ブダペスト市電2000形電車

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ブダペスト市電2000形電車(ブダペストしでん2000がたでんしゃ)は、ハンガリー首都ブダペスト路面電車路線であるブダペスト市電2006年から営業運転を開始した電車超低床電車)。シーメンスが展開する路面電車ブランド・コンビーノ・プラスの1形式で、6車体連接式・全長53,990 mmは製造当時路面電車車両として世界最長であった。シーメンス側からは「NF12B1[注釈 1]」と言う形式名が付けられている[1][2][4][5]

ブダペスト市電2000形電車
シーメンス NF12B1
2007(2016年撮影)
基本情報
運用者 ブダペスト交通会社ハンガリー語版(BKV)
製造所 シーメンス
製造年 2006年 - 2007年
製造数 40両(2001 - 2040)(2019年現在)
運用開始 2006年7月1日
投入先 ブダペスト市電
主要諸元
編成 6車体連接車
軸配置 Bo′+2′+Bo′+Bo′+2′+Bo′
軌間 1,435 mm
電気方式 直流600 V
架空電車線方式
最高運転速度 60 km/h
設計最高速度 70 km/h
起動加速度 1.3 m/s2
減速度 1.1 m/s2
車両定員 352人(着席58人)
折り畳み座席6人分
(乗車密度4人/m2時)
車両重量 69.7 t
全長 53,990 mm
全幅 2,400 mm
全高 3,639 mm(集電装置含)
車体高 3,300 mm
床面高さ 350 mm
車輪径 600 mm
固定軸距 1,800 mm
台車中心間距離 8,470 mm(先頭 - 中間車体間)、9,735 mm(中間車体間)
主電動機 シーメンス
かご形三相誘導電動機
主電動機出力 100 kW
出力 800 kW
制御方式 IGBTVVVFインバータ制御
制御装置 シーメンス
G750 D550/600 M5-1
制動装置 回生ブレーキ油圧ブレーキ(動力台車)、ディスクブレーキ(付随台車)、電磁吸着ブレーキ
備考 主要数値は[1][2][3][4]に基づく。
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概要 編集

ブダペスト市電には2005年の時点で720両の電車が在籍していたが、そのうち160両は製造から40 - 50年が経過していたガンツ製のUV形ハンガリー語版で、老朽化や輸送力不足が課題となっていた。この形式の全面置き換えに加え、それまでブダペスト市電に存在しなかった、車内に段差が存在せずバリアフリーに適した超低床電車の導入によるサービス向上を図るため導入が決定したのが、シーメンス製の2000形である。国際入札を経た導入契約は2003年4月に行われ、新型車両の導入に加えて予備部品の供給や保守に関する2年間のトレーニングも内容に含まれていた[6]

それまでシーメンスが展開していた超低床路面電車のコンビーノは、中間に台車がないフローティング車体を台車が存在する短い車体が挟む構造を用いていたが、フローティング車体の荷重が連接部分にかかる事や曲線走行時に遠心力によって横方向に力がかかり脱線を誘発するなどの欠点があり、更に強度不足による車体の損傷が報告される事態も起きた。そこで2000形以降の車両については、ボンバルディア・トランスポーテーションが所有していた特許が切れた超低床電車ブレーメン形に用いられた1つの車体に1つの台車が設置される構造となり、ブランド名もコンビーノ・プラスに改められた[7][8]

従来のコンビーノは構体アルミニウムが用いられていた一方、2000形は車体強化のためステンレス鋼に材質が変更されており、台車や電源装置との接続箇所は錆を防止するため炭素鋼が、前面は繊維強化プラスチックが使われる。編成は両運転台の6車体連接式で、2つの車体が1つのユニットを構成する構造となっている。屋根上には集電装置空調装置に加え、補助電源装置を始めとした電気機器が搭載されている[1][6]

車内には58人分の座席、6人分の折り畳み座席が設置され、2・5車体目には車椅子ベビーカー利用客向けのフリースペースが存在する。床上高さは350 mmだが、幅1,300 mmの両開き式プラグドアが用いられている乗降扉付近は320 mmに抑えられている。また車内には冷暖房が完備されており、非常時に備えて窓の開閉も可能な構造となっている。暖房については天井に加えて乗降扉付近の床から放出される温風も用いられ、乗降扉付近の着氷を防ぐ[1][6]

