スイショウ(水松、学名: Glyptostrobus pensilis)は、裸子植物マツ綱ヒノキ科[注 2]スイショウ属に分類される半落葉性(全ての葉ではなく部分的に落葉する)の針葉樹の1種である(図1)。スイショウはスイショウ属に分類される唯一の現生種である。湿地に生育し、ときに地上に隆起する呼吸根を形成する。短枝のはトゲ状から線形、秋に紅葉して枝とともに落ちるが、長枝の葉は鱗片状で1年以上ついている。中国南部、ベトナムラオスに分布するが、自生のものはほとんど残っていないとされる。

スイショウ
1. スイショウ
保全状況評価[1]
CRITICALLY ENDANGERED
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
: 植物界 Plantae
階級なし : 裸子植物 gymnosperms
: マツ綱 Pinopsida
: ヒノキ目 Cupressales[注 1]
: ヒノキ科 Cupressaceae
亜科 : スギ亜科 Taxodioideae[2]
: スイショウ属 Glyptostrobus
: スイショウ G. pensilis
学名
Glyptostrobus Endl. (1847)[5]
Glyptostrobus pensilis (D.Don) K.Koch (1873)[6]
シノニム
和名
スイショウ[7][8][9]、ミズマツ[7]、イヌスギ[7][8]
英名
Chines swamp cypress[10], Chinese water-fir[10], Chinese water-pine[10]

特徴 編集

半落葉性の高木であり(図1, 2a)、大きなものは高さ15-30メートル (m)、幹の直径60-220センチメートル (cm) になる[11][12][13]。根元から 6–7 m 以内に呼吸根を生じることがある[11][8]樹皮は褐色から灰褐色、縦に裂ける[11][12](下図2b)。樹冠はやや乱れた円錐形、下部の枝は水平に広がる[11][12]。古い枝はしばしば非常に密に分枝する[12]。長枝と短枝があり、長枝は宿存性、短枝は芽をつけず1年で落ちる[11][13]。葉は木の老若や枝の種類などによって形が異なる[12][13][8][9]。長枝の葉はらせん状につき、鱗片状で互いに重なり伏生、1.5-3 × 0.4-0.6 ミリメートル (mm)、2–3年ついている[11][12][13][8][9]。一方、短枝の葉は互生、2-7 × 0.4-0.6 mm、成木の短枝の葉は3列につき、スギの葉に似たトゲ状で横断面は四角形(下図3a)、若い木の短枝の葉はふつう2列につき、扁平な線形(下図3b)[11][12][13][8][9]。短枝の葉は秋に紅葉し、短枝とともに落ちる[11][13][8][9]

2a. 紅葉した木
2b. 樹皮
2c. 枝葉

雌雄同株、"花期"は1–3月[12][13] 雄球花[注 3]は短枝の先端に単生し、楕円形、らせん状に配置した15–20個の小胞子葉からなり、各胞子葉は(2-)5-7(-10)個の花粉嚢をもつ[11][13][9]雌球花[注 4]は側枝の先端につき、卵形、長さ 12-18 mm、有柄[11][8]球果は直立し、倒ナス形、1.4-2.5 × 0.9-1.5 cm、果鱗は20–22個がらせん状についており、種鱗と苞鱗のほぼ全体が癒合しており、三角形から舌形、10-13 × 3-5.5 mm、背面に6-10個の刺があり、種子は2個ずつ、9–11月に熟し、翌春までついている[11][12][13][8][9](下図3)。種子は褐色、卵形から長楕円形、5-7 × 3-4 mm、やや扁平、基部に長さ 4-7 mm の翼がある[11][12][13]。子葉は4–5枚[11][13]染色体数は 2n = 22[13]

3a. 枝葉と若い球果
3b. 枝葉と裂開した球果

分布・生態 編集

中国南部(浙江省福建省江西省広東省海南島広西チワン族自治区四川省雲南省)、ベトナムラオスに分布し[1][6][12]、特に広東省の朱江三角州、福建省の閔江下流域では多く植栽されているが、他地域では極めて稀である[12][9]。もともと人間活動が激しい場所に生育していたため、中国ではすでに自生のものは無いともされる[1][12]。ベトナムやラオスの自生のものは数百本程度と非常に少なく、国際自然保護連合 (IUCN) のレッドリストでは、近絶滅種に指定されている[1]

川沿いの氾濫原や三角州などの水際の湿地に生育し、ときに水中から生える[1][11][12]。ときに純林を形成する[1][11]。日当たりを好む[1]

 
3. 南華寺広東省)のスイショウ

人間との関わり 編集

中国では豊作をもたらす木とされ、古くから水田地帯など湿地に植栽されていた[12][9]。また河や運河、公園に植栽され、侵食防止や防風に利用される[1][12]

は柔らかく、加工しやすく、きめ細かく芳香があり、耐朽性があってシロアリに強い[1][11]。家具や工芸品、楽器などに利用される[11][9]呼吸根は海綿質で大きな浮力があり、コルク栓や浮標(ブイ)に使われることがある[1][11][12]樹皮球果から抽出されたタンニンは、皮なめしや染色、漁網などに利用されることがある[12]。枝葉は鎮痛剤とされることもある[1][9]

分類 編集

スイショウは、ふつうスギ科に分類されていた[9][8]。しかし21世紀になるとスギ科はヒノキ科に含められるようになり、スイショウ属はヒノキ科に分類されるようになった[5][11]。スイショウ属はスギ属ヌマスギ属に近縁であり、この3属を合わせてスギ亜科(Taxodioideae)に分類される[2]。特にヌマスギ属に近縁であり、両属は1年で枝ごと落ちる葉や呼吸根、生育環境が湿地であるなどの点で共通している[11][12][13]

スイショウ属は第三紀には北半球に広く分布していたが、現在では中国南部などに分布するスイショウのみが生き残っている[13][9]

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ イチイ科などとともにヒノキ目に分類されるが[2][3]マツ科(およびグネツム類)を加えた広義のマツ目(Pinales)に分類することもある[4]
  2. ^ スイショウはふつうスギ科に分類されていた[9][8]。しかし21世紀になるとスギ科はヒノキ科に含められるようになり、スイショウはヒノキ科に分類されるようになった[11][6]
  3. ^ "雄花"ともよばれるが、厳密にはではなく小胞子嚢穂(雄性胞子嚢穂)とされる[14]。雄性球花や雄性球果ともよばれる[15][16]
  4. ^ "雌花"ともよばれるが、厳密には花ではなく大胞子嚢穂(雌性胞子嚢穂)である[14][15]。送受粉段階の胞子嚢穂は球花とよばれ、成熟し種子をつけたものは球果とよばれる[15]

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g h i j k Thomas, P., Yang, Y., Farjon, A., Nguyen, D. & Liao, W. (2020年). “Glyptostrobus pensilis”. The IUCN Red List of Threatened Species 2020. IUCN. 2023年3月12日閲覧。
  2. ^ a b c Stevens, P. F. (2001 onwards). “Cupressales”. Angiosperm Phylogeny Website. 2023年2月20日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・邑田仁 (2013). 維管束植物分類表. 北隆館. p. 45. ISBN 978-4832609754 
  4. ^ 大場秀章 (2009). 植物分類表. アボック社. p. 18. ISBN 978-4900358614 
  5. ^ a b Glyptostrobus”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年3月12日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Glyptostrobus pensilis”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年3月12日閲覧。
  7. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “スイショウ”. BG Plants 和名-学名インデックス(YList). 2023年3月12日閲覧。
  8. ^ a b c d e f g h i j k 杉本順一 (1987). “イヌスギ属”. 世界の針葉樹. 井上書店. pp. 85–86. NCID BN01674934 
  9. ^ a b c d e f g h i j k l m n 高相徳志郎 (1997). “スイショウ”. 週刊朝日百科 植物の世界 11. pp. 215–216. ISBN 9784023800106 
  10. ^ a b c GBIF Secretariat (2022年). “Glyptostrobus pensilis (Staunton ex D.Don) K.Koch”. GBIF Backbone Taxonomy. 2023年3月13日閲覧。
  11. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u Glyptostrobus pensilis”. The Gymnosperm Database. 2023年3月14日閲覧。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s Flora of China Editorial Committee (2010年). “Glyptostrobus pensilis”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年3月14日閲覧。
  13. ^ a b c d e f g h i j k l m n Flora of China Editorial Committee (2010年). “Glyptostrobus”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年3月14日閲覧。
  14. ^ a b 長谷部光泰 (2020). 陸上植物の形態と進化. 裳華房. p. 205. ISBN 978-4785358716 
  15. ^ a b c 清水建美 (2001). 図説 植物用語事典. 八坂書房. p. 260. ISBN 978-4896944792 
  16. ^ アーネスト M. ギフォードエイドリアンス S. フォスター『維管束植物の形態と進化 原著第3版』長谷部光泰鈴木武植田邦彦監訳、文一総合出版、2002年4月10日、332–484頁。ISBN 4-8299-2160-9 

関連項目 編集

外部リンク 編集

  • Glyptostrobus pensilis”. Plants of the World Online. Kew Botanical Garden. 2023年3月12日閲覧。(英語)
  • Flora of China Editorial Committee (2010年). “Glyptostrobus pensilis”. Flora of China. Missouri Botanical Garden and Harvard University Herbaria. 2023年3月14日閲覧。(英語)
  • Glyptostrobus pensilis”. The Gymnosperm Database. 2023年3月14日閲覧。(英語)