チャボカラマツ

キンポウゲ科の変種

チャボカラマツ(矮鶏唐松、学名:Thalictrum foetidum var. glabrescens)は、キンポウゲ科カラマツソウ属多年草。ニオイカラマツ(学名:T. foetidum var. foetidum)を基本種とする変種[5][6][7]

チャボカラマツ
岩手県岩泉町 2023年5月下旬
分類APG IV
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
: キンポウゲ目 Ranunculales
: キンポウゲ科 Ranunculaceae
: カラマツソウ属 Thalictrum
: ニオイカラマツ T. foetidum
変種 : チャボカラマツ
T. foetidum var. glabrescens
学名
Thalictrum foetidum L. var. glabrescens Takeda (1910)[1]
シノニム
  • Thalictrum yesoense Nakai (1928)[2]
  • Thalictrum foetidum L. subsp. glabrescens (Takeda) T.Shimizu (1958)[3]
和名
チャボカラマツ(矮鶏唐松)[4]

特徴 編集

植物体に微腺毛がある。根茎は肥厚しなく、匐枝も伸ばさない。は斜上してジグザグに伸び、高さは10-50cmになり、1-3回分枝する。根出葉は1個あるかまたは無く、長い葉柄があり、葉身は3-5回3出複葉になる。茎は数個互生し、葉身は2-4回3出複葉で、小葉は灰緑色、倒卵形から卵形、または広卵形になり、長さ幅ともに0.3-1.5cm、浅く3裂し、表面の葉脈はへこみ、裏面は隆起する。葉の裏面は淡色になる。葉柄の基部の托葉は褐色で膜質、小葉柄の基部に小托葉はない[5][6][7][8]

花期は5-6月。花序は総状から円錐状で、を4-15個ほどつけ、花の径は0.5-1cm、花柄の長さは1-2.5cmになり、下向きに咲く。片は4-5個あり、長さ2-4mmの楕円形で紫褐色、早落する。花弁はない。雄蕊は多数あり長さ5-10mm、葯は鮮黄色で長さ2-3mm、花糸は糸状で葯より細く紫褐色、葯隔は突出する。雌蕊は2-6個ある。果実は長さ4mmの紡錘形でやや扁平の痩果になり、2-6個つき、腺毛があるか無毛で、縦に8-10個の稜があり、果柄は無い。痩果の残存花柱は長さ0.5mmで先は曲がらず、柱頭は矢じり状になる。染色体数は2n=14[5][6][7][8]

分布と生育環境 編集

日本固有の変種[9]。北海道の道央と本州の岩手県に分布し、温帯から亜寒帯の岩礫地に生育する。超塩基性岩地や石灰岩地を好んで生える[5]

名前の由来 編集

和名チャボカラマツは、「矮鶏唐松」の意[4]、植物学者の武田久吉が、1910年にイギリスの植物学雑誌 Journal of Botany, British and Foreign 誌に、北海道産の標本をもとに Thalictrum foetidum の変種として var. glabrescens を記載発表した際に、和名を Chabo-karamatsu. とした[10]。「チャボ(矮鶏)」は、「ヒメ(姫)」「コ(小)」などとともに、比べて小さいさまを表す言葉である[11]

種小名(種形容語)foetidum は、「悪臭のある」の[12]、変種名 glabrescens は、「やや無毛の」の意味[13]

種の保全状況評価 編集

絶滅危惧II類 (VU)環境省レッドリスト

都道府県のレッドデータ、レッドリストの選定状況は、岩手県がBランクとなっている[14]

ギャラリー 編集

基本種 編集

ニオイカラマツ(学名:Thalictrum foetidum L. (1753) var. foetidum[15])はチャボカラマツの基本種。植物体全体に腺毛がより密生し、悪臭がある。ユーラシア大陸に広く分布する[5]。なお、岩手県産のものは「ニオイカラマツ」、var. iwatense[6]または var. foetidum[7]とされていたが、門田裕一 (2006) により、Flora of Japan, IIa において、日本産の「ニオイカラマツ」はチャボカラマツに合一された[15]

