テナガザル
テナガザル(手長猿)は、霊長目テナガザル科(テナガザルか、Hylobatidae)に属するサルの総称。名前の通り、前肢の長さが特徴的である。
テナガザル科 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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![]() シロテテナガザル Hylobates lar
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保全状況評価[1] | ||||||||||||||||||||||||||||||
ワシントン条約附属書I | ||||||||||||||||||||||||||||||
分類 | ||||||||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Hylobatidae Gray, 1871[2] | ||||||||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
テナガザル科[3][4] | ||||||||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||||||||
Gibbon | ||||||||||||||||||||||||||||||
属 | ||||||||||||||||||||||||||||||
分布編集
インド東端を西限、中国最南端を北限とし、バングラデシュ・ミャンマー・インドシナ半島を経て、マレー半島からスマトラ島、ジャワ島西部、ボルネオ島に至る地域[5]。千年ほど前には黄河以北にも生息していたことが中国の文献に記載されている[6]。
形態編集
現生ヒト上科の中では小型で[7]、尻だこを持つ[3][7]。体の大きさおよび犬歯の性差は小さい[3][7]。前肢は後肢の1.7倍ほど長い[3]。
分類編集
テナガザル科はヒト上科に属しているが、同じくヒト上科に属するヒト科から分岐したのは2000万年から1600万年前[8]と言われている。
以前は構成種全てがテナガザル属Hylobatesに分類され、一方でテナガザル属とフクロテナガザル属Symphalangusの2属に区別する説もあった[3][7]。2001年にテナガザル属に含まれていた4亜属を独立属とする説が提唱された[2][9]。
以下の分類・和名・英名は、主に日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ (2018) に従う[4]。
- フーロックテナガザル属 Hoolock
- Hoolock hoolock ニシフーロックテナガザル Western hoolock gibbon
- Hoolock leuconedys ヒガシフーロックテナガザル Eastern hoolock gibbon
- テナガザル属 Hylobates
- Hylobates agilis アジルテナガザル Agile gibbon
- Hylobates albibarbis ボルネオシロヒゲテナガザル Bornean white-bearded gibbon
- Hylobates klossii クロステナガザル Kloss's gibbon
- Hylobates lar シロテテナガザル White-handed gibbon
- Hylobates moloch ワウワウテナガザル Silvery gibbon
- Hylobates muelleri ミュラーテナガザル Müller's Bornean gibbon[2]
- Hylobates pileatus ボウシテナガザル Pileated gibbon
- クロテナガザル属 Nomascus
- Nomascus concolor カンムリテナガザル Crested gibbon
- Nomascus gabriellae キホオテナガザル Red-cheeked gibbon
- Nomascus hainanus ハイナンテナガザル Hainan gibbon
- Nomascus leucogenys キタホオジロテナガザル Northern white-cheeked gibbon
- Nomascus nasutus カオヴィットカンムリテナガザル Cao-vit crested gibbon
- Nomascus siki ミナミホオジロテナガザル Southern white-cheeked gibbon
- フクロテナガザル属 Symphalangus
生態編集
東南アジア地域では熱帯雨林、アジア本土では半落葉性モンスーン林に生息している[5]。ほとんどの種では頭胴長 45-65 cm、体重 5.5-6.7 kgだが、フクロテナガザルは頭胴長 75-90 cm、体重約10.5 kg[5]。樹上生活者であり、長い腕で「枝わたり」(ブラキエーション)をして林冠を移動して生活する。
1夫1妻で、子供を含めた4頭程度の群れを形成している。母親はふつう2-3年ごとに1頭の子供を産む。生後6年目ぐらいに性成熟、8年目までには社会的にも成熟し、それまでに群れを出て行っていなければ家族集団からの離脱が父親によってうながされる[10]。
歌編集
テナガザルは歌を歌うことで知られている。主にカップルのオスとメスが交互に叫びあいながら、複雑なフレーズを取り混ぜたデュエットを行うのである。頻度は1日2回から5日で1回と種や社会的状況によっても異なる。縄張りの境界で集団が出会ったときなどは、1回の平均継続時間が35分と非常に激しくなる。この歌は家族間の絆を深めたり、他の群れに対してなわばりを主張したりすることに役立っていると考えられる[10]。この歌い方は、種によってそれぞれ特色があるため、歌を聞き分けることにより、種の判別が可能である[5]。
保護上の位置づけ編集
人間との関係編集
テナガザルの生活域である熱帯雨林は、伐採により減少しており、生活環境が脅かされている。また、ペットとしての捕獲もその生存を圧迫してきた。テナガザルの飼育の歴史は長く、古くは古代中国の王侯が飼育していた記録がある。水墨画にもよく描かれ、特に水面の月を掬う意匠が有名である。
出典編集
- ^ Appendices I, II and III <https://cites.org/eng> (Accessed 4/7/2018)
- ^ a b c Colin P. Groves (2005). “Order Primates”. In Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (eds.). Mammal Species of the World: A Taxonomic and Geographic Reference (3rd ed.). Johns Hopkins University Press. pp. 111-184
- ^ a b c d e 岩本光雄 「サルの分類名(その4:類人猿)」『霊長類研究』第3巻 2号、日本霊長類学会、1987年、119-126頁。
- ^ a b 日本モンキーセンター霊長類和名編纂ワーキンググループ (2018年3月30日). “日本モンキーセンター 霊長類和名リスト 2018年3月版 (PDF)”. 2018年7月4日閲覧。
- ^ a b c d 『動物大百科3』 p122
- ^ 『動物大百科3』 p125
- ^ a b c d 國松豊 「テナガザルの進化はどこまでわかっているのか」『霊長類研究』第19巻 1号、日本霊長類学会、2003年、65-85頁。
- ^ ヒトとチンパンジーの系統的学位置
- ^ 田中洋之「テナガザル亜種・種分化の分子系統解析」『霊長類進化の科学』京都大学霊長類研究所編、京都大学学術出版会、2007年、476-464頁。
- ^ a b 『動物大百科3』 p126
参考文献編集
- 『動物大百科3 霊長類 アイアイ・ニホンザル・チンパンジー・ゴリラほか』D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年。ISBN 4-582-54503-3。