じないというメリットがある。
日本ではカット毎に原画作業を分担することが一般的で、外注するには都合がよく効率的ではあるが、短いカットの参加では演技設計が難しく、画面や演技の統一感が得られなくなるデメリットがあるため、作画監督が必要となる。
作画監督は動きをチェックして修正したり、原画マンごとに異なるキャラクターの解釈をキャラクターデザインに基づいて修正して画面の統一を図ったりする。アニメーター出身の演出の中には作画監督の領域までタッチすることもある。作品によっては、作画監督間の絵のバラつきを押さえるために、総作画監督を立てることもある。
紙と鉛筆などアナログな制作環境で行うことが過去から続いているが、ペンタブレットとイラストソフトを利用して原画作業を行う「デジタル原画(作画)」を取り入れる場合がある(デジタル環境が取り入れられているのはCGおよび彩色や撮影が大部分で原画作業では稀)。
動画編集
担当する者は「動画マン」と呼ばれ、原画と原画の間を補間するように絵を描き、これを中割りという。また、ラフに描かれた原画の線を拾いクリーンナップ(清書)作業を行うのも動画の役割である。一般的に、新人アニメーターは動画を担当し、技量を認められると動画検査や原画を任せられるようになる。
原画工程同様に管理役職がおり、動画検査と呼ばれる動きに関する熟練者が動画の修正やリテイクを指示する。
CG編集
デジタルアニメが一般化しているが、レタッチソフトと液晶タブレットを使い、「手で描く」手法が主流であることや、専門知識を持つ者が少ないため、CGを活用できるアニメーターの確保は難しいという[2]。
労働環境編集
日本編集
国内のアニメーターの多くは、有名クリエーターを夢見て目指す者が多い。原画として成功したときの見返りは多く、高い実力の持ち主が独立した場合などは、多くの収入を得ることもできるが、独立まで行ける者はほんの一握りであり、ほとんどのアニメーターが一般的なサラリーマンの平均的な収入よりもはるかに低く、また基礎から育てられずに動画から原画に促成的に移行させられることに因る力量不足などで挫折し、業界を離れて行くケースも多い。
1980年代には低収入という認識が芸術系学生の間で広まっており、当時アニメーターを目指し日本大学芸術学部へ進学した青山剛昌は、入会した漫画研究会の先輩である矢野博之に漫画家の方が儲かると言われ進路を変更したという[3]。実際に1980年代に原画マンだった安田朗は賃金の低さから辞めている。
現在の日本のアニメーターのほとんどが契約社員かフリーランス(個人事業主)であり、正規雇用(正社員)での雇用がほとんどないため、健康保険や厚生年金などの福利厚生が受けられない。
固定給制である制作会社はスタジオジブリ、京都アニメーションなどごく少数しかない。また、実力を認められたアニメーターが会社側から拘束をうけ、単価とは別の固定給をもらうという場合も存在する。新人アニメーターの担当する作業は低単価の動画であるが、原画から育成する方針のスタジオも存在する。
動画1枚・原画1カットの単価×出来高制の業務委託・請負形式であるが著作権料は無く、売り上げも還元されず、請負金額にも反映されない契約である。
作画監督は1話の制作期間(2カ月程度)拘束されるため、作品の掛け持ちや、あるいは制作会社が拘束料を支払い専属の契約社員となる場合もある。
新人アニメーターの多くは契約社員であり、動画担当は劣悪な労働環境と低収入から1年間で90%が辞めていく状態である。平均労働時間は1日約18時間、週2回は徹夜で月収約2~3万円しかない(新人)。中堅クラスのアニメーターや動画マンでも月収は約7万5000円~10万円[4]程度しかなく、良くても約15万円といわれ、実家からの仕送りや副業により収入を得ていることも多い。
収入が少ない理由として、1枚の動画の単価が約150円~高くても200円程度しかなく、採用されなければ一切の収入が入らない。また原画や動画の単価は昔からほとんど変化もしていないこともあり、アニメーターの約25%は年収100万円以下であるといわれる[5]。
また1980年代ごろまでは月あたり1000枚ほど生産していた動画アニメーターが存在していたのに対し、現在は制作体制が変化し、パソコンにスキャンして彩色する関係上、作画の線を綺麗に描かなければならないこと、視聴者から求められている作画のレベルが上がっていることから、1人で多くの枚数を生産しにくい状況となっており、月に500枚描ければ動画マンは一人前とも言われる。動画マンとしての仕事を覚えて現場でアニメーターとしての実力を認められると原画の仕事に移行する[6]。原画の場合は1枚ではなく、1カットの単価が約3,000円~5,000円となり、責任者である作画監督になると、1話あたりの単価が30~40万円ほどになるといわれている。
また、広告代理店や製作局などの「製作委員会」が制作費の多くを中抜き(搾取・ピンハネ)しており、制作会社に与えられる制作費が少ないため、これも動画マンのアニメーターに十分な収入がない理由のひとつともいわれている。 アニメ監督山崎理は「アニメ制作の予算配分はおかしく、音響監督、脚本家、撮影はもらいすぎではないか」と疑問を呈している[7]。
劣悪な労働条件を改善するため、2007年(平成19年)10月13日に、スタジオライブ社長の芦田豊雄の呼びかけで、日本アニメーター・演出協会(JAniCA)が設立された[8]。
