ハムスター

齧歯目キヌゲネズミ科の動物

ハムスター: hamster)は、キヌゲネズミ亜科に属する齧歯類の24種の総称。夜行性雑食性である。肩まで広がる大きな頬袋を持つのが特徴。明治期百科事典博物学教本に腮鼠という漢字表記が見られる[1][2]。狭義にはもっぱらゴールデンハムスター(別名シリアンハムスター)をさす[3]が、かつてはクロハラハムスターを指す言葉であった[4]

キヌゲネズミ亜科
Goldhamster 2.jpg
ゴールデンハムスター
(Mesocricetus auratus)
分類
: 動物界 Animalia
: 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
: 哺乳綱 Mammalia
: ネズミ目(齧歯目) Rodentia
上科 : ネズミ上科 Myomorpha
: キヌゲネズミ科 Cricetidae
亜科 : キヌゲネズミ亜科 Cricetinae

本文参照

ハムスターの戦い

語源編集

本来「ハムスター」の指す動物はヨーロッパに分布するクロハラハムスターであり、ラテン語でハムスターを示す「cricetus」も属・種と共にクロハラハムスター(Cricetus cricetus)に使用されている。(なお、ゴールデンハムスターの属名「Mesocricetus」は「中ぐらいのハムスター」の意味[5]

古高ドイツ語には、hamustraという単語があり(元々1000年頃にコクゾウムシの意味で使われていた古い単語であったが)、1607年にはハムスター(クロハラハムスター)という意味で使われており[6]、ヨーロッパに広く生息していたクロハラハムスターの語源となった。しかし、実験動物用としてドイツにゴールデンハムスター(: Syrische Goldhamster)が伝来して増え、ゴールデンハムスターがHamsterの代名詞にとって変わった。

なお、語源である古高ドイツ語のhamustraにはもともと「強欲で大食い」というニュアンスがあり、一説として、その語源は古ロシア語のhoměstrǔあるいは、ペルシア語のhamaēstar(「圧迫者」)に由来していると説明されている[6][7]。ドイツ語の「買いだめする、溜めこむ」という動詞ハムスターン(: hamstern)は、hamsterの貯食の習性から相手を揶揄する言葉として派生した。

特徴編集

外見編集

地中生活に適応するため、体はずんぐりとしており、四肢も尻尾も短く進化している[8]ドワーフハムスターでも尻尾は毛皮の下に隠れてしまいほとんど目立たない。ただし、チャイニーズハムスターにはハムスター類で最も長い尾(2.8-3.1cm)があり物をつかむような機能をもつ[8]

左右にもともと口腔が陥没してできた頬袋(cheek pouch)と呼ばれる袋(盲嚢)をもつ[8]。頬袋には伸縮性がありエサを収容しておくためのものである。

ゴールデンハムスターやドワーフハムスターには臭腺がある[8]

歯式は2 (1003/1003) の16本で、犬歯は退化し、2本の切歯(門歯)が一生伸び続ける[9]。エナメル質が作られるときに銅などを取り込むため切歯の色は黄色である[8]

体重は、ジャンガリアンハムスターは30-50g、ゴールデンハムスターで80-150g。ハムスターの中で最も大型になる種はクロハラハムスターで、その体重は250g-600gに達する。寿命はジャンガリアンハムスターで2年、大型種のクロハラハムスターでも2年半ほどだが、ゴールデンハムスターに最大8年間生きた記録がある[10]

習性編集

 
頬袋に餌を詰めるハムスター

野生ではヨーロッパからアジアの乾燥地帯に分布。夜行性で地中に掘ったトンネル内を餌を探すために一晩に10km - 20kmを移動しながら生活している[8]。野生のハムスターは、1日のほとんどを巣穴の中で過ごし、捕食者を避け明け方と夕暮れの短い時間のみに餌を探しに出掛ける。ハムスターは穴掘りの能力に優れており、複数の入口に、寝床、食料の貯蔵庫などの様々な部屋が繋っている巣穴を掘ることができる。野生のゴールデンハムスターは数が少なく絶滅が危惧されている。

頬袋に餌を収納し、一杯になるとその袋は2倍から3倍にもふくれ上がることがある。ここに溜めた食料を、自分の巣穴で吐き出して貯蔵する習性がある。食性は穀食を中心とした草食性に近い雑食性で、野生状態では、木の実、穀物、野菜、果物、また昆虫やミールワームなども食べる。大型種のクロハラハムスターなどは小さいネズミ類や小鳥を食べることもある[10]。飼育時に適したエサについては下記参照。ハムスターは時に自分の糞を食べることがある(食糞)。これは、一度では消化しきれなかった養分をもう一度吸収するためであり、異常行動ではない。

