ナタ・デ・ココ
ナタ・デ・ココ(スペイン語: nata de coco)とは、ココナッツ果汁を発酵させてゲル化した、フィリピン発祥の食品である。
概要
編集18世紀に誕生したパイナップルを原料とするナタ・デ・ピニャの代用品として1949年に発明された。発明者はバタンガス州リパ出身の女性化学者 Teódula Kalaw África[1]。
スペイン語で「ナタ」は(液体表面上の)「皮膜」を意味し、「ナタ・デ・ココ」は「ココナッツの上澄み皮膜」を意味する[2]。
ココナッツ果実の内部に蓄えられたココナッツ水と呼ばれる液に、酢酸菌の一種アセトバクター・キシリナム(ナタ菌)を加えて発酵させ、表面から凝固し、一定の厚みになったところでさいの目に切り食用に供する。このゲル状物質は、ほとんど菌が合成するセルロースから成る[3]。寒天と似た外観ながら、イカのような独特の歯ごたえがある。カロリーが低く、食物繊維が豊富であるためダイエット食や特定保健用食品[4]としても利用される[5][6]。
日本での流行
編集日本においては、1970年代後半にデルモンテがフルーツ缶に入れたのが最初とされる[5]。その後、食品会社のフジッコがデザートとして商品化したが、当初はまだナタ・デ・ココが一般的になっておらず停滞気味だった[7][8]。1992年7月に大手ファミリーレストランチェーンのデニーズがメニューに加え、1993年春以降にマスコミで大きく取り上げられたことにより大流行した[6]。缶詰や瓶詰として単独で販売されるようになったほか、各種食品、飲料と組み合わせて、デザートや菓子として販売されている。
1993年の熱狂的なブームが去った後も、一定のファンが存在し定番商品となっている[9]。
食用以外での利用
編集以前からナタ・デ・ココと同質のものである産膜性の酢酸菌が生産するセルロース・ゲルは、均質なセルロース・コロイドのゲルであることから、スピーカーのコーン紙としてなどハイテク素材としての用途が模索されてきた[10]。
ナタ・デ・ココの成分の99%が水分、残りの1%が繊維質であることに着目し、水分を飛ばして乾燥したナタ・デ・ココの繊維質に合成樹脂を浸透させ、有機ELディスプレイの透明基板として使用する研究が2000年代に行われていた。既存のガラス製パネルでは不可能だった、石英ガラス並みの低熱膨張性を備え、しなやかで折り曲げ可能な薄型ディスプレイを再生産可能な植物原料から製造することができて、さらにガラス製パネルよりも安価に製造が可能であることから、薄型ディスプレイのコスト削減に繋がることが期待できるとされていた[11][12]。
脚注
編集- 出典
- ^ “Teódula Kalaw África: The Woman Behind The Pinoy Staple ‘Nata De Coco’”. PAGEONE (2021年7月30日). 2022年6月15日閲覧。
- ^ 『現代用語の基礎知識 1994』自由国民社、1,370頁。ISBN 4-426-10112-3。
- ^ “コラム 第97回 ナタデココの秘密”. ドール・フード・カンパニー. 2016年9月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月5日閲覧。
- ^ “厚生労働省:保健機能食品・健康食品関連情報”. 厚生労働省. 2016年6月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月5日閲覧。
- ^ a b 『現代用語の基礎知識 1994』自由国民社、1,056頁。
- ^ a b 『読売年鑑 1994年版』読売新聞社、257頁。ISBN 4-643-94001-8。
- ^ “TBS「がっちりマンデー!!」:2008.6.22 ONAIR フジッコ”. TBS. 2016年2月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月5日閲覧。
- ^ “オピ研:vol.145:フジッコ株式会社(1)~デザート事業への歩み~ 2013.06.14”. オピネット (2013年6月14日). 2020年4月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月5日閲覧。
- ^ 「あのヒット商品は今…」『日経流通新聞』2001年4月17日、1面。
- ^ “酢酸菌に学ぶ材料設計”. 積水化学工業. 2014年1月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年6月5日閲覧。
- ^ “ナタデココ、次世代の薄型ディスプレー基板に活用”. 朝日新聞社 (2005年2月20日). 2019年10月16日閲覧。
- ^ “京都大学 ニュースリリース 2005年1月25日 低熱膨張透明基板について”. 京都大学 (2005年1月25日). 2016年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年9月5日閲覧。