2008年に株式会社ボンズ名義でアニメーターの個人情報が流出する事件が起こり、アニメーターの格付けが行われている実態が明らかとなった。その格付けによると「こいつはクビ」「戦犯」「会社の癌」などとアニメーターの人権を否定するよう格付けしていた(ボンズ側は一切関係ないと否定)[9]。
中国のAGC企業が日本で会社を設立し、良い人材を集めるため、日本の制作会社より高い待遇を提示する例も見られるようになっている[10][信頼性要検証]。
2016年10月頃より株式会社ピーエーワークス(P.A.WORKS)所属のアニメーターが自身のTwitterにおいて、支払明細書を掲げた上で同社の雇用条件や賃金に対して、批判的なツイートを連発。当のアニメーターが公開した給与のうち、もっとも高額だったのは2016年10月支払分の手取り額で67,569円だった[11]。それらが注目されて、ネット上の各所に情報が拡散される事態となった。ピーエーワークスでは2017年から本社のアニメーターを正社員とし、養成プログラムをスタートさせた[12]。
1990年代後半からアニメ制作にコンピュータを使うデジタルアニメが主流となり、2000年代以降は静止画の自動生成技術により省力化が進められており[1]、DeNAでは中割りの自動生成技術の開発を行っている[13]。
海外編集
海外のアニメーターにはフリーランスで作業を手懸ける者が多く、その分野ではエンターテインメント領域で働く人間のための特別な社会保障制度が存在している。特にフランスにおいてはその制度で健康保険や年金が設けられている他、年に1回「Conges Spectacles」(エンターテインメント産業界の休暇の意)という有給休暇が1カ月分与えられることが最大のメリットとなっている[14]。
基本は自己申告制であり「ここからこの辺りまで休暇を取りたい」と伝えると、そこから1ヶ月分の給料を手渡されるようになっている。ただし、その前年にあまり働いてなければこの給与が少なくなってしまう欠点を孕んでいる[15]。
教育編集
日本編集
製作会社が独自に教育を行っている。
フランス編集
以下の国家資格が存在する。
- 資格レベルIII - DMA Cinéma d'animation
脚注編集
- ^ a b 好況アニメ産業が抱える「ブラック労働」 クオリティ劣化でブーム終了に繋がる懸念も - 弁護士ドットコム
- ^ 正解するカド:話題の3DCGアニメ、制作の裏側 3DCGの強みとは? - MANTANWEB(まんたんウェブ)
- ^ 週刊少年サンデー 2016年5月4日号 Vol.21 pp.426-431「サンデー非科学研究所 その4 作画メシ〜青山剛昌先生編2〜『名探偵コナン』が生み出される部屋に潜入セヨ!!」。2016年4月20日発行・発売。
- ^ この金額自体、正社員として雇用されるサラリーマンの手取り額の30%にも満たないうえ、さらに社会保険料や所得税など経費も引かれるため、アニメーターの「最終的な手取り額」は5万円にも満たないことも珍しくない。
- ^ 日本芸能実演家団体協議会の2008年における調査
- ^ http://www.pa-works.jp/sakuga/yoshihara/tobi-yoshihara13.htm.
- ^ “アニメーター年収100万 業界は全員「極貧」か”. J-CASTニュース (ジェイ・キャスト). (2009年9月10日) 2009年9月11日閲覧。
- ^ 森有正 (2007年10月13日). “アニメ制作:現場から悲鳴 労働環境改善求め協会設立へ”. 毎日新聞 2008年4月19日閲覧。
- ^ GIGAZINE (2008年11月2日). “「戦犯」「会社の癌」などと書かれたアニメーター評価表?が不正アップロードされたボンズ、説明会を開催”. GIGAZINE 2019年9月20日閲覧。
- ^ 中国のアニメ企業が、日本のアニメーターをどんどん引き抜いてる=中国メディア - サーチナ(2016-12-31 11:12版/2017年3月15日閲覧)
- ^ “年収100万円未満…アニメ制作現場、超絶ブラックで崩壊の危機か…離職率9割、人材使い捨て常態化”. Business Journal 2017.01.04
- ^ P.A.養成所のこと。若手アニメーターの育成のこと。 【前編】 - P.A.WORKS公式
- ^ 過酷なアニメ制作の現場、AIで救えるか 「動画マン」の作業を自動化、DeNAの挑戦
- ^ この社会保障制度は、映画や演劇などエンターテインメントの分野領域で、規模などが大きな会社に長期所属するわけではない「Intermittents du Spectacle」(エンターテインメント産業界の不定期労働者の意)という不定期に働く人間が対象とされている。
- ^ “日本過酷すぎぃ! フランスのクリエイターが語る高待遇な海外アニメ業界”. ねとらぼ (2016年8月30日). 2016年9月11日閲覧。
参考資料編集
- 西位 輝実, 餅井 アンナ アニメーターの仕事がわかる本 玄光社 ISBN 978-4768312797 2020年
- アニメーション制作者 実態調査 報告書2015 (PDF)
- JAniCA講義 井上俊之さん小黒祐一郎さんと一緒に『もっとアニメを観よう!』配布資料:井上俊之の作画史観に基づく年表 (PDF)
- アニメーション産業に関する実態調査報告書 (PDF, 平成21年1月) - 公正取引委員会
- 20代アニメーターの平均月収は10万円以下 - アニメ産業が抱える問題点とは?