ハムスターの視力はあまり良くなく、また色盲である。そのため、外界の状況の把握は聴力と嗅覚に頼っている。臭腺の臭いを周りに散布することでなわばりを主張するとされており、特に自身の臭いに非常に敏感である。また、高周波を聴くことができるといわれており、超音波で互いにコミュニケーションしているとも考えられている[11]

気温が下がった場合は種によって対応が異なり、西ヨーロッパからシベリア・イラクに生息のクロハラハムスターは冬眠はせず、活動が非常に鈍るのみだが、シリアに生息するゴールデンハムスターは冬眠する[10](ただし最長でも5日 - 6日で目覚めて餌をとる)、ジャンガリアンハムスターは疑似冬眠と呼ばれる状態になり、夜明け前から夕方ごろの日中代謝が低下し夜間になると戻る[8]。飼育下のハムスターだと冬眠や疑似冬眠からうまく目覚めることができず、そのまま死んでしまうことがある[9]

性格はゴールデンハムスターなどでは体の大きいメスのほうがオスよりも気が強く、特に繁殖期などは飼育に注意を要する[8]

ゴールデンハムスターは縄張り意識が強く、一般的には1匹で生活する。縄張りを侵すと殺し合いのケンカをすることもある。一方、ドワーフハムスターと呼ばれる小さめのハムスターは、同種で、気が合えば2匹以上一緒に生活することもありうる。

草原や川岸に生息する野生種のクロハラハムスターは、泳ぐ能力があり、頬袋に空気を貯めて浮き袋にする習性がある[9]。この習性は、元々砂漠地帯に生息していたゴールデンハムスターにも存在し、雨季の洪水などで水に落ちると、頬袋を膨らませて短時間ながら泳ぐことが確かめられている[12]

繁殖編集

 
生後間もないハムスター

ハムスターが繁殖可能になる年齢は、種類によって異なるが一般的には月齢で1か月から3か月で交配可能となる。メスのハムスターの交配可能な期間はおよそ3年であるが、オスはもっと長いこともある。規則的な発情期を持つ。4月から10月に、2週間から1か月の妊娠期間の後、10匹前後の子を生む。ゴールデンハムスターは齧歯類の中でも特に性周期が安定しており、メスは4日の周期で発情を繰り返す。発情したメスは、背中側のお尻周辺を触ったり、甘噛みされると、尾を上げ交尾姿勢を取る。

また、種の違うもの(ゴールデンハムスター×ジャンガリアンハムスター、ジャンガリアンハムスター×キャンベルハムスターなど)の交雑は、基本的に不可能であり、妊娠したとしても母体・子供に危険が及ぶ確率が高いが、ジャンガリアンハムスターとキャンベルハムスターを交雑させたものは一般のペットショップにも出回っていることがある。

分類編集

進化編集

ハムスターの仲間を含むキヌゲネズミの仲間はもっとも古いネズミ類(リス・ヤマアラシの仲間を除く齧歯類の意)の一群で、第三紀漸新世に北半球で進化し、その後アジア・アフリカ・南アメリカにも分布を広げたが、ずっと後に北半球で進化した狭義のネズミの仲間に押されて旧大陸では基本的に南部の生物で、北方ではポケット状に隔離された地域にだけ見られる(日本にも野生分布しない)一方、狭義のネズミの仲間の侵入が遅かった新大陸では分布が広い。
ハムスターの仲間は西ヨーロッパからシベリア(クロハラハムスター)など北部にも分布するが、特徴の頬袋の存在は上述のような古い型の哺乳類であることを示している[13]

飼育編集

 
回し車を回すパールホワイト

ハムスターの中でもよく知られているのが、ゴールデンハムスター(シリアンハムスター)である。ペットとして飼われているゴールデンハムスターは1930年シリアで捕獲された1匹の雌とその12匹の仔の子孫がイギリスで繁殖され、世界中に広まったものである。その後、野生種は発見されていないため、現存するゴールデンハムスターは皆彼らの子孫である。1931年にロンドン動物園でハムスターが展示・一般販売され、それ以後ハムスターがペットとして飼われるようになった[9]。日本ではこうした飼育された個体が1950年に実験動物として移入されたものが起源である[10]

その後、体格が小さいドワーフタイプのハムスターがペットショップ等で扱われて一般化され、一例にジャンガリアンハムスターが輸入されたのは、昭和40年代で、ペットとして出回り始めたのは、1993年頃とされている[9]

