ヤナギイチゴ(柳苺[4]学名: Debregeasia orientalis)は、イラクサ科ヤナギイチゴ属落葉低木である。日本では暖地の海岸付近に生息する[5]標準和名は、ヤナギのような葉を持ち、イチゴ状の果実を付けることによる命名である[5]中国名は、水麻[1]

ヤナギイチゴ
ヤナギイチゴの果実
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 Eudicots
階級なし : バラ類 Rrosids
階級なし : マメ類 Fabiids
: バラ目 Rosales
: イラクサ科 Urticaceae
: ヤナギイチゴ属 Debregeasia
: ヤナギイチゴ D. orientalis
学名
Debregeasia orientalis C.J.Chen (1991)[1]
シノニム
和名
ヤナギイチゴ

分布と生育環境 編集

暖帯南部から亜熱帯にかけて分布する[6]。 日本では、どこにでもある種ではないが、関東地方以西の本州四国九州沖縄に分布し[6]、沿岸部の湿っぽい常緑樹林や渓流沿いの緩く傾いた荒地[7]、日当たりの良い道路脇、崖地などに生息する[8]。中国では チベット南部[9]広西雲南貴州湖北湖南などの標高300 - 2800メートル (m) の地域に分布する。また台湾にも分布する[9][10]

形態・生態 編集

落葉広葉樹の低木で、高さ2 - 3 mになる[6][11]雌雄異株、稀に同株[9]。 枝は長く伸び樹皮は強靭[6]。樹皮は淡褐色で小さな皮目が多く、若い枝は毛が多い[4]。葉は長さ7 - 20センチメートル (cm) 程度の披針形または長楕円形で互生する[6]。表側はやや光沢があり[6]、脈の部分が凹み[8]皺がある[5]。裏側には白綿毛を密生する[11][6]。冬に葉が残ることも多い[4]

花期は3 - 5月[4]。数個のからなる小さな球形の花序を葉腋につける[11]雄花は直径1.5 - 2ミリメートル (mm) で花被は4枚で雄蘂は4本[9]雌花の花被は4枚で合生する[10]。果実は、多肉化した花被が痩果を包んでいるものが集合しキイチゴ状になる[11]。6月頃に黄橙色に成熟し、多汁質で甘く、食用になる[5][6]

冬芽は互生し、葉芽は長楕円形で先端が尖り、花芽は丸みがあり2個つく[4]。葉痕は半円形や三角形でやや隆起し、維管束痕が3 - 5個つく[4]

人間との関係 編集

果実は甘く食用になるが、今日ではほとんど利用されない[11]。樹皮を土用の頃に採取し、水に漬けて繊維を取っての代用品としたが今日ではあまり使われない[12]

出典 編集

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Debregeasia orientalis C.J.Chen ヤナギイチゴ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月29日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Debregeasia velutina auct. non Gaudich. ヤナギイチゴ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月29日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Debregeasia edulis auct. non Wedd. ヤナギイチゴ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2024年3月29日閲覧。
  4. ^ a b c d e f 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 (2014), p. 153
  5. ^ a b c d 牧野日本植物圖鑑 (1951), p. 639
  6. ^ a b c d e f g h 原色日本植物図鑑 木本編 II, p. 229
  7. ^ 橋本 (2003), p. 387
  8. ^ a b 神奈川県植物誌 2001, p. 586
  9. ^ a b c d 中国植物志 第二十三巻第二分冊, pp. 13–14
  10. ^ a b 中葯大辞典 (1977), p. 762
  11. ^ a b c d e 堀田 (1997), p. 134
  12. ^ 伊沢 (1998), p. 51

参考文献 編集

  • 伊沢一男『薬草カラー大事典―日本の薬用植物のすべて』主婦の友社、1998年。ISBN 4072230596 
  • 神奈川県植物誌調査会『神奈川県植物誌 2001』神奈川県立生命の星・地球博物館、2001年。 
  • 北村四郎村田源『原色日本植物図鑑 木本編 (II)』(1986年6月1日 改定12刷)保育社、1979年。ISBN 4-586-30050-7 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、153頁。ISBN 978-4-416-61438-9 
  • 橋本郁三『食べられる野生植物大事典』柏書房、2003年。ISBN 476012389X 
  • 堀田満「ヤナギイチゴ」『朝日百科 植物の世界』 8巻、朝日新聞社、1997年、134-135頁。ISBN 978-4023800106 
  • 牧野富太郎『牧野日本植物圖鑑』(1951年8月15日 10版(改訂版))北隆館、1940年。 
  • 中国科学院中国植物志編輯委員会, ed. (1991). "水麻 Debregeasia orientalis C. J. Chen". 中国植物志. Vol. 23–2. 科学出版社. p. 13-14. 2018年8月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年10月8日閲覧
  • 江蘇新医学院 編(中国語)『中葯大辞典』(1978年10月 港一次印刷)上海科学技術出版社、上海、1977年。