トロール
トロールまたはトロル(丁: trold、典: troll)とは、北欧の国、特にノルウェーの伝承に登場する妖精[1]の一種である。

概要 編集
北欧ではトロルド、トロールド、トラウ、トゥローと呼ばれる。当初は悪意に満ちた毛むくじゃらの巨人として描かれ、それがやがて小さい身長として描かれている。変身能力があるのでどんな姿でも変身できる。
どのような存在であるかについては様々な描写があり、一定しない。ただし、鼻や耳が大きく醜いものとして描かれることが多い。別格のトロールたちには二つまたは三つの頭がある[2]。
一般的なトロールについてのイメージは、巨大な体躯、かつ怪力で、深い傷を負っても体組織が再生出来、切られた腕を繋ぎ治せる。醜悪な容姿を持ち、あまり知能は高くない。凶暴、もしくは粗暴で大雑把、というものである。
地域別の伝承 編集
ノルウェー 編集
ノルウェーの人の中では、日常生活でふっと物が無くなった際には「トロールのいたずら」と言われる。
また、ほとんどの御土産物屋にトロールの人形が販売されており高い人気を博している。陶器製、マグネット製、紙製、キーホルダー製など実に様々なものがあり、トロールの姿も男性、女性、子供、老人、中にはヴァイキング姿、サッカー姿、サーファー姿、スキーヤー姿など実に様々なものがあり、中にはアンティークコレクションとして評価の高いものも数多く存在する。
デンマーク 編集
デンマークでは白く長いあごひげの老人として、赤い帽子、革エプロン姿で描かれる。
エブレトフトのトロルは背中にこぶがあり大きな鉤鼻、灰色ジャケット、とがった赤い帽子を着ている。グドマンストルップのトロルは背が高く黒く長い服を着ている。ノルウェーでは女のトロルは美しく長い赤毛をしているとされた。
スカンジナビア半島 編集
トロルは丘陵地、長塚、土墳などの下に共同体を作り暮らすためスウェーデンではベルグフォルク(丘の人々)と呼ばれた。彼等の住処は財宝でいっぱいで夜になると光り輝くと言われた。彼らは騒音を嫌い鐘や教会からは離れて暮らした。気に入った人間には富と幸運をもたらし、気に入らないものには不運と破壊をもたらした。また女子供をさらい財宝を盗む。さらわれないためには人も動物もヤドリギの枝を身に着ける。金属工芸にも秀で、薬草や魔法を使った治療にも秀でていると言う。日の光に当たると石に変わるため、夕暮れ時から明け方までしか姿を見せない。
フェロー諸島 編集
フェロー諸島ではフォッデン・スケマエンドと呼ばれ「うつろな人々」、「地下の人々」であり人をさらって何年も捕らえておくと言う。
アイスランド 編集
アイスランドでは一つ目の邪悪な巨人であり、3人で一つの目玉を共有し、順番に使っている。
フィンランド 編集
フィンランドでは池にすむ邪悪なシェートロールとして知られ、霧が出たり嵐が来ると人々はトロールが池から出てきて人を溺れさせると言う。
シェットランド諸島・オークニー諸島 編集
シェットランド諸島やオークニー諸島ではランド・トロー、ピーリー・トロー、シー・トローの三種に分かれると言う。
グリーンランド・カナダ 編集
グリーンランド、カナダのイヌイット、イハルシュミット族に伝わるトロルは邪悪な巨人であり、毛の生えてない腹を引きずり鉤爪が生え物陰に潜み人を襲い肉を引き裂くという。
フィクション作品のトロール 編集
J・R・R・トールキンの『ホビットの冒険』では、モルゴスの被造物として登場する。エントを模したものとされる。通常の武器が通じないほど堅い皮膚を持つが、太陽光を浴びると石化するとされた。続編の『指輪物語』では、サウロンによって生み出された凶暴な上位種「オログ=ハイ(Olog-hai)」が登場。その身を巨大な剣や鎧で武装しており、知能、戦闘能力も向上。また太陽光を浴びても石化しない。サウロン配下の中でも単純な近接戦闘においては無類の強さをみせ、兵士というより洗脳された生物兵器として運用され、前線突破や城壁破壊などに投入された。「一つの指輪」が破壊され力の源泉たるサウロンが滅びると、共に滅んだ。
