ニコライ・ベルジャーエフ
ニコライ・アレクサンドロヴィチ・ベルジャーエフ(ロシア語: Никола́й Алекса́ндрович Бердя́ев, ラテン文字転写: Nikolai Alexandrovich Berdyaev 、1874年3月18日(ユリウス暦3月6日) - 1948年3月23日)は、ロシアの哲学者。もとはマルキストであったが、ロシア革命を経て転向し、反共産主義者となる。神秘主義に基づき文化や歴史の問題を論じた。十月革命後にパリに亡命。1922年、レーニンの革命政府によって国外追放。
![]() ニコライ・ベルジャーエフ | |
生誕 |
1874年3月18日![]() |
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死没 |
1948年3月23日 (74歳)![]() |
時代 |
19世紀哲学 20世紀哲学 |
地域 |
西洋哲学 ロシア フランス |
学派 | ドイツ観念論 |
研究分野 |
神学 歴史哲学 政治哲学 |
主な概念 | 歴史的なもの |
影響を受けた人物
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影響を与えた人物
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思想編集
反共産主義編集
実際に共産党体制を体験したことから、共産主義への深い考察力をもつ。「共産主義はこの世の王国の宗教であり、彼岸世界も、どんな精神世界をも、最終的にかつ決定的に否定する宗教である」として、共産主義思想を宗教として分析、批判している。共産主義はあらゆる宗教的な特徴をもつとしており、例えば、マルクスやレーニンの書物を「聖書」として解釈を許容するが批判は許さないこと、国民を信者と非信者に分別し、信者も正統と異端に峻別すること、異端を破門や極刑に処すること、人間に搾取や階級的不平等などの「原罪」が存在すること、貧困のない「神の国」の到来を予言することなどを挙げている。さらに、共産主義の教義がユダヤ教の至福千年王国説、救世主思想、選民思想にあることを指摘。
歴史哲学編集
ベルジャーエフは、「人間は<歴史的なものの>中にあると同時に<歴史的なもの>は人間的なものの中にある」とする。各個の人間は、世界全体と過去のすべての偉大な歴史的時代が反映されたミクロコスモスであるというのである。
彼は過去、現在、未来を分割して考えることを批判する。そのような歴史観は刹那の連続に過ぎず、本来実在的な<歴史的なもの>が否定されてしまう。<歴史的なるもの>の体得のためには過去から連なる「伝統」と「記憶」が重視される。民族の記憶と象徴的伝統の中に開示される内的生命が歴史に意味を与えるのである。
進歩主義批判編集
「進歩の理論は、過去と現在を犠牲にして未来を神化する」、したがって進歩主義は「未来による過去の永遠の破壊、後続の世代による先行の世代の永遠の抹殺である」、そして「進歩の宗教は死の宗教」として批判、「進歩の宗教」に対して次の2つの反駁を行っている。第1に、到来すると信仰する未来の一部の人間のために、それ以前のすべての人間を犠牲にしても正義であるとする思想は、人間の道徳に照らして正当化できるのか。第2に、未来の世が過去の世代より高いところに位置する「完全」への進歩など果たしてありうるのか。
人権、国民主権批判編集
また、フランス人権宣言が義務というものを忘却していると批判、人権に否定的である。また「国民主権は人間主権である。人間主権はその限度を知らない。そして、人間の自由と権利を侵犯する」として、国民主権も批判している。
著作の日本語訳一覧編集
単著編集
- 『ドストイェフスキイの世界観』(香島次郎訳 朱雀書林、1941年)
- 『歴史の意味』(宮崎信彦訳 畝傍書房、1942年)
- 『近代世界に於ける人間の運命』(菅支那子訳 新教出版社、1946年)
- 『マルクス主義と宗教』(宮崎信彦訳 慶友社、1951年)
- 『ドストイェーフスキイの世界観』(三宅賢訳 パンセ書院、1952年)
- 『マルクス主義と宗教』(宮崎信彦訳 創元文庫:創元社、1953年)
- 『現代の終末』(荒川龍彦訳 三笠文庫:三笠書房、1953年)
- 『愛と実存―霊の国とカイザルの国』(野口啓祐訳 筑摩書房、1954年)(遺稿)
- 『孤独と愛と社会』(氷上英廣訳 現代教養文庫:社会思想社、1954年)
- 『現代の終末』(荒川龍彦訳 創元文庫:創元社、1954年)
- 『キリスト教と階級闘争』(宮崎信彦訳 フォルミカ選書・創文社、1955年)
- 『ドストイェフスキイの世界観』(宮崎信彦訳 黎明書房、1955年)
- 『新しい時代の転機に立ちて 現代世界の危機とロシアの使命』(石塚経雄訳 理想社、1957年)
- 『現代における人間の運命』(野口啓祐訳 現代教養文庫:社会思想社、1957年)
- 『現代の終末』(荒川龍彦訳 現代教養文庫:社会思想社 1958年)
- 『真理とは何か 真理と啓示』(鈴木康司訳 理想社、1959年)
- 『ドストエフスキーの世界観』(宮崎信彦訳 「ドストエフスキー全集 別巻」 筑摩書房、1964年)
- 『ロシヤ思想史』(田口貞夫訳 ぺりかん双書8・ぺりかん社、1974年)
- 『ドストエフスキーの世界観』(斎藤栄治訳 哲学思想名著選:白水社 1978年)
- 『ロシヤ思想史』(田口貞夫訳 新装版・ぺりかん社、1982年)
- 『孤独と愛と社会』(氷上英廣訳 哲学思想名著選:白水社、1982年)
- 『霊的終末論』(永淵一郎訳 八幡書店、1989年)
- 『ドストイェフスキイの世界観』(香島次郎訳、「ドストエフスキイ文献集成14」 大空社、1996年)、朱雀書林刊の復刻
- 『歴史の意味』(氷上英廣訳 イデー選書:白水社、1998年)
- 『ドストエフスキーの世界観』(斎藤栄治訳 白水社、2009年)
共著編集
- 『深き淵より――ロシア革命批判論文集2』(長縄光男・御子柴道夫監訳、現代企画室, 1992年)
- 『ベルジャーエフ/マルセル』(田口義弘・木村守雄・西谷裕作訳)
「現代キリスト教思想叢書7」白水社, 1974年-『真理と啓示』・『キリスト教と反ユダヤ主義』を収む。
著作集編集
脚注編集
関連項目編集
- ウラジーミル・ソロヴィヨフ - ベルジャーエフに大きな影響を与えた19世紀のロシア人哲学者。
- パーヴェル・エフドキーモフ - ベルジャーエフから大きな影響を受けた亡命ロシア人・正教徒であり神学者。
- ゲオルギイ・フロロフスキイ - ベルジャーエフを批判し、またベルジャーエフから批判された、正教徒であり神学者。亡命ロシア人。