各車体に1台存在する車軸がないボギー台車は従来の台車から低重心化、ばね下質量の軽減、縦方向の機械的結合の強化などの改良が図られている。主電動機(誘導電動機)は各動力台車に2基配置され、前後の車輪を駆動させる。制動装置は使用時に電力を回収することが出来る回生ブレーキが導入され、最大35%の電力を再利用する事が可能である。動力台車の油圧ブレーキ、付随台車のディスクブレーキや非常用の電磁吸着ブレーキを含め、制動装置はドイツにおけるBOStrab基準に基づいた設計や性能となっている。これらの機器の故障を含めた異常が起きた際には、運転台に設置されているディスプレイに対応方法が表示される[1][6][9]

運用 編集

 
2036(2008年撮影)

車両設計は2004年から始まり、翌2005年からオーストリアウィーンにあるシーメンスの工場で製造が始まった。最初の車両がブダペスト市電に到着したのは2006年3月で、同年7月1日から当時世界最長の路面電車車両として営業運転を開始した。2007年5月30日までに契約分の40両が揃った事により、半世紀近くに渡って活躍したUV形は同年8月20日をもって営業運転を終了した。また導入に際しては軌道や架線の改良、6車体連接車に対応した車庫の改装・近代化も併せて実施されている[1][10]

2000形は主にブダ地区とペスト地区を結ぶブダペスト市電の最混雑系統の4・6系統に投入され、長距離系統の1系統にも平日を中心に用いられている。通常は全40両のうち36両が営業運転に使用されており、1時間の輸送可能乗客数は10,600人にも及ぶ。また、台車の改良により車体の揺れが抑制された結果曲線分岐器のレールの摩耗が抑えられ、メンテナンス頻度が減少する効果がもたらされている[1][6][5][11][12][13]

関連項目 編集

脚注 編集

注釈 編集

  1. ^ 「NF」は低床車体、「12」は車軸、「B1」はブダペスト市電向け車両である事を示す。

出典 編集

  1. ^ a b c d e f g Tram System – Combino Plus, Budapest, Hungary”. Siemens. 2015年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月1日閲覧。
  2. ^ a b c Siemens Combino” (ハンガリー語). Budapesti Közlekedési Zrt.. 2020年2月1日閲覧。
  3. ^ 14.pdf” (ハンガリー語). Budapesti Közlekedési Zrt.. 2020年2月1日閲覧。
  4. ^ a b 服部重敬「特集 新潟トランシス part4 欧州のGT低床車 世界初の全低床車としての登場から現在まで」『路面電車EX 2017 vol.10』、イカロス出版、2017年10月20日、45頁、ISBN 978-4802204231 
  5. ^ a b 宇都宮浄人 2019, p. 107.
  6. ^ a b c d e Péter Vág (2009年1月18日). “Combino trams prove successful for Budapest”. Intelligent Transport. 2020年2月1日閲覧。
  7. ^ Wolfgang-D. Richter 2010, p. 2.
  8. ^ Mark Milner (2004年4月29日). “Tram recall lands Siemens with €300m bill”. The Guardian. 2020年2月1日閲覧。
  9. ^ Wolfgang-D. Richter 2010, p. 26.
  10. ^ Gergely Lajtai-Szabó (2017年11月28日). “The 130 years of trams in Budapest”. Daily News Hungary. 2020年2月1日閲覧。
  11. ^ 宇都宮浄人 2019, p. 108.
  12. ^ Wolfgang-D. Richter 2010, p. 29-30,32,34.
  13. ^ Budapesti Közlekedési Zrt. (2015年12月22日). Anuual Report 2016 (PDF) (Report). p. 23. 2020年2月1日閲覧
  14. ^ Budapest Tram” (英語). CAF. 2020年2月1日閲覧。
  15. ^ CAF Villamos” (ハンガリー語). Budapesti Közlekedési Zrt.. 2020年2月1日閲覧。

参考資料 編集