マーズ・オブザーバー: Mars Observer; MO)は、1992年アメリカ航空宇宙局が打ち上げた火星探査機である。火星を周回しながら火星の表面や大気を調査する計画だったが、火星到達前に探査機との交信が失われ目的は達成できなかった。

マーズ・オブザーバー
Mars Observer
打ち上げ準備中のマーズ・オブザーバー
所属 アメリカ航空宇宙局
国際標識番号 1992-063A
カタログ番号 22136
状態 通信途絶により運用終了
目的 周回探査
観測対象 火星
打上げ場所 ケープカナベラル空軍基地第40発射施設
打上げ機 タイタンIII
打上げ日時 1992年9月25日
最接近日 1993年8月24日(火星)
通信途絶日 1993年8月21日
物理的特長
本体寸法 2.1x1.5x1.1m
質量 1018.0kg
発生電力 名目:1147.0W
軌道要素
周回対象 火星または太陽
搭載機器
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火星軌道上のマーズ・オブザーバーの想像図

経過 編集

マーズ・オブザーバーは、1992年9月25日ケープカナベラル空軍基地第40発射施設からタイタンIIIロケットで打ち上げられ、予定通り火星へ向かう軌道に乗った。バイキング計画以来、18年ぶりのアメリカの火星探査機であった。

探査機は1993年8月24日に火星に接近し、エンジンの噴射により周回軌道に移行する予定になっていた。8月21日にはその準備として燃料タンクの加圧を始めたが、間もなく探査機との通信が失われた。その後、地上から指令を繰り返し送信したが応答はなく、探査機は行方不明となった。

1994年1月、調査委員会が事故原因の報告を行った[1]。同報告では、探査機の燃料加圧系が破損して燃料やガスが噴出し、その反動で探査機が回転を始めたことが失敗の原因として疑われると結論付けた。

マーズ・オブザーバーは交信が途絶えたまま火星近傍を通過し、人工惑星になったと考えられている。ただし、自律的に軌道投入のためのプロセスを実行し、火星周回軌道に移行した可能性もある。

事故原因 編集

マーズ・オブザーバーは、事故当時のテレメトリーを送らなかったため、事故原因が断定できなかった。しかし1994年の報告では、最もありうる説明として、燃料加圧系の配管の破損を挙げている。破損した部位からは、燃料やヘリウムガスが噴出し、反動で探査機は予期しない回転を始めたと見られる。探査機は緊急事態モードに陥り、呼びかけに反応しなくなった。また、太陽電池を太陽へ向けられなくなり、電力不足に陥ったかもしれない。噴出物が電子回路に損傷を与えた可能性もある[1]

破損の原因については、次のようなシナリオが考えられている。マーズ・オブザーバーは、モノメチルヒドラジン (MMH) と四酸化二窒素 (NTO) を推進剤に利用していた。これはハイパーゴリック推進剤の一種で、混合するだけで自己着火する性質があり、エンジンの点火が容易になると考えられていた。ところが、地球から火星への11ヶ月の飛行の間に、NTOはバルブを通して少しずつ配管内に漏れ出ていた。この状態で燃料タンクを加圧したところ、配管内で燃料 (MMH) と酸化剤(NTO)が混合して自己着火し、配管が爆発したというものである[1]

配管の破裂以外の、より可能性の低い原因として、電子回路のショート、NTOタンクの破損、起爆剤の放出の異常が挙げられている[1]

事故の教訓としては、飛行の重要な局面におけるテレメトリーが不十分だったことや、人工衛星等に使用される技術を安易に火星探査機に応用したことなど、多くの改善点が指摘された[1]

参考文献 編集

  1. ^ a b c d e Mars Observer investigation report released”. 2010年12月22日閲覧。
信号喪失地点
疑われる故障
酸化剤・還元剤共に共通のヘリウム加圧タンクを利用しており配管が繋がっているため、逆流すると両液が混合・発火する恐れがある。