ハムスターは飼いやすいため、ペットとしてよく飼われているが、本来はストレスを受けやすく人間とのコミュニケーションは負担になる。観賞用の生き物である。人に慣れることはあるが、懐くことは少ない。飼育数は親子・兄弟であってもケンカにより共食いをし、死亡することがあるため単独飼育が基本であるが、種類によっては複数飼育が可能である場合もある。野性味が強く警戒心、縄張り意識が強いため、不用意に手を差し伸べたりすると本気で噛み付き攻撃的になるため、外傷を負うことがある。子供が扱いやすいイメージがあるが、幼児が誤ってケージに指を入れると噛まれて出血する恐れもあるため注意は必要。

ケージ内は狭く運動不足になりがちとなるためハムスターの大きさにあった回し車ハムスターボールを与える[8]。ただし、チャイニーズハムスターはほとんど回し車を使うことをしない[8]

切歯は伸び続けるため、飼育下では、小枝や板などの齧り木や市販の専用グッズなどで歯の過長を防ぐ必要がある[8]。また、高齢の個体や栄養状態の悪い環境では爪が過長する傾向がある[8]。爪切りは血管を避けて爪の先端を処理する[8]

主に春と秋に換毛があり時期と期間に個体差があるが、複数飼育していると次々に換毛が発生することがある[8]。ハムスターは自らグルーミングを行うが、特に長毛個体に対してはブラッシングを行って毛球症や腸閉塞を防ぐ[8]

急激な温度変化や乾燥には弱い。低温の環境下にみられる擬似冬眠状態のままにしておくと死亡するリスクがある。

エサ編集

主食は獣医師が推薦するような専用ペレット、または市販のハトの餌(トウモロコシ・ヒエ・粟・麦など低脂肪で腐りにくい穀物のミックス)を与え、副食は少量ずつ水を切ったもの(ニンジン、大根の葉、ブロッコリーなどの野菜や、農薬などに汚染されていないタンポポ、クローバー、レンゲなどの野草)をペレットと同量程度与えれば良いとされている。また、ハムスターは下痢をし始めると脱水症状により致命的な状況になりやすく、肥満させないような食事を与えると良い[14][15][16]

ピーナッツやヒマワリの種子は脂肪分が多いため、肥満を誘発しないよう、おやつとして少量に制限することが推奨されている[14][15][17]。動物性たんぱく質を含むおやつとして、ゆで卵の黄身、白身、低塩チーズ、ヨーグルト、ペット用の煮干し、ミールワームをごく少量与えると良いが、専用ペレットを与えていれば必須ではないとされている[15][17]

なお、ハムスターには餌を隠したり頬袋に溜め込む習性があるため、実際のエサの摂取量を測定することは困難である[8]

中毒を起こす物質編集

ハムスターに食中毒を起こさせる主な化学物質としては、アリルプロピルジスルファイド(ネギ、タマネギ、ニラ、ニンニクの類に含まれる溶血を引き起こす物質)、テオブロミンおよびカフェイン(チョコレート、紅茶、コーヒーなどに含まれる嘔吐・下痢・昏睡を引き起こす物質)、ソラニン(ジャガイモの芽や皮に含まれ、催奇性、嘔吐・下痢などを引き起こすステロイドアルカロイド)、ペルシン(アボカドなどに含まれる中毒物質。嘔吐・下痢・呼吸困難・肺水腫を引き起こす危険のある物質)、アルコール飲料などがある[18]

卵については、生卵の白身だけ与えるとビオチン欠乏症を発症するが、白身を加熱して黄身と一緒に与えれば同症にならないとされる[18]

ハムスターにとってゆで卵の黄身は毒性がなく、蛋白源として適量与えてもかまわないとされている(ただし、ゆで卵は腐りやすい餌であるという指摘もなされている)[17][15][19]

2017年には、餌にトウモロコシの比率が高まるとナイアシンが不足し、攻撃性が高まって共食いなどを行うようになるという研究結果が、ストラスブルグ大学の学者らによって明らかになっている[20]

飲水に関する配慮編集

ハムスター(特にドワーフハムスターなど)には水を口にしない個体が見られることがある[8]。ペレットを主食として飼育する場合には飲水が不可欠である[8]。水分不足になると食事量が減ったり尿路結石などの原因となる[8]