- J・K・ローリングの『ハリー・ポッターシリーズ』でも巨漢の一種族として登場し、悪臭を放つとされる。
- ヘンリック・イプセンの劇詩『ペール・ギュント』に登場するトロールは不死で、自分たちの国を愛する者として描かれている。
- テーブルトークRPGの『ルーンクエスト』では「トロウル」と呼ばれ、多数の亜種、架空の学名、骨格標本、進化樹形図、宗教、食や生活文化などが詳細に設定され、その背景世界「グローランサ」最強の種族と表現されることもある。
- コンピュータRPGの『ドラゴンクエストシリーズ』でも「トロル」、「ボストロール[3]」、「トロルキング」、「トロルボンバー」、「ダークトロル」など、毛皮を羽織って棍棒をもった大柄で獰猛なモンスターとして現れる。
- アニメーション映画『となりのトトロ』では、森の主の妖精である「トトロ」を、登場人物の少女、草壁サツキはトロルであると判断した。映画のエンディングでサツキとメイの姉妹が布団の中でお母さんにトロルが登場する絵本「三びきのやぎのがらがらどん」を読んでもらっている描写がある。
- ガンヒルド・セーリンの児童文学『きょうだいトロルのぼうけん』では、石橋に住む善良な小人としてのトロルと、毛むくじゃらで赤い肌の悪いトロルの双方が描かれる。
- 挿絵付き小説『ムーミン』の作者トーベ・ヤンソンは、作品に登場するムーミントロールは、名前にトロールと付いてはいるものの、妖精のトロールとは違う生き物としている。
なお、同シリーズでは「クニット」という小人(小説版では「はい虫」として訳されている)が、外伝絵本『さびしがりやのクニット[4]』の冒頭で「トロール」とされている。 - 2022年にノルウェイでNetflix映画「トロール」(Troll)が制作された。ローアル・ユートハウグ監督作品。山脈を貫通するトンネルを掘削する爆破によって目覚めたトロールが自分たちの王宮のあったオスロに向かい、人類と対立する。
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海のトロール (テオドール・キッテルセン, 1887).
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The changeling (ヨン・バウエル, 1913).
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こんばんわ! (ヨン・バウエル, 1915).
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トロール横断注意! の道路標識(ノルウェー)
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世界最大のトロール
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ノルウェー国旗を持つトロール(マグネット製)
インターネット・トロル 編集
主に英語圏で、ゲームや電子掲示板において否定的な書き込みなどの荒らしを行う人の事を「インターネット・トロル[5]」と呼ぶ。もしくはただ単に「トロール」ということもある。転じて、「パテント・トロール」のように普遍的な迷惑行為を行う人物を指すこともある。[要出典]元々、英語圏では「厄介者」を指して、稀に「トロール」と呼ぶ事からインターネットミームの一つとして成立した。
脚注 編集
参考文献 編集
- キャロル・ローズ『世界の妖精妖怪事典』原書房255頁。
- ホルヘ・ルイス・ボルヘス『幻獣辞典』 晶文社、1974年。
関連項目 編集
- 伝説の生物一覧
- テオドール・キッテルセン - トロールの絵画・イラストで著名なノルウェーの画家。
- パテント・トロール - 特許を買い取って大手企業に使用料を請求する開発製造を行わない集団のこと。
- トロルトゥンガ - 「トロールの舌」と名付けられた、絶壁から大きく横に突き出す奇岩。
- ムーミン
- 小人 (伝説の生物)