変種 編集

ニオイカラマツを基本種とする変種に、日本にはチャボカラマツの他、アポイカラマツ(学名:Thalictrum foetidum L. var. apoiense T.Shimizu (1958) [16])がある。植物体が小さく、小葉の質が厚く、小葉の長さが3-7mmと小さい。葉の表面に腺毛が無く、裏面の白みや葉脈の隆起が強い。果実は3-4個。北海道のアポイ岳とその周辺と後志の大平山に分布する。前者はカンラン岩地に、後者は石灰岩地に生育する[5][8]。絶滅危惧II類(VU)。

分類 編集

チャボカラマツは、日本産のカラマツソウ属のなかでアキカラマツ節(Sect. Thalictrum)に属し、早落性の萼片をもち、雄蕊は下垂し、花糸は糸状でその先の葯は花糸より太くやや長い特徴をもつ。同節のなかでも、形態的には、ヒメカラマツ T. alpinum var. stipitatum に似る。両種は、背丈が低く、花期にも根出葉が生存するという共通点をもつが、分布地と花期は異なり、本種は、北海道の道央と岩手県の一部に分布し、花期は5-6月であり、ヒメカラマツは、本州の岩手県・中部地方・四国のそれぞれの高山帯に分布し、花期は7-8月である。本種は、茎先が1-3回分枝し、花序は散房花序につくのに対し、ヒメカラマツは、茎先が分枝せず、花序は総状花序につく[17]

脚注 編集

  1. ^ チャボカラマツ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  2. ^ チャボカラマツ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  3. ^ チャボカラマツ(シノニム) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  4. ^ a b 『新北海道の花』p.364
  5. ^ a b c d e f 門田裕一 (2016)『改訂新版 日本の野生植物2』「キンポウゲ科カラマツソウ属」p.166
  6. ^ a b c d 清水建美 (1982)『日本の野生植物 草本II離弁花類』「キンポウゲ科カラマツソウ属」p.84(ニオイカラマツ var. iwatense
  7. ^ a b c d 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.476(ニオイカラマツ var. foetidum
  8. ^ a b c 高橋英樹 (2015)「チャボカラマツ」『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』p.387
  9. ^ 門田裕一 (2011)「キンポウゲ科」『日本の固有植物』pp.51-52
  10. ^ Var. nov. GLABRESCENS Takeda, The Journal of Botany, 48: 266 1910.
  11. ^ 『野草の名前 春 山溪名前図鑑』p.215
  12. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1493
  13. ^ 『新分類 牧野日本植物図鑑』p.1494
  14. ^ チャボカラマツ、日本のレッドデータ検索システム、2023年7月22日閲覧
  15. ^ a b ニオイカラマツ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  16. ^ アポイカラマツ 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  17. ^ 門田裕一 (2016)『改訂新版 日本の野生植物2』「キンポウゲ科カラマツソウ属」pp.163-166

参考文献 編集

  • 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他編『日本の野生植物 草本II離弁花類』、1982年、平凡社
  • 高橋勝雄『野草の名前 春 山溪名前図鑑』、2002年、山と溪谷社
  • 梅沢俊『新北海道の花』、2007年、北海道大学出版会
  • 矢原徹一他監修『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプタンツ(増補改訂新版)』、2015年、山と溪谷社
  • 大橋広好・門田裕一・木原浩他編『改訂新版 日本の野生植物 2』、2016年、平凡社
  • 牧野富太郎原著、邑田仁・米倉浩司編集『新分類 牧野日本植物図鑑』、2017年、北隆館
  • 米倉浩司・梶田忠 (2003-)「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList)
  • Var. nov. GLABRESCENS Takeda, The Journal of Botany, 48: 266 1910.
  • 日本のレッドデータ検索システム