飼育される種類編集

ゴールデンハムスター(学名:Mesocricetus auratus)
ペットのハムスターとしては大型で知能が高く、人になれやすい。多少のことでは噛むことはない。ただし人間を敵であると認識すると積極的に攻撃してくるほど気が強いところがある。ゴールデン、パールホワイト、ダルメシアン、ロングコートなどの品種がある。特にアプリコット色の個体はキンクマハムスターと呼ばれることもある。
ロボロフスキーハムスター(学名:Phodopus roborovskii)
体長は約7cm~10cmでペットとして最小のハムスター。臆病でなつきにくく、もっぱら鑑賞用として飼われているハムスター。興味のあるものは噛んで確かめにくる習性がある。
ジャンガリアンハムスター(学名:Phodopus sungorus)
ドワーフハムスターとしては温厚で慣れやすい。丸っこい体型で野生種は背中の濃い筋が特徴だが、品種改良によってパールホワイトやブルーサファイヤ、プディングなど様々な品種が存在する。
キャンベルハムスター(学名:Phodopus campbelli)
生物学的にはジャンガリアンハムスターと同じと言われているが、ロシアの研究で遺伝子に差が発見され、習性も異なるため、区別されている。野生種同士の外見は殆ど同じで区別は難しい。性格は臆病で警戒心が強く、比較的噛み付いてくる傾向がある。観賞用に向いているが、忍耐強く接すれば手乗りにもなる。体毛は背と腹の色が分かれているタイプと全身一色のタイプがあり、品種は野生種の他、アルビノやチョコレート、ブルーなど数多い。全身黒いものは「ブラックジャンガリアン」と呼ばれている。

ハムスターが原因となる人間の病気編集

ハムスターに噛まれるなどの要因で、人間がアナフィラキシーショック(急性アレルギー反応)を引きおこすことが知られている。 2004年9月に日本人の男性がハムスターに噛まれたことによりアナフィラキシーが発生、さらに持病であった気管支喘息を誘発し死亡した例がある。

そのため、気管支喘息や皮膚炎などアレルギー性疾患を起こしたことがある人は、そのことに留意し、病院でハムスターアレルギーであるかを検査してもらうなどの対策が必要とされる。

脚注編集

  1. ^ ウィルレム・チャンブル; ロベルト・チャンブル編 「噛歯獣類」 『百科全書』 上巻 丸善、1884年、484頁。NDLJP:897086 
  2. ^ グードリッチ、須川賢久訳 「囓歯類」 『具氏博物学』 五巻、田中芳男校閲 文部省、1876年、47頁。NDLJP:832262 
  3. ^ 日本大百科全書【ハムスター】
  4. ^ 学研が1968年に発行した『原色現代科学大事典 5動物II』末の和名―学名表で「ハムスター Cricetus cricetus」とクロハラハムスターの学名に「ハムスター」の和名が記されている。
    なお、ゴールデンハムスターは同じページに「ゴールデンハムスター Mesocricetus auratus」と記載。
    (『原色現代科学大事典 5動物II』、宮地伝三郎(責任編集者)、株式会社学習研究社、昭和43年、p.606。)
  5. ^ 『標準原色図鑑全集19 動物I』、林壽郎、株式会社保育社、1968年、p.92。
  6. ^ a b [1]
  7. ^ Merriam-Webster (hamster)
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s 学校飼育動物の診療ハンドブック”. 日本獣医師会. 2019年11月13日閲覧。
  9. ^ a b c d e 動物情報(ハムスターの基礎) エキゾチックペットクリニック
  10. ^ a b c d 『原色現代科学大事典 5動物II』、宮地伝三郎(責任編集者)、株式会社学習研究社、昭和43年、p.522。
  11. ^ Fritzsche, Peter. 2008. Hamsters: A Complete Pet Owner’s Manual. Barron’s Educational Series Inc., NY.
  12. ^ ペットいっぱい動物図鑑おもしろ問答【ゴールデンハムスターのほおぶくろは浮き袋になる?】
  13. ^ 『原色現代科学大事典 5動物II』、宮地伝三郎(責任編集者)、株式会社学習研究社、昭和43年、p.521-522。
  14. ^ a b ペット動物販売業者用説明マニュアル(哺乳類・鳥類・爬虫類) - 環境省
  15. ^ a b c d ゆず動物病院(ハムスター)
  16. ^ ハート動物病院(ハムスターの飼育)
  17. ^ a b c ときわ動物病院 健康管理(ハムスター)
  18. ^ a b ペットの医療総合サイト(獣医増田忠司監修)
  19. ^ ハムスターについて - 岐南動物病院
  20. ^ ハムスターを共食いに導いた原因はトウモロコシだった Sputnik日本 2017年01月30日 17:40 (2017年12月23日閲覧)

参考文献編集

関連項目編集

外